第2回KCE勉強会
H21年2月21日はKCEの今年2回目の勉強会でした。
今回は、いろいろ思うこともあり新しいスタイルを模索しています。
知識はどんな風に整理したらよいのだろうか?
今回は、細川先生が「せん妄 delirium」のプレゼンをしてくれました。
そして、森井先生が「超高齢者の降圧治療」についてHYVET Study を使ってプレゼンテーションしてくれました。
この2つは「知識のまとめ方」から考えると、非常に対照的なテーマなのです。
歴史が長くてまとめきれないテーマ・・せん妄
まず「せん妄 delirium」です。
普通にGoogleやPubmedを検索すると、大量の情報がひっかかってしまいます。
確かにいい情報が多く、すぐに役立つ知識が手に入るんです。
しかし、全体像がとらえられない。これが問題です。
臨床家の実力としては、全体像を把握している、歴史的な流れを知っていることが大事だと、うちの勉強会では考えています。
ところが、ごく普通の話題ほど全体像がわかりにくいのです。
歴史があって一般的なテーマ、common disease では実はよくあります。
血圧や高脂血症を、歴史的経過から説明出来る人はほとんどいないはず。
疫学が発展しつつあるのはこの50年ほどです。
コンピューターの登場によりデータが集められ、貯められ、解析されるようになりました。
さらに、ネットの普及により、それらを共有できるようになりました。
しかし、私たちは膨大なデータを取り込めずにいます。
血圧に関する研究の、歴史的な流れすらプロの臨床家が把握出来ないんですよ・・・
どうしたらいいのでしょうか?
答えは無いのですが、現在のベストを考えつつ、進んでいくしかありません。
教科書は1つの選択肢です。Cecil medicine と、メルクマニュアルは参考になりました。
しかし、時間的な経過とか様々な論文からの知見は載っていないのはもの足りません。
レビューという手もあります。
でも、今回は良いレビューがないテーマでした。
それに、せん妄の論文は症例対象研究やコホートが多くて、それらのばらつきも大きくシステマティックレビューやメタアナリシスになりにくそうです。
もちろん、ガイドラインも重要です!
せん妄は、英語ならば良いガイドラインが多いと感じました。
しかし、長い!120ページあるオーストラリアのガイドラインを筆頭に、大作が目立ちます。それだけ歴史やエビデンスが多くて、書くことが多いのでしょう。
せん妄に関して、一番参考になったのはDynamedのdeliriumの項目でした。
まあハッキリ言って、全くまとまっていません
。改善の余地はまだまだあります。
記載の方法としては、教科書の説明と関連論文のちょっとした紹介がされているんです。
記述量も多い!
通常では、読み切れない量でした。ワードで20ページになりましたから。。
これにさっと目を通して、ガイドラインをみるとかなり理解しやすかったです。
しかし、これだけでは不十分ですね。
ガイドラインにせよ、二次文献にせよ非常にコアな情報をまとめています。
内容が純粋すぎて、これをそのまま利用するのは、難しいんですね。
例えば患者さんの家族に「あなたのお母さんはせん妄という状態ですよ」と話すときに、どんなふうに話したら良いんだろうか?
病棟の看護師さん達に、せん妄について説明するにはどんな資料を作ったらよいのか?
患者さんへの説明は、JAMAが説明用のパンフレットのようなものを作っているようです。
看護師さん達への説明は、カナダやアメリカの看護師協会がレクチャー用のガイドラインを作っています。そういうのを利用して、情報をわかりやすく広げられるように工夫をしなくてはいけません。
さて、二次文献やガイドラインを理解するために、患者さんについての話があるとより具体性がまします。今回もせん妄の理解に役立ったのがJAMAの論文でした。
http://jama.ama-assn.org/cgi/content/extract/300/24/2936
レビューとは言い難いですが、ケースレポートを中心に論文の知見がまとめられています。
患者さんのことを考えながら、資料をめくると理解しやすいのです。
Dynamedは論文1つ1つを羅列していくので、たとえばリスクファクターを4つ挙げた論文も5つ挙げた論文もそれぞれ並んで紹介されています。そんなのまとめて書いてくれたら量が少なくなるのに・・・ 
でも、そういう記載方法なのです。まとまりがない。
ケースレポートと組み合わせたことで、必要な部分とそうでない部分がはっきりしました。
ケースレポートは何通りもあったほうが良いでしょう。
JAMAの記事は、ターミナルステージの癌患者さんのケースでしたが、アルコールや薬物の副作用、肺炎や骨折に伴うせん妄のケースを積み重ねていくと、せん妄の全体をカバーして理解が可能になると思います。
最初はどうして、ケースレポート的な記事がJAMAに載るのかわかりませんでした。
後になって全体像を理解すると、ケースレポートを中心に医療情報をまとめたJAMAの記事が、せん妄を俯瞰するための有力な方法であることがよく判ります。
医療情報を、種類によってどうまとめていくのか。
ひとつひとつのテーマや疑問を大事にしないと見えてこない問題点ですね。
なんでもかんでもRCTを探したり、二次文献を読んだら終わり、なんてのは嘘です。
参考資料
せん妄の評価方法 CAMトレーニングマニュアル日本語版
http://www.icudelirium.org/delirium/training-pages/Japanese.pdf
メルクマニュアル せん妄
http://mmh.banyu.co.jp/mmhe2j/sec06/ch083/ch083b.html
エビデンスが少ないテーマ・・・超高齢者の降圧治療
実は「80歳以上の超高齢者の血圧を下げた方が良いのかどうか」は疫学データに乏しいのです。
MRFITやフラミンガム研究では、コホート研究としては血圧が高い超高齢者は心臓血管、脳血管疾患の発症率が多いことが判っています。
しかし、もう一歩踏み込んだランダム化比較試験は出来ないのか?
というのがジレンマなんですね。
お年寄りの血圧治療・・そんな普通のことですが、なんとデータが十分にないのです。
あるんですねぇ・・隙間ってのは。
こういう分野では、Dynamedを調べてもあまり記載がありません。
4ページほどありますが、あまりポイントがとらえられたものではない。。
この分野では、森井先生が紹介してくれた論文HYVET研究と、INDANA研究を何本か読むことで、流れから最新の論文までを網羅することになるといっても良いでしょう。
このように、テーマによって学び方は変わります。
毎月のお題に、最もあったまとめ方で知識を提供していくことが、これからの勉強会主催者には必要なのだと感じました。
HYVET研究
ホームページ
http://www.hyvet.com/pro/Results.asp
結果のスライドをダウンロード出来ます。また専門家のコメントが画像でみれます。
英語の勉強になりますよ!
http://content.nejm.org/cgi/content/full/NEJMoa0801369
これはNEJMの論文のページ
http://mblog.excite.co.jp/user/intmed/entry/detail/?id=6965443
http://blog.m3.com/reed/20080511/1
いつも勉強させていただいているブログ
http://www.ebm-library.jp/circ/trial_ACC_2008.html
循環器トライアルデータベース
INDANAはこちら
Age-specific relevance of usual blood pressure to vascular mortality:
a meta-analysis of individual data for one million adults in 61
prospective studies. Lancet 2002;360:1903-1913.
Turnbull F.Effects of different blood-pressure-lowering regimens
on major cardiovascular events:results of prospectively-designed overviews of randomised trials.
Lancet 2003;362:1527-1535.
Effect of antihypertensive treatment in patients having already suffered from stroke. Gathering the evidence. The INDANA (Individual Data Analysis of Antihypertensive intervention trials) Project Collaborators. Stroke. 28 (12): 2557-62, 1997