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Last-modified: 2007-11-09 (金) 01:31:08

強盗王に、俺はなる!

 

ドロシー 「こんばんは、紋章町ニュースの時間です」
セーラ  「えーと、巷で話題の窃盗集団『緑葉』が、今度はアカネイア地区の貴族、ラングさんの邸宅に侵入したんですって」
ドロシー 「『緑葉』はいつものように闇夜に紛れてラング氏の邸宅を強襲し、
      警備員の身包みを剥がして無力化した後、同氏の蒐集物などを根こそぎ奪って逃走した模様です」
セーラ  「インタビューに対して、ラングさんは
      『ラング戦法が通用しなかった。連中は間違いなくプロ』とコメントしたそうよ」
ドロシー 「『緑葉』は例によってラング氏の政治的な不正や悪行に関する証拠を警察に送りつけたらしく、
      近々同氏の邸宅にベルン署の家宅捜索が入ることになりそうです」
セーラ  「黒い噂多かったもんね、この人も」
ドロシー 「『緑葉』が窃盗と同時にその家の不正を暴くというパターンも、いつもの通りですね」
セーラ  「義賊でも気取ってんのかしらね。一部じゃ、警察と繋がりがあるって噂もあるけど」
ドロシー 「ベルン署長のゼフィール氏は、
      『紋章町を犯罪者の手から解放すべく日々職務に従事している我々が、
      得体の知れない犯罪者集団などと手を組むことは絶対にあり得ない』と
      回転しながら怒りを露わにしていますが」
セーラ  「うーん、謎の窃盗集団『緑葉』の活動に、今後とも目が離せないわね」
ドロシー 「そうですね。次に狙われるのはどのお宅なのか……皆さんも、戸締りには十分ご注意ください。
      それでは次のニュース……」

 

 ~主人公家、居間~

 

ヘクトル 「……悪い」
エフラム 「……面目ない」
エリンシア「本当にもう、あなたたち二人はいつもいつも……ぶん殴って差し上げますわ!」

 

 ゴン!! ゴン!!

 

ヘクトル 「っっ~~~~~!」
エフラム 「ぐぅぅ……っ!」
ロイ   「……今回もまたひどいね」
セリス  「居間が半壊だよ……」
リン   「……で、今回は何が原因なわけ?」
ヘクトル 「こいつが俺の残しておいた煎餅をだな」
エフラム 「いや、こいつが俺の槍を座布団の下に」
マルス  「要するにいつも通り、と」
エリウッド「はぁ……いい加減にしてくれないかな……ああ、修理代が、胃が……!」
エイリーク「……これを直すのには、どのぐらいかかるのでしょう……?」
マルス  「アイク兄さん?」
アイク  「グレイル工務店の皆に頼めば、一晩でやってくれるとは思うが……」
リーフ  「お金がかかる?」
アイク  「そうだな」
リーフ  (……アイク兄さん)
アイク  (……分かった)
ミカヤ  「困ったわね。どこからそんなお金を出したものか……」
アイク  「あー、皆。聞いてくれ」
アルム  「なに?」
セリカ  「どうしたの、アイク兄さん」
アイク  「いや……実は、少し前に遠出したとき、そこで開かれてた格闘技大会に出場してな」
ロイ   「へえ。アイク兄さんらしいね」
アイク  「で……そのときの優勝賞金があるから、それを修理代に当てようと思うんだが」
ミカヤ  「あら、いいの?」
アイク  「ああ。特に、使い道も思いつかなかったし……ちょうどいい」
エリンシア「助かりますわ。だけど、そんなことがあったのなら、私たちにも話してくださればよかったのに」
アイク  「あー……俺も、そう思うんだが」
アルム  「え?」
セリカ  「アイク兄さん、今なんて?」
アイク  「いや、別に……」
リーフ  「まあまあ、いいじゃないか。兄さんにとっては、そんな小さな大会で優勝したことなんて、
      話す必要もない些事に過ぎないってことだよ。ね、兄さん」
アイク  「あー……まあ、そういうことにしておくか」
マルス  「……なんか、凄く歯切れが悪いね、アイク兄さん」
ロイ   「そうだね。多分、あれが原因じゃないかな?」

 

シグルド 「私なんてどうせ家の修理代も捻出できない安月給のサラリーマンで」
ミカヤ  「しっかりして、シグルド!」
セリス  「大丈夫だよシグルド兄さん!」

 

マルス  「……なるほど、一家の大黒柱たるシグルド兄さんに気を使ったってことか。それならまあ分からなくも」

 

 そのとき、居間の隅でずっと砂嵐を映し続けていたテレビが、不意に正常な映像を流し始めた。

 

ドロシー 『えー、臨時ニュースです。またも「緑葉」の犯行予告が出された模様です!』
セーラ  『今度は西方諸島のオロ神父のところだって。
      この人もこの人で、いろいろと黒い噂のある人よねえ』
ドロシー 『それでも清廉潔白なイメージが主だった同氏ですが、
      「緑葉」に狙われたことで今後どうなるか分かりませんね』
セーラ  『ベルン署のゼフィール署長も、これを受けてエリミーヌ教団の西方諸島支部に厳戒態勢を敷くみたいね』
ドロシー 『このニュースに関しては、続報が入り次第またお知らせしようと思います』

 

マルス  「……窃盗集団『緑葉』か」
ロイ   「最近よく聞くね。悪人からしか盗まないって評判なんでしょう、この人たち」
マルス  「その代わり、身包み剥がすとか言い様のない凄まじい盗み方をするらしいけどね」
ロイ   「らしいねえ……なんか、面白くなさそうだね、マルス兄さん」
マルス  「どうも、この『緑葉』ってのは、いろんな組織に根を張ってるみたいでね。
      未だに正体をつかめないんだよ」
ロイ   「へえ。マルス兄さんがそう言うぐらいなんだから、よっぽど上手く隠れてるんだね」
マルス  「そうなんだよ。一応、リーダーが『ルー・ファリス』って名前らしいことだけは分かったんだけど」
エイリーク「神話の英雄の名前ですね」
マルス  「気取ってるよね。その上、剣も魔法も使いこなす凄い能力の持ち主だとか」
ロイ   「どんな人なんだろうねえ……」

 

 ~庭~

 

アイク  「……ふー……」
リーフ  「ダメだよアイク兄さん、あれじゃ不審がられるじゃない」
アイク  「そうは言ってもな……皆を騙してるようで、どうも気分がよくない」
リーフ  「分かるけどね」
アイク  「……こうやって、お前が持ってくる金を俺が稼いだものだと偽って何度も家に入れてるが……」
リーフ  「僕が稼いだ、なんていうと、あれこれ詮索されそうだし、下手したら止めろって言われるかもしれないしね」
アイク  「俺にはこうして話しているじゃないか」
リーフ  「アイク兄さんは口が堅いし、多分詮索もしないと思ってるからさ」
アイク  「約束したからな。話はせん。だが実際、あれだけの大金をどうやって稼いでるんだ、お前は」
リーフ  「秘密だよ。大丈夫、別に悪いことしてる訳じゃないから」
アイク  「……お前がそう言うなら、俺は信じるが」
リーフ  「ありがとう。あんまり気分よくないだろうけど、これからもよろしくね」
アイク  「ああ……だが、いいのか?」
リーフ  「何が?」
アイク  「お前にこれだけの金が稼げる才覚があると知れば、皆だって一目置くようになるだろうに」
リーフ  「別に、そんなののためにやってる訳じゃないし」
アイク  「じゃあ、何のためだ?」
リーフ  「僕は他の皆みたいに突出した才能がない。
      だからこそ、皆が凄いことするのを出来る限り近くで見ていたいんだ。
      だけど、お金がどうのって話しになると萎縮してしまうかもしれない。
      その点なら、僕はこの兄弟の中で一番上手くやる自信があるからさ。
      こういうことで、皆の役に立ちたいんだよ」
アイク  「……そうか」
リーフ  「分かってはもらえないかもしれないけど」
アイク  「まあ、全て肯定できるとは言い難いかもしれん」
リーフ  「そんなもんだろうね。じゃあ僕、ちょっと行くところがあるから」
アイク  「リーフ」
リーフ  「なに?」
アイク  「皆を泣かせるようなことだけは、するなよ」
リーフ  「……分かってるよ。それじゃ、行ってきます」

アイク  「……いつの間にか頼もしくなったもんだな、あいつも……」

 

 ~ユグドラル、トラキア地区郊外にある寂れたバー~

 

 カラカラコロン♪

 

デュー  「や、いらっしゃい……ってなんだ、我らがリーダーさんじゃない」
リーフ  「こんばんは、デューさん。皆はまだ?」
デュー  「うん。……ああいや、一人来てたっけ」
サザ   「……」
リーフ  「ああサザさん。早いですね」
サザ   「ちょうど、ここに向かう途中で連絡を受けたからな。今回のターゲットはオロ神父か」
リーフ  「うん。ギースさんが、ついにあの生臭坊主の不正の証拠をつかんだって連絡を寄越してきてね。
      うら若いおねいさんたちを手篭めにしてるって話もあるから、前回同様へザーさんが張り切ってくれそうだよ」
サザ   「……盗賊ネットワーク、か」
デュー  「紋章町の盗賊、山賊、海賊、空賊、ありとあらゆる『賊』の間に張り巡らされた情報網。
      その頂点に立つのが、こんな子供だとはだれも思わないよね」
リーフ  「子供って、それ言ったらデューさんだって……ああいや、年齢不詳でしたねあなたは」
デュー  「ははは、永遠の美少年と呼んでくれたまへよ」
サザ   「窃盗集団『緑葉』……その副リーダーをやってる立場だから、強くはいえないが」
リーフ  「なんですか?」
サザ   「この仕事のことは、ミカヤたちにも秘密にしているんだろう」
リーフ  「ええ。マルス兄さんの追及を逃れるのには苦労してますけど」
サザ   「……心は痛まないか?」
リーフ  「……全く痛まないといえば嘘になります。
      でも、僕だって、出来ることがあるのなら皆や、紋章町の友達の役に立ちたいんです。
      泥棒の才能なんてアイク兄さんたちの強さに比べたら到底誇れるものじゃありませんけど、
      それでも、僕が何かすることで、皆の幸せに少しでも貢献できるのなら」
サザ   「……まあ、いいけどな。俺はミカヤの弟を守るだけだ」
リーフ  「頼りにしてますよ、サザさん」
デュー  「まあ、腕力はともかく速さと技は一流だからね。止めを刺さずに相手を無力化する技術にも長けてるし」
リーフ  「そうそう。瞬殺後に『とらえる』は、もはや黄金パターンですよね」
サザ   「……素直に喜べないぞ、それ」

 

 カラカラコロン♪

 

リカード 「ちわーっす」
チャド  「来たぜ!」
パーン  「ダンディライオンただいま到着ってな」
ギース  「こっちの準備はOKだ。いつでも出発できるぞ」
ダグダ  「山を越えるときゃ、俺らの知恵を頼りにしてくれや」
ラガルト 「よ。今回も一枚噛ませてくれよ」
へザー  「さ、ちゃっちゃとあのエロ坊主に天誅下しに行きましょうよ」

 

デュー  「……じゃ、頑張ってきてね」
サザ   「……今回は霧に紛れて海路で上陸した後、山を越えて強襲することになる」
リーフ  「よし、行こう皆! 正義の盗賊団『緑葉』、出撃だ!」