20151129阪神調剤薬局勉強会

Last-modified: 2016-01-01 (金) 11:35:03

阪神調剤薬局さんで勉強会をさせていただきました。
年間4回の勉強会を担当させて頂いています。
二つのグループを作って開催。
薬学生さんも2人。医学生さんも1人来てくれました。

論文

二本を使いました。
基本はRCTを読む勉強会だったので・・・

Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes,and Mortality in Type 2 Diabetes
September 17, 2015, at NEJM.org.
DOI: 10.1056/NEJMoa1504720
ClinicalTrials.gov number, NCT01131676

これがメインです。
スポンサーはBoehringer Ingelheim and Eli Lillyです。
Empagliflozinはまだ日本未承認のSGLT2阻害剤ですが、近いうちに使われるようになるでしょう。


僕は知らなかったのですが、糖尿病業界では「凄い論文がでた」と話題だったのだそうです。


今年は補助的にシステマティックレビューを使うようにしています。

Comparative Efficacy and Safety of Antidiabetic Drug Regimens Added to Metformin Monotherapy in Patients with Type 2 Diabetes: A Network Meta-Analysis
PLOS ONE | DOI:10.1371/journal.pone.0125879 April 28, 2015

こちらは無料で読める論文ですね。

吟味の結果

話題ではありますが、かなり問題のある論文です。
一番問題だと思うのは、
・非劣性試験である
・優越性も示している
という点ですね。
同じ図で、非劣性と優越性の両方を書く、という離れ業をしているんです。
そんなことは本来ありえないと思いますし、あまりにもきれいに結果がマージンの間に入っている。。
何か操作してるんじゃないか?と疑いたくなってしまうぐらい。
だからこそ、凄い論文とよばれるのかもしれませんが。

ランダム化

Study Designのところに、
・42カ国、590箇所で行われた多施設共同研究である
・ランダム化比較試験である
・ダブルブラインドで、プラセボ対照の研究
・Empagliflozinは一日一回で10mgか25mg⇒3群の比較試験
・アウトカムはcardiovascular eventsで、691件のアウトカムが発生するまで続けられた

参加者

・18歳以上の2型糖尿病である
・BMIが45以下
・eGFRが少なくとも30ml/min/体表面積の1.73平方メートル
・心臓血管系の疾患がある
・ランダム化の12週前までは血糖低下薬を内服していない場合HbA1cは7.0%~9.0%
・ランダム化の12週前までに血糖低下薬を内服している場合はHbA1cは7.0%~10.0%
とあります。
ところが、心臓血管系の疾患内訳や、除外基準についてはすべてSupplementary Appendixにあるので、この論文からは読めないんですね。


たぶんSuppleの図をここに書くと、問題が生じるので詳細は書きません。
この時点で、かなり問題なる書き方だと感じました。
Baseline Characteristicsが載っていないんです。


この薬は、肥満の糖尿病患者に対して使われる薬です。
なので、どの程度の肥満なのかは必ず知らないといけない。
民族差も大気いように思います。
この論文こそ、Baselineが絶対に必要です。
ちなみにBMIは30前後で、年齢が62-63歳前後で7割が男性でした。
壮年の肥満患者が対象の研究なのです。
かなり特殊なサンプルを用いた臨床研究と言えます。


非劣性試験である

この研究もそうですが、糖尿病の新規薬では、プラセボを対象とした非劣性試験というのが結構みられるようになってきました。
これはおそらく、DPP4阻害剤が登場した時に、重大な副作用が出たという報告が相次いだのが始まりです。
プラセボに対して非劣性であることを、安全性が担保されたという風な解釈にして発表するのがパターン化されているようですね。
でも、アウトカムが副作用ではないので、そもそもナンセンスなデザインだと僕は思っています。

マージンの設定

予測される効果から、ハザード比で計算して1.3をマージンにしています。
なんで1.3なのか?は書いていないですね。
1.2はFDAも勧めています。なぜ1.3?


それと、four-step hierarchical-testing strategyというものを考えて使っています。
・noninferiority for the primary outcome
・noninferiority for the key secondary outcome
・superiority for the primary outcome
・superiority for the key secondary outcome
だから非劣性と優越性を一緒にやるなっていうのに・・・
かつ勝手に4段階評価する・・とか書いていますが、そんな方法は今まで無かったんじゃないの?

結果

いろいろ感じますが、結果に進みます。
Resultsより・・
プライマリアウトカムは「death from cardiovascular causes, nonfatal myocardial infarction, or nonfatal stroke」ですね。
心血管系のイベントを複合してカウントした数です。

Empagliflozin primary.JPG

効果はあるわけですね。そこは良い薬なんだと思います。
Empagliflozin群では490 of 4687 [10.5%]で、プラセボ群では282 of 2333 [12.1%]がプライマリアウトカムを発症しました。
ここで、非劣性を検討すると95%信頼区間で0.74 to 0.99; P<0.001 for noninferiorityだと。
そして、優越性の検討でP = 0.04 だと記載があるんです。

The primary outcome occurred in a significantly lower percentage of patients in the mpagliflozin
group (490 of 4687 [10.5%]) than in the placebo group (282 of 2333 [12.1%]) (hazard ratio in the
empagliflozin group, 0.86; 95.02% confidence interval [CI], 0.74 to 0.99; P<0.001 for noninferiority and P = 0.04 for superiority) (Fig. 1A).

そんなことがあり得るの?
というかんじ。
だからマージンが1.3なのかな?


それともう一つ。

Empagliflozin survival curve.JPG

この文献のFig3です。
HbA1cの値の生存曲線です。
面白い!と思いました。
たぶんSGLT2阻害剤の特徴だと思いますが、時間が経つにつれて効果が薄れていくのが分かります。
右側のほうが、Empagliflozin群のHbA1cが上がっていきますね?


そして、この薬は10mgでも25mgでもそんなに効果が変わりません。
HbA1cが上がってきたからといって、追加する必要はないんです。
というか25mgの製剤いらんよね。

いろいろ考えて

良いお薬なんだと思います!
アウトカムは他にも図がありますが確かに心血管イベントが減っている。
今まですごく苦労した、病的肥満を合併した糖尿病に効く薬なんですね。
10mgなら、病的肥満の方に使っても良いかもしれません。。といっても数年の間しか効かないので、その間に頑張ってコントロールをよくしないといけません。
でも、その間も25mgは不要でしょうね。


今回は載せていませんが、副作用も思ったより少ないみたいです。
Plosのシステマティックレビューをみても、そんなに副作用は多くないという結果でした。
報告が漏れていたり、隠蔽されていなければ、ですけれども。


でもこの論文の書き方は頂けません。
Baselineはこの文献に必須です。
そして、非劣性を無理に作るのもやめたらいいのに・・・意味ないでしょう!
優越性をしっかり示してほしいと思います。いたずらに複雑になるだけ。


良い薬を知ることができて、面白い勉強会でした!