RCT 運動指導について

Last-modified: 2008-10-26 (日) 19:08:02

じゃあ運動の指導してよ!

病院で健康作りのための運動指導をしてほしいという人も多い・・・ということで出来たのがこの研究。
Effects of Physical Activity Counseling in Primary Care
The Activity Counseling Trial: A Randomized Controlled Trial
JAMA, August 8, 2001―Vol 286, No. 6
http://jama.ama-assn.org/cgi/content/full/286/6/677
です。
http://www.clinicaltrials.gov/ct/show/NCT00000551?order=1
この論文の計画云々については↑ホームページもあるので、見て下さい。


ランダム化比較試験で、3群に参加者を振り分けた研究です。
2年間の追跡期間を設けています。
参加者は6~7割が白人(アジア人含む)、2~3割が黒人で、年齢は平均約50歳。
BMIという肥満の尺度を表す数値は、平均29-30ぐらいです。
これは、160cmなら78kgぐらい、170cmなら87kgぐらいの体重・・・太ってますよね。
かなり。

太っていて運動しないといけない。と言われている人に、病院で運動の指導をしたランダム化比較試験

ということになります。
さて、3群に振り分けるのですが、その内容です。

1)アドバイス群(292名)
医者のアドバイス、運動指導用のパンフレット(的なもの?)を渡す・・・のみ

一番軽い方法ですね。それでも普通の日本の外来よりも親切ですが。。

2)アシスタンス群(293名)
1)の方法に加えて、メールのやりとり、行動カウンセリング(behavioral counseling)が加わります。

これも大変そうですよね。。

3)カウンセリング群(289名)
1)2)の方法に加えて、電話での定期的なカウンセリングと行動療法に関する教室への出席。

毎週の電話指導ですよ。運動とかカウンセリングの教室に通うんですよ・・信じられないぐらいの強力な指導だと思いませんか?
しかも、2年間続けるんですよ (^^; (^^; !!


・・・気を取り直して。。以上の3つのグループに参加者を振り分けて、比較対照したわけです。
ランダム化比較試験としては、少し脱落が多いかもしれませんが、しっかり作られた研究だと思われます。

驚くべき結果!

結果は上記の論文の図を見て欲しいのですが、うーむ・・と思わされました。

RCT physical activity counselingfig2.JPG

6ヶ月の時点では、心肺機能(VO2Max)も、自己申告の運動量も、男女ともにかなりの上昇を示しています。
運動を始めてすぐだから、そりゃ当然だ、という感じ。
ところが、2年経つと心肺機能は低下して元通りになってしまうのです。

RCT physical activity counselingfig3.JPG

しかし!さぼっているわけではなさそうで、自己申告の運動量は、多少は落ちますが、研究参加時よりは運動量が増えています。
95%信頼区間の幅がそんなに広くないので、全員が虚偽の申告をするのでもなければ、運動量はそれなりに維持されているのです。
これは人間の身体の性質として心肺機能は運動に慣れて下がっていくことが予想されますね。

つまり、

心肺機能、運動量はともに6ヶ月でピークを迎える。
2年後には、運動量はどのグループも運動開始時よりも多いまま維持されているが、心肺機能はもとに戻ってしまう

さてこれはどう考えたらよいのか?不思議だと思いませんか??

悪く考えると

全員が運動をやったつもりで、全然やってない。
だから、運動量は多いように言うけど(もっと悪く解釈すると嘘かも?)、運動能力には出てしまう。
まあ、そりゃそうかもしれません。
かなり可能性は低いですが。
しかし、この考えだけでは広がっていきませんね。

前向きに解釈をしてみましょう

運動というのは、技術的に向上するので、慣れてくると心肺機能はあまりつかわなくても、同じ強度の運動が出来るようになります。パフォーマンスレベルが上がるわけですね。
心肺機能が低下しているのは、その運動強度に馴染んだ、と解釈もできるわけです。
とすると、半年ぐらいをすぎたら運動強度をあげないと、せっかく上がった心肺機能を維持できないことが予想されます。
たしかに、スポーツ選手なんかがトレーニングしているのに体力がもたなかったりするのをテレビで見ることはよくありますよね。
いつもどおりの調整をしてきた、とかいう選手が体力が持たないこと・・見たことありません?
ボクシングやK-1なんぞでよくある風景だと思います。
心肺機能を上げるためのトレーニングは、心肺機能を指標にしないといけないんですね。
運動量では、心肺機能をあげるための指標にしてはいけないんでしょう。
スポーツマンには、これは要注意のことだと思います。

ここで、運動の異なった目標が2つ見えてくる思います。

[tip] アスリートとしての運動なら・・
心肺機能をあげる(ハードな運動をする)には、半年ぐらいがめど(今回の論文は運動してない人が対象だけど、半年ぐらいで心肺機能が上がっている)かつ、運動強度は適時アップし続けないと心肺機能は下がってしまう。
[tip]病気の予防としての運動なら・・
( これはコホート研究から学ぶこと1の結果からです)運動を増やした人では、特に循環器系統の疾患の発生率は低下する。おそらく心肺機能は関係なくこの効果はみられる。この効果は、軽い運動でも十分にみられる。散歩やガーデニングなどの軽労働でOK。


運動といっても、この2点は分けて考えていかないといけませんね。
「運動しよっかな~」と思い立ったら、よくジョギングとかしますよね?
ウォーキングにしても、ペットボトルをもったり早足であるいたり、軽い運動の効果をねらっているのか、心肺機能をあげたいのか、これでは目標がごっちゃになってしまいます。
で、体力がついてきた感じがしたり、締まってくると満足したり・・・
でも、もう少し目標を絞れそうです。

(^-^ ハードな運動をしたい!
マラソンに出るなんて目標を立てたとすると、数ヶ月のトレーニングで心肺機能が上がったところで参加するのが良いでしょう。逆に1年間漫然と走ったりすると、記録は出ないでしょうね。
マラソンが健康作りになっているか?実はこれは微妙です。
長いこと続けるなら、もちろん健康には良いでしょう。でも「マラソンには二回出た。今は走ってないけど・・」ということでは、疾患の予防になっているとはいえないでしょう。

(^-^ 健康に良いことをしたい!
となると、三日坊主というのではだめです。
体力がつかなくても、体重がおちなくても無理なく続けられる運動を選択することが大事。
万歩計のシステマティックレビューも読みましたが、そういう簡単な工夫でも良いのです。
また次回読み解きますが、生活習慣を変えた(よく歩くとか)場合と、ハードな運動をしてもらった場合を比較した論文も出ています。



他にもこの論文から得られたポイントがあります。
アドバイスの群は一番手がかからなくて外来でも出来るような方法なのです。
なんと、

楽に指導しているだけの1)のアドバイスグループと、他の2)3)の熱血指導グループでは運動量の変化、心肺機能の変化ではあまり大きな差は見られない!
つまり、内科医がパンフレットを使って運動の必要性を説明することで、行動変容が起きる可能性がある。

女性のアドバイス群は一番成績が悪いのですが、これも統計的な有意差があるかどうかは微妙なところです。
くどいですが、

カウンセリングやメール、電話までして指導した群も、内科医が運動を指導してパンフレットを渡しただけの群も、運動量の変化にはあんまり関係ない・・・かもしれない。

ということが言えます。
みなさんも、どんどん運動は人に勧めましょう!
僕は雑誌の「ターザン」を買っていて、古い分はすてずにとっておいて、運動が必要な患者さんにあげてます。
(結構そういう患者さんは少ないので、個人的にとっておいた雑誌でも十分に足ります)