セレウキア【1】
「川はとても優しいのですよ」 川に溺れた少年を助けた女神は、穏やかに微笑みを浮かべる。 だが少年は怯え続けていた。少年にとって、川は恐怖の対象でしかなかった。 この川は毎日、死体が流されている川だ。この少年もまた暴漢に殺されかけたがゆえ、川に流されていたのだ。 |
セレウキア【2】
「川は海と陸とを繋げ、生命に恵みをもたらしてくれるのです」 川は海水を真水に変え、陸に住む生き物たちに生命をもたらしてくれるのだと、女神は少年を諭した。 海と陸を繋げる、生命のラインなのだと。だから恐れず、川を愛して欲しいのだと。 |
セレウキア【3】
「この文明も、川が運んでくれたものなのです」 少年の住んでいる街も、川の水を人々が頼って集い、船で様々な知恵を運んできたから出来たのだという。女神は少年を船に乗せた。川を伝い、少年を家に届けるために。 |
セレウキア【4】
「ごきげんよう。遠い未来、またいつか川でお会いしましょう」 女神は笑顔で手を振ると、そのまま船で去って行った。 次に少年と女神が出逢うのは、少年が真の死を迎える時だろう。 だがそれは終わりではない。海に還り、新たな生命に生まれ変わるための旅の始まりなのだ。 |