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Last-modified: 2008-03-18 (火) 22:36:46

偽りの女神の本当の笑顔

紋章町きってのお嬢様校であるルネス女学院。
『常に優雅で美しく』をモットーとしているこの学院は喧騒や怒号とは無縁の世界であった。
たが、紋章町に完全な静寂など訪れるわけもなく、
相次ぐ侵入者やそれらを撃退する仮面の騎士の登場等せわしない日々が続いていた。
そんな非日常が日常として受け入れられようとしたある日の放課後、
ルネス女学院の生徒会長ラーチェルは友人エイリークにまつわるとある出来事に邂逅する。
それは多くの人が関わりながら、そのほとんどが気付かなかった事件と呼べない大事件だった。

ラーチェル「まったく、たまの我侭なんだから素直に認めてくれてもよろしいのに」
ターナ「あれ、ラーチェル?今日は確か生徒会の日だと思ったけど、こんな所にいていいの?」
ラーチェル「ちゃんと欠席の許可を頂きましたから大丈夫ですわ。
      それに言わせていただくと、ターナの方こそ部活があるのではなくて?」
ターナ「あはは、そこら辺はお互い様ってことで。理由は……多分ラーチェルと一緒じゃないかな。
    私の場合は時間がなくて、サボる形になっちゃったけどね」
ラーチェル「でしたら急ぎますわよ。エイリークの事ですからすぐに帰ったりはしないでしょうけれど」
ターナ「最近色々と忙しかったからね。今日がオフだって知ったのもついさっきだし。
    突然で驚くだろうけど、久しぶりに三人で羽を伸ばしましょ」
ラーチェル・ターナ「失礼しま~す(いたしますわ)」

教室のドアを開け、中に入るとすぐさまエイリークの姿を確認するが、生憎教室に彼女の姿はない。
一体どうしたのか怪訝に思う二人に黒板の掃除をしていた生徒の一人が声をかけてきた。

クラスメイト「ターナさんにラーチェルさん。こんにちは」
ターナ「こんにちは。えっと、私達エイリークに会いに来たんだけど、何処にいるか知ってる?」
クラスメイト「彼女ならサレフ先生が研究に使う……何とかって資料を探しに一緒に図書室に行きましたよ。
       すぐに戻ってくるだろうからよければ教室で………って、あれ?」

ラーチェル「あの電波馬鹿!いつもいつも性懲りも無く。
      私に断りもなくエイリークに手を出すという事は、覚悟が出来てると判断していいのよね?」
ターナ「いや、私に同意を求められても返答に困るんだけど。
    とりあえず、あんまり無茶は真似はしないでね。いつもフォローするの大変なんだから」
ラーチェル「そんな事承知していますわ。私を誰だとお思いですの?」
ターナ(だから心配なのよね)

そんなターナの心配をよそに図書室に到着。
それなりに広い図書室のどこから探そうか考えてるターナとは対照にラーチェルは迷い無く歩き、

サレフ「ん?どうかしたのかい、ラーチェル君。血相をかえぶげらっ!!」
図書委員「あ、あの図書室ではお静かに………ひいっ」
ラーチェル「さあエイリークを何処にやったか白状しなさい。隠すとためになりませんわよ」
ターナ「……………うん、私は何も見てない」

一方、早々に現実逃避を始めたターナは近くにいた生徒にエイリークの行方を尋ねる。
難航するかと思われたが流石有名人。次々と情報が集まっていった。

生徒A「エイリーク様でしたら廊下でどなたかとお話になっているのを見かけました」
生徒B「私は何人かのお連れの方と一緒に木板を抱えて階段を上がろうとしているお姿を見ましたよ」
生徒C「あ、それ多分美術部よ。今日は屋上で写生をするって美術部の友人が言ってたもの」
生徒B「へぇ~、エイリーク様って美術部にもご友人がいらっしゃるのね」
生徒C「あれ?私の友達、エイリーク先輩の大ファンだけど、そんな話聞いた事ないわよ」
生徒B「でも、持ってた荷物凄く重そうだったよ?私だったら何の関係もない相手から頼まれても断るけど」
生徒A「たとえ見知らぬ相手でも困っているのなら手を差し伸べる。女神の名に相応しい行いですわ」
生徒B「それもそうね。何しろエイリーク様は全校生徒の憧れ、『ルネスの女神』なのですから」
生徒C「確かに、間近で見たエイリーク先輩はカッコよかったなぁ。私もファンになっちゃいそう」
ワイワイガヤガヤ

ターナ「私の事忘れてすっかり盛り上がってるわね。まぁ、それだけエイリークが慕われてるって事か」
ラーチェル「……………………」
ターナ「きゃあ!びっくりした。いるならいるで声ぐらいかけてよ。で、サレフ先生はどうしたの?」
ラーチェル「リライブをかけましたから平気ですわ。
      そんな事よりエイリークの居場所が分かったのならさっさと行きますわよ」
ターナ「え、ええ、そうね」

こうして図書室を後にしたラーチェルとターナだったが、エイリークとはすれ違うばかりで、
屋上、中庭、乗馬部部室、職員室、生徒会室、と学院中をたらい回しさせられる結果となった。
そして……

ターナ「振り出しに戻る、と。ここまでベタだと逆に感心してしまうわね。
    そう思わない、ラーチェル?って、さっきからどうしたの?ずいぶん機嫌が悪いけど。
    もしかして、うちの部長に一緒になって説教されたの怒ってる?」
ラーチェル「なんで私がその程度の事で怒らなければいけないの!………エイリークのことですわ」
ターナ「エイリーク?エイリークなら文句も言わずにみんなのお手伝いして慕われてたじゃない。
    あ、わかった。エイリークが人気だから嫉妬してるんでしょ。今じゃ学院一の人気者だからね。
悔しいかもしれないけど友達なんだからちゃんと喜んであげなくちゃ駄目よ」
ラーチェル「ターナ、貴女とは一度じっくり話し合う必要がありますわね。
      私が世間からの評判なんて気にするわけないでしょう!どこぞの小娘じゃあるまいし!」
ターナ「(小娘って誰?)じゃあ、何で怒ってるの?」
ラーチェル「それが上手く説明できれば何の苦労もありませんわ。あー、もどかしくて余計腹が立つ」
ターナ「う~ん、よく分からないけどエイリークに直接の原因がないのならそろそろ機嫌直してね。
    あの子そういった事凄く気にするから」
ラーチェル「……そうですわね。ごめんなさい。ターナにも色々と迷惑をかけてしまったわね」
ターナ「いいわよ、私達友達なんだから」

ターナ「そんな事言ってる間に到~着っと♪エイリーク、一緒に帰ろ……って、あれ?」
クラスメイト「あ、おかえりなさい」
ラーチェル「貴女は先程の?」
クラスメイト「覚えてたんですね。ちなみに、エイリークなら少し前に帰りましたよ」
ターナ「えー、嘘っ!?」
クラスメイト「一応お二人が来た事は伝えたんですけど、タイムセールに間に合わなくなるからって。
       すみません、あの時ちゃんとお二人を引き止めなかったばかりに」
ターナ「あ、いいのいいの。別に約束もしてないし。ただエイリークと一緒に帰りたいってだけだから。
でも、正直言うとちょっと残念かな。最近はエイリークとゆっくり話す時間が無くてね。
    かと言って大して用も無いのに押しかけて邪魔しちゃ悪いし」
クラスメイト「そうですか。うーん………あ、お二人にお願いがあるんですけど、いいですか?」
ターナ「まぁ、内容にもよるだろうけど。突然どうしたの?」
クラスメイト「別に難しい事じゃありません。このノートをエイリークの家まで届けて欲しいだけです」
ターナ「これってエイリークの!?どうしてあなたがエイリークのノートを持ってるの?」
クラスメイト「少し授業で分からない所があったから、下校前のエイリークに借りたんです。
       ちょうど日直だったもので、残って勉強でもしようかなぁ……と」
ラーチェル「貴女、お名前は?」
クラスメイト「そういえば自己紹介がまだでしたね。リンダと申します」

461 名前: 偽りの女神の本当の笑顔 [sage] 投稿日: 2008/01/23(水) 00:58:40 ID:v+Mwoit5
ターナ「リンダって、“あの”リンダ?」
ラーチェル「ええ、ルネスでも珍しい飛び級を果たした才女。貴女でしたのね」
ターナ「エイリークが『私のクラスの友達にとても真面目で努力家の子がいます』って言ってたけど、
    それってリンダさんの事だったんだ」
リンダ「幾らなんでも持ち上げすぎですよ。飛び級も実力というより他の要因でなれたようなものですし。
    その証拠に最近は勉強も追いつかなくなって、こうしてノートを借りるぐらいです」
ラーチェル「……そうしてノートを借りる日と、日直になる日と、私達が来る日が偶然重なった、と」
リンダ「あっけなくバレましたね。しかも、普段ならともかく気が立っている今は逆効果でしたか。
    すみません。お二人を怒らすような余計な真似をしてしまい」
ターナ「あんまり気にしないでいいわよ。ラーチェルの癇癪持ちは今に始まった事じゃないし。
    って、リンダさん、ラーチェルがさっきから機嫌悪いのに気付いてたんだ?」
リンダ「知人の影響で観察眼にはそれなりに自信があるんです。
    特にラーチェルさんは表裏のない方ですから、仕種や言動ですぐに分かりました」
ターナ「まぁ、本人に自覚がないだけでラーチェルって子供っぽいからね。
    今回怒ってる理由もエイリークの人気に嫉妬なんて可愛らしいものだし」
ラーチェル「ターナ!」
ターナ「大丈夫。心配しなくてもラーチェルの良い所は十分知ってるから。だから素直に認めていいのよ」
リンダ「くすっ」
ラーチェル「だから、違うと言っているでしょう!
      貴女もターナが言った事は冗談ですから笑うのはお止しなさい」
リンダ「ごめんなさい。別に可笑しくて笑ったんじゃないんです。
    ただ、お二人とも本当に仲が良さそうだなぁと思いまして」
ターナ「友達だからね。いつもこんな感じに馬鹿やって騒いでるわよ」
リンダ「友達………ですか。なんだか懐かしい響きです」
ターナ「え?リンダさんだってエイリークと友達なんじゃないの?呼び捨てで呼んでるし」
リンダ「呼び方についてはエイリークに言われたんです。クラスメートだから呼び捨てで構わないって。
    よく話しかけてくれるし、実際にエイリークは私の事を友達と思ってくれているのかもしれません。
    でも、私はあの人の友達でいる資格なんてありません」
ターナ「リンダさん」

リンダ「すみません、つまらない話でしたね。
    あ、そうそう、ラーチェルさんがエイリークの件で怒る気持ち分かりますよ」
ラーチェル「え?」
ターナ「どういう事?」
リンダ「お二人はエイリークがここの生徒、特に下級生に何て呼ばれてるかご存知ですか?」
ターナ「ルネスの女神……だっけ?」
リンダ「私達の知る本当の女神様って別世界の存在ですよね。まぁ、例外はありますけど。
    エイリークも同じです。たくさんの生徒に慕われても、その視線は同じ生徒として向けられない。
    本人の意思や努力が『ルネスの女神』という一言で片付けられるのはとても悲しい事だと思いませんか?」
ターナ「エイリークをよく知る私達にしたらろくに知ろうとしない皆の態度に納得がいかなかった。そうなの?」
ラーチェル「そう………ですわね。でも、」
リンダ「別に今言った事自体はそこまで大した問題ではありません。
    男性と女性、天才と凡人、ここと他のクラス。異なる種族に対し偏見を持つ例はいくらでもありますし。
    彼女の性格上難しいですけど、そんなものだと割り切ってしまえば済む話ですから」
ターナ「それもそうよね。エイリークだって全ての人間に理解されようだなんて思ってないだろうし」
リンダ「問題は皆が思い描く理想像を演じる事にエイリーク自身が何の疑問も抱かない………
    いえ、むしろ演じなければならないとすら思っている節がある事です」
ラーチェル「っ!?」
リンダ「それがエイリークの優しさによるものなのか、他に何か理由があるのかは分かりません。
    ただ、自分を捨ててまで皆にとって都合のいい存在であり続ければ、待っているのは更なる孤独です。
    エイリークが学院中に認められればられる程、本当の彼女は遠のいてしまう。
    本来なら好意的な意味で付けられたルネスの女神という呼び名も皮肉にしか聞こえなくなるんです。
    実際、今のエイリークはとても無理をしてるように感じられます」
ターナ「もしかしてノートを届けて欲しいって言うのも……」
リンダ「お二人がエイリークといられる時間を作る為の口実です。こうすれば埋め合わせをしようと考えますので。。
    私はエイリークに対して何もしてあげられませんけど、お二人は違います。
    エイリークがエイリークでいられる時間を提供してあげられるのは彼女にとって大事な人。
    この学院ではお二人以外おりません。ですから、お二人でエイリークを助けてあげてください」

???「成る程、そうだったのか。善は急げと言うし、さっそく行動に移そう」

ターナ「ラーチェル、何か言った?」
ラーチェル「ターナの気のせいではなくて?それよりも………気に入りませんわ」
リンダ「ラーチェルさんのお怒りも当然ですね。私の自己満足の為にお二人を利用しようとしてるのですから」
ターナ「成る程、ラーチェルの子供っぽさも案外役に立つものね」
リンダ「?どういう意味でしょうか?」
ターナ「そのうち教えてあげるわ。今はラーチェルの名誉の為に黙っとくけど。
    で、問題のノートの件だけど、ちゃんと届けてあげるわ。私達もエイリークに会いたいし。
    その代わり………」
リンダ「分かってます。お二人を利用しようとした罰は甘んじて受けるつもりです」
ターナ「罰って。別にそんな構える必要はないわよ。ただ、私達の友達になってほしいだけ」

リンダ「友達?私と……ですか?」
ターナ「ええ。ラーチェルも異存は無いわよね?」
ラーチェル「答えるまでもありませんわ。むしろ、そこで見当外れな事を言い出したらターナを見損なう所でしてよ」
ターナ「その言葉を聞いて安心した。ラーチェルに嫌われたくないもの」
リンダ「……どうしてですか?」
ターナ「どうしてって。そりゃあ、ただの知り合いに使い走りを頼まれても乗り気にならないけど、
    友達の頼みなら何とかしてあげようって思うでしょ」
リンダ「誤魔化さないでください!どうして私なんかと友達になろうと思ったんですか?
    家は貧乏だし、性格は悪いし、少し成績がいいだけの嫌な女ですよ」
ターナ「私が言うのもなんだけど、エイリークの家も凄い貧乏よ。性格だってラーチェルの暴力癖に較べたら」
ラーチェル「む!ターナの毒舌に較べたら数段マシですわ」
ターナ「そんな、ひどい!」
ラーチェル「酷いのは貴女の性格。と言うか、どこの姫様よ!?」
ターナ「それは勿論……」
ラーチェル「どっちの発言も危険だから自重なさい。まったく、はしゃいじゃって」
ターナ「あはは、ごめんごめん。ね、分かったでしょ?私もラーチェルも結構性格悪いのよ」
リンダ「………私はターナさんやラーチェルさんが大切に想っているエイリークをずっと騙してきました。
    それでも私なんかと友達になろうと言うんですか?」
ターナ「私達にはリンダさんとエイリークの関係にどんな事情があるのかは分からない。
    けど、これだけは確実に言える。リンダさんも私達と同じくらいエイリークを大切に想っているって」
リンダ「そんな事……」
ターナ「あるわ。実はノートの件とかどうでもいいの。私達が貴女と友達になりたいのよ」
ラーチェル「貴女は先程言いましたわね。『エイリークの友達でいる資格なんてない』と。
      そんな事誰が決めましたの?お互いが友達でいたいと思えばそれで十分ではないのかしら」
ターナ「リンダさんが嫌だと思うのなら諦める。あ、ノートはどちらにせよちゃんと届けるわよ。
    だから正直に答えてほしい。私達の友達になってくれないかな?」
リンダ「……………お二人とも卑怯です。そんな言い方されたら断れるわけないじゃないですか」
ターナ「言ったでしょ、性格悪いって。ホントは断られたらどうしようって心配だったけどね」
リンダ「私もこんな事になるなんて想像もつきませんでしたよ」
ターナ「ふふっ。それじゃあ、早速ノートを届けに行くけど、途中まで一緒に行く?」
リンダ「いえ、暫く教室に残ります。日誌をまだ書き上げてないし、それに………」
ターナ「そっか。それじゃあ、ここでお別れという事で。行ってくるね、リンダ」
リンダ「はい、それでは宜しくお願いします」
ラーチェル「リンダ、私達は既に友達なのですから、そんな堅苦しい言葉を使う必要ありませんわ」
リンダ「わか………った。行ってらっしゃい、ターナ……ラーチェル」
ターナ「うん、行ってきま~す」
ラーチェル「行ってまいりますわ」

ガラッ

リンダ「参ったなぁ。一人で十分やっていけると思ってたのに、涙が止まらないわ。
    ………『友達でいたいと思えばそれで十分』か。もうこれ以上自分の気持ちに嘘吐けないよね」

520 名前: 偽りの女神の本当の笑顔その2 [sage] 投稿日: 2008/02/26(火) 22:08:45 ID:0H9ZUu99
所変わって、ご存知FE兄弟家

リン「ただいまー」
ロイ「お帰りなさい。けっこう遅かったけど、どこか遊びにでも行ってたの?」
ヘクトル「久しぶりにゲーセンにな。と言っても三人で五百円しか使わなかったぜ」
アルム「三人で五百円?それじゃあ、全然楽しめなかったでしょ」
ヘクトル「そうでもねぇぞ。俺は格ゲーワンコインで十分粘ったし、
     リンとエリウッドはメダルゲームでひたすら稼いでたからな」
リーフ「稼いでたってどのくらい?どんな方法で?」
ロイ「リーフ兄さん、落ち着いて」
エリウッド「僕がメダル落としでリンが競馬ゲームだよ。
      ちなみにプレイしたのはどちらも旧式の筐体。やっぱゲームはレトロのに限るね」
アルム「台の動きを真剣になって見つめるエリウッド兄さんの姿が容易に想像出来そうだね」
マルス「僕も予想が外れて機械に当り散らすリン姉さんの姿が想像で……あだだだだ」
リン「安心しなさい。私が当り散らすとしたら、あんただけにだから」
ロイ(相変わらずだなぁ)
エリウッド「でも、実際の所リンがほとんど稼いだようなものだよ。的中率九割はいってたし。
      あんまり続いてもキリがないんで二万オーバーで終わらせたんだっけ」
リン「ま、ヘクトルを待たせるのも悪いしね。最後にクレーンゲームをして帰ったわ。
   という訳で、ハイ、セリカにお土産」
セリカ「ぬいぐるみ。ありがとう、リン姉さん」
セリス「いいなぁ」
リン「ごめん、ぬいぐるみは一つしかないのよ。もしかして、セリスも欲しかった?」
セリス「う~ん、そっちも気にはなるけど、僕としては一緒に連れて行ってもらいたかったなぁ。
    僕、ゲームセンターってほとんど行った事ないから」
ヘクトル「なんだ?ゲーセンくらいダチと行ったりしないのか?」
セリス「何回かユリウスと約束してるんだけど、直前になるといつも具合が悪くなって行けないんだ。
    この前なんてゲームセンターの言葉が出ただけでメティオが直撃したし、呪われてるのかな?」
ロイ(絶対あの二人の仕業だ。ユリウスさんも可哀想に)
リーフ(まぁ、柄の悪い人がいるのも確かだからね。二人にとっては気が気じゃないんでしょ)
マルス「よし、セリス。今度僕とリン姉さんとでとてもいい所に連れて行ってあげよう。
    本物の馬がたくさん見れて、しかもお金まで手に入る。って、ぎゃーーーっ」
リン「セリスを変な道に引き込まないの!第一ちょっとした遊びならともかく、賭け事なんて私はしないわよ」
セリス「?」
ロイ「セリス兄さんは気にしないでいいから。色んな意味で」
ヘクトル「そんな事より飯はまだか?腹が減ってしょうがねえんだが」
セリカ「そういえば、今日はいつもより夕飯の準備が遅いわね。エリンシア姉さん、何かあったの?」
エリンシア「う~ん、材料が足りなかったからエイリークちゃんに今朝方お買い物を頼んだのだけれど」
アルム「エイリーク姉さんまだ帰ってきてないよね。今日は久しぶりに部活も習い事もない日なのに」
ヘクトル「俺達みたいにどっかで遊んでるんじゃねぇのか?」
エリウッド「既に買い物の約束をしているのにかい?」
リン「仮にそうだとしても、姉さんなら遅くなるって連絡の一つくらい寄越すでしょ」
セリス「何かあったのかも。心配だから僕ちょっと捜しに行ってくる」
アルム「だったら僕も!」
セリカ「アルムが行くのだったら私も!」
マルス「まったく、うちの兄弟は皆して心配性というか、過保護というか」
リーフ「マルス兄さんは気にならないの?」
マルス「全然。エイリーク姉さんだって子供じゃないんだし、少し帰りが遅れたくらい一々騒ぐほどじゃないよ。
    それに………」
エイリーク「ただいま帰りました」
マルス「ほ……あれ?」

521 名前: 偽りの女神の本当の笑顔その2 [sage] 投稿日: 2008/02/26(火) 22:11:08 ID:0H9ZUu99
エリンシア「おかえりなさい。帰ってくるのが遅かったようですけど、何かありましたの?」
エイリーク「えっと……そ、その」
エリンシア「別に責めるつもりはないのよ。エイリークちゃんが悪い事をしたわけじゃないでしょうし。
      でも、みんなに心配かけたのも事実ですから、次からは気を付けましょうね」
エイリーク「ごめんなさい」
エレンシア「エイリークちゃん」
エイリーク「………」
エレンシア「お買い物ありがとう。凄く助かりましたわ」
エイリーク「は、はい!」
エレンシア「……なんだか今日のエイリークちゃんとっても可愛らしかったわね。
      あんな表情を見せてくれたのは何年ぶりかしら。っと、いけない、早く晩御飯の支度をしないと」

ロイ「あ、エイリーク姉さん。お帰りなさい」
エイリーク「ただいま、ロイ。今日はみんなに迷惑をかけてしまって、ごめんなさい」
ロイ「そ、そんな、謝らないでよ姉さん。僕達が勝手に心配しただけなんだし」
セリス「うん。エイリーク姉さんが無事ならいいんだ」
エイリーク「………でも」
ヘクトル「気にしてないって言ってんだから、もういいじゃねぇか」
リン「ヘクトルがフォローに回るなんて珍しいわね」
ヘクトル「うるせー」
リン「でも、エイリーク姉さん。ヘクトルの言ってる事もあながち間違いじゃないわ。
   これ以上悔やんだところで何も変わらないんだから。もっと前向きにいかないと」
エイリーク「……わかりました」
アルム「そうだ!今度の休みにみんなでどっか遊びに行こうよ。ぱーっと騒げば嫌な事もすぐ忘れるって」
エリウッド「今月は出費もそんなに酷くないし、たまにはこういうのもいいかな」

落ち込むエイリークを励まそうと明るく努めるが、次第に本来の目的を忘れて勝手に盛り上がってゆく兄弟達。
そんな光景に驚きつつ、エイリークはようやく笑顔を見せるのであった。

マルス「……………」
リーフ「どうしたの、マルス兄さん?団体行動になるといつも仕切りたがるのに今日は大人しいね」
マルス「いや、ちょっとね。エイリーク姉さんの様子が普段と違うから」
リーフ「そうかな?あんまり変わらないと思うけど。あ、でも……」

セリカ「エイリーク姉さん、もしかしてコレが気になるの?」
エイリーク「え?ええと、はい。このぬいぐるみはセリカのですか?」
セリカ「ええ。リン姉さん達がゲームセンターに行って、お土産として貰ったの。欲しいのならあげるけど」
エイリーク「でも、そのぬいぐるみはセリカのですよね。だったら私がもらうわけにはいきません」

リーフ「ぬいぐるみに興味を示すエイリーク姉さんは珍しいかも」

エイリーク「それにしてもゲームセンターですか。あの……今度私も連れて行ってくれませんか?」

「「「「「「「え!?」」」」」」」

522 名前: 偽りの女神の本当の笑顔その2 [sage] 投稿日: 2008/02/26(火) 22:13:17 ID:0H9ZUu99
ロイ「ごめん、エイリーク姉さん。よく聞き取れなかったみたいだから、もう一度言ってもらえるかな?」
エイリーク「えっと……ゲームセンターに連れて行ってくれませんか?」
リン「ちょっとごめんね、姉さん………うん、熱は無いわ」
アルム「集団催眠って可能性は?」
セリカ「私が現実と幻のアルムを間違えるなんて絶対にあり得ないわ。でも……」
リーフ「コンシューマゲームですらほとんど触れた事のないエイリーク姉さんがゲームセンターに行きたいなんて」
ロイ「正直、信じられない」
セリス「あ、エイリーク姉さんもゲームセンター行きたいんだ。それじゃあ、僕も一緒に連れて行って」
エイリーク「あの……駄目………ですか?」
リン「うっ。べ、別に駄目って事はないけど、エイリーク姉さんには似合わないかなぁ、なんて。ね、ヘクトル」
ヘクトル「てめぇ、俺に振るんじゃねぇよ!」
エイリーク「私が行ったら駄目ですか?ヘクトルお兄ちゃん」

「「「「「「ヘクトルお兄ちゃん!?」」」」」」

リン「ヘークートール!あんた、まさか陰でエイリーク姉さんにそんな風に呼ばせてるんじゃないでしょうね?」
ヘクトル「待ってくれ。これは何かの間違いだ」
エイリーク「ぁ!」
ヘクトル「とりあえずマーニ・カティはしまって、ゆっくり話し……」
エイリーク「ごめんなさい!もう間違ったりしません。ワガママも言いません。
      だから、許してくださいヘクトルお兄ちゃん」
リン「(プチン)遺言ぐらいなら聞いてあげてもいいわよ、ヘクトルお兄ちゃん?」
エリウッド「こうして、また家が壊れていくのか。ああ、胃が痛い」
エイリーク「あの……大丈夫ですか?エリウッドお兄ちゃん」

「「「「「エリウッドお兄ちゃん!?」」」」」

リン「エリウッド、まさかあんたまで」
マルス「ヘクトル兄さんならともかく、エリウッド兄さんがそんな真似する筈ないでしょう」
ヘクトル「おい、俺ならともかくってどういう意味だ!」
マルス「エイリーク姉さん」
エイリーク「(びくっ)は、はい」
マルス「あ、エイリーク姉さんが嫌がる様な事はしませんから安心してください。
    ただ、さっきから首から下げている物が気になってるので、よければ見せてもらえませんか?」
エイリーク「………これですか?」

そう言ってエイリークが見せたのは、淡い輝きを放つ黒い宝石の付いたネックレスだった。

セリス「わぁ、キレイだね」
リーフ「黒真珠……かな?清楚なエイリーク姉さんとのコントラストが映えて、とてもよく似合ってるよ」
エイリーク「あ、ありがとう」
リン「エイリーク姉さんがアクセサリーを身に着けるなんて、一体どんな心境の変化かしら?」
マルス「いや、だから、エイリーク姉さんが変わってしまったのは多分ネックレスに付いてる宝珠が原因ですよ。
    エイリーク姉さん。そのネックレス少しの間でいいので、貸していただけますか?」
エイリーク「えっと………これは私にとって大切な物だから……ごめんなさい」
マルス「いえ、無理なら無理で構いませんので、謝らなくていいですよ。
    しかし、これで確定かな。誰がどんな目的でエイリーク姉さんを変えたのかは知らないけど」

523 名前: 偽りの女神の本当の笑顔その2 [sage] 投稿日: 2008/02/26(火) 22:15:18 ID:0H9ZUu99
セリカ「そんなのあの邪神がやったに決まってるじゃない」
アルム「セ、セリカ?」
セリカ「ミカヤ姉さんだけでも許せないのに、エイリーク姉さんにまで手を出して。
    今度会ったら塵も残さず消滅させてあげるわ」
アルム「落ち着いてセリカ。まだユンヌさんが犯人だって決まったわけじゃないんだし」
セリカ「アルムは私じゃなくてあの邪神の肩を持つって言うの!?」
アルム「いや、そうじゃなくて……」
セリス「ところで、ゲームセンターの件は結局どうなるのかな?」
エリウッド「あぁ、胃が」
エイリーク「エリウッドお兄ちゃん、本当に大丈夫?」
リン「ねぇ、ヘクトル。エイリーク姉さんが被害者なら、私の中で沸き立つ怒りは誰にぶつけたらいいのかしら?」
ヘクトル「だからマーニ・カティはしまえって!」

ロイ「なんか段々とカオスな雰囲気になってきたね」
ユンヌ(幼女)「混沌と聞いて飛んできました」
ロイ「変態女神自重。って、ユンヌさん?何でこんな狙った様なタイミングで出てくるの」
ユンヌ「誰かに呼ばれたような気がして。ハッ、もしかしてアイクがようやく私の気持ちに応えてくれる気に?」
ロイ「ユンヌさんにとっての兄さん像がどんなのか本気で知りたくなってきた。第一兄さんは今仕事中ですよ」
ユンヌ「えー、それじゃあ誰が呼んだの?」
セリカ「私よ、この邪神。エイリーク姉さんを惑わした罪、死をもってその身に味わいなさい」
ユンヌ「邪神じゃないって言ってるでしょ!って、私エイリークちゃんには特に何もしてないわよ」
セリカ「とぼけないで!あの宝珠があなたの物だって事は百も承知なのよ」
アルム「だから、別に証拠があるわけじゃ……ゴメンナサイ」
ユンヌ「宝珠?………あ!」
セリカ「やっぱり!これで心置きなく攻撃できるわ。まぁ、最初から手加減するつもりはなかったけど」
リーフ「何かとてつもなく嫌な予感が」
セリカ「ライナロック!」

ヒョイ、ギャー、コノヒトデナシー

セリカ「ええい、ちょこまかと。余計な抵抗なんかしないで、きちんと喰らいなさい」
ユンヌ「避けるに決まってるでしょ。あ、リンちゃん、ちょうどいい所に。セリカちゃんを止めるよう……え?」
リン「ユンヌさん、今無性に剣術の稽古がしたい気分なの。相手になって貰えるかな?」
ユンヌ「ちょ、二対一はさすがに厳しすぎ……」

ロイ「あぁ、セネリオさんじゃないけど、いつも以上にひどい有様に」
エイリーク「あの………マルス」
マルス「何ですか?エイリーク姉さん」
エイリーク「エフラムお兄ちゃんの姿が見えないのですが、どこにいるのですか?」
マルス「ああ、エフラム兄さんならリン姉さん達が帰ってくる前に電話がありまして、今日は遅くなるそうです」
エイリーク「そうですか」
マルス「晩御飯までには帰る筈ですよ。とりあえず、あの三人が疲れて動けなくなるまで待ちましょう」

555 名前: 偽りの女神の本当の笑顔その2 [sage] 投稿日: 2008/02/27(水) 23:20:49 ID:/mrVK7rl
結局マルスの予告通り、リンを交えた恒例のバトルはお互いの体力が尽きて水入りという形で幕を閉じた。
(エリウッドは心労で倒れたが)居間はとりあえずの静寂を取り戻し、
セリスが巻き添えを喰らったリーフやヘクトルの治療、アルムが疲れ果てたセリカ達の介抱に動くくらいだった。
そして、残ったロイとマルスの二人はと言うと……

ロイ「マルス兄さん、ちょっとこっちに」

マルス(なんだい、ロイ?話の内容は大体想像つくけど)
ロイ(ユンヌさんが出てきて先送りになったけど、エイリーク姉さんへの対応はどうするの?)
マルス(とりあえず様子見かな。どうやら幼児退行してるだけで、精神を乗っ取る類の呪いじゃなさそうだし)
ロイ(まぁ、エイリーク姉さん相手に強攻策を取る訳にもいかないだろうけど、放っておいていいのかな?)
マルス(本当に危険な物ならユンヌさんが止めてるよ。あの変態女神、セリカを含めて僕達の事気に入ってるから)
ロイ(……………)
マルス(信じられないって顔をしているね)
ロイ(いや、マルス兄さんがユンヌさんを認めるような発言をするなんて、あまりに意外だったんで)
マルス(認めるもなにも僕は事実を言ったまでさ。それより、誰か来たみたいだよ)

『ごめんくださーい』

ロイ「あ、それじゃあ僕が出るよ」
マルス「………さて、ロイとの話通り僕から何もしませんけど、姉さんは他に聞きたい事があるんですよね?」
エイリーク「わ、私は別に……」
マルス「そんな事言われても表情でバレバレです。これでも観察眼にはかなり自信がありますし。
    僕達の会話を聞いてる人は誰もいませんから、話すなら今のうちですよ」
エイリーク「あの……みんながケンカしたり、私に対してよそよそしいのは私がいけないからでしょうか?」
マルス「そんな事ないです。姉さんは何も悪くありません」
エイリーク「そ、そうですか」
マルス「とでも言えば、エイリーク姉さんは満足しますか?」
エイリーク「え?」
マルス「すみません、冗談が過ぎました。でも、正直僕の意見を聞いたところで何も解決しないと思いますよ。
    エイリーク姉さんが抱える気持ちの問題なら、エイリーク姉さん自身が答えを見つけないと」
エイリーク「私自身が答えを……」
マルス「難しいでしょうけど、頑張ってください。答えを見つけるお手伝いでしたら僕も協力しますので」
エイリーク「どこに行くのですか?」
マルス「ちょっと急用を思い出したので失礼します。すぐに戻ってきますからご心配なく」

一方、玄関に向かったロイは……

ラーチェル「こんばんは」
ターナ「久しぶり、ロイ君」
ロイ「ラーチェルさんにターナさん!?そ、その……お久しぶりです」
ラーチェル「どうかなさいましたの?何だか落ち着かない様子ですけれど」
ロイ「べ、べ別に僕はいつもと変わりませんよ?」
ターナ「そんなどもって言われても全然説得力ないわよ。まぁ、ロイ君がいいって言うなら別に構わないけど」
ロイ「ほっ」
ターナ「ところで、私達エイリークに会いに来たんだけど、呼んできて貰えるかな?」
ロイ「え?えっと、エイリーク姉さんは今ちょっと忙しくて……」
ターナ「もういいわよ。そんな無理して嘘を吐かなくても」
ロイ「その……気付いてたんですか?」
ターナ「ええ、最初から。ロイ君の嘘を吐けない性格は美点でもあり、欠点でもあるわね。
    私達がエイリークの友達だから、余計な心配をかけまいと思っての事なんでしょうけど」
ラーチェル「知ってしまった以上、放っておけませんわ。さぁ、エイリークに何があったのか教えて頂きますわよ」
ロイ「でも……」
ターナ「それに、もう手遅れみたい。ホラ後ろ見て」
ロイ「あ、エイリーク姉さん」
エイリーク「ターナにラーチェル。どうしたの?こんな時間に」

556 名前: 偽りの女神の本当の笑顔その2 [sage] 投稿日: 2008/02/27(水) 23:22:28 ID:/mrVK7rl
ターナ「………ふーん、成る程ね」
ロイ「僕達も何が何だかさっぱりで。マルス兄さんは暫く様子を見ると言ってましたけど」
ターナ「確かに魔石や闇のオーブのような禍々しさは感じられないわ。
    それでも、宝珠のせいでエイリークが変わってしまったのは確かだし、心配するのも無理ないか」
ラーチェル「エイリーク、その宝珠は一体どのような代物で、誰が、何の為に貴女に渡しましたの?」
エイリーク「あの……その……」
ターナ「こらこら、あんまり苛めないの。エイリークが怯えてるじゃない」
ラーチェル「別に苛めてるつもりは……それに、エイリークがこんな状態では当初の目的が果たせませんわ」
ターナ「それもそうよねぇ」
ロイ「あの、当初の目的とは?」
ターナ「頼まれ事を、ね。大事な友達との約束だし破るわけにも……あーっ!」
ラーチェル「いきなり何ですの?大声出したりして」
ターナ「ラーチェル、リンダが言ってた事覚えてる?」
ラーチェル「勿論覚えておりますわ………!!もしかして」
ロイ「二人ともどうしたんですか?」
ターナ「エイリーク!」
エイリーク「は……はい」
ターナ「エイリークがこの宝珠を身に着けたのは、現状に耐えられなかったからじゃないの?」
エイリーク「それは……」
ラーチェル「皆が理想のエイリーク像を追い求め続け、貴女自身を見ようとしない。
      そんな毎日を変えようと思って、だから自ら変わろうとしたのではなくて?」
エイリーク「……………」
ターナ「ねぇ、エイリーク。そんな石に頼らないで、私達で本当のエイリークを知って貰えるよう頑張ろう」
ラーチェル「私達が揃えば不可能な事などありませんわ。なにせ友達ですもの」
エイリーク「私は……」

エフラム「なんだ?このいつも以上にひどい有様は」
ミルラ「あの……おじゃまします」

エイリーク「っ!」
ロイ「あ、お帰りなさい、エフラム兄さん。ミルラと一緒だったんだね」
エフラム「ああ。今日は色々連れ回したから、その礼に夕飯でもご馳走してやろうと思ってな。
     ん?ターナにラーチェル。あんた達も夕飯に招待されたのか?」
ラーチェル「ろくな挨拶も無しに、いきなり食事の話をするのはどうかと思いますわよ、エフラム」
ターナ「こんばんは、エフラム。私達はエイリークに用があって……エイリーク?」
エイリーク「私がこの石を身に着けたのは………です」
ターナ「え?よく聞こえなかった。もう一度言ってくれる?」
エイリーク「私がこの石を身に着けたのは、エフラムお兄ちゃんにキスしてもらうためです!」

同時刻グランベル商社
シグルド「駄目だ駄目だ!そんなの許さんぞ!!」
ノイッシュ「うわっ」
アレク「いつものアレですか?」
シグルド「うむ。どうやらアルムとセリカがまた道を踏み外そうとしている。そんな訳で、私は帰る」
アルヴィス「そんなあやふやな理由で帰らせる訳なかろう。見積書と報告書を提出し終えるまで居残りだ」
シグルド「なんだと。この人でなしー!」

557 名前: 偽りの女神の本当の笑顔その2 [sage] 投稿日: 2008/02/27(水) 23:24:24 ID:/mrVK7rl
ラーチェル「冗談……ですわよね?」
エイリーク「冗談なんかじゃありません。私は本気です」
エフラム「おい、エイリークは一体どうしたんだ?様子がおかしいぞ」
エイリーク「おかしい?おかしいのはエフラムお兄ちゃんの方です。
      どうして『赤の他人』であるミルラなんかと一緒にいるのですか」
ミルラ「え?」
ターナ「ちょっと、エイリーク?」
アルム「エイリーク姉さん、幾らなんでも今のは言い過ぎだよ」
セリカ「ミルラにきちんと謝った方が」
エイリーク「どうして弱くて守られる立場なのにエフラムお兄ちゃんと一緒にいられるのですか」
ミルラ「その……私は………」
セリス「僕達の声が聞こえてないのかな?」
リーフ「もしかして、宝珠に心が乗っ取られてるんじゃ」
ロイ「そんな。マルス兄さんは大丈夫だって言ってたのに」
エイリーク「勉強も、剣も、ヴァイオリンだって頑張ってきた。どんな苦しい事だって我慢してきた。
      みんなに認められようと、みんなに好かれようと思って。
      もう誰の足手まといにもならない、これからは一緒にいられるって信じてきたのに。
      それなのに、どうして今エフラムお兄ちゃんの隣にいるのが私じゃなくて、その子なのですか?」
エフラム「………エイリーク、お前が何を思ってるのか知らんが、俺はお前を一人にするつもりはない」
エイリーク「だったら、どうして『あの時私を見捨てたりした』の!」
エフラム「!!」
リン「あ!」
ヘクトル「エリウッド」
エリウッド「ああ、エイリークはあの時の事をまだ……」
エイリーク「私は何を信じればいいの?私の何がいけないの?あの子のどこがいいの?
      どうすればいつまでもエフラムお兄ちゃんと一緒にいられるの?答えて、答えてよ!」
エフラム「……………」
ターナ「エイリーク……あなた、まさか」
ラーチェル「いい加減になさい!」
ターナ「ラーチェル?」
ラーチェル「………もうこれ以上無様なエイリークを見るなんて我慢なりませんわ。力ずくでも元に戻します」
マルス「ラーチェルさん、待っ……」
ラーチェル「レスト!」
エイリーク「答えられないのなら、それでも構わない。その代わり一人じゃないって証拠をください。
      エフラムお兄ちゃんにとっての特別な証を。私にキスしてください!」
マルス「遅かった。こうなってしまっては………もう」
ラーチェル「効いてない!?私の魔力では打ち消せないというの?」
ユンヌ「別に魔力の問題じゃないわよ。だって、エイリークちゃん異常でも何でもないもの」
ラーチェル「嘘、嘘よ!エイリーク、正気に戻りなさい。あなたがそんな事言う筈ないって誰よりも私が……」
ターナ「ラーチェル」
エイリーク「邪魔しないで!」
ラーチェル「エイ………リーク?私はエイリークのためを思って……」
エイリーク「私のため?何不自由なく生きてきたラーチェルに私の何が分かるの?
      ラーチェルだけじゃない。誰も私の気持ちなんて分からない!分かろうとしない!」
ミルラ「あの、ごめんなさい。私がいけないんです。だから……エフラム?」
エフラム「ミルラはそこにいろ」
ミルラ「は、はい」
エイリーク「これ以上見捨てられるなんて耐えられない!だったら、もう誰も……え?エフラムお兄ち」

パァン

ヘクトル「エフラムが……」
リン「エイリーク姉さんを……」
エリウッド「叩いた」

558 名前: 偽りの女神の本当の笑顔その2 [sage] 投稿日: 2008/02/27(水) 23:25:38 ID:/mrVK7rl
エフラム「これで満足か?」
エイリーク「………あ……わ、私」
エフラム「俺の知ってるエイリークは誰よりも優しくて、誰よりも芯の強い妹だと思っていたが……
     どうやら俺の勘違いだったようだな。残念だ」
ロイ「エフラム兄さん、どこに行くの!」
エフラム「しばらく出かけてくる。正直、これ以上この場にいるつもりはない」
エイリーク「兄上!待っ……」

ピシャッ

ミルラ「エフラム」
エイリーク「………エフラム兄上」
ロイ「言葉遣いが。どうやら、いつものエイリーク姉さんに戻ったんだね。頬の具合は大丈夫?」
エイリーク「(ビクッ)駄目!」
ロイ「エイリーク姉さん?」
エイリーク「私に優しくしないでください。そんな資格、私にはありません」
ロイ「何言ってるの。そんな事ないって。ねぇ、ターナさん、ラーチェルさん」
ターナ「……………」
ラーチェル「……………」
ロイ「どうして黙ってるんですか。二人ともエイリーク姉さんの友達なんですよね?」
エイリーク「いいのです、ロイ。取り返しのつかない事をした当然の結果なのですから。
      ごめんなさい、ターナ。ごめんなさい、ラーチェル。ごめんなさい、ミルラ。
      もう二度と皆に迷惑かけませんから。だから……さようなら!」
セリカ「エイリーク姉さん!」
リーフ「待って、エイリーク姉さん」

家族が止める間もなく、家を飛び出したエイリーク。
あまりに多くのものを失ったエイリークに残されたのは、皮肉にも彼女の胸元で輝き続ける宝珠だけだった。