ルサリィ【1】
「近づくな、ここは人の立ち入ってよい地ではない」 風の吹く森の中、人の姿が見つからないのに声がしたら、それはルサリィの声であろう。彼女の声には従ったほうがよい。彼女は気難しい妖精だ。機嫌を損なえば、大きな代償を払わねばならなくなる。 |
ルサリィ【2】
「痴れ者が、子どもから目を離すな」 幼い子どもを連れて森を訪れた父親は、そんな声を聞いた気がして周囲を見回した。だが、辺りには誰もいない。連れてきたはずのわが子もいなかった。ただ一陣の風が吹き去っていくのみである。 |
ルサリィ【3】
「これ以上動くな。ここにいれば、いずれ父親が迎えに来るであろう」 森で迷子になり泣いていたこどもの耳を、風が優しくなでていった。声が聞こえたような気がして、子どもは周りを見回すが、誰もいない。やはり一陣の風が通り過ぎただけであった。 |
ルサリィ【4】
「さて、そろそろ行こう。ここもいずれ騒がしくなるだろう」 ルサリィは住み慣れた森を出た。この地にも人が増えてきた。やがて切り開かれ、大きな町になるだろう。ルサリィが静かに暮らせる場所ではなくなるのだ。ルサリィに友はいない、ただ、風たちがどこまでもついてくるのみである。 |