今年の神戸大学薬剤部CASPはマインドフルネスをテーマにしたRCTを読みました。
まず、
①家接哲司教授に講演をお願いして、マインドフルネスの体験もさせて頂いた。
②RCTの解説
③補助的にシステマティックレビューの解説
④文献の吟味
という流れであった。
これも、サポートして頂いた先生方のおかげです。有難うございます。
マインドフルネスについてのまとめは、別のページに書いたのでそちらを参照してください。
マインドフルネスの講義まとめ
やはり本を読まないと分からない。。

「30のキーポイントで学ぶ マインドフルネス認知療法入門」

「マインドフルネス・ストレス低減法ワークブック」
家接教授の翻訳本を2冊御紹介しておきます。
それにしても、マインドフルネスが面白い!
僕も45歳になって、いろいろ悩んだり考えることが多い。
様々な取り組みの要になることを求めていたのが、マインドフルネスかもしれないな。。と感じた。
僕は医師として働きつつ、EBMワークショップや関係した活動に取り組んでます。
本業では、腹水治療に取り組んできました。。
さらに、他にも個人的なライフワークがあり、子育てもしています。
そういう事々が、バラバラに感じることがあるんです。
中途半端さに強い不安やストレスを感じることもあります。
EBMを学ぶことと腹水が、自分を違う方向に引っ張っていく。
人生における違うベクトルの活動を、つなげていく作業をしたい・・・と思っていたところなんです。
マインドフルネスには、自分自身の受け皿、器の部分を磨いてくれそうな気がします。
EBM Step3 論文の吟味
さて論文です。
吟味したランダム化比較試験はこれ。
Mindfulness significantly reduces self-reported levels of anxiety and depression: Results of a randomised controlled trial among 336 Danish women treated for stage I–III breast cancer
Hanne Wu¨rtzen, Susanne Oksbjerg Dalton, Peter Elsass, Antonia D. Sumbundu,
Marianne Steding-Jensen, Randi Valbjorn Karlsen, Klaus Kaae Andersen,
Henrik L. Flyger, Anne E. Pedersen, Christoffer Johansen
European Journal of Cancer 49 (2013) 1365–1373
補助的に使ったレビューはこれ。
A meta-analysis of the benefits of mindfulness-based stress reduction (MBSR) on psychological function among breast cancer (BC) survivors
Hua-ping Huang1,• Mei He1,• Hai-yan Wang1,• Mengjun Zhou
Breast Cancer DOI 10.1007/s12282-015-0604-0
使用したシナリオ
あなたは、とある病院の緩和ケアチームの一員である。
乳癌で術後化学療法をうけているAさんを購買部で見かけて、なんとなく話しかけた。
Aさんは50歳で、乳癌はStage IIbと診断をうけていた。
Aさんはジム通いが好きな、いかにも活発な女性で、とても50歳とは見えない。
しかし、最近なんだか元気がない。
あなた:こんにちは。お買いものですか?
Aさん:ああ・・・こんにちは。
Aさんは初回化学療法のために入院してから、表情がすぐれなかった。
カンファレンスでカルテを見ると体重も少しずつ落ちている。
あなた:手術してから、大丈夫ですか?夜は眠れますか?
Aさん:そうねぇ…。眠れないですね、すっきりしなくって。
あなたとひとしきり話すと、Aさんは「こんなに話してしまって・・お忙しいのに、時間をとらせてすみません。」と言って、部屋に帰った。
あなたは、緩和ケアチームの精神科医に相談した。
Aさんが抑欝状態であることは、以前からチームで問題になっている。
精神科医:Aさんは、化学療法が始まってから調子が悪いね。エクササイズも好きな人だし、マインドフルネスをお勧めしてみようか?
あなた:マインドフルネス?勉強会で論文を読みましたね。でもグーグルの話しか覚えてないなぁ・・。
精神科医:もう、臨床心理士の人達も使っている技術なんだよ。乳癌患者さんの研究が多いし、Aさんって、ジムに通ってたよね。向いてるんじゃないかな?
あなたは帰りの電車の中で、精神科医に渡されたマインドフルネスのRCTをスマートフォンで読んでみた。
シナリオのPICO
P:乳がん StageⅡb 50歳 術後化学療法の女性
ジム通いが好き 初回化学療法で入院してから元気がない 体重が落ちている 眠れない 抑うつ状態 気にしぃ
記載はないが気になる情報
家族構成 他の現病歴 既往歴 投薬状況
鬱の重症度 ⇒鬱の原因は何だろう?
お金(医療費)?
化学療法がつらい?
入院の閉鎖空間が辛い?
化学療法の種類は? うつのレベルは?副作用? 食欲は? 家族構成は?)
| I | C |
| MBSR | MBSRしない |
| 話を聞く | 聞かない |
| 副作用に対する支持療法 | 何もしない |
| 運動する | 運動しない |
| 認知行動療法 | 安定剤使用 |
| 抗うつ剤 | なし |
| 漢方薬 | なしor他の薬or他の治療法 |
| カウンセリング | なし |
| 化学療法をやめる | 化学療法継続 |
O: 抑うつ状態の改善、眠れる、QOL改善、表情が明るくなる、食欲・疲労感の改善
以下は、論文の吟味から。
A1 その試験は焦点が明確な課題設定がなされたか?
論文のPICOで、方向性を確認します。
P:乳がん女性(StageⅠ~Ⅲ)336人、18~75歳、術後3ー18ヶ月、2008~2010に2つの病院で手術を受けた患者。
除外:精神疾患、アンケートの質問に答えられない人、10年以内に別のがんに罹患した人。
I:MBSR+通常のケア
C:通常のケアのみ
O:不安、気分の落ち込みのスコア(SCL、CES-D)を用いて、直後、6か月後、12か月後の症状を測定する。
みつかった問題点として、PICOの設定が後付けである(NCT00990977)ことが判明しました。
また、スコアは他にも測定する予定だったようで、どういう経緯でスコアが選ばれたのかは書く必要があると思われました。
A2 その試験は設定された課題に答える ための研究方法がとられていたか?
カテゴリー:治療で、ランダム化比較試験でした。
A3 患者はそれぞれの治療群にどのように割り付けられたか?
ランダム割付で、コンピューターで発生させた乱数で10名ごとに割り付けた(ブロック法?そうとは書いていないけど?
患者の集め方は、前述した二つの病院で手術をうけた乳癌患者さんに手紙を出し、返答があった患者に電話をかけて除外基準に該当していないか確認。
さらに電話にて情報提供を行っている。
割付結果(Table1)では、調べた結果は均一であった。
足りない情報として、教育レベル、宗教、うつの既往、現在服用している薬(抗うつ薬など)がわからなかった。
A4 研究対象者(患者)、現場担当者(医者など)、研究解析者は割付内容を目隠しされていたか?
目隠しは無かった。
どうしてもばれてしまうだろう。。
A5 研究にエントリーした研究対象者全員が、研究結果において適切に評価されたか?
脱落人数が結構多い。
ランダム割付が336名だったが、追跡できなかったのは35名+18名で、全体の16%に上った。
20%以下なので許容範囲だが、結果が覆るかもしれない。
コントロール群で、最後までアンケートをとれなかった人たちが多いのだが、もしかしたら連絡を忘れていたのか?と思ってしまう。
ITT解析という言葉がみられる。
研究の流れにも問題がありますね。
まず、参加呼びかけを1208名にしています。
「マインドフルネスっていう瞑想をしませんか?」
とでも、電話したんでしょうか・・・
なんと、336名しか研究に参加しませんでした。この大量のお断りが意味するところが深そう。。
怪しい!と思ったのでしょうか。
それと、コントロール群(N=168)を見てください。
フォローアップの内訳が書かれていません。
また、フォローアップ途中では135名だったのが、12か月後のフォローアップでは150名に人数が増えています。
こういう、途中で人数が増えたり減ったりするのはかなり問題です。
個人的には、コントロール群のフォローをし忘れていたんじゃないか?と思います。
マインドフルネスの準備で大変だったんじゃないかな?と。
168人を8週間2時間のコースに入れて、ずっとディスカッションしながら瞑想の練習をさせるんですよ。
そりゃあ、介入群はすごく大変です。
おそらく数名の講師で対応しているはずですし。
この文献の問題点の一つです。
あと、余談ですがこの文献にはもう一つの問題があります。
Clinicaltrials.govで検索をすると、アウトカムが少し違うんですね。
臨床研究のトライアルデータベースをクリックしてみましょう!
プライマリアウトカムはSCL-90r Depression and anxiety subscales。これはよし。
セカンダリアウトカムが、
clinical databases, containing information on BC (stage, treatment protocol) and comorbidity (other acute or chronic physical or psychiatric diseases) [ Time Frame: baseline - 12 months ] [ Designated as safety issue: No ]
standardized validated psychometric scales [ Time Frame: baseline - 12 months ] [ Designated as safety issue: No ]
SCL-90r, NEO-PIR, FACIT-Sp, CES-D,MDI, WHO5, Inter99, IPAQ, FFMQ, BCPT-BEES,
とあります。いっぱいでしょ??
書いてほしいですよね。
それと文献からは、プライマリアウトカムが「depression」だ、とはあります。
そうじゃなくて「SCL-90の値だ」と書くべきですよね。
A6 研究対象となった介入以外は、両方のグ ループで同じように治療が行われたか?
あまり書いてなかった。
A7 その研究の対象患者数は、偶然の影響を小さく留めるのに、十分な数であったか?
最低300人が必要で、336人集めている。
B8a 結果はどのように示されたか
Table2に4分値で記載がある。
マインドフルネスの方が、コントロール群よりも抑欝スケールの点数は良かった。
図の黒い●はマインドフルネスのラインで、白の□は通常のケアです。
(ちなみに通常のケアは、病院にいつでも来てもらって相談に乗る・・という本当に普通のケア)
実践が75%のラインで、点線が25%のラインです。
四分位数を用いた表現なわけですね。
黒い●のラインは、白い□のラインよりも下にありますね?
SCL-90rやCES-Dといった抑欝を確認する質問票で点数をつけると、このような結果になります。
論文からも少しわかりにくいのですが、CES-Dは16点以上を抑欝と判定するのだそうです。
SCL-90がよくわかんない。。変化を示しているのかな??
図からは、研究に参加した時が一番抑欝に近くて、その後改善していくのがみえます。
これはコントロールも同じ傾向なので、手術から日にちが経つと元気になっていくようなイメージでしょうか。
マインドフルネス群は、それがより早く、より点数が低い状態になっていくようです。
難しいところですね。
この結果をみて、そんなに意味がないようだ・・という結論を得たグループが多かったのです。
ただ、欝の人をみるスケールで、欝では無い人たちを測定しているわけで・・・
この研究の結果をみるために、これは適切なスケールだったのだろうか?
とすごく思います。
じゃなにが良い指標なのか???
ワークショップ後も考えていますが、いいのが思い当たりません。
C10-12 その結果はあなたの現場での対象者に当てはめることができるか?
「図からは、ほとんど効果が無さそうに見える。」
「患者さんが割付内容を知っているので、結果に影響を与えている可能性がある。」
「脱落が多くて治療がそもそも、つらいのかもしれない。」
などの意見がでました。
シナリオへの適応方法をどうするのか? [#s04ad640]
・元々体を動かすのが好きならばマインドフルネスよりも体を動かす方がよいのでは
→疼痛はどうだろうか
→どんな手術をしたんだろう
→全摘?温存?
・とりあえず勧めはする。実際にやるかは患者さん次第
C12 この臨床試験結果に基づいて、健康政策や方針、医療内容を変えるべきか?
医療チームの一員としてあることだけを伝える、という意見が大半でした。
以上が、ワークショップの内容まとめをさらにまとめてみたものです。
いろいろな問題をもつ文献で、もっときれいにまとめたらBMJとかLancetが狙えたんじゃないかな?と思うんです。
特にイギリスはマインドフルネスを推進していますから、BMJですかね?
でもテーマの難しさをすごく感じました。
乳癌の術後は、けっして全員抑欝になっていなかったんですね。
抑欝じゃない人達を、欝病のためのスケールで測定するのが有効なのだろうか?
世の中では、普通の人達がマインドフルネスに取り組むことが増えているわけです。
例えば、Googleやインテルでは研修にマインドフルネスが入っています。
健常人が効果を実感しているから、取り組みが多くなっているわけです。
彼らは、どうやってアウトカムを測定したのでしょうか?
Googleのハイパーな人たちに抑欝のスケールはあわないでしょう。
今後、彼らは欝になるのでしょうか?ストレスが凄く大きいから?ハイリスク群?
そういうわけではなさそうです。
世の中のマインドフルネス好きな人たちは、決して欝ではない。
マインドフルネスの効果を測定するアウトカムは、何が正しいのでしょうね?
乳癌の術後の人達を欝や他のスケールでみても、たぶんうまく効果を表現できていないと思うんです。
他の研究をみても、同じ問題を感じました。
臨床研究でマインドフルネスの効果をみるために適切な指標ってなんだろう?
この点は、薬物治療と大きく違うところですね。
薬物治療はアウトカムが設定しやすいです。
やはり疾患を治し、予防することが重要で、かつ明確な指標になります。
マインドフルネスは人生に何らかの良い効果をもたらしてくれる、と実感する人が圧倒的に多いので、大きな潮流となって取り組む人が増えています。
この人生にいい感じで効く・・・これをアウトカムに落とすのが難しいわけですね。
でも、考えたらなんでもそうです。皆さんが、朝にランニングをする。
一週間ほどで、体調が良いと感じたり、身体が締まってきたように感じたとしましょう。
じゃあ「体調が良い」のはどうやって計測しますか?
身体の締まりはどうやってアウトカムにしますか?
体重の減少では、表現できませんよ?
何か趣味をはじめた。充実感をゆるーく感じて、いい感じ。
じゃあ、それを測定してみましょう。。無理ですよね。
今回のワークショップでは、しみじみと疫学研究の難しさを感じました。
当日のプログラム
2015 年 12 月 20 日(日) プログラム
10:30~ 受け付け (チューターミーティング)
10:55 開催のあいさつ 神戸大学薬剤部部長 平井みどり 先生
11:00~13:30 マインドフルネスの講演、実践 名古屋経済大学短期大学部 家接哲次 教授
13:30 ~14:00 EBM概論&ランダム化比較試験の解説
14:00~15:30 スモールグループディスカッション1
15:30~16:00 フィードバック
16:00~16:30 スモールグループディスカッション2
16:30 フィードバック2
17:00 閉会
17:15~ スタッフミーティング
18:00 終了