【厳冬】ランパース【1】
「ここがどこか分からない、って顔をしているわね?」 気が付くと男は、闇の中にいた。完全な闇。道に迷い夜道をただ彷徨い歩いていると、いつの間にかあたりが本当の闇に閉ざされてしまった。その時、どこからともなくランパースの声が聞こえてきたのだ。 |
【厳冬】ランパース【2】
「まあまあ慌てずに、まずは湯浴みをするといいよ」 少しづつ目が馴れていく。男が目を凝らすと、可愛らしい精霊が温泉につかっていた。摩訶不思議な、まるで白昼夢でも見ているかのような状況だ。男は精霊たちに促されるまま、服を脱ぎ温泉へと入った。 |
【厳冬】ランパース【3】
「ーーここには、苦しみも悲しみもないのよ」 不思議な温泉で時を過ごしてから数日。故郷に帰ってきても、男はランパースのいたあの場所を忘れられずにいた。浮世よりもずっとあたたかく心地の良い所だった。だが、何度同じ夜道を彷徨い歩いても、あの世界に行くことはできなかった。 |
【厳冬】ランパース
「さあ、またあたたまろう」 時が経ち、男は年老いた。この世を去る時が来たのだ。その時になって初めて男は気付いた。自分はようやく、若かりし頃に見たあのランパースたちの待つ世界へと還ることができるのだと。永遠の眠りにつくその瞬間、男はまるであたたかな湯に肩まで浸かっているかのような、穏やかな顔をしていた。 |