全大名家
ある日、羽柴秀吉は家臣たちの労を ねぎらうべく主だった者を集め、茶会を 催した 各々が茶を楽しんでいるとき 秀吉は一同に話しかけた 羽柴秀吉 □羽柴家 一同、今日は日頃から励んでおる おぬしらのためにこのような場を設けた 羽柴秀吉 □羽柴家 しかし、今だ世は定まっておらぬ 民の不安は大きく、当家の安泰も成らず 安穏としてはおれぬ 羽柴秀吉 □羽柴家 まだまだなさねばならぬことは山とある この程度で満足できるわけがない 羽柴秀吉 □羽柴家 各々方、民のため、わしに力を 貸してほしい そう言って秀吉は自ら点てた茶を隣の者 へ渡し、飲み回しをうながした 一同、渡ってくる茶を飲み、秀吉への 忠誠、意気込みを語り、次々と茶を回して いった 吉継に茶が回ってきた 大谷吉継 □羽柴家 殿、このような体のわしを使っていただける だけでも幸せなことでございます 大谷吉継 □羽柴家 力の続く限り、殿の御為に尽くす所存に ございます 吉継は勢いよく茶を飲んだ 内なる想いを口にした吉継は落ち着き、 周りを見ると一同が呆気にとられた表情を していた 大谷吉継 □羽柴家 (あっ! しまった!) 吉継が病に冒されていた ことは周知であった 顔はただれ、布で覆わねばならないほどで あった 吉継は飲む振りをして次に回すつもりで あったが順番が回ってくると熱くなって しまい口を付けてしまったのだ 大谷吉継 □羽柴家 (どうしたものか……) 吉継は茶を回せずにいた 石田三成 □羽柴家 吉継殿、喉が渇いてしようがない 早う茶を回してくれぬか 三成は隣に座ると吉継の持っていた 茶を奪い、飲み干してしまった 吉継は余りのことに固まっていた 石田三成 □羽柴家 さすが殿の点てられた茶でござる なんと旨いことか! 一同が驚愕の表情を見せる中 秀吉ひとり、笑みを浮かべていた 羽柴秀吉 □羽柴家 そうかそうか、さすが三成 茶の良し悪しが分かるか もう一つ点ててやろう 秀吉は新たに茶を点てると 三成に渡した こうして茶会は無事終わった 屋敷の自室に戻った吉継は 溢れる想いを抑えきれず涙した 大谷吉継 □羽柴家 (三成殿…… 今日受けた恩は終生忘れぬ!) 大谷吉継 (いかようなことが起ころうとも おぬしのためにこの命くれてやろう) 以降、吉継は三成との友情を 固く誓ったのであった