タブリス【1】
「病気の妹を残してきたのですか。大丈夫、すぐ良くなります」 天と地の間には、未練を残したため天に上りきれない魂が多く漂っている。そのうちの一つを白髪紅瞳の天使が抱きしめた。タブリスという名のその天使が言葉をかけると、張りつめていた魂から安心したかのように力が抜ける。魂は天へと上っていった。 |
タブリス【2】
「親のカタキを討ちそびれたのですか。しかし、生きることそれ自体が罰なのですよ」 時に怒りや復讐心に捕らわれ、タブリスから逃げまどう魂もいる。仕方のないことだ。肉体は失っても魂は人間のそれであり、生きていた時と同様に惑い、おののき続けるものなのだから。 |
タブリス【3】
「他人に見られたくない日記を開いたまま死んでしまったのですか? 大丈夫、誰もあなたを笑ったりはしません」 天に上らず、地上に戻ろうとし続ける魂もある。そんな魂でもタブリスに抱きしめられると、心が安らぐのか、生前の執着心を捨てる。 |
タブリス【4】
「悔いを残して死んだ魂と、悔いすら残せなかった魂、どちらが本当に幸せなのだろう」 タブリスは時々、考える。悔いを残したということは、それだけ愛情や情熱を注ぎこめる何かが、人生にあったからではないだろうか? そんな魂を抱くとき、タブリスも胸にぬくもりを感じるのだ。 |