『技術の伝え方』

Last-modified: 2009-03-07 (土) 19:35:09

『技術の伝え方』を読む

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『技術の伝え方』畑村洋太郎 講談社現代新書
もともと
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『失敗学のすすめ』
を読んでいました。『失敗学・・』も面白いのですが、あまり僕にはぐっと来ず。。
でも『技術の伝え方』は、非常に参考になりました。
僕は、内視鏡を仕事にしているので、上手い医師の技術は「盗みたい」と常々思ってきました。
ところが疫学を教えるときは「上手く教えたら伝わるに違いない」という気持ちで、レクチャーや勉強会に臨んできました。参加者の勉強の手間をはぶき、簡単に楽に学んで欲しかったのです。
内視鏡医としては「盗み」、疫学の教育者としては「楽して勉強してもらう」という、相反する立場が自分の中に混在していて、自分でもスタイルがエライ違うなぁ~と思うこともあったのです。

技術は「伝える」のではなく「伝わる」

のだと、畑村氏は書いています。
技術は「伝える」ということを正しくすると「伝わる」と私たちは思っている・・と本書にはあります。まさにその通り思ってました。僕は。
でも、それは「伝える」側の立場で考えたことなのであって、技術は本来「伝わる」ものなのだと。
例えば「教育システムの充実」「資料の充実」「マニュアルの作成」・・・って大事ですよね?
でも、これは「伝える側の立場」からの方策なのです。
ただひたすら、システムや資料を作り続けた結果、あちこちで伝えることの形骸化が起きているのだ、と畑村氏は指摘しています。


確かに、病院でも使いもしないマニュアルなんて、山ほどありますからね。
疫学を教えていても、慣れてきて難しいポイントもそつなくこなせるようになればなるほど、少し違和感も感じていました。
本を読んで少しずつ前進していった、若かったときの「学びの楽しみ」「理解したときの快感」を、学び手から奪っているように思わないでもなかったのです。


そのせいでしょうか?
EBMワークショップの参加者が、スタッフになって一緒に教え方を工夫するようになったりは、なかなかないのです。
ICLSやACLSでも、大多数の参加者はスタッフになりません。
技術や知識を「伝えられた」ために、学びの魅力が無くなっていたのかもしれません。。

受け入れ側の素地

なんてことを、言っちゃってます。
技術を受け止める側が、どれぐらいやる気があるのかが大事なんだよと。。
あ、それいっちゃあお終い・・・とも思いますが・・・・
でも、これを無視しすぎなのが今の医学部教育とも思うんです。
とにかく、底辺にフォーカスを合わせるのですが、やる気のある学生は勝手に全国を飛び回って勉強したりしている。自分の学校にはほとんど寄りつかない。
学生は、教育者の熱意を見ていることが多いのです。
大学に寄りつかないのは、教えてやろうという熱意が感じられないからかもしれない。


脱線しましたが、
1、まず体験させろ
2、はじめに全体像をみせろ
3、やらせたことの結果を必ず確認しろ
4、一度に全部を伝える必要はない
5、個はそれぞれ違うことを認めろ
伝える側としては、こういうことが大事だよ、とのこと。
詳しくは本書を読んで下さい。


上記のような、概念的なことだけではなくて、伝えるための具体的な技術もあります。
社会的な事件を例にあげて、解説もされています。
ほんっとに面白い一冊でした。
是非お勧めです。。