20160111ポーアイEBM倶楽部

Last-modified: 2016-01-12 (火) 13:30:30

2016年初めてのEBMを学ぶ会でした。

ポーアイEBM倶楽部は、兵庫医療大学の清水先生をトップにした勉強会。
沢山の先生方を巻き込んでいく清水先生、、今回は薬学教育の天野学教授の参加が実現しました。


【日 時】平成 28 年1 月 11日(祝)13:00~18:00
【会 場】グランフロント大阪北館2F The Lab. Active Studio
グランフロントで開催ということで、すごくかっこよかった!

20160111EBM倶楽部.jpg

主催: 神戸市、兵庫医療大学社学連携推進機構
ディレクター:天野 学(兵庫医療大学)
コーディネーター:高垣 伸匡(千春会病院)
チーフチューター:清水 忠(兵庫医療大学)
副チーフチューター:上田 昌宏(兵庫医科大学病院)、豊山 美琴(兵庫医科大学病院)
チューター:
室 親明(兵庫医科大学病院)、佐々木 順一(広島国際大学)、
安田 知浩(大和高田市立病院)、船戸 一晴(ゆう薬局グループ)、
酒井 麻衣(神戸医療センター西市民病院) 


学生チューター:永田 実沙(摂南大学)、平田 加奈(摂南大学)、青木 洋(兵庫医療大学)
会場責任者:大森 志保(兵庫医療大学)


兵庫医療大学は、本当にスタッフも充実して学生さんの協力も素晴らしい。
今年から、自力開催をしていく方向で相談をいたしました。
僕が参加するのも、コーディネーターは最後で、お手伝い程度になります。
素晴らしい!


1月11日(祝)(13:00 開始)
12:30 チューターミーティング(グランフロント大阪北館2F The Lab. Active Studio)
12:30 参加者受付、プレアンケート配布
13:00-13:10  ディレクター、コーディネーター挨拶(天野、高垣) 10分


13:10-13:15 イントロダクション(上田) 5分
13:15-13:25 SGD (EBMへのイメージ & 自己紹介) 10分


13:25-13:45 レクチャー(1) 20分 「EBM概論 & シナリオ患者のPICO立て」(上田)
13:45-14:00  SGD 15分
14:00-14:20  発表4分 / グループ 20分
14:20-14:30  休憩 10分


14:30-14:50  レクチャー(2) 20分 「ランダム化比較試験の批判的吟味」(清水)
14:50-15:50  SGD 60分
15:50-16:15  発表5分/ グループ 25分


16:15-16:25  休憩 10分
16:25-16:40  レクチャー(3) 15分「結果の読み方、患者への適用」(清水)
そういえば、数値(RR、RRR、ARR、NNT、Oddsなど)について説明をいつも忘れています。
今回は清水先生が入れてくれました。
さらに、佐々木先生に層別化とブロック化のレクチャーをして頂きました。


16:40-17:10  SGD 30分
⇒ここが伸びましたね。
適用が伸びるのはすごくいいことですが、プログラムの工夫が必要かもしれません。
17:10 -17:35  発表5分/グループ 25分


17:35 -17:45  ロールプレイ 10分
17:45-17:55  ポストアンケート 10分
17:55-18:00 閉会の挨拶(清水) 5分
18:00-18:20 撤収
19:00-21:00 懇親会


午後から開催で、かつ撤収を必ず時間内にしないといけません。
大学でのんびりやれる時とはだいぶ違います。
それもまた練習ですね。

文献の吟味

シナリオ

2016年1月11日 第3回EBM倶楽部 シナリオ
あなたは調剤薬局で働く薬剤師です。
ある日、アルツハイマー患者Mさんのご家族Yさんが来局されました。


あなた:Yさん、こんにちは。
Yさん:こんにちは。今日も代理でお薬をいただきに来ました。
今回は先生からお薬を増やすと言われました…
あなた:本当ですね、今回メマンチンというお薬が増えていますね。
Yさん:物忘れはずっとなんですけど、最近夜に徘徊するようになってしまって…。
アルツハイマーが進んでしまったからお薬が増えたんでしょうか?
あなた:そうですね。このお薬はそのような使い方をしますね。
Yさん:そうですよね…あの、アルツハイマー病について家で私も調べてみたんですが、
病気の進行を抑えるにはビタミンを摂るといいって書いてるのを見つけて…
サプリメントとか飲ませた方がいいんでしょうか…?なんとか病気を抑えること
はできないんでしょうか…?
あなた:むむむ…


Yさんには一度帰宅していただき、あなたは文献を調べてみることにしました。
受付であずかったお薬手帳の内容と、今回の処方箋の内容およびMさんの背景は以下の通りである。


年齢84歳、女性、身長155cm、体重62kg
20年前より高血圧に対する薬物治療を受けている。
現在血圧は内服薬にて安定してコントロールされている。
10年ほど前から物忘れが激しくなり、アルツハイマー病と診断された。
最近腎機能の低下を指摘されている。娘のYさん夫婦と同居しており、内服薬は以前よりYさんが
管理している。
・お薬手帳
アムロジピン錠10mg 1日1錠 朝食後
ランソプラゾール錠15mg 1日1錠 夕食後
ゾルピデム錠5mg 1日1錠 就寝前
センノシド錠12mg 1日2錠 就寝前
ドネペジル錠10mg 1日1錠 夕食後
抑肝散 1日3包 朝昼夕食前
・処方箋
メマンチン錠5mg 1日1錠 夕食後

論文

Effect of Vitamin E and Memantine on Functional Decline in Alzheimer Disease
The TEAM-AD VA Cooperative Randomized Trial
Freeで読めます。
http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleID=1810379


アルツハイマー病の進行に、ビタミンEとメマンチンの投与は効果があるのか?
というランダム化比較試験。
今までの研究は短期間だったので、2年以上にわたる追跡期間を設けたという論文です。

シナリオのPICO

P:84歳女性、高血圧、10年前にアルツハイマー病と診断、腎機能低下がある。
ドネぺジルとメマンチンが処方されているが、シナリオからは何年飲んでいるかはわからない。
抑肝散も飲んでいる。
I:ビタミンのサプリメント
C:飲まない
O:アルツハイマーの進行を抑える、徘徊がおさまる、認知症による死亡を回避する、
寝たきりを回避する


などでしょうか。

論文のPICO

P:退役軍人病院に通院するmild~moderateのアルツハイマー病と診断されている患者
MMSEは12-26点、現在AChE阻害剤を処方されている
I:ビタミンE(tocopherol)の1000IU×2回を処方するのと、メマンチン10mg×2回処方の組み合わせ
①ビタミンEのみ
②ビタミンEとメマンチン
③メマンチンのみ
C:プラセボ(ダブルダミー)
O:
①プライマリアウトカムはアルツハイマーの評価であるADCS-ADLの改善
http://www.dementia-assessment.com.au/function/adcs-adl_scale.pdf
②セカンダリアウトカム
MMSE、ADAS-cog、CAS(caregiver activity survey)、副作用


テーマ的に、死亡率や罹病率、合併症など、ハードなアウトカムがないんです。
これが認知症やうつ病のエビデンスが難しいところ。
たとえばMMSEの点数が改善したからといって、本人に幸せかどうかわかりません。
乱暴なことを言うと、点数がよくても元気に徘徊されると、ケアする側は大変です。
怪我するかもしれません。
点数が少し悪化して、家からでなくなった・・でもニコニコして家族とご飯を食べているとしたら?
徘徊しているよりも、様々なことは改善するかもしれない。


それに、これらのADCS-ADLなどの評価もあくまでもスケール。
どれほど疾患の問題を反映するのかは、未知数なんです。

背景

RCTやコクランライブラリによるメタアナリシスがあるが、長期間投与したエビデンスがないため、RCTを作っている。


退役軍人病院でのスタディである。
問題も指摘されているので、読んでみましょう。

ランダム化

中央ランダム化で1-4のグループに1:1:1:1の割合で振り分けられている
サイトごとに層別化されている
Permuted blockで、ブロックのサイズもランダムに変化する

盲検化

患者、Caregiver、Site investigator、は治療の割付をしらなかった。
An independent data monitoring committeeが安全性、有効性を確認している。
⇒independentなので、ここもデータの扱いについては「独立」しています。

バックグラウンド

平均78歳、96-98%が男性でほとんどが白人・・やっぱり軍人病院なんですね。
学歴は結構ばらつきがありました。

その他の治療は等しい?

わかりませんでした。

追跡率

ITT解析ではないんですね。Per-protocol解析のようです。
追跡は出来ています。
ですが、内服ができていません。
adherence
Caregiverによる「トコフェノールを内服できていた日数の申告」によると・・

トコフェノール群65%
トコフェノールとメマンチン群68%

Caregiverによる「メマンチンを内服できていた日数の申告」によると・・

メマンチン群68%
トコフェノールとメマンチン群66%

サンプルサイズ

840名が必要という予想をしたものの、患者はあつまらずData monitoring committeeはリクルートの
延長を申し入れて、613名をようやく集めることができた。
珍しいですが、αが0.0083でした。
これは多群比較なので、0.05を6で割ったのだと思います。
6というのは4つのグループを6通りに比較したということでしょう。
そのため、当然サンプルサイズも大きくなるわけです。


この研究、4群になんてしなけりゃ良かったんだと思いますけど。。。

アウトカム

52件はフォローアップデータが無く、除外されたようです。約1割・・
さらに、さっきも書きましたが、アドヒアランスが悪い。

adherence
Caregiverによる「トコフェノールを内服できていた日数の申告」によると・・

トコフェノール群65%
トコフェノールとメマンチン群68%

Caregiverによる「メマンチンを内服できていた日数の申告」によると・・

メマンチン群68%
トコフェノールとメマンチン群66%

脱落が1割なのをワーストケースシナリオで考えると、半分近い患者さんが内服していない可能性も出てきます。
薬がどうこういう前に、内服ができてないんですよねぇ。。
この研究は、これに対してトコフェノールとメマンチンの血中濃度が上がっていることを1年目で調べています。
でもねぇ。。
1年目で調べてもさ。
内服ができなくなるのは、研究のもっと後なんですよね・・


といいつつ、結論です。まず下のfig2.
生存分析で、どの治療も95%信頼区間が重なっています。
普通に考えたら、統計的有意差無し。Fig2は他のスケールも載っていますので、論文を見てください。
基本的に有意差無さそう。

fig2 ADCS-ADL.JPG

そして、ADCS-ADLの結果は最小二乗法を用いた解析で、下の図の通り。
なんで有意差があるように出てきたのかがわからない。
必死で解析して、数値をたたき出したんだろうなぁ。。

fig4 dependence scale.JPG

こちらはTable2の結果。

table2 mean changes.JPG

ここだけみるとADCS-ADLは統計的有意差ありですね。
生存分析では内服してない患者さんの影響があって、こちらのTable2は内服してない患者さんは除いているのかもしれません。
結論Conclusionには、

We found that a dosage of 2000 IU/d of alpha tocopherol was effective in slowing the functional decline of mild to moderate ADand was also effective in reducing caregiver time in assisting patients.
Neither memantine nor the combination of alpha tocopherol and memantine showed clinical benefit in patientswith mildto moderateAD. These findings suggest that alpha tocopherol is beneficial in mild to moderateADby slowing functional decline and decreasing caregiver burden.

とあります。
データをみかえしても、有効とはとても思えないなぁ。。
ビタミンEの2000IUは、だいたい1300mgです。
アメリカには1gの錠剤もあるみたいですが、まあ大きい薬を使えば、飲むのは可能でしょう。


そもそも薬の効果をいうよりも、アドヒアランスが非常に低いので、とても治療をした結果・・とは言えないでしょう。
6割強しか、ビタミンもメマンチンも飲めていません。
錠剤の形、大きさが問題ではないことは、両方の薬で同じように6割しか飲めないことからもわかります。
内服していても、アルツハイマーが進行しているんです。
薬がのめないんです。
貼り薬ならまた違う結果だったのかなぁ。。


年間の死亡率は、ビタミンE群で7.3%、メマンチン群で11.3%、両方内服群で9.0%、プラセボで9.4%。
すごく高いですね。。
アルツハイマーの状態では、患者さんは1割近く無くなっていかれますのですね。



個人的にはビタミンEもメマンチンも、スケールが改善するような効果は無かったと思います。
(ほかのスケールも統計的有意差はでませんでした)。
さらに、死亡率をみて、疾患の最期の段階なんだなぁ。。という感想を持ちました。

適用

この薬は不要じゃないか?
という意見が大半でした。