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Last-modified: 2012-08-21 (火) 15:49:27

皆様、御無沙汰しております。竜王家に輿入れさせていただいております、イナです。前回お会いした時から約半年ぶりといったところでしょうか?
私としては「ついこの間」という感覚なのですが…。光陰矢のごとし、とはまさにこのことですね。
皆様や竜王家の方々のご支援により夫、ラジャイオンの借金も徐々に返済しつつあります。(尤も、あのデイン商社のことですからそうそう簡単には完済させては頂けないと思いますが…)
最近はラジャイオンも少し早く帰宅してくださるようになりましたし、心なしか竜王家の方々とお近づきになれたような気もします。
このまま借金を完済、籍を入れて挙式できれば万々歳ですね。祖父にも手をかけさせてばかりですし、亡き両親のためにも早く身を固めたいです…。
少し、ずうずうしい願望でしょうか?いや、でも私もそろそろいい年ですし、このままでは「独女必死過ぎワロスw」とか「婚活()笑」とか言われてしまいますよね。
あ、すみません。少々愚痴っぽくなってしまいました。そういえば今日は大学の私が担当する講義もお休みでした。久しぶりに家(とはいっても竜王家に居候させて頂いているものですが…)でのんびりできそうです。

29 :子守竜:2011/07/03(日) 04:26:08.89 ID:o2aAJwUq

「子守り、ですか?」
「そうなんだよ。本当は今日は僕がファ達の面倒見るはずだったんだけどさ、予定が入っちゃって。イナお願いできる?」

そう目の前で手を合わせていわゆる「お願い」のポーズをとるのは竜王家の御子息の一人、ニルスさんです。
予定とはきっと姉君のニニアンさんと何かしら出かけるのでしょう。確かにニルスさんくらいの男の子には、休日に子守りをするよりも外に遊びに行く方が好ましいでしょうね。

「私は一向に構いませんが…。しかし、子守りでしたら私よりもイドゥン様の方が適任なのでは?」

いえ、決して子守りが嫌だとかそういうわけではありませんよ?

「イドゥン姉さん今日は豆腐屋でバイトしてるんだよね…」
「あぁ。なるほど…合点がいきました。私でよろしければ是非お手伝いさせてください」
「本当!?ありがとー!じゃあ、悪いけどお願いするね」

そう、竜王家のお手伝いができますし、お近づきになれればこれに勝ることはありません。
ですが。

そうなんですが。

30 :子守竜:2011/07/03(日) 04:31:08.32 ID:o2aAJwUq

私、幼子の世話をしたことがないんですよね。
け、決して、決して子供が嫌いとかそういうことではありませんよ!た、ただ私は竜王家に輿入れさせていただく前は物心ついた時から祖父と二人暮らしでしたし、
私は一人っ子でしたし、そもそも竜麟族で私よりも年下の子供はクルト様くらいしかいなかったんです!
ですから、竜王家に輿入れさせていただいて初めて竜族の幼児に接触したのです!それまで、その、チキさんとかファさんくらいの年の子供と接触したことがなかったんです!
ベオクの子供でしたらよくよく見かけるのですが、私から何かしらのモーションを取ることなどなくて…。
…要するに、子供をどう扱えばいいのか、わからないのです。ベオクの子と竜族の子では大きく異なりますし…。
ぅう…この年にもなって子守りもできないなんて。恥ずかしい…。

「じゃあイナお願いするね!すっごく助かるよ!」

31 :子守竜:2011/07/03(日) 04:33:44.07 ID:o2aAJwUq

あぁ。ニルスさん。そんな私を信頼しきった眼で見ないでください…。私は貴方が思っているほど優れたラグズではないのです…。
デイン戦役のときは力初期値20だったのに数年後には力初期値10だったとか、力成長率20%しかないのに魔力成長率50%でしかも武器が赤焔のブレス固定とか
「魔力要らねえw」と言われたりとか「力と魔力の成長率逆にすべき」とか言われて正の女神から追撃もらって即死してしまうネタ竜なんです…!
そもそも蒼炎と暁でナーシルと戦闘グラの大きさが逆転してしまう上に体色がピンクなんていう状態なんです…!
ですからそんな目で見ないでください…。
でも、

「有難う御座います。任せてください」

こんなことを言ってしまう自分は案外見栄っ張りだったりするのかもしれません。

32 :子守竜:2011/07/03(日) 04:36:46.96 ID:o2aAJwUq

「あれー?イナおねえちゃんだー!ニルスのおにいちゃんはー?」
「ニルスさんは今日、忙しいそうなので私が代りに来たんですよ。今日は宜しくお願いしますね」

そういってすり寄ってきたファさんの腋に手を差し入れて抱っこします。…結構子供って重たいんですね。
抱っこされたファさんは嬉しそうにしがみついてきます。以前子供は体温が高いと聞きましたが本当に温かいんですね。
ここ最近の熱気も相まってちょっと暑いくらいです。湯たんぽ要らずです。これから冬にはファさんを抱っこして生活するのもいいかもしれません。

「あーファずるーい!お義姉ちゃん私もー」
「遊んでくださいです…」

チキさん、ミルラさん。御好意は有難いのですが背中とが足元にぴったりくっついてしまいますと私身動きが取れません…。
この子たちも体温が高いのかまるで真夏に布団をかぶってカウク洞窟やフレイムバレルに行ったような状態です。それ以前にファさんが顔にくっついているので窒息しそうです。

33 :子守竜:2011/07/03(日) 04:39:19.73 ID:o2aAJwUq

「と、とりあえず離れないと遊んであげられませんよっ…あ、引っ張ったらだめですってば!私重量11あるのでうっかり倒れたらぷちっ☆と逝ってしまいますよっ」
「むーおねえちゃんもっと抱っこー」
「私もー」
「ごめんなさいね、私は分身はできないので三人一度に抱っこは無理なんです」
「でもお義姉ちゃん化身したら大きいよー?」
「でも鱗でごつごつした背中は嫌でしょう?」
「むー」
「ではお話をしましょう。面白いですよ」
「ほんとう!?わーい」

ふふふ、私は話すことに関しては多少自信がありますよ。話の引き出しも政治論、法律論、哲学にテリウス区の歴史、猫の扱い方に犬(ケルベロス含む)の
しつけの仕方、ユンヌ神の行動パターンにビラクさんの出現法則と万全の品ぞろえです。

「では竜王家の起源5000年の歴史を創成期からお話ししましょう」

34 :子守竜:2011/07/03(日) 04:42:07.02 ID:o2aAJwUq

…話をして5分も経たないうちに皆寝てしまいました。私の話にスリープの杖と同等の効果があったとは、驚きです。おかげでチキさんたちの貴重な3ターンを無為に過ごさせてしまいました。
やはり小さい子には難しかったのでしょうか。神竜王ナーガ様による竜王家の勃興とか三巨頭の過去の対立構造とか、なぜ竜王家の敷地内には春夏秋冬
すべての庭園がそろっているのかとか家の間取りとか…。
やはり体を動かす遊びの方がよいのでしょうか?

「ふわー。おはよーお義姉ちゃん」
「おはようございます。3ターンほど眠っておいででしたよ」
「んーだってお義姉ちゃんのお話堅苦しくてちょっとつまんない…」

「そうですか。では散歩に行きましょう」
「おそとはあつくってあたまがくるくるぱーになるからおひるまはでちゃだめなんだって」
「エフラムがそう言ってました…。『熱中症』になっちゃうんだって。なにかにすごく夢中になったりするんですか?」
「ミルラさん。ちょっと違うと思います…。
 しかし、外出はダメなのですか。ではちょうどいい機会ですから勉強を」
「「「エェー」」」
「すみません。冗談です」

35 :子守竜:2011/07/03(日) 04:44:48.06 ID:o2aAJwUq

「じゃあねーおねえちゃん。バアトルズブートキャンプやろう」
「ばあとるずぶーときゃんぷですか?」
「前に流行った体操ビデオですお義姉ちゃん。『ワンモアセッ!』っていうんです」
「なるほど。室内でも運動ができるものなんですね。さっそくやってみましょう」
「わーい!ワンモアセッ!」

バアトルズブートキャンプなんてラジオ体操程度だと思っていた時期が私にもありました。今は後悔しています。まさかあれほど消耗の激しいものだとは夢にも思っていませんでした。
それにしても、私は息切れしてフラフラなのになぜこの子たちは平気でいられるんでしょうか?これが幼児のエネルギーなんでしょうか?
それとも単に私の体力がないだけでしょうか?

「おねえちゃんだいじょうぶー?」
「今なら盗賊の持つ折れた剣でも死ぬことができそうです」
「返事がない、ただのしかばねのようだ…」
「ミルラさん、まだ死んでません」

36 :子守竜:2011/07/03(日) 04:47:30.09 ID:o2aAJwUq

「とりあえずあそこまで激しいのは控えましょう…。寿命が縮みそうです。室内で体を動かす遊びは他には…」
「あ、そうだお義姉ちゃんアレやろう!」
「アレとは?」
「あんこくりゅうたいじごっこだよー」

なるほど。ままごと遊びか何かでしょうか。それなら私でも耐えられそうです。

「面白そうですね。ぜひ教えてください」
「わーい!じゃお義姉ちゃんいくよー!」

え、なぜ皆神竜に変身しているのでしょうか。そしてなぜ私の方を向いて口を大きく開けているのでしょうか。あ、ファさん奥歯に虫歯ができていますね。
今度歯医者に連れて行かなければなりませんね。え、霧のブレスですか?ま、待ってください!私は確かに守備はある方ですが(限界値的な意味で)
メディウス老のように攻撃力を半減するとかいった能力は持っていません!それに霧のブレスは竜族特効ではありませんでしたっけ?
あ、これは化身しないと死にますね。化身しても死にそうですが。とりあえず化身の石をつかっt

37 :子守竜:2011/07/03(日) 04:50:26.44 ID:o2aAJwUq

目を開けると見知らぬ天井が見えました。三途の川の先は室内ではなかったと思いますが。

「やあ。かわいい私の孫娘。生きていて何よりだよ」
「お会いして早々恥ずかしいお言葉を有難う御座います御爺様。少なくとも御爺様はまだ存命中だったと記憶しておりますが?」
「ははは。なかなか面白い冗談だね。私もお前も生きているよ。まあお前はバルキリーの杖のお世話にはなったけどね」
「とりあえず状況説明を簡潔にお願いできますか?」
「そうだね。デギンハンザー様のちょっとしたお使いから帰ってきたらチキが泣いて飛びついてきてね。なんでもお前が死んだらしいから、
 生き返らせてほしいとお願いされたよ。慌てて見に行ったらお前が瀕死じゃないか、それでデリバリーバルキリーサービス(※救急隊員が依頼者の下に来
 てバルキリーの杖を使ってくれるサービス。某葉っぱ兄弟があまりにもところ構わず死んでしまうため、いちいち病院に担ぎ込むのが面倒ということで
 発足したようだ)を呼んで一命は取り留めたってこと。まあ死んだのに一命を取り留めたっていうのも変な話だけどね」
「そうですか。…情けない話です。子守りさえもまともに果たせないとは。これではいずれ生まれてくるラジャイオンとの子を育てることも満足にできないでしょうね…」

38 :子守竜:2011/07/03(日) 04:53:14.32 ID:o2aAJwUq

「いや、お前はただ経験が足りなかっただけだよ。私の所為でもあるけど、お前は昔から子供と接触することがなかったからね。

 あの子たちに聞いたけど、確かに子守りとしては上等とは言えないだろうね。
 でもお前は勤めを果たそうと努力していたんだろう?失敗は成功の母というだろう、次にできるようになるのではだめなのかい?」
「…」
「ははは。せっかくの美人が眉間のしわで台無しだよ?
 イナ。お前は賢い子だ。ずっと一緒にいた私が言うのだから間違いない。お前ならできるよ。自信を持ちなさい。
 それじゃあ、私はお邪魔虫だから失礼するよ」

祖父が部屋を出て行ったのと入れ替わりにチキさんたちが入ってきました。祖父の言ったことは本当だったのでしょう、目の周りが真っ赤です。
私が愚かであったばかりにこの子たちを泣かせてしまったのだと思うと胸がきりきりと痛みます。…ふがいない。
とにかくこの子たちのへの字型の口を解きたくて、笑って見せます(…うまく笑えているでしょうか?)

39 :子守竜:2011/07/03(日) 04:56:06.66 ID:o2aAJwUq

「おねえちゃん…」
「ごめんなさい。私がおバカでちょっと弱いから泣かせてしまいましたね」
「お義姉ちゃん、ごめんなさい」
「気にしないで。皆が泣いていると私も悲しいです。…また今度、遊んでもらっていいですか?」
「…ほんとう?」
「本当ですよ」
「怒ってない?」
「ふふ、私が怒った時はこんなものじゃないですよ?…母親になる者がこんなことで子供を怒ったりするようでは、母親失格ですから。
 だから、…今度は手加減してくださいね?」
「うん…」

「お義姉ちゃーん!遊んでー!」
「遊んでください」
「あそんでー」
「はいはい、今行きますよ…ぁ、ひっぱっちゃだめですよっそんなに早く歩くと転んでしまいますよ?」

あれから、あまり興味のなかった子育て向けの本を読むようにしています。いいお義姉さんになれるように。
ラジャイオンとの子供が生まれて、ファさんや、チキさんがお姉さんになったとき、ちゃんと子守りができるように。
あと、時々自分から子守りをさせてもらうようお願いしたり…。「次」にはもっとよく遊んであげられるよう勉強しています。

40 :子守竜:2011/07/03(日) 04:58:21.94 ID:o2aAJwUq

「イナ義姉」
「何でしょうかユリウス様」
「最近子育て本読んでるよな?」
「はい」
「…ラジャ義兄もやることはしっかりやってんだなぁ」
「は?」

この後、とてつもない誤解を解くために奔走することになったのですが、それはまた別のときにでも。
とりあえず、私はいいお義姉さん、いい母親になるべく勉強中です。