Werewolf Warning (85-62)

Last-modified: 2008-03-25 (火) 23:16:05

概要

作品名作者発表日保管日
Werewolf Warning85-62氏08/03/2508/03/25

 
後半B級ホラー映画ちっくな描写があるのでちょっと注意です。

作品

 季節の変わり目になると、色々とどーにかなっちまう奴らが多いらしい。家のシャミセンもその例には漏れず、夜な夜な外に出て行っては近所迷惑な大騒ぎをしやがるのは正直勘弁して欲しいところだったりする。
 まあ、動物だけに限ったことじゃない。人間様だってこの時期はなんだかんだで頭のネジがどこかに飛んじまった輩が出没するようであり、ネット上などでも香ばしい光景を目の当たりにする機会も増えることと思う。
 で、今回の話というのは、とある哀れな人物、っていうかぶっちゃけ俺のことなんだが、その奇妙な体験談とでも言うべきだろうか。
 ただ、所々視点が他の誰かに切り替わったりすることもあるので気をつけて欲しい。
 早い話、その時点で俺がそこにはいなかったりとか、あるいは俺の意識が失われているということを頭の片隅にでも留めておいていただければ幸いである。
 
 というわけで、ある日の放課後の文芸部室のドアの前。なにやら中からゴソゴソと物音が聞こえるのだが、ノックしても返事は返ってこない。
 もし朝比奈さんが中にいらっしゃったとして、いくらなんでも着替え中ならノックに無反応なんてこともないだろう。うむ、完璧な理論だ、とか無理矢理納得する俺である。よし、入りますよ。
 と、部室内では、その朝比奈さんがパイプ椅子の上に乗って、本棚の上に乗っかっているものを動かしている。
「あ、あの、朝比奈さん?」
「ふえっ? あ、キョンくん。――ごめんなさい。今ちょっと手が離せなくって……お茶ですけど、もうちょっとだけ待ってもらってもいいですか?」
 いえ、朝比奈さんのお茶のためならいくら待たされても俺は構いませんけど、なんていうか、見るからに危なっかしいというか――、
「だ、大丈夫ですよ。このくらい――――ひゃぁ!」
 と、言った傍からバランスを崩してひっくり返りそうになる朝比奈さんだった。俺はというと、すっかり心の準備はできていたので下側に回りこんでその小さなお身体を難なく受け止めた。
「おっとっと。あんまり無理しないでください、朝比奈さん。高い所のものだったら、俺が代わりに取ってあげますって」
「あふっ! …………ご、ごめんなさい、わたし――やっぱりダメですよね。はあっ、どうしていっつも失敗ばっかりなんだろう」
 目に涙をうっすらと浮かべて落ち込む朝比奈さんを慰めようと、ふと天を仰いだ俺。その視界に本棚の上から崩れ落ちてくるガラクタが映った。
「危ない!」
「ひょえ?」
 落下物から朝比奈さんを庇おうと、俺は身を乗り出した。間一髪、俺の背中に当たって散乱するゴミだかなんだか解らんジャンク共。
「――朝比奈さん、大丈夫ですか? どこも怪我しませんでしたか?」
「えっ、あっ、あのっ――――キョンくん?」
 何がなんだか理解していらっしゃらない様子の朝比奈さん。って、ちょっと待て。床に倒れこんだ朝比奈さんに覆い被さった状態の俺。つまり、こんなところを誰かに見られたら…………。
「やっほ~~ぃ! なんだか喉渇いちゃったわねぇ。みくるちゃ~ん、お茶!」
 と、そこにこれ以上ないというタイミングで、勢い良くドアを開けてハルヒの登場である。
 
「げっ!」
「ふぇっ!」
「へっ?」
 
 そのとき、地球の自転すら静止していたんじゃないか、って俺は思ったね。
 
 数秒後、部室の床に背中から叩きつけられる俺の身体。痛えな、何しやがる!
 気付けばいつの間にかハルヒは朝比奈さんを脇に抱えており、鬼のような形相で俺を睨んだかと思うと激しく怒鳴りつけてきたのだった。
「コラ~っ、こんのエロエロエロキョンが! あんた、なに考えてんのよ? 白昼堂々と人目も憚らずに、あたしの大事なみくるちゃんに襲い掛かるなんて、言語道断迷惑千万! 不届き極まりないったらありゃしないわ、このケダモノめっ!」
 ちょ、ちょっと待てハルヒ! それは誤解だ。少しは俺の話を――、
「みくるちゃん、平気? 怖くなかった? あたしが来たからにはもう大丈夫だからね。さあ、涙を拭いて立ち上がりなさい」
「い、いえっ、あ、あの違うんです、涼宮さん。……キョンくんは別に」
「違わないのっ! みくるちゃん、いい? 男なんてのはね、みんな狼なのよオオカミ! みくるちゃんみたいな可愛い女の娘のことを虎視眈々と狙ってるの」
 狼なのに虎視眈々かよ、とかツッコミを入れられるような隙も見せることなく、ハルヒは朝比奈さん相手に滔々と、世の男から如何にして自らの身体を守らなければならないかということを説いていた。
 やれやれ、こうなっちまうと全く聞く耳持ちやしないのが涼宮ハルヒという人物である。本当にどうにかして欲しいもんだね、おい。
「…………」
 いつの間にか、音もなくドアを開けて長門が現れた。室内に入るなり、俺のすぐ脇でパイプ椅子に腰掛け、いつものように読書を開始する。
「ちょっと、有希! ダメよ」
「?」
 長門は本から顔を上げると――俺がかろうじて解る程度の変化だが――不思議そうな表情をしてハルヒの方を見た。
 ハルヒは今まで抱きしめていた朝比奈さんを手放すと、今度は長門の首筋に取り付いて無理矢理立ち上がらせ、俺からの距離をとるように後退りした。
「いい、有希? 今後キョンの半径三メートル以内には立ち入り禁止よ」
「なぜ?」
「何故って、有希。あなたみたいな大人しい女の娘は気を付けてないと、キョンみたいなスケベな男に狙われちゃうのよ! ちょっとでも気を許したら、オオカミ男に変身して襲い掛かってくるのっ!」
「彼はいたって普通の人間。変身などしない」
「モノの例えよ、例え。……そうねえ、まあ確かにキョンが実は伝説の狼男だ、なんてことがあったら面白かったかもしれないけど、いくらなんでもこのマヌケ面のドスケベキョンに限ってそれはないか……ほんとつまんないわね、キョンって」
 いい加減抗議するのも面倒なのでずっと黙っていたところ、何だか酷い言われようである。
 そもそも俺は何一つ疚しいことなどしていない。勝手にハルヒが誤解しただけなのに、いつの間にか俺と女性陣三名の間には結界が張り巡らされようとしているではないか。
「というわけなの。有希、解った? うっかりキョンに近付いたりなんかしていやらしいことされちゃったらあなたもいやでしょ?」
「別に嫌ではない」
「な、ちょっと、有希ったら、なにを言い出すのよ?」
「わたしは構わない」
「はあっ? だ、ダメだったらダメよ! 有希が構わなくってもあたしは構うの! そんなの絶対認めないんだから!」
「……どうして?」
「ど、どうしてもこうしてもないの。とにかくSOS団の団長としてあたしは団員の風紀の乱れを見過ごすわけにはいかないんだから!」
 何故か慌てた様子で宣言するハルヒなのだった。
「だから、有希。もっと離れて、こっちに座りなさい」
「…………」
 長門はどこか縋るような瞳で俺の方を見ていたのだが、今の俺が何を言ったところで、ハルヒの奴はヘソを曲げるだけだろうし、どうにもならんぞ。
「解った解った。俺の方から離れればそれでいいんだろ」
 そう言ってドアの前に移動する俺。と、それにタイミングを合わせたかのようにドアが開き、古泉の野郎が姿を現した。
「おや、みなさん。一体どうかなさいましたか?」
 室内を見渡してさり気なく尋ねる古泉。って、何故そこでさり気なさついでに俺と肩を組む必要があるんだ?
「ああ、古泉くん。キョンにあんまり近付かない方がいいわ! 『狼キョン』が伝染るといけないからね」
 なんだそりゃ?
「はて、オオカミですか? 何か彼が問題でも?」
「問題よ、大問題! 誠に由々しき事態だわ。このバカキョンがこともあろうかみくるちゃんを襲おうとしていたのよ! ギリギリのところで駆けつけたあたしが何とか阻止したんだから」
「ほほう……それは本当なのですか?」
「い、いえ、ち、違うんですぅ。そ、その、キョンくんは――」
「ちょっと、みくるちゃんは黙ってて。いい、あなたは被害者なのよ、被害者! こんな女性の敵を庇う必要なんて全然ないの! 解ってるわねっ!」
「……ぇぅぅ」
 俺を弁護してくれようとした朝比奈さんはハルヒの剣幕を前に空気の抜けた風船よりも萎んでしまった。
 古泉はいつにも増してニヤニヤとした調子で、
「あなたという方も、底の知れない人物ですね。いやはや、実に興味深いことです」
 おい待て、お前それ、解ってて言ってるんだよな?
「さて――どうでしょうか? 僕もあなたの餌にならないようにせいぜい気を付けることにしましょう」
 あのなあ……。
「ふふふっ…………冗談です」
 
 そんなこんなで、しばらくの間、俺に下された厳罰とやらは、『女子の三メートル以内に近付くことを禁止』と、『朝比奈さんのお茶を飲むことを禁止』という二点であった。まいったね、後者の方は、なんというか精神的にキツイんだがな。
 まあいいさ、どうせそのうち有耶無耶になってしまうことだろう、なんて暢気に考えていた俺なのだが、それが甘かったことをあとから思い知らされるハメになったのは言うまでもない。
 ハルヒはハルヒであってハルヒ以外の何者でもないのだ。こいつの適当な思いつきやジョークがそのまま何事もなく済むだなんて決して思ってはいけない。その鉄則をうっかりしていたなんて、油断するにも程があるだろ、俺。
 
 翌日のこと。
 
 さすがに教室内では前後の席ということもあり、俺とハルヒの距離は三メートル以内になってしまっているのだが、何か話しかけようにも、ハルヒは威嚇でもするかのように俺のことを睨みつけたきり、徹底的に無視する構えのようである。
 しかも偶然だかなんだか知らんが、俺とハルヒの座席に隣接しているクラスメート連中が軒並み休みで空席となっており、なんとも気マズイことこの上ない。
 まるでバリアの如く張り巡らされたハルヒの怒りの結界に圧迫され、午前中の授業は居眠り一つしなかった俺なのだった。って授業内容なんざ、一つも耳に入って来やしないけどな。
 
 昼休み、珍しいことに古泉から呼び出しを受けた俺は、人目を憚るように屋上へと向かった。古泉曰く、
「涼宮さんに見つからないようにお願いします」
 とのことだったのだ。まあ、ハルヒは例によって学食にでもいるに違いないのだが、一応、念には念をというわけだ。
「よう。伝えたいことがあるからって、一体何のこと……」
 って、誰もいない?
 やれやれ、俺の方が先に着いちまったのか。全く、呼び出すんならそっちの方が早く来て――、
「ぐわっ!」
 突如、背中に激しい衝撃を受けた俺は前方に数回転しながら吹っ飛ばされた。
「――申し訳ありません。これでも手加減したつもりだったのですが……ああ、予想通りどうやら平気なご様子ですね」
 何しやがる古泉! って、あれ? 全然痛くないぞ。顔面からコンクリートに激突したはずなのに、掠り傷一つ負ってないなんて。
「何がどうなってるんだ、一体?」
「百聞は一見に如かず、これを御覧下さい」
 古泉は俺に一歩近寄ると、右掌を上に向けて差し出した――その真上に浮かび上がるのはいつぞやのカマドウマとの戦いで見せた赤い火の球、ってことは?
「まさか、ここは閉鎖空間なのか?」
「正確にはあなたを中心とした半径三メートル内が、です。言うなれば『極小限定的閉鎖空間』とでも呼ぶべきかと」
 そう言って古泉が退く。すると例の火の玉はある箇所を境に消滅してしまった。
「……おそらく昨日涼宮ハルヒが口にしたことが具現化しているものと思われる」
 あまりの急展開に気付くのが遅れたが、見れば長門と朝比奈さんが古泉の後方に並んでいたのだった。
「彼女はこう言った。『女子の三メートル以内に近付くことを禁止』と」
 まさかとは思うが、ハルヒは本当に俺の周囲三メートルに結界をこしらえたってことなのか?
「そう……従ってわたしも朝比奈みくるもあなたの周囲三メートルの内部に接近することは不可能」
「しかもそれだけではありません。あなたの体表を覆うかのように、更にバリア状の別の閉鎖空間が構成されています――僕の能力でも決して破ることができない位に強固なものが」
 古泉に言われて俺は自分の背中をさすったところ、なんと制服の背中部分に大穴が開いているではないか。
「どうも済みません。先程の実験のときに、ついうっかり」
 なんだよ、そのうっかりってのは。どうしてくれるんだ!
 俺が古泉に文句を言うなり、長門が何やら例の早口コマンドを唱えた――その途端、穴が急速に塞がれる俺の制服。
「現状のわたしの情報操作自体の効力範囲はあなたの体内にまでは及ばない。それが問題」
 長門は俺から三メートルギリギリの距離まで歩み寄るとそう告げた。
「その、問題ってのは何のことだ、長門?」
「涼宮ハルヒの言う通り、あなたはその身体を変化させる……『人狼』とでも呼ぶべき存在に」
「がはっ!」
 長門の言葉が終わるか終わらないかの内に、俺は激しい頭痛に襲われた。と同時に、自分の体が膨らんで弾けるような感覚に襲われた。
「畜生! これは――」
 自分の両手を見ると、皮膚は毛むくじゃらになり、骨が皮を破って突き出し、鋭利な爪がまるで刃物の先端のように……、
「俺、一体どうなっちまうんだ――」
 自分ではそう叫んだつもりが、まるで人の声ではない咆哮となってしまい、やがて俺の意識は遠のいていき……、
 
「って、アレ?」
 
 もう一度自分の手を見る俺。何の変哲もない、自分自身の人間様の手だ。
「キョ、キョ、キョンくん……?」
 先程からずっと沈黙していた朝比奈さんがようやく発した声に、俺は前方を見やる。
 無表情に突っ立っている長門、苦笑を浮かべながら腕組みをしている古泉、当の朝比奈さんは両手で顔を覆いながらも指の間から俺の方を窺っている、ってどうしてそんなに顔赤いんですか? 朝比奈さん。
「い、いえ、そ、その――――キョンくんの、ふ、服が……」
 そういわれて初めて俺は自分の体を見た。
「な、なんじゃこりゃあ!」
 今まで身に着けていたはずの制服は跡形もなく、っていうかシャツもズボンも下着も――要するに生まれたままの丸裸の姿、いわゆるスッポンポン状態!
「うああ、す、済みません朝比奈さん、お見苦しいものを――お、おい、頼む長門!」
 必死で身を捩って色々と隠そうとする俺を、長門は黙って見つめている。
「…………」
 だから、何でそこで沈黙してるんだよ? 早いとこ何とかしてくれないか!
「………………了解した」
 長門の呪文ですぐさま俺の衣服は元通りに復元されたのだった。って、なんでそんなに残念そうにしてるんだ、長門?
「別に」
 見れば古泉の奴は背中を向けて必死に噴出しそうなのを堪えているようだ。クソっ、後で覚えてやがれよ、古泉。
 
 その後、長門は俺から三メートルの位置でなにやら調査をしている様子であり、何かの度に俺の身体は獣化しては元に戻り、即ち丸裸から制服姿、というのを繰り返すことになったのである。
 ちょっと勘弁して欲しいところなのだが、何やら長門にも考えがあるに違いない。なあ、長門、そうなんだろう?
「…………」
 いや、そこはちゃんと肯定してくれよ、おい。
 そして、俺が素っ裸にされるその都度「ひょえぇ~~!」と悲鳴を上げる朝比奈さんなのだったが、完全に目を覆ってしまえば俺の恥ずかしい姿を見ずに済むのに、何故か指の間からこちらを覗くのは止めようとしない。
 それと古泉、いい加減お前は笑い過ぎだコンチクショウ!
 
 で、俺の身体が化け物に変わっちまうきっかけは閉鎖空間で構成されたバリアに何らかが干渉した時点とのことだが、いつそれが起こるのかは長門でも予測できないらしい。
 って、なんだ、俺はこのままずっと過ごさなければならないのか? なんてこった。
「変身状態への遷移を停止することは『原理的には可能』。ただしその方法が問題」
 この際どんな方法だろうと構わんから、なんとかしてくれ、長門。
「了解した。問題点を明確にするため、現時点で可能な限りの試行を行う…………古泉一樹、あなたにも協力を要請する」
 長門はそう言って古泉の方に目をやった。意外にも古泉は少々戸惑うような感じで、
「さて、長門さん。僕はどうすればいいのでしょう?」
 と、長門に向かって訊ねたのだった。
 
 長門の話によると、俺が化け物になっちまう原因は俺自身の体表面に存在する閉鎖空間にあるらしく、それは外部からの衝撃には強靭な反面、内部からの作用には脆いらしい、ということが今までの観測結果から導き出されたらしいのだ。
「古泉一樹の生み出したエネルギーを粒子状に分割してナノマシンに取り込み、あなたの体内に注入後、内部から同時に解放する」
 長門の説明に従って、古泉が俺に接近して例のボールを作り出す。すぐさまそれは光の粒になったかと思うと、銀色をした幾つかのの小さな弾丸状の塊になった。
 いつの間にか、長門は拳銃のようなフォルムの物体を手にしており、古泉から受け取った弾を手際よく装填していた。
「ほほう、狼男の弱点である『銀の銃弾』というわけですか」
 なるほどね。確か、銀は聖なる金属であり、魔除けに使われるとかいった話をよく聞いたことがあるな。って、まさかそれを俺の身体に撃ち込めってことなのか?
「実現可能であれば」
 って、長門。その『実現可能』ってのは一体どういう意味だ。
 俺が不可解に思っていると、さっさと理解したのか、古泉がいつものように解説を始める。
「つまり、この弾丸をあなたの体表面を突破して内部に送り込む方法が問題、と言うことですね。ちなみに長門さん。僕が彼のことを撃った場合はどうなるのでしょう?」
「弾丸には、あなた――つまり古泉一樹自身としての能力が作用してしまうため、体表面のフィールドを外側から越えることは不可能」
 じゃあ、長門。お前が撃ったとしたらどうなんだ?
「わたしにはあなたを中心とした半径三メートル内部に弾丸を送り込むことは不可能。一度発射した弾丸を情報連結解除して運動エネルギーを維持したまま空間内部で再構成することは可能だが、その場合ナノマシン中に封入した粒子の効力も消滅することになる」
 なんかよく解らんがダメってことらしい。長門が無理なんじゃ朝比奈さんでもだめだろうしな。
「そう…………仮に我々以外の第三者が発射したとしても、その人物に異相空間への介入方法がない以上、結果は同じこと」
「僕はこの閉鎖空間にはなんとか侵入することができますが、先の理由で体表面を突破することはできない、と。さて――困りましたね、これは」
 何だ、八方ふさがりじゃないか、この状況は。
「あ、あのぅ――キョンくん。ちょっと、いいですか?」
 さっきから悲鳴を上げる以外はずっと黙っておられた朝比奈さんがおずおずと声を掛けてきた。ハイハイ、何で御座いましょうか?
「実は今朝、わたしの下駄箱に、なんか、こんなメッセージが入ってたんですけど……」
 さてはて、朝比奈さんの下駄箱にメッセージ……ということは、それは朝比奈さんの上司――おそらく朝比奈さん(大)――からの指令に違いあるまい。
 朝比奈さんがゴソゴソと制服のポケットから取り出した便箋らしき紙切れを眺める長門と古泉の両名。って、あの、そこからだと俺が読めないんですけど。
「えっ、あっ、ご、ごめんなさい! こ、古泉くん、お願いします」
 朝比奈さんから古泉の手を経由して、件の紙が俺に渡されたのだった。
 
『彼と彼女はいつでもその場に』
 
 さて、これは何の判じ物なのであろうか? まあ、あまり細かいことを書こうとしても、おそらくは『禁則事項』とやらに引っかかるので無理なんだろうけどな。
 てなことを考えている俺に朝比奈さんが訊いてくる。
「あの、キョンくん? 長門さんもわたしもダメみたいですけど、涼宮さんはキョンくんに近付いても大丈夫なんですか?」
 さて、そういえばハルヒは俺の三メートル内にいても何ともないってことになるんだよな。でなければ後ろの席に座ってられるはずがない。でも、それがどうかしたんですか?
「つまり、ここに書かれている『彼』と『彼女』とはあなたと涼宮さんのことを示しているのだ、と朝比奈さんは仰りたいのですよ」
 いや、一々お前に解説されなくても俺だってそのぐらい解るぞ。『その場』ってのも、きっと俺の周りの閉鎖空間のことなんだろう。
 なるほどな。ってことは――――いや、待てよ?
「なあ、長門。モノは試しなんだが、仮に俺が自分自身を撃ったとしたら、一体どうなるんだ?」
 長門は無言のまま、件の拳銃を例によって古泉経由で俺に渡してきた。冷たい金属の感触とズシリと手に感じる重みが妙に生々しい。
「えーと、その、どこを撃てばいいんだ?」
「どこでも構わない」
 どこでも、って言われてもな。
 とりあえず俺は、ロシアンルーレットの要領ってわけでもないが、みなさんも多分御存知のあのポーズで自分のこめかみに銃口を当て、思い切って引き鉄を――、
 
「って、アレ?」
 
「ふえぇっ、キョ、キョンくん!」
 またしても俺は頭痛と共に意識を一瞬失い、その後狼男から人間に戻って素っ裸状態の俺を見て朝比奈さんが上げた悲鳴で我に返ったのであった。再度、長門は呪文を唱えることとなり、しばらくして制服は完全に復元されたのであった。
「あ~――長門、悪いな」
「……いい」
 平然と答える長門。
「朝比奈さん、その……重ね重ね申し訳ありません!」
「い、いいえ、その、わたし、キョンくんの、えっと、だ、大事なところなんて、あの、ぜ、全然見てません、見てませんよぉ!」
 あの、それは語るに落ちるってもんですよ、朝比奈さん。
「おい、古泉。すまんが一体何が起こったか、その、説明してくれんか」
「ええ、引き鉄に指が掛かったその瞬間、あなたの姿はまたしても『人狼』――即ちオオカミ男に変化してしまった、というわけです」
 古泉はいつもの両手を広げるポーズで教えてくれた。
 やれやれ。なんだ、その、つまり、俺自身が自分を撃とうとしても、結局それは無理だったってことか。
「…………そう」
 ポツリと返答する長門。だが、その様子にはどことなく焦りの色らしきものが窺えたのだった。
「……長門、どうかしたのか?」
「申し訳ない」
 はあっ? 何だ、いきなり?
「わたしの力が及ばないため、あなたを守るという約束を果たすことができないでいる」
 おい、長門――――まあ、あまり気に病むなよ。お前一人の力では確かに全てを解決できないかもしれないけど、ここには朝比奈さんも、古泉もいるんだ。そのおかげで何とか糸口は見出せたじゃないか。
「…………わかった」
 僅かに頷く長門。少々引きつりながらもスマイル状態を辛うじて維持している古泉。その二人を見てキョロキョロした挙句、可愛らしく俯いてしまう朝比奈さん。
 三人とも俺のために色々と力を尽くしてくれてるんだ。俺だって一人凹んでるわけにはいかないじゃないか。
 
 とにかく結論は出たんだ。
 この拳銃でハルヒに俺自身を撃たせる――そうしない限り、俺には未来はないんだ。
 
 昼休みの終わりを告げるチャイムの音と共に、俺たちは屋上を後にしたのだった。
 
 お昼休みが終わって午後の授業が始まったのに、キョンのアホはとうとう戻ってこなかったわ。
 なによ、もう! あたしの周りの席のみんなまでが休みだし、これじゃたった一人で孤島に遭難状態みたいじゃない!
 
 キョン――――一体どこでサボってるのかしら。あたしから厳重注意を言い渡されている身で不謹慎じゃないの。
 それとも、調子が悪くなって保健室にでも行ったのかしら。確かに風邪は流行ってるみたいだしね。キョンもなんだか今日はあまり元気がなかったみたいだったし。
 あっ、でも、バカは風邪を引かないって言うじゃない? ほんと、どうなんだろう。
 それにしても、保健室に行くなら行くで、あたしに一言声を掛けてくれれば――――って、そういえばあたし、今日はキョンと一言も話してなかったっけ。
 まあ昨日の一件もあったし、教室内では三メートル離れるわけにもいかないから、代わりにそうしてみてたんだけど、なんだかあたしの方が罰を受けてるみたいなのよね、これって。ああ、なんだかつまんないわね。
 
 そもそも昨日のアレだって、大方ドジっ娘みくるちゃんがなにかやらかしたのを、キョンが助けようとしたのがどうにかなっちゃって、なんてところだとあたしは思ってる。
 えーと、その、ち、違うわよ! 別にあたしは、キョンのことを信頼してるからとか、そんなんじゃないんだからね。
 そうよ、そもそもキョンはそんな大それたことなんてできっこないわ。そんなの、あたしだって十分承知してるわよ。
 だけど、キョンがみくるちゃんの上になってるのを見て、あたしはつい、あいつを投げ飛ばしてしまった。なんであんなことしちゃったんだろう。
 いつもならキョンは慌てて弁解してくるはずだったけど、なんだかあっさり引き下がっちゃったし、何なのアレ?
 有希は有希でキョンの傍にくっ付きたがってたみたいだし、だったらあたしだって引っ込みの付けようがないじゃないのよ。
 大体あたしだって、なにも好んでキョンにペナルティを課したりなんてことをしてるつもりはないわ。
 いつもの市内探索の喫茶店のお茶代だって、少しでもキョンには早く来てもらいたいと思ってたから最初にそう言っただけだったのに、あいつったら毎回最後にしか来ないんだもん。仕方がないじゃないのよ。
 
 まあとにかく、できれば今日一日ぐらいで許してあげようとは思ってたんだけど、これじゃ心象悪過ぎよ、あたしにこんなに心配掛けるなんてのは最悪ね。
 
 って、あたし、キョンのこと、心配してるのかしら?
 
 いや、心配――――そうよ、団員の心配をするのは団長の務めなんだから。うん、そうよ、そうだわ。別になんてことないんだからね、って誰に向かって言い訳してんだろ、あたし。
 いつものクセでシャーペンを持った右手がつい前に突き出される。でもその先っぽは誰もいない――キョンのいない――その座席の上で空を切る。
 
 なんなんだろう、この気持ちは?
 
 イライラしてるっていうのとは、なんとなく違う気がする。そもそもあたしは怒ってるときはこんなこと考えたりしないんだもん。
 なんていうの、今のあたしの周りの座席みたいになにもない空間が、心の中にポッカリ開いてしまった、みたいな感じ――――って、ええっ?
 
 まさかあたし、キョンがいないせいで『寂しい』とか思っちゃったりとかしてるわけなの?
 
 ありえないわ! 違う、絶対に違うんだから! そ、そうよ。あたしは退屈してるだけなのよ。いつもあたしの目の前でバカみたいに無防備な背中を晒してるのを突っつくのがクセになっちゃっただけなんだから。
 大体、鬱陶しいのよあのマヌケ面は。いつもあたしの夢の中にまでしゃしゃり出てきて、しかもそういうときに限って普段は絶対言わないような格好つけたセリフが飛び出すし、どーなってんのよ一体?
 ってそこで気が付いた。まただわ。あたしは誰に対して言い訳してるのよ? まるでマヌケはあたしじゃないの、これじゃ。
 やめやめ、これ以上考えても無駄よ! はいお終い。
 
 はあっ――――それにしても、キョンの奴、一体どこに行っちゃったのかしら?
 って、またあたしキョンのこと考えてるじゃない! もう、どうしてこうなっちゃうのかしら…………きっとキョンのせいよ、あのバカっ!
 
 なんてことを考えてしまうのを何度ループさせたのかは、あたし自身ももう覚えていなかったわ。
 ただ気が付いたら、いつのまにか授業どころかホームルームも終わって放課後になってしまっていたのだった。
 
 でも結局、キョンは戻ってこなかったの。ほんとあのアホキョン、なにやってんのよ。
 
「…………」
「少々困ったことになりましたね」
「キョンくん、あの、大丈夫ですか?」
 肉体的には何てことないが、精神的には大ダメージだ。ああっ、この場にロープがあったら今すぐにでも吊りたい心境だぜ、本当に。
「既にあの女子生徒の記憶改竄は完了している。問題ない。あなたは彼女には『何も』見られてはいないことになっている」
 長門はそう説明してくれたし、きっとその通りであることには間違いない。きっとその通りなんだろう。ただ、俺の心理的な傷ってものが、その、なあ――――あははは。
 
 ここは文芸部室内。時刻は――――もうとっくに午後の授業は始まっている頃だろうか。
 
 一体先程、何が起こったのかを恥を忍んで説明すると、屋上から降りてきた俺と、見ず知らずの女子生徒――多分二年生だと思うんだが――が、すれ違ったときのことだ。
「きゃあっ!」
「えっ? うぐあぁ!」
 突然、その女子生徒が数メートルばかり押し退けられるように尻餅を付き、その途端、俺は例によって獣の姿に変身してしまったのだ!
「ひいっ! ちょっと、なにこれ? って、いやぁぁぁぁ!」
 俺が変身していたのはおそらく数秒間の出来事であり、例によって俺は、件の女子生徒の前に一糸纏わぬ姿を晒してしまっていたのだ。
 その後は言わずもがなだが、長門の高速詠唱呪文によって制服は元通りになったのだが、あまりのショックにその場に蹲ってしまう俺。
「まずいですね。少々、失礼させていただきますよ」
 そう言って俺の両脇に腕を突っ込むと、古泉は俺の体を抱えて引き摺るように運んでいく。
「…………」
 無言で後に続く長門。
「ふえっ、あ、あのっ、なんだかよくわかりませんけど、その、ま、待ってくださいぃ!」
 オロオロしながら必死で付いてくる朝比奈さん。
 
 後に取り残されたのは、尻餅を付いた姿勢のままポカーンと放心している女子生徒一人であった。
 
 心理的ショックと、状況的混乱のため頭が全く働かない俺を前に、宇宙人未来人超能力者が困惑していた。
「結界バリアの発動条件が変化している。わたしと朝比奈みくるのみならず、『女性』一般が対象となってしまった模様」
「あの、つまりそれって、キョンくんには女の人は誰も近付けなくなっちゃった、ってことなんですか?」
「どうやらそのようですね。しかも――――気掛かりなことがあります。どうやら周囲に展開されているものと彼の体表面に展開している二種の『極小限定的閉鎖空間』が拡大の傾向に転じる兆候を見せ始めている、ということです」
 そこで我に返る俺。
「おい、待て古泉。どうなってるんだ、一体?」
「ええ、先程の変身時のことですが、あの女子生徒とあなたとの距離を覚えていますか? どう見ても三メートル以上はありました。それに、あなたが変身している間は、僕はあなたに接近することができませんでした」
 な、なんだってー!
「勿論、今現在はそうではありません――このように」
 そういって古泉は俺に近付き、肩をポン、と叩くと、
「今の僕はまたあなたに触れることも可能になっています。しかし、次回あなたが変身して元に戻ったその時に、果たしてどうなっているのかは正直解りかねます」
「問題はそれに留まらない。今までの経過から判明しているが、あなたの身体が『人狼』状態に遷移している時間は毎回倍加している」
 ちょっと待ってくれ、長門。俺にはせいぜい数秒ぐらいにしか感じなかったんだが。
「獣化状態ではあなたの意識活動は低下しているものと推測可能。初回の獣化では一秒だった期間が、先程、即ち八回目の獣化時点では二分八秒を記録している」
 そんな、さっきは二分以上の間、あの見知らぬ生徒の前でオオカミ男の真似をしていたってことなのか。ってことは、次回は四分以上も変身が解けないってことなのか?
「そう」
 
 と、その時、
「あの、キョンくん。ちょっと訊いてもいいですか?」
 朝比奈さんがどこか遠慮がちに質問してくる。はい、何か気になることでもありますか?
「今のキョンくんの服は、その、長門さんの能力で元に戻ってるんですよね。でも――古泉くんのお話だと、内側の方の空間が拡がったまま、元に戻らなくなっちゃうかもしれないじゃないですか」
「ええ、僕の予測に過ぎませんが、いずれ臨界を突破してしまう可能性は高いかと」
「あ、あの、もしそうなっちゃったら、時間になって元の姿に戻っても、その、長門さんはキョンくんの制服、直せなくなっちゃう、ってこと、ないですか?」
「……!」
 朝比奈さんの疑問に珍しく大きめの反応を見せた長門。その通りだ。このままだと、いくら長門の力でも俺の制服は元に戻らなくなってしまう。ってことは下手をすると――、
「おい、まさか……」
 
 俺は素っ裸状態でハルヒに銃を撃たせなければならないってことになるんじゃないのか? 『裸で銃を待つ男』ってなんて笑えない冗談なんだよ、これは。
 
 こうしちゃいられない、今すぐにでもハルヒにこの銃を渡して、俺を撃ってもらわないとダメだ。
「待って下さい。現在は授業中です。今あなたがご自分の教室に戻ったところで、他の女子生徒に反応して変身してしまっては元も子もありません」
 ああ、解ってるさ。でも、どうすればいいんだよ?
「もっと冷静になるべき。判断を誤れば致命的なミスを犯す。そうなっては取り返しが付かない」
 ……すまん、長門。お前の言う通りだよな。
 
 古泉と長門の説得で辛うじて冷静さを取り戻した俺なのだった。
 それから俺たちは、ハルヒに狼男退治をさせるための作戦会議を行った。外的なノイズの因子は可能な限り排除すべきである、という長門の意見には朝比奈さんも古泉も同意のようであり、放課後すぐさまこの部室内で決行することになった。
 そういえば、いつぞやの話ではこの部室内部は既に異空間成分で飽和状態とのことらしいし、何かと都合はいいのだろう。少々狭いのが難点ではあるのだが。
 さて、肝心なのは、どのようにしてハルヒにこの銃を撃たせるか、という点なのだが。
「その辺に適当に置いておけばいいんじゃないのか。ハルヒのことだから真っ先に俺に狙いをつけて引き鉄を引きそうなモンなんだがな」
「それで済めば何の苦労もないのですけどね。ただ、ああ見えて涼宮さんは常識的な方ですし、人に銃口を向けることは躊躇うのではないでしょうか」
 いつぞやの映画の撮影の時に、あいつが神主さんに向けてモデルガンをぶっ放してたのを忘れたのかよ。
「おや、そんなこともありましたっけ? まあ、とにかくここは王道的に、朝比奈さんあたりにご協力いただくのはどうでしょうか?」
「わ、わたしがですかぁ?」
 目をパチクリとさせて驚いた表情の朝比奈さんである。
「例えばこういうのは如何でしょうか。あなたは部室の一角に朝比奈さんを追い詰める。涼宮さんに対して救いを求める朝比奈さん。目の前には一丁の拳銃――果たして彼女はどういった行動に出るのでしょうか?」
「ふえぇっ!」
 色々と待て! 何で俺が朝比奈さんを襲わなければならんのだ? って、ほら、朝比奈さんも本気でそんなに怯えないでくれませんか。 第一、俺は襲い掛かろうにも朝比奈さんに近付けないじゃないですか。
「あっ!」
「そういえばそうでしたね。では代わりにその役目をこの僕が――」
 あのなあ、ふざけるのもいい加減にしろ! ……って、どうしたんだ、古泉?
「なるほど、確かにもうふざけている場合ではなくなってしまったようですね。どうやら僕にもその役目は務まらなくなったようですので」
 いや、だからその話はもうやめにしろ。
 と、古泉の表情が少し曇ったのと同時に、長門が朝比奈さんを抱くようにして一歩退く。
「両フィールドの拡大が検出された。……我々も退避する」
 そういうと、ドアの向こうに朝比奈さんを連れて出て行ってしまった。
 つまり、内側の方の閉鎖空間も拡大したせいで古泉も俺に接近できなくなった。そればかりか、朝比奈さんも長門も、部室内には留まれなくなってしまったということか。
「そう。既にわたしの外側からの情報操作能力も限界。おそらく今のあなたがその銃を手にすることも既に不可能と判断する」
 なんだ、それだとハルヒが自分から銃を手に取るように仕向けなければいけないじゃないか!
「それだけではない。内部空間内の構成要素にかなりの変動が確認された。あなたの『人狼』遷移状態も、以降はどのような挙動を示すか予測できない」
 ドアの向こう側からの長門の声は、やはりどことなく申し訳なさそうだった。いや、長門。さっきも言ったけど、お前はお前にしかできないことを十分頑張ってくれたさ。気にしなくていいぞ。
「さて、どうやら僕たちが協力可能なのはここまでのようです。ええ、涼宮さんは必ずあなたの前にお連れいたします。それ以降は全てあなたにお任せしますよ」
 そう言って古泉もドアから出て行った。まあ、ご苦労だったな、古泉。
 やれやれ、しかしなんというか、俺は正直アドリブは苦手なんだ。ここだけの話、そういうのは是非とも中の人に頼んだ方がいいぞ。
 
 やがて放課後を知らせるチャイムが鳴る。
 さて、ハルヒ、しっかり頼んだぜ。
 
 放課後、念のために保健室を覗いてみたけど、キョンの奴は案の定いなかったわ。
 まさかもう、部室にいるなんてこと――そんなのあるわけないか、って!
「ちょっと、有希、みくるちゃん、古泉くん! 一体どうしたの、そんなところに並んで突っ立って。なんで中に入らないの?」
「…………」
「い、いえ、中には、そ、その、キョンくんが……」
 へっ? なによ、やっぱり中にはキョンがいるわけ?
「その通りです。涼宮さん――どうやら彼は、あなたと二人きりでお話がしたいようです。僕たちはお邪魔にならないよう、こうしてこの場で待機してるわけでして」
「へ、へえっ、そうなの?」
 ちょっと、キョン。なによ二人っきりで話だなんて。どういうつもりなのかしら、全く?
 あたしはちょっと不審に思いながらも、三人に促されるままに部室内へと足を進めたのだった。
 
「よ、よお、ハルヒ。案外早かったな」
 何故かキョンは窓際、っていうか部屋の隅の掃除用具入れの前に突っ立っていた。なにかしら、いつにも増して挙動不審じゃないの。
「どうしたのよ、キョン。あんた午後の授業すっぽかして一体どこでなにしてたの? ――まあいいわ。それで、二人きりでの話ってなによ?」
「お前に頼みがあるんだ、ハルヒ。そのまえに、まず、それを手に取ってくれ」
 キョンが指し示した先の長机の上には拳銃が転がっていた。モデルガンかなにかかしら。
「これがどうかしたの? ってちょっと、なんか妙に重いじゃない。……まさか、これって本物?」
 キョンは両腕を広げてとんでもないことを言ってのけた。
 
「ハルヒ、その銃で――俺を撃ってくれ!」
 
 はあっ?
「ちょっとキョン。なにを言い出すのよ? あたしをからかってるんだったら今すぐやめなさい」
「俺は至って真面目にお願いしてるんだが」
「だ、だって、これって、どう見ても本物じゃないのよ! 当たったら、その、痛いわよ。血とかも出ちゃうわ。そ、それに、死んじゃうかもしれないじゃないの!」
「それは平気だ――多分な」
「なんなのよ、その多分ってのは! ふざけんな! なによ、二人きりで話だなんて、期待しちゃったあたしがまるでバカみたいじゃないのよ! あたし――もう帰る」
「ま、待ってくれハルヒ。…………ぐがっ!」
「へっ? ちょ、ちょっとキョン、なにふざけて……キョン? どうかしちゃったの?」
 あたしが振り向いたその先には、床の上に崩れ落ちるキョンの姿があった。
 
 
「やっほ~っ、みっくる~! って有希っ子に古泉くんまで、そんなところでなにしてんのっ~?」
「ふえっ、つ、鶴屋さん?」
「……いけない。その位置では彼が……」
「申し訳ありません、鶴屋さん。我々と一緒に、こちらまで来ていただけませんか?」
「おやおやっ? なんだかお取り込み中みたいにょろ? まあ、あたしはみくるに用事があっただけなのさっ。だってみくる、午後の授業を全部休んでどこにいってたのさっ?」
「えーっと、あの、そのぉ~」
 
 
「キョン……キョン? ちょっとあんた、大丈夫? しっかりしなさいよ、キョン」
 キョンは床に倒れたまま痙攣している。ど、どうしたらいいの? こんなときって、あんまり動かしたりしたらいけないんじゃなかったっけ。
「ぅぉおおおおあああああ!」
「ひいっ!」
 突然キョンが人間のものとも思えないような咆哮をあげた。その次の瞬間、あたしは信じられないものを目にした。
 制服が裂け、中から肉を突き破って骨が飛び出した、かと思うと、その周りをゴツゴツした筋肉、そして白と灰色のまだら模様の毛皮が覆っていく。
 
 キョンの姿は、まるであたしが昔に見た映画のオオカミ男そっくりに変化してしまった。
 
「ちょっと、キョン。なにこれ…………冗談でしょ? ねえ、キョン。返事をしてよ!」
「ぐ……は…………るひ……い、ま――――すぐ……お…………レヲ――――ウ…………テ!」
「ええっ? で、でも――――いやよ、絶対にいや! だってそんなことしたら、キョンは……キョンは死んじゃうんだから!」
 あたしは手元の銃に装填されている弾丸を見た――――銀の弾丸を。
「知ってるのよ、あたし。オオカミ男は銀の弾丸が弱点なの! そんなの撃たれたら、あんたはあたしに退治されちゃうのよ! わかってんの、キョン?」
「ハ――――ヤ、ク……………タ―――ノ…………ム」
「バカーっ!」
 いくらキョンのお願いでもこればかりは聞いてあげない。あたしは手にしていた銃を後ろに放り投げた。
 
 その瞬間、キョンの化けたオオカミ男の身体がビクンと波打った。
 
 
「じゃあね~っ、みっくる~! また明日っ」
「はふぅ、ビックリしちゃいましたぁ」
「一応何とか誤魔化すことはできたみたいですね。長門さん、涼宮さんたちのご様子は」
「彼は既に『人狼』状態へと移行済み」
「なるほど、では、あとは涼宮さんのお手並み次第、というわけですか」
「あ、あの、わたし、ふと思ったんですけど」
「何でしょう、朝比奈さん?」
「涼宮さんに、果たしてキョンくんのこと、撃ったりできるんでしょうか?」
「それは何とも――あとはもう、彼に期待するしかありません」
 
 
 バカはお前だ、ハルヒ。なんで今すぐ俺を撃たないんだ?
 俺がそう叫ぼうにも、もう声が声にならない。全てがわけの解らない咆哮になってしまう。
 そうこうしている間に、俺の意識は泡立つように分解されて、今にも消え去ろうとしていた。
 と同時に、走馬灯ではないだろうが、今まで俺の目にした色々な光景や音や声が頭の中を流れてはどこかに行ってしまった。
 最後に聞こえたのは、ハルヒのこんな声だった。
 
『男なんてのはね、みんな狼なのよオオカミ!』
 
 まさか、ハルヒ。それがお前の望みだったとでもいうのか?
 
 次の瞬間、俺の意識は完全に封印されてしまった。先程まで俺だった化け物は、ハルヒの白い喉元に手を掛けると、力任せに床の上に押し倒したのだった。
 
 
 突然、『狼キョン』はあたしに襲い掛かってきた。ちょっとだけ呆けていたのが致命的だったのか、ろくに抵抗もできずにあたしは背中から叩きつけられて、上から圧し掛かられてしまった。
「い、いやぁ、キョン! や、やめてよ!」
(何してんだ、ハルヒ! さっさと逃げろよ!)
 あたしの声なんてまるで聞こえてないとばかりに、『狼キョン』はあたしの両腕を押さえ付けると、頭の上辺りで片手で両方を一度に掴み、そのまま床に固定してしまった。
 『狼キョン』の自由になったもう片手の人差し指が伸ばされる。その先には鈍く光る爪が、まるで鋭利な刃物のように尖っていた。
 その指がゆっくりとあたしの身体の中心に沿って動かされる。
「えっ、ちょっと、まさか……」
(おい……何てことしやがるんだ、俺!)
 
 たった一つの動作で、あたしのセーラー服とスカートは、身に着けていた下着ごと切り裂かれてしまった。
 
 『狼キョン』の前に露出してしまったあたしの肌に、なんともいえない生臭い息が吐きかけられる。
(畜生、俺の身体なのに、何で自由が利かないんだ?)
 真っ赤で長く不気味な舌が、あたしの頬を舐めまわす。『狼キョン』の耳まで避けた口からは、泡状になった唾液らしいモノがあたしの顔の上にポタリポタリと滴り落ちてくる。
「んぐっ!」
 思わずこみ上げた嘔吐感を必死で堪えるあたしの目に、あまりにもグロテスクなものが映り、思わずギョっとしてしまう。
(おい、何考えてやがる、俺!)
 『狼キョン』の下腹部のソレは、まるで別の生き物みたいに、ビクンビクンと不気味に律動していた。
 反射的に身を捩ろうとしたあたしだったけど、『狼キョン』の怪力には敵わず、太股を掴まれて、脚を抉じ開けられてしまい、あたしの気持ちは絶望の深淵まで墜ちていった。
(やめろ、やめてくれ!)
 いや、いやだってば! そ、そりゃあ、あたしの初めての相手がキョンだったらいいなあとか、じゃないわよ違うわ!
 キョン如きでも構わないっていうか、諦めも付くってモンだけど、でも、こんなシチュエーションってのは、いくら普通じゃないにしてもあんまりよ。酷すぎるわっ!
(すまん、俺にはもう、どうすることも――)
「た、助けてよ、お願い――キョン! もうあんたには二度と無茶なこと言ったりしないから。あんたの言うことなんでも聞いてあげるから。だから……お願い、もうやめて!」
 
「だそうだ、オオカミ男さん。……オイタもその辺にして、大人しく眠っててくれないか」
 不意に頭上から、いつも聞いているような、でも――ものすごく懐かしい声がした。
(ええっ? 誰だこの声? 何だか聞き覚えがある気が……)
 『狼キョン』もそれに合わせて動作を停止する、その途端、轟音と共に、その毛むくじゃらの身体が吹き飛んで、窓の外に落下していった。
「……キョン、なの?」
「ああ――もう大丈夫だ、ハルヒ」
「そう、よかった――」
 やっぱりキョンはあたしを助けに来てくれた。ってアレ? そもそもあたしに襲い掛かってきたのもキョンで、で、そいつは今さっき窓から落っこちてしまって、で、今あたしの傍にキョンが――ああん、もう、知らないわ!
 
 急に緊張が解け、それと同時にあたしの意識は急速に遠くなってしまったの。
 
 意識を取り戻した俺が目を開けると、目の前には朝比奈さん(大)の顔があった。って、この位置関係は、まさか?
「うふふっ、やっと目を覚ましましたね、キョンくん――――お久しぶりです」
 あろうことか、ゴージャスバージョン朝比奈さんの膝枕? なんという勿体無い状況なんだ、これは!
「あの、なにがあったんでしょうか?」
「あれっ、もう今の『わたし』がこっちにきちゃうみたい。説明してる時間、なくなっちゃった……じゃあね、キョンくん。またいつか、逢いましょう」
 頬を桃色に染めた朝比奈さん(大)は、俺になにやらメモらしき紙を俺に託して、早足でどこかに去って行ってしまった。
 と、そこでようやく気付いた。今の俺は先程侵入してきた『何者か』に例の銃弾を撃ち込まれ、部室の窓から勢い余って転落してしまったのだ。
 ってことは――獣化が解けて丸裸状態! ああっ、朝比奈さん(大)にまでこの姿を見られてしまった! とはいえ、朝比奈さん自体、何度もこの格好を目にしているわけだし、今更なのかも知れん。
 それにしてもあっさり受け流してたな。これが大人の女性の余裕ってなもんですかね?
 
「キョンく~~ん!」
 程なく朝比奈さんの声が聞こえた。って、マズイぞ、この格好のままじゃ、なんつーか、
「キョンくん、大丈夫でしたか? って、ひょえぇ~!」
 案の定、俺の姿を見て固まる朝比奈さん、そのあとから相変わらず無反応な長門と、どこか安心したような笑みの古泉が姿を現した。
「待って……今すぐあなたの制服を再構成する」
 長門のコマンド一発で、今日一日で何度となく繰り返された俺の制服の再生が完了したのだった。
「お疲れ様でした。しかし、涼宮さんは、よくあなたのことを撃つことができましたね」
「いや」
「えっ?」
「俺を撃ったのはハルヒじゃない」
 今日一日混乱の極みにあった俺の頭脳は、その瞬間に明鏡止水の如く澄み渡ったのであった。今から俺がすべきこと全てが整理整頓状態で格納されているようだ。
 俺はさっきから固まったままの朝比奈さんに声を掛ける。
「朝比奈さん、その、一つ頼まれてくれませんか」
「は、はい! あの、なんでしょうか?」
 先程受け取ったメモ――俺にはなんて書いてあるのか読めないシロモノ――を手渡しながら俺は続ける。
「俺と時間遡行して欲しいんです。正確なことは多分それに書いてあると思いますから」
「ふえっ、そ、そんな急に言われても、色々と申請だって、その……って、ええっ、また最優先強制コード? なんなんですかー? どうしてキョンくんが、これを?」
 まあ、俺にも色々事情がありまして。それから、長門。
「なに?」
「部室の窓とかハルヒの制服とか、なんだかんだで面倒なことになってると思う。お前の判断で全部元に戻しておいてくれ」
「……了解した」
 さて、古泉。
「ふふっ、なんでしょう?」
「部室の傍の階段で『この朝比奈さん』が一人で待ってるはずだから、長門と一緒に三人で先に帰っててくれないか」
「いえ、せっかくですのでみんなでお待ちしてますよ」
 そうかい。まあ、好きにしてくれ。
「じゃあ朝比奈さん。お願いします」
「は、はい! キョンくん。こっちにまできてください」
 朝比奈さんと物陰に隠れた俺は、ほんの数分前に時間遡行したのだった。
 それからは特記することは何もないだろう。詳細を語ったところで繰り返しになっちまうしな。
 遡行を終えた俺は朝比奈さんを待機させ、堂々とドアを開けて部室に足を踏み入れた。
 
『彼と彼女はいつでもその場に』
 
 確かに、俺はずっと閉鎖空間内にいた。ということは今のこの俺だって、その中に入れても不思議ではない。
 普通の人間のお前がどうして閉鎖空間に侵入できたのかって? まあ理由は解らんが、多分これが『既定事項』なんだから、ってことだろうな。
 転がっていた銃を手に、先程と一字一句違わぬあのセリフを口にして引き鉄を引くと、変わり果てたもう一人の俺が窓の外に墜落していく。
「……キョン、なの?」
「ああ――もう大丈夫だ、ハルヒ」
「そう、よかった――」
 その言葉と共に気を失うハルヒ。やれやれ、これですべきことは全部クリアなのか?
 いつの間にか、派手にぶち破られた窓ガラスも、ど真ん中から切り裂かれていたハルヒの制服のセーラー服とスカートもすっかり元通りになっていた。まさか確認するわけにもいかんが下着類も同様なのだろう。
 リクエスト通りだな、さすがは長門。
 俺は、床に寝転がっていたハルヒの身体を抱き起こすと、すぐ傍のパイプ椅子に座らせ、長机に伏せさせた。
 しばらくして、ピクリとハルヒの身体が動いた。
 
「う~ん――――えっ、キョン」
「よお、やっとお目覚めか」
 しばらくぼんやりしたままのハルヒは、やがて飛び起きたかと思うと、両腕で自分の体を抱くようにして背を向け、顔だけで振り向いて俺に大声で叫んだのだった。
「バ、バカっ! ちょっと、あんたはこっち見んな!」
 どうやらハルヒは、さっき自分がどういう目に遭っていたかを思い出したらしい。
「……ってあれ、何ともないわ……ちょっと、キョン。これって一体どういうことなの? 教えなさいよ!」
 勿論本当のことは口が耳まで裂けても教えられるわけもない。俺の答えは決まっているのだ。
「さあな――お昼寝中に悪い夢でも見てたんじゃないのか?」
「えっ、夢? あたし、さっきまで寝てたの? って、まさか……でもあれは……」
 ハルヒはしばらく考え込んでいるような様子だったが、突然顔を真っ赤にして俯いてしまった。なんだその反応は?
「うるさい、バカキョン! もう――知らないったら!」
 ハルヒは俺のことを怒鳴りつけ、またしてもそっぽを向いてしまった。が、そのままこちらを見ることなく、
「ねえキョン、ひょっとして、あんた――あたしのこと助けてく…………その、あ、ありがと」
 と口篭りながらも礼を述べてきた。そのハルヒの言葉に少しドキッとしてしまう俺だったのだが、
「な、何のことだ?」
 と、どうにか素っとぼけておく。って、ちょっとワザとらしかったか? とか俺が思っているとハルヒは、
「い、いいじゃないのっ! ――――なんとなく、そんな気分になっただけなんだもん」
 と、いつものアヒル口で文句をブー垂れるのであった。やれやれ。素直なんだか素直じゃないんだか解らんな、お前は。
「なによそれ? へえ――そんなんじゃ、あんたのペナルティはもうちょっと延長しようかしらねぇ?」
 いやごめんなさい済みませんでした俺が悪かったですもう勘弁して下さいお願いしますこの通り。
「ふんだ…………まあいいわ、そろそろ許してあげることにしてあげてもね、えへへっ」
 そう言って振り向いたハルヒの笑顔が、今日一日の俺にとっては何よりの安心の種だったのかもしれない。
「って、ちょっと、もうこんな時間? ほらキョン、さっさと帰りましょう」
 へいへい。
「あーあ、有希もみくるちゃんも古泉くんも今日は来なかったわね。一体どうしちゃったのかしら」
 実はみんな外で俺たちを待ってるはずなんだが、俺はあえてそれをハルヒには教えてやらなかった。なんとなく、そんな気分になったんでな。
 
 
 さて、後日談になる。まあ、実はあまり語りたくもないのだが。
 
 あの日以来、表面的には以前と変化のない、つまり元気爆発傍若無人天衣無縫なハルヒに戻ってしまったかに見えるのだが、俺が知る限り、あいつは確かに変わったのだ。
 っていうか俺以外にそれを知っている者がいるのはちょっと困るんだけどな。
 なんというか、その、えーとだな、以前と比較すると、ハッキリと俺とハルヒが二人きりでいる時間が増加しているのだった。
 しかも、そのときに限って何故かハルヒは頻りに俺の身体に密着してくるのだ。って、おいハルヒ。一体これは何の真似なんだ? 大丈夫か? お前、頭でも打ってどこか壊れちまったんじゃないだろうな。
「ちょっと、うるさいわね! いいからあんたは黙ってじっとしてなさいよ」
 いや、そんなこと言われてもな。大体、どうしてお前は俺の身体にそうやってくっ付いてくるんだ?
「なによ、文句でもあるの、キョン? あんたが欲求不満を溜め込んでみくるちゃんや有希に変なことしないように、あたし自らが身体を張ってスキンシップで癒してあげてるんじゃないのよ。ちょっとはあたしに感謝しなさいっ!」
 ちょっと待て、どうしてそういった結論になるんだ? そもそも変に纏わり付かれたところで、なんつーか、かえって欲求不満になったりとか、ならなかったりとか、なんだ、その――、
「それとも、キョン。――あんた、あたしなんかじゃ――その、やっぱり嫌なの?」
 だから、そんな上目遣いで不安そうにこっちを見つめられてもだな…………えーい、
「きゃあっ! ちょ、ちょっと、キョン?」
「嫌なわけねーだろ」
 俺がそう言って両腕でハルヒを抱えると、こいつは真っ赤な頬を隠すかのように俺の胸に顔を埋めてくるのだ。全く、こんな調子じゃ、俺の理性もどこまで耐えられるか保証し切れんのだけどな。
「――バカっ! やっぱりあんたはエロキョンなんだから――」
 そう呟いて口篭ってしまうハルヒなのだが、その様子がどことなく満足そうだな、なんてことを思ってしまうなんて、どうやら俺もどこか壊れちまったに違いないね、やれやれ。
 

イラスト

以上です。なんかバランスを取り損ねてあちこち破綻してますけどご容赦を。
しかし、ぬこハルにゃんと犬耳キョンって電波からどう間違えたらこんな話ができるんだろうwww
 
やはり久々なラクガキ。『狼キョン』にピンチのハルにゃん!……ではありません。
ついでに進歩の欠片も見えません!><
 
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