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Last-modified: 2007-07-29 (日) 23:45:28

超天才リオンの大発明

 

~ある休日の朝~

 

エリウッド「ううーん……今日はいい天気だなあ。見なよロイ、煌く朝日に小鳥たちが歌っているよ。
      実に平和な光景だと思わないか?」
ロイ   (うわ、朝っぱらから王子様オーラ全開だなエリウッド兄さん……)
ミカヤ  「最近いい意味で調子いいからね、エリウッド」
エリウッド「うん、本当に、とても爽やかな朝だ。今日一日、こんな風に平穏無事に過ぎればいいなあ」

 

 と、エリウッドが庭に面したガラス戸をガラッと開けた途端。

 

暴走野菜 『イレェェェェェェェェェェス!』
エリウッド「何じゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ロイ   「うわ、何これ!?」
ミカヤ  「見たことのない、魔物……!?」

 

 庭の中央に根を下ろし、無数の太い触手を蠢かして奇怪な叫び声を上げているのは、元は野菜だったと思しき謎の物体である。
 カボチャらしき頭部は大根のような胴体に乗っかっており、その胴から生えた無数の触手の先には
 ドリルのごとく鋭いニンジンがくっついていたりして。

 

エリウッド「ふ、ふ、フフフフフ……」
ロイ   「え、エリウッド兄さん、しっかり!」
エリウッド「なんなんだもう……僕にはゆったりした平和な気分で休日を過ごす権利もないのか……」
ミカヤ  「現実逃避してる場合じゃないわ! 何がなんだかよく分からないけど、
      とにかくこの……野菜みたいな何かを何とかしないと……!」
アルム  「あ、姉さんたち!」
ミカヤ  「アルム! これは一体……!?」
アルム  「よく分からないんだ! 多分、庭に植えておいた野菜のどれかだと思うんだけど……!」
エリウッド「……アルム……君が野菜作りに精を出すのは分かるけど、これはいくらなんでもやりすぎだよ……」
アルム  「ち、違うよ! 僕はこんな無茶苦茶な野菜は作ってないってば!」
ロイ   「……と言うか、これを野菜だと認識してる時点で何かが間違っているような……」
セリカ  「どうしたの」
リーフ  「なんか騒がしいけど」
エイリーク「……!! こ、これは一体……!?」
ロイ   「ああ、皆……!」
ミカヤ  「なんだかよく分からないんだけど……!」
暴走野菜 『イレェェェェェェェェェェス!』
リーフ  「……本当に意味不明だけど、とりあえず放っておいたらヤバいってことだけはよく分かる」
セリカ  「こんな歪んだ野菜の存在を、大地母神ミラはお許しにならないわ!」
ロイ   「あ、やっぱ野菜でいいんだアレ……」
エリウッド「よし、皆! 一斉に攻撃するんだ!」

 

 という訳で、その場にいた兄弟総出で触手と格闘したり大根に突剣突き刺したりニンジンを斬りおとしたり。

 

暴走野菜 『イレェェェェェェェェェェス!』
ロイ   「……僕達は今一体何と戦っているんだろう……」
エリウッド「気持ちは分からなくもないが、戦いの最中にそんなことを考えていたらやられるぞ、ロイ!」
セリカ  「……! そこっ!」

 

 高く跳躍したセリカが、暴走野菜の頭部と思われるカボチャに剣を突き刺した。
 苦悶の絶叫を上げて、暴走野菜の動きが一時停止する。

 

アルム  「やったか!?」
リーフ  「……って言ったときは大抵やってないんだよね……」

 

 リーフの台詞通り、一度停止していた暴走野菜はすぐにまた活動を再開する。
 それどころか、先程斬りおとしたはずのニンジンや触手が瞬時にして再生したではないか!

 

暴走野菜 『イレェェェェェェェェェェス!』
セリカ  「そ、そんな……! キャアッ!」

 

 狼狽したセリカが隙を突かれ、暴走野菜の繰り出した無数の触手に体を絡み取られた。

 

アルム  「せ、セリカァァァァァァッ!」

 

 ブバァァァァァァァァッ!

 

リーフ  「しょ、触手プレイ……!」
ミカヤ  「……さすがにちょっとは状況を考えなさい、リーフ……」
リーフ  「し、仕方ないじゃないか、思春期の男子の頭はエロ妄想で」
ロイ   「言い訳してる場合じゃないよ兄さん!」
エイリーク「……! み、皆さん、あれを!」

 

 見ると、エイリークが指差す先で、暴走野菜が巨大化しつつあった。
 しかも周囲から無差別に養分を奪っているらしく、雑草は根こそぎ萎れ、木は見る見るうちに枯れ果てていく。

 

エイリーク「なんておぞましい光景なのでしょう……!」
ロイ   「び、ビジュアルが底抜けに馬鹿馬鹿しい割には凄く凶悪な魔物みたいだね、あれ……!」
エリウッド「マズいな……こんなネタいつまでも引っ張ってたら、
      『さすがに世界観違いすぎだろ!』って叩かれること間違いなしだぞ」
ミカヤ  「まあそもそも暴走野菜とか言ってる時点でもうアレなんだけどね」
リーフ  「……と言うか根本的な疑問なんだけど、アレは一体どういう経緯で発生したんだろう……?」
アルム  「分からない。あんな野菜を作れる農夫力を持った農夫は、この紋章町には存在しないはずなのに……!」
ロイ   (農夫力ってなんだ……?)
エイリーク「では、一体誰が、何の目的で……!?」
???  「その質問には、僕がお答えしよう!」
ロイ   「!? あ、あなたは……!」
エイリーク「り、リオン!?」
リオン  「そう……聖魔の光石最重要登場人物にして、エフラムとエイリークの大親友、リオンさ!」
エリウッド「分かりやすい自己紹介ありがとうございます」
アルム  「さっきの台詞……リオンさんは、あの野菜を作ったのが誰なのか知ってるんですか?」
リオン  「もちろんさ。だって、僕が作ったんだもの」
エリウッド「って、あんたですか!」
リオン  「うん。前の展覧会のときにアルム君の野菜作りに協力していて、僕は気づいたのさ!
      野菜が持つ無限の可能性にね!」
アルム  「それはどうも」
リオン  「で、僕なりに改良を加えてみたんだ」
エリウッド「改良、というのは……?」
リオン  「野菜の種に、極秘に入手したイレースさんの遺伝子組み込んでみた」
ロイ   「よりにもよってイレースさんですか!?」
暴走野菜 『イレェェェェェェェェェェス!』
ミカヤ  「……なるほど。それであの変な叫び声と、周囲から無差別に養分を吸収する凄まじい吸収力が……」
リオン  「その通り! いやあ、すごいよイレース遺伝子は。
      あの野菜、最初に植えていた土から全ての養分を吸い尽くした後、
      自ら生成した触手を使って、周囲の檻の中にいた実験用の魔物を直接取り込み始めたからね!
      しまいには自分で根を引っこ抜いて、それを足代わりに町を闊歩し始める始末さ!」
リーフ  「イレース遺伝子SUGEEEEEEEE!」
アルム  「あー、それで我が家に迷い込んだって訳か……」
リオン  「うん。あの暴食振りはオリジナルイレースに勝るとも劣らないものだろうね」
ロイ   「いやなんで自慢げなんですか」
リオン  「自分があれだけのものを作ったんだ、研究者としては嬉しいに決まってるじゃないか。
      ああ、あんな常識外れのものを作り上げてしまう自分の才能が恐ろしいよ、ノール」
ノール  「さすがリオンさまです。このノール、感服いたしました」
ロイ   「いや感服してる場合じゃないですから」
リオン  「このアイディアを思いついたときの、体に電流が走ったような感覚……
      まさに、『今この身に魔王降臨せり』とでも言わんばかりの状態だったさ」
リーフ  「魔王って。一応自分がヤバイもの作ったって自覚はあるんですか」
リオン  「……という訳で、あの野菜を僕からの愛の証にさせてほしいな、エイリーク」
エイリーク「え、えぇ!?」
ロイ   「理屈がさっぱり分からない……!」
ミカヤ  「まさに馬鹿と天才は紙一重、ね……!」
セリカ  「……あの……わたし、そろそろ苦しいんだけど……」
アルム  「そうだった! セリカ、大丈夫かい!?
      安心して、こんな野菜、僕がひねりつぶしてやる!」
セリカ  「ああ、もうダメよアルム……無数の触手が絡み付いてきて、身動きさえ出来ない」

 

 ブバァァァァァァァッ!

 

ロイ   「……」
ミカヤ  「……リーフ……」
リーフ  「……OK、皆の言いたいことは分かる。
      でも、触手の締め付けで浮かび上がったセリカの体のラインがエロすぎるってことも分かってほしいんだ」
エイリーク「……リオン、あなたの理解し難い愛に関してはまた後で窺うとして、
      とりあえずあの野菜を止める方法が知りたいのですが……」
リオン  「ああ、そうだね。あの野菜を止める方法は……これさ!」

 

 と、レスキューで誰かを呼び寄せるリオン。

 

イレース 「……」
ロイ   「あ、オリジナルイレースさん」
エリウッド「……ということは、ひょっとして……」
リオン  「そういうことです。さあイレースさん、あの野菜を遠慮なく食べちゃってください!」
イレース 「……よく分かりませんが……食べていいというのなら、躊躇なく食べさせていただきましょう」
ロイ   (せめて少しでいいから躊躇してほしかったなあ……)
暴走野菜 『イレェェェェェェェェェェス!』
イレース 「……いただきます……!」

 

 凄まじい速さで暴走野菜を千切っては食らっていくイレースと、
 同等のスピードで周囲の養分を吸い上げ、再生していく暴走野菜。

 

エリウッド「クッ、なんて凄まじい光景なんだ……!」
ミカヤ  「……確かに、凄まじいわね……」
ロイ   「……うん。凄まじく、アホらしいね……」
リーフ  「……でもさ、普通に考えたら、イレースさんが満腹になっちゃったらこっちの負けだよね?」
エイリーク「いえ、あの野菜がこの周辺の養分を吸い尽くす方が早いかもしれません……」
エリウッド「どちらにしても町にいい影響は出ない、か……!
      イレースさんが時間を稼いでくれている内に、僕らであの野菜をなんとかできないだろうか……?」
リーフ  「と言っても、攻撃したって再生するだけだし……」
アルム  「あの野菜が地に根を張っている限り、こちらに勝ち目はない、か……!」
ロイ   「地に、根を……? そうだ、それだ! ミカヤ姉さん、僕を今から言う場所にワープさせてくれない?」
ミカヤ  「いいけど……どうするの?」
ロイ   「この状況を何とかする手段を見つけたかもしれない……! 
      帰りもワープしなくちゃならないから、ミカヤ姉さんもついてきてくれないかな?」
ミカヤ  「……分かったわ。ロイを信じてみましょう」
エリウッド「ロイ、一体何を……!?」
ロイ   「詳しく説明している時間はないんだ。とにかく、少しだけ待っててよ、皆!」

 

 と、ワープして消えたロイは、三十分ほど経って何やら鍋を抱えて戻ってきた。

 

ロイ   「お待たせ、皆!」
エリウッド「ロイ、その鍋は……?」
ミカヤ  「……聞かない方がいいと思うわよ……」
エリウッド「え?」
ロイ   「喰らえ、野菜のお化けめ!」

 

 叫びつつ、暴走野菜の周囲を走りながら鍋の中身を少しずつ地面に流し込んでいくロイ。 #br
 最初は何の変化も起こらなかったが、次第に暴走野菜の色が、全体的に紫色へと変色し始める。

 
 

イレース 「……!? な、なんだか味がおかしいです……!」
暴走野菜 『イ、イレェェェェェェェェェェス!?』
イレース 「きゃっ……」
セリカ  「きゃあっ!」

 

 セリカを放り出し、イレースを弾き飛ばした暴走野菜は、そのまま触手をばたつかせて暴れていたが、
 やがて紫色から茶色へと変色し、最後には枯れ果てたように動かなくなってしまった。

 

エリウッド「……」
ミカヤ  「終わった、みたいね……」
アルム  「だ、大丈夫かい、セリカ!?」
セリカ  「え、ええ。でも、一体どうして……?」
イレース 「……あのお鍋の中身が地面に振りまかれたあと、お野菜の味が非常に不味くなりました……
      何というか、舌が痺れるような感覚を覚えたのです」
リーフ  「ミカヤ姉さん、あの鍋の中身は、一体……?」
ミカヤ  「言語を絶する物体、とでも言っておこうかしら」
エリウッド「ええと、正直意味がよく分からないんだけど」
ミカヤ  「……ワープした場所、ね」
アルム  「え?」
ミカヤ  「……ララムさんの、お宅だったのよ……」
エリウッド「……ああ」
リーフ  「……おk、把握したよ」
ロイ   「あの殺人料理を体内に取り込めば、いかな生物とて無事でいられるはずがない……!
      僕の読みは大当たりだったみたいだね」
リオン  「うーん、今回の暴走野菜は耐久性に欠点があったみたいだね」
ロイ   「いや、そもそもその存在自体が欠点の塊だったってことに思い至ってくださいよ!」
リオン  「ありがとう皆さん、いろいろと参考になりました。
      僕は今回の成果を活かして、また新たな研究に取り組みたいと思っています!」
エイリーク「……リオン、あなたの探究心と創造力は素晴らしいと思いますが……その、方向性について少々疑問が……」
リオン  「安心してよエイリーク、次は野菜じゃなくて他のものに挑戦するから」
エイリーク「そ、そうですか……?」
エリウッド(……何にしてもまた迷惑なものを作りそうな予感がするのは、気のせいじゃないんだろうなあ、きっと……)
リオン  「それでは皆さん、またお会いしましょう! さあ行くよノール、新たな未知の闇が僕らを待っている!」
ノール  「さすがリオンさまです。このノール、どこまでもお供いたします」

 

 迷惑だけを振りまいて、颯爽と去っていくリオンとノール。

 

イレース 「……まだ満腹には程遠いのですが……ごちそうさまでした。
      ここにはもう食べ物はないようですし、わたしもお暇させていただきます」
エリウッド「そうですか……」
イレース 「はい。……なんだか、まだ舌も痺れるようですし……」

 

 微妙に顔をしかめて歩いていくイレースの背中を見て、リーフが一人納得したように頷く。

 

リーフ  「なんでも吸い込む星のイレースと殺人料理のララムか……
      まさに最強の矛と盾。二人がぶつかり合ったとき、勝つのは一体どちらなんだろう……」
ロイ   「……どっちにしても、非常に不毛な勝負であることに間違いはないけどね……」

 

 そんなこんなで、また紋章町に新たなライバル関係が誕生した!
 イレースとララム、食に関して規格外の二人が邂逅したとき、最後まで立っているのは果たしてどちらなのか!?
 そして、はた迷惑な超天才リオンの次なる発明品とは!?

 

 天 地 狂 乱 の 次 回 を 待 て ! !

 
 
 

 ちなみに、メチャクチャになった庭に激怒したエリンシア姉さんは、罰としてアルムを『いい男部屋送り』にしたそうです。