第1回CASP和歌山開催

Last-modified: 2010-03-07 (日) 11:23:07

第1回CASP和歌山開催

平成22年2月20日は、輝かしい和歌山CASPの第一回目でした!
和歌山出身の僕にとっては、本当に感慨ひとしおの一日となりました。
和歌山日赤のスタッフの皆様、ありがとうございました!
参加者の皆様も、楽しい一日をありがとうございました。

内容

シナリオ

私は某病院の研修医。ERをローテーションしている。
見学に来ていた学生A、Bとインフルエンザの疑いのある患者さんの診察をしているところである。
ちなみに、私も学生も、秋ごろに新型インフルエンザのワクチンは接種をうけている。
私はいつもどおり、サージカルマスク、手袋をつけて診察をした。
診察を終えると、学生が質問をしてきた。
学生A「新型インフルエンザが流行してきたころ、WHOはサージカルマスクでよいとしていましたが、CDCはN95マスクを推奨していましたよね?先生の施設ではどうしてN95マスクを付けないのですか?」
学生B「そ、そうなの?先日妻が妊娠したので、インフルエンザは困ります。N95マスクを用意していただけませんか?」
そういえば、先日ER研修をしていた同僚がインフルエンザにかかったのを思い出した。。
私はとりあえず、N95マスクを学生Bに渡し、診察を終えた。
しかし、考えるうちに不安になり今後サージカルマスクでよいのかどうか調べてみることにした。

※シナリオは言葉のはしばしが若干違います。
PECOはいろいろ出ましたね。
P 医療従事者
E サージカルマスク
C N95
O インフルエンザにかかる確率はかわるのか
が基本ではありました。


Pに「インフルエンザ予防接種後の」をつけたり、Oが「自分は発症しなくても、家族にインフルエンザをうつす可能性」になったり。
いい感じで、さまざまなPECOが出されていたと思います。
ここは、本当にアイデアを出し合うブレインストーミングの場面です。
参加者からあっと驚くPECOが出ると、本当に良いアイスブレークにもなるのです。
「PECOは自由に立てる」ことが伝わっていたら良いのですけど。。

論文)
Surgical Mask vs N95 Respirator for Preventing Influenza Among Health Care Workers
A Randomized Trial
Mark Loeb, MD, MSc; Nancy Dafoe, RN; James Mahony, PhD; Michael John, MD; Alicia Sarabia, MD; Verne Glavin, MD; Richard Webby, PhD; Marek Smieja, MD; David J. D. Earn, PhD; Sylvia Chong, BSc; Ashley Webb, BS; Stephen D. Walter, PhD
JAMA. 2009;302(17):1865-1871. Published online October 1, 2009 (doi:10.1001/jama.2009.1466).
http://jama.ama-assn.org/cgi/content/full/2009.1466


結構話題になった論文みたいです。
通常の医療現場で使われているマスク(サージカルマスク)と、N95マスクのインフルエンザ予防における効果を調べたランダム化比較試験です。


ついつい、あっさりと読んでしまっていました。大反省です。
非劣勢試験というデザインのランダム化比較試験で、いろいろやることがあったのに。。
いろいろと質問をうけて気軽に調べ始めたら・・・
すごく大事な問題を内包していることに気づきました。
あ~くそ。やってしもた。

非劣勢試験とは

劣勢ではないんだよ、ということを証明するデザインのようです。
最近非常に増えてきています。
95%信頼区間が、事前に調べておいたある数値-デルタよりも「優れている側」にすべて含まれていると劣勢ではないということになるんだそうです。
あまり気にしていなかったのですが、今回のワークショップでこのデザインをしっかり学ぶ必要があるのを感じました。


通常、私たちは劣勢試験を僕たちは読んできたわけですよ。
「治療Aと治療Bはどちらが効果的か?」
有効なほうを提供したいですからね。
しかし、非劣勢試験では、AはBに劣っていないということを示すのだそうです。。
歴史的な治療に、新しい治療が劣っていない・・ということを示せたらそりゃあ薬屋さんのハードルも下がりますよね。
抗癌剤、循環器関連の薬剤、いわゆるゾロについては非劣性試験が増えてきています。
通常のRCTで、95%信頼区間が重なっていると優位差がない・・・と私たちは読んでいました。
しかし、それでは間接的な証明なのだそうです。
デルタを設定する、というのがミソなのだそうですが・・・
デルタの決め方が、今までの臨床研究や各自の経験から導く、などと書いている資料もあります。
そ、それでいいのか!?


また都合が良いのは、サンプルサイズが小さく設定できることなのだそうです。
通常の比較試験では、優位差がないことを示すのは本来無理なことで(信頼区間の幅がゼロ、差がゼロでないとだめ)あって、それを示したとするには膨大なサンプルサイズが必要になります。
非劣性試験は、サンプルサイズがお得・・・
製薬会社にとって、都合がよすぎる試験デザインなんですよね。
製薬会社さんが嫌いというわけじゃありませんが、商売に都合がよすぎることは、僕たち医療従事者には要注意ですから。

資料あれこれ

http://www.csp.or.jp/cspor/upload_files/arch_55.pdf
非劣勢試験が登場してきた背景も、少し垣間見える資料がありました。
ちょっとダークな面も紹介してくれています。
例えば、ゾロの薬を作るとき、RCTで優劣を問うのは難しいわけです。
内容は同じ薬なので、同じか下手したら品質が悪いんですよね。
そこで、非劣性試験で同等ぐらいなのを証明出来たら、それでよしとなる。。
そりゃそうだとは思いますが、非劣性試験がなし崩しに作られているのが見え隠れする資料でした。
だって、デルタの作り方が「経験的にこの数値でやっている」的な程度だったらしいし。。。
大事な数字じゃないのかね??
ぜひ一読を。
そのうちに消されそうですから、ダウンロードして読みましょう。



お世話になっている、Spellのページにも非劣勢試験が
http://spell.umin.jp/ebimayo/ebimayo090930.html
厳しいご意見が見られます。


ブログ『葦の髄から循環器の世界をのぞく』
http://blog.m3.com/reed/20090506/1
ここにも昨年すでに解説が載せられています。


さらに『内科開業医のお勉強日記』
http://intmed.exblog.jp/8307734/
先生、賢すぎます。。。


そして、Rocky Noteさんから
http://rockymuku.sakura.ne.jp/zyunnkannkinaika/RE-COVER.pdf
とにかくもみなさん、非劣勢試験についてはかなり勉強しておられますね。
我々も、がんばらないといけません。。
「ゾロの薬がさほど悪くない」という怪しげな研究もありますが、たとえば肺炎の後の抗生剤内服を3日なのか8日なのかで差がないという研究もあるようです。
これは、ありがたい臨床データですよね。
地味ですが、使える情報だと思います。
必要な非劣性試験と、そうじゃない研究が一層混在しそうな予感。


非劣性試験では疫学研究のうち、サンプルサイズや帰無仮説、タイプI・IIのエラーなど、理解しにくい部分がポイントになるようです。
信頼区間も判りにくいのに、さらにはデルタという未知の単位も登場します。
しかも、デルタの決め方がよくわからないとくる。
非劣性試験のチェックポイントは、こういったポイントがきちんと書かれているかということのようですので、統計用語の学習、復習には良いですね。
じっくり勉強していきましょう。

その他の問題

患者さんに何のメリットがあるのか?という問いかけがネットでされていました。
確かに。。。

しばらく非劣勢試験をめぐって、勉強しようと思います!!