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Last-modified: 2012-09-07 (金) 00:14:55

198 :とらぶるクロム兄さん:2012/06/06(水) 21:03:34.81 ID:9U7wofPt
 ~兄弟家~

 用事を済ませて帰宅したマルスは、クロムがリビングの扉の前でため息を吐いているのを見つけた。

クロム 「はぁ……」
マルス 「どうしたんですかクロム兄さん」
クロム 「ん……いや、なんだ。なんというか、またやってしまってな……」
マルス 「また……?」

 何のことだろう、と思って扉の隙間からリビングを覗くと、テーブルの前でぷりぷり怒っている少女が一人。

ルフレ(妹)「まったくもう、クロムさんときたら……!」

マルス 「……ああ、またラッキースケベかましたんですか」
クロム 「事故だったんだ……!」
マルス 「それはまあ多分そうなんでしょうけど。何やったんです?」
クロム 「転んだ拍子にもつれ合って倒れた挙げ句股のところに頭を突っ込んでしまってだな」
マルス 「なにそのとらぶる」
クロム 「事故だったんだ……!」
マルス 「それはもう分かりましたって。それで居たたまれなくなって、適当に言い訳つけて出てきたんですね?」
クロム 「まあ、そんなところだ……何度も土下座したが許してくれん……」
マルス 「ははは、じゃあ僕が適当に取りなしておいてあげますよ」
クロム 「なに? そりゃ助かるが……いいのか?」
マルス 「兄弟たるもの助け合いですよ、兄さん。少し経ったら戻ってきて下さい」
クロム 「分かった。なんだか悪いな……」
マルス 「いえいえ、お気になさらず」

 二階へ向かうクロムを見送りつつ、マルスはほくそ笑む。

マルス (これはいい暇つぶしになりそうだ。結構からかい甲斐がありそうだもんね、お二人さん)

 内心ニヤけつつも澄まし顔で、マルスはリビングの扉を開ける。

マルス 「やあ、ルフレさんじゃないですか。いらっしゃい」
ルフレ(妹)「あ、マルスさん。こんにちは」
マルス 「こんにちは……おや? クロム兄さんはどうしたんです? お客さんを一人きりにするなんて良くないな」
ルフレ(妹)「クロムさんは……」

 言い掛けて、ルフレは口を噤んで顔を赤くする。
 きっと例のラッキースケベのことを思い出しているのだろう。
 こりゃ予想通りだな、とマルスはますます笑いたくなった。

マルス 「んー、その顔を見るとクロム兄さんがまたやらかしたんですね?」」
ルフレ(妹)「え……あ、いえ、別にそんな」
マルス 「いやいや、僕がクロム兄さんの弟だからって遠慮しなくていいんですよ。
     むしろ兄弟の不始末ですからちゃんと把握しておかないと」
ルフレ(妹)「そんなものでしょうか」
マルス 「ルフレさんだってファウダーさんやマーク姉弟が自分の知らないところで何やってるか気になるんじゃないですか?」
ルフレ(妹)「そ、それは……そうですけど」
マルス 「ですから遠慮なく愚痴って下さいよ。僕らとしてもその方がいろいろと対策立てやすくなりますし」
ルフレ(妹)「……それじゃあ」

 ルフレは躊躇いがちに語り出したが、喋っている内に怒りが戻ってきたらしく、どんどん口調がヒートアップしていった。
199 :とらぶるクロム兄さん:2012/06/06(水) 21:04:34.76 ID:9U7wofPt
ルフレ(妹)「……それで『うおっ』とか言いつつ五秒ぐらいわたしのスカートに頭突っ込んでたんですよ!?
       転んでたまたまあんな体勢になったのはまだ許せるとしても、その後速やかに離れないのはどう考えてもわざとだと思いませんか!?
       し、しかも離れた後もなんかボヤッとしてるし……! あれ絶対脳に刻み込んでますよ、間違いなく!」
マルス 「ははは、それは確かにひどいなあ」
ルフレ(妹)「だいたい今回だけじゃないんですよ! クロムさんと来たら風でわたしのスカートがめくれちゃったときとか
       絶対後ろにいてガン見してますし、転んだ拍子に胸にダイブするわお尻に突っ込むわ押し倒すわ……
       しかもクロムさんとどこかに出かけるとビグルと遭遇する確率がすっごい高いんですよ。で、戦闘中必ず一回は捕まって
       服を溶かされるわ粘液まみれになるわ。いや捕まるの自体はわたしの未熟さのせいですし、
       クロムさんもすぐに助けてはくれるんですけど、そのときの視線がなんかいやらしいっていうか。
       さらに祭りへ出かければ必ず浴衣の帯が解け、ズボンを履いていればズリ落ち、なぜか決まって服が破け」
マルス (……って、マジでヒドいな、クロム兄さん。いや実際わざとではないんだろうけど、このレベルだとそりゃわざとだと思われるよ。
     そもそも他の女の人に対してはまずそんなことにならないのに、なんでルフレさん相手のときだけ
     こんなえっちぃラブコメみたいな展開が頻発するんだろう……? 案外ユンヌさん辺りがなんかやってるんじゃ)
ルフレ(妹)「……マルスさん? どうかしました?」
マルス 「え? ああいえいえ、なんでも」
ルフレ(妹)「……すみません、喋ってる内にちょっとヒートアップしすぎたようで……」
マルス (ちょっとどころじゃなかった気がしますけどね)

 内心苦笑しつつ、マルスは舌なめずりする。さて、どう料理してやろうか?

マルス 「しかしまあ、なんですか」
ルフレ(妹)「はい?」
マルス 「そこまでされるとさすがに弟の僕でもフォローしきれない感じですよ。
     実際相当迷惑してるんじゃないですか、ルフレさん」
ルフレ(妹)「そ、そうですね……正直言って、つい身構えがちになるのは事実かもしれません」
マルス 「大体クロム兄さんは昔から抜けてるというかそそっかしいというか……」
ルフレ(妹)「あ、いえ、それは……」
マルス 「ん、なんですか?」

 来た来た、と心の中で笑いつつ、マルスはきょとんとした顔で首を傾げる。

マルス 「僕の言うこと、何か間違ってました?」
ルフレ(妹)「あ、いえ。間違いと言いますか……」

 ルフレはちょっと迷うような素振りを見せつつも、穏やかな声で語り出す。

ルフレ(妹)「確かにマルスさんの言うとおり、クロムさんは抜けているところがありますし、結構そそっかしいかもしれません」
マルス 「でしょう? クロム兄さんは昔から」
ルフレ(妹)「いえ、それだけじゃなくて基本的に考えることが単純だし簡単に人を信用しすぎるところがありますし、
       いろんな部分がかなり大雑把でいい加減だったり、細かいところに気配りが行き届いていなかったり」
マルス 「……あ、あれ? る、ルフレさん?」
ルフレ(妹)「それに考えていることがすぐ顔に出るから交渉事には向いてませんし、基本的に不器用な性格ですから
       誤解を招いて反感買うこともあれば怖がられることもしばしば、それにいろんな分野で人任せだったりしますし、
       それより何より凄く破廉恥だし助平だし破廉恥だし助平だし助平だし助平だし……!」
マルス 「……い、いやあの、そこまで言わなくてもですね」
200 :とらぶるクロム兄さん:2012/06/06(水) 21:05:47.80 ID:9U7wofPt
ルフレ(妹)「でもですよ!」
マルス 「は、はい!?」
ルフレ(妹)「逆に言えば、その辺りがクロムさんの魅力でもあると思うんです!
       決断が早くて行動も迅速で、失敗しても即座に気持ちを切り替えられるぐらい臨機応変でもあります。
       それにいざとなれば自分の感情を抑えて行動できる理性的な一面もありますし、何より馬鹿みたいに寛容で大らかなんです。
       あと、嘘がつけない真っ直ぐな性格ですから、一度信頼を勝ち取れば滅多なことでは信用を落としませんし」
マルス 「は、はあ」
ルフレ(妹)「あとですね、同意は得られないかも知れませんが、意外と人を見る目もあると思うんですよ。
       クロムさんがスカウトしてきた人ってかなり多いですし、配置だって驚くほど適材適所。
       仲間の力を認め、信頼を置いて仕事を任せられる……それってリーダーの資質の一つだと思うんですよね、わたし」
マルス 「い、いや、さすがに誉めすぎじゃないですか……?」
ルフレ(妹)「あ……そ、そうかもしれませんね」

 ルフレはちょっと恥ずかしそうに言ったあと、「でも」と続ける。

ルフレ(妹)「確かに今わたしが言ったことは評価が甘いというか、単なる身贔屓なのかもしれません。
       クロムさんは欠点が多い人です。他の兄弟の皆さんのように、特別秀でた部分はないのかもしれません。でも……」
マルス 「……でも?」
ルフレ(妹)「そういう現状をきちんと認識した上で、努力できる人なんです。
       自分の至らなさを棚に上げて他人に嫉妬して現状に甘んじてしまったり、
       不平不満を漏らしていじけるようなこともなく、達観した振りをして諦めてしまうこともない。
       仲間の力を認めて敬意を払い、頼るべきときは頼り、そうでないときには一人黙々と努力を重ねることができる。
       ……わたしの……いえ、わたしの知っているクロムさんは、そんな人です」
マルス 「……」
ルフレ(妹)「わたしはそんなクロムさんを、ずっとそばで見てきました。
       たとえ力が及ばずとも、必死にもがいて手を伸ばし、運命を変えようとする姿を。
       だからあの人がどれほど多くの欠点を持っていても嫌いになんてなれません。
       むしろそんな人だからこそ、そばで支えてあげたいと思っています」
マルス 「……えーっと……そ、それは今日みたいにとらぶる的な災難に巻き込まれてもですか?」
ルフレ(妹)「! そ、それはその……た、確かに恥ずかしいですし出きれば止めてもらいたいですけど……
       でもあの、ここだけの話わたしも奥手な方ですので、クロムさんから求めて下さるのは正直少し嬉しいと言いますかあの」
マルス 「……ギップリャ」
ルフレ(妹)「はい?」
マルス 「ああいえ。ははは、どうしようかなこれ……あのですね、ルフ」

 ガチャッ

マルス 「!?」
クロム 「ルフレ……!」
ルフレ(妹)「く、クロムさん……!?」
クロム 「……」
ルフレ(妹)「ま、まさか今の話……!」
クロム 「すまん、盗み聞きするつもりはなかった……いや、違うな」

 クロムは首を振り、真っ直ぐにルフレを見つめる。

クロム 「そうだ、盗み聞きだ。全部扉の向こうで聞いていた。俺はお前の言うとおり、破廉恥な男かもしれん……
     だがそれでも、最後まで聞きたかったんだ、聞いていたかったんだ。さっきのお前の言葉を……!」
ルフレ(妹)「クロムさん……!」
クロム 「だがすまん、お前があれだけ言ってくれたのに、気の利いた礼の言葉一つ言えそうにない。
     俺はお前の言うとおり、不器用な男だ……」
ルフレ(妹)「そんなこと……」
クロム 「それでも、これだけは伝えたかったんだ。
     さっきの言葉、とても嬉しかった。これからも頑張ろうって、力が湧いた。
     ……こんな不甲斐ない男だが、これからも支えてくれるか? いや、どうか支えてほしい……!」
201 :とらぶるクロム兄さん:2012/06/06(水) 21:06:44.79 ID:9U7wofPt
ルフレ(妹)「……もう、クロムさんったら」
クロム 「な、なんだ……?」
ルフレ(妹)「何言ってるんですか、そんなの答えるまでもないですよ。
       当たり前じゃないですか。だって、わたしはあなたのパートナー……半身なんですから。
       どんなことがあったって、あなたについていきます。たとえ地の果てであろうとも」
クロム 「……ルフレ」
ルフレ(妹)「……クロムさん」

 心なしか温度が上昇した気がする部屋の中、二人はじっと見つめ合う。

マルス 「……」

 ただ一人、蚊帳の外の弟を置き去りにしつつ。

マルス 「……えーと」
ルフレ(妹)「あ……で、でも今日みたいなえっちぃのは控えめにして下さると助かります」
クロム 「い、いや、わざとじゃないんだぞ!?」
マルス 「あのー」
ルフレ(妹)「ふふ。知ってますよ。クロムさんは助平だけど紳士的な人ですから」
クロム「そ、そうか……」
マルス 「あはははは! なんですかね、仲直りできて良かったですね! いやー、僕も嬉し」
クロム 「だ、だが正直、お前が相手なら獣のようになりたいと思うこともなんだ、たまにはな」
ルフレ(妹)「な、なに言ってるんですかもう……クロムさんのえっち……」
マルス 「……ギップリャ」
クロム 「ルフレ……」
ルフレ(妹)「クロムさん……」
マルス「……ごゆっくりどうぞ……」

 どうしようもない敗北感を覚えつつ、マルスは部屋を後にする。

 ~十数分後~

ロイ  「ただいまー」
マルス 「……」
リーフ 「あれ、マルス兄さんだ」
アルム 「どうしたの、こんな廊下の真ん中で突っ立って」
マルス 「……」
ロイ  「……?」
マルス 「……ギップリャァッ!!」

 ドバアアアアァァッ!

ロイ  「うわぁっ、マルス兄さんが砂吐いてぶっ倒れたーっ!?」
リーフ 「この人でなしーっ!」
アルム 「衛生兵、衛生兵ーっ!」

マルス (……まったく、ひどい罰ゲームだった……)

 終わり。

 でもラブコメは続く。