【黒天使】ナキール【1】
「まだか、まだ戻ってこないのか」 重い病に侵された男は病床で、ある女の帰りを待っていた。その女は母でも妻でも娘でもない。ナキールという名の天使だ。日に日に深くなる病からくる痛みに、神経がささくれ立つ。 |
【黒天使】ナキール【2】
「お前たちの看病などいらん、あの天使を連れてこい」 看病してくれようとした妻や娘の手を振り払う。ナキールに看病してもらっている一瞬だけは、苦痛がウソのように和らぐのだ。ナキールさえ来てくれれば、ささくれだったこの心も治まるのに……そう考え、余計に苛立ちを募らせる。 |
【黒天使】ナキール【3】
「あいつまで病気に!? ふざけるな!」 妻が看病疲れの末に病に倒れたと聞いて、男は激怒した。ナキールは数多くの患者を受け持っている。妻までもがナキールの看病を受けることになれば、その分、自分がみてもらえる時間が減るではないか。 |
【黒天使】ナキール【4】
「待ちわびたぞナキール……いや、貴様は!?」 やがて病室のドアが開いた。ナキールの訪れを期待する男。だが入ってきたのは死神だった。男の魂は肉体から切り離され、永遠の苦痛が続く地獄へと運ばれるのだ。どれだけ待とうともナキールが訪れない地獄に。 |