神属性/LLR/佐保姫

Last-modified: 2018-03-22 (木) 21:52:40

佐保姫【１】

「ずいぶん溶けてきましたわね。少し、外へでてみようかしら」
二日前まで、窓の外は一面の雪で、日光に白く輝いてまばゆ過ぎるほどだった。それが今朝、外を見てみると新たな生命の息吹が感じられるのだ。雪解けが訪れ、大地が色を取り戻していた。

「このやわらかさ……不思議なことですが、なぜだか胸がときめきますわ」
外へ一歩出ると、雪解け水を含んでふやけた大地が、佐保姫を出迎えてくれた。佐保姫にとっては、どんな極上のじゅうたんよりも踏みしめるに心地よい。

「この向こうには、どんな春が待っているのかしら?」
佐保姫は早春の大地を歩みはじめる。冬の間は雪に閉ざされていた世界が今日、切り開かれたのだ。よみがえった世界は、一体どんな装いなのだろう? それを見て回るのは、佐保姫にとって春が訪れるたびにやってくる大きな楽しみだ。

「風よ、はるかな北の地にまで」
花びらに染められ、色鮮やかに吹く風。まだ雪に閉ざされている大地にも、やがて春風が届く。かたく身を閉ざしていた蕾もほぶれ、新たな花を咲かせることだろう。そんな期待を抱きながら、ゆっくり、ゆっくり、佐保姫は北へと歩んでいった。