長尾家
景虎は関東管領の上杉憲政を庇護し
その要請に応じて度々関東へ出兵した
そんな折、景虎は憲政に招かれ
屋敷を訪れた
長尾景虎
憲政様
本日はどのような御用件でございますか?
上杉憲政
景虎殿、そなたのお陰で再び関東の地を
踏むことができた
心より礼を言わせてもらう
長尾景虎
いえ、将軍家に仕える身であるそれがしが
関東管領である憲政様の求めに応ずるは
至極当然のことにございます
晴れ晴れと告げる景虎に対し
ふいに憲政の表情が曇る
上杉憲政
確かにおぬしの申すのは道理じゃ
……しかし今、世は麻のごとく乱れ
拙者はおろか将軍家にさえ仇なす者もおる
長尾景虎
……
景虎は憲政の言葉を聞いてうつむく
しかし、景虎の姿を見た憲政の
評定から陰りが消える
上杉憲政
そこでおぬしに上杉の家と関東管領の職を
継いでもらいたい
長尾景虎
め、滅相もございませぬ
それがしごときが上杉の家を継ぐなど……
憲政の思いもよらぬ要請に
景虎はただただ慌てて
首を振ることしかできなかった
上杉憲政
この乱世にあって力なき者は滅び去るのみ
おぬしならば関東の地を立派に治めることが
できよう
長尾景虎
……承知いたしました
この景虎、不肖の身ではございますが
必ずや憲政様のご期待に沿いまする
景虎は初めは憲政の言葉を拒んだが
憲政の熱意に打たれ
上杉の名を継ぐ決意を固めたのであった
景虎は憲政とともに
鶴岡八幡宮を訪れた
長尾政景
殿、おめでとうございます
関東管領を譲られるなど
当代一の名誉にございますな
諸手を挙げて喜ぶ家臣たちに
景虎は黙って首を横に振った
長尾政景
いや、真の戦はこれからだ
将軍家に弓を引く逆賊の手から
関東の地を奪い返さねばならぬ
長尾政景
戦場こそ我らの生きるべき場所
望むところにございます
長尾景虎
これまで以上に厳しい戦いになるが
皆の働きがあれば必ずや勝利を
収めることができよう
長尾景虎
その暁には皆で存分に酒を飲もうぞ
景虎の言葉に家臣たちは一斉に声を上げ
関東の地に上杉の旗を立てることを
強く決意するのであった
上杉家と関東管領職を継承した景虎は
関東を平定するための
果て無き戦いを始めようとしていた
その他の大名家
長尾家の長尾景虎が
上杉憲政より上杉姓と関東管領職を
継承し、上杉謙信と改名しました