羽柴家
天下に並びなき名声を得た秀吉は
関白に任命され
姓を藤原と改めた
秀吉の出自は庶民……
当然、公家たちの反発は強かった
そこで秀吉は家中の識者に意見を求めた
羽柴秀吉
藤原姓を賜り、関白に就いたものの
公家の間での風評は悪い
何か良い策は無いか?
大谷吉継
確かに公家の方々には
殿の出自を理由に
殿のことを快く思わぬ方も多いご様子
吉継はそこまで話すと
小さく息を吐く
しばしの沈黙ののち、姿勢を正した
大谷吉継
しかし、時代が求めるのは
あくまでも力にございます
羽柴秀吉
ふむ
大谷吉継
ここは、古来よりの源平藤橘ではない
新たな姓を帝より賜り
殿のお力を示されてはいかがでしょう?
羽柴秀吉
なるほど、我が力をもって新たな姓を賜り
血筋にこだわる公家に、もはや出自は
関係ないと実感させるのだな
大谷吉継
左様にございます
さすれば公家の方々も殿が天下人であると
認めざるを得ないでしょう
秀吉はその言葉に
力強くうなずいたのであった
秀吉は、関白就任の折に力を借りた
菊亭晴季を屋敷に招き
帝へのとりなしを依頼することにした
羽柴秀吉
菊亭殿
関白就任の折は世話になり申した
菊亭晴季
いやいや
ただ私は帝のご意向をお伝えしたまで
……それより本日はいかなるご用ですかな?
羽柴秀吉
源平藤橘ではない新たな姓を名乗ろうと思い
その旨を帝にお許しいただけるように
取りはからっていただきたい
菊亭晴季
新たな姓を賜りたいと?
羽柴秀吉
左様でござる
ついては天地長久万民快楽の願いを込め
豊臣と名乗ろうと思うておる
菊亭晴季
なるほど
関白殿のお考えはよくわかりました
さっそく帝にお伺いいたしましょう
羽柴秀吉
よろしくお願いいたす
こうして菊亭晴季の働きによって
間もなく勅令を賜り
秀吉は豊臣と姓を改めたのであった
この勅令は、秀吉の権勢が揺るぎなき
ものであることを天下に知らしめた
名実ともに新しい関白が誕生したのである