KCEチェックシートを使ってみる1

Last-modified: 2009-01-11 (日) 09:33:54

通常のチェックシートでは、うまく吟味できない論文

はじめてチェックシートや、CASPチェックシートは優れたツールですが「RCTの長期追跡結果」の吟味は苦手かな、と先日から感じています。
RCTを追加で追跡した結果とか、コホート研究については、通常のチェックシートでの吟味だとポイントがずれるんですね。
ただ、こういう論文も非常に大事なのは間違いないですし、ベテランの先生方はやはり上手く解釈して利用しておられるように感じます。
そういう吟味に一歩でも近づくように、新しいチェックシートを作っていこうと昨年末から頑張っております。

KCEチェックシート ver1.0を使って

10-Year Follow-up of Intensive Glucose control in Type 2 Diabetes
Rury R. Holman
NEJ Volume 359:1577-1589 October 9 2008 Number 15
を試しに吟味してみようと思います。

Step1&Step2

※「知らない」というネガティブな状態を、「情報のきっかけ」というポジティブな存在に置き換えるのがStep1とStep2である。

背景の情報を得る

患者のPECOTを立てる(Timeは観察期間など)
Patient
Exposure
Control
Outcome
Time




論文のPECOTを立てる
Patient
Exposure
Control
Outcome
Time


バックグラウンドの知識は十分か?

・Googleで出来ること
作成したPECO、論文内のキーワードを抽出して、Google検索を行う。
介入に関する日本の成績なども、結構病院ごとに発表していることが多く、簡単に基礎知識を仕入れることが出来ることも多い。
これらから得られる、アウトカムの発生率や治療効果があとで吟味の際に有用である。
英語でも検索してみるのが良い。
・重要)見つけたサイトは、すぐに保存しておこう。翌日同じ検索をしても、もう見つからないことは誰しも経験があるはず。


・専門家へのコンサルト、教科書の利用
バックグラウンドの情報には、信頼できる教科書・専門家の意見は重要な役割を占める。
ある程度の知識が得られたら、それをもとにして信頼の出来る専門家にも質問をしてみよう。
疫学や教科書の知識と臨床経験が混じり合った、極めて貴重な情報を得られる可能性がある。
・筆者の背景を知る
筆者の専門領域や、筆者とそのグループの他の論文をみることで、吟味が変わることがある。


例:Intensive Insulin Therapy in the Medical ICU NEJ volume 354:449-461 はICUでの血糖値コントロールの効果を示し、治療に大きな影響を与えた論文である。筆者のGreet Van den Berghe先生は、実は栄養が専門であることはあまり知られていない。この情報によって、この文献をNSTや栄養に関するレクチャーで使えるかも?という発想にもつながる。
例:あるテーマで、実は筆者らのグループしか文献が出ていないことがある。そんな時は論文そのものの質よりも、グループの志向が影響するかもしれない。

その介入についてのフォアグラウンドの知識を集める

先行しているRCT、メタアナリシス、システマティックレビューはないか?
Pubmed、Google scholar、二次文献を使って検索を行う。


Step3

ランダム割付けについて

詳細な割り付け方法を確認する

・層別化は、どういう項目でなされているか?
・ブロック化の方法について記載があるか?


バックグラウンドの情報収集

・ランダム化について解説したサイトはないか?
・層別化stratification、ブロックblockについて解説したサイトはあるか?
※疫学手法はつねに刷新されていくので、新しい手法がないかどうかも検索をしてゆく必要がある
・みつけたウェブサイトは、必ずすぐに保存しておくこと。次は見つからないかもしれない。


参考
http://www.mja.com.au/public/issues/177_10_181102/bel10697_fm.pdf

Baselineについて

ベースラインは最も重要な部分である。
どのような人たちが集められて(inclusion)、ふるいにかけられて残ったのか(exclusion)。
これが、研究の性格をかなりの部分決定する。


バックグラウンドの情報収集

Google検索、教科書その他のデータベースを用いて、論文のテーマとなる事項の予後規定因子などの重要なポイントを調べる
→その項目は検討されているか?
→介入によって、治療が難しいポイントはないか?
(例:PCIを行う際に、proxymalや多枝病変は治療が難しいとされる。論文に冠動脈のどこに狭窄があるか、などの詳細なバックグラウンドが記されているか?)


Baselineに差がある場合、次の点を確認する

介入群、コントロール群の結果にどのような影響を与える可能性があるか予想する


参加者にどんなアウトカムが発生したのかを、追跡の年度ごとに明らかにする

・追跡は何ヶ月、何年にわたって行われることが多い。大事なポイントでのアウトカムの頻度や、脱落の数などを、表や図にして表すこと。
・後からの見返し、他人との共有のためにも、情報を見える形に変えておくことが推奨される。
→それらが、結果に与える影響を考察し、コメントを残すこと。
(例:研究への参加拒否が多い理由は何か?逆に少ない場合の原因は何か?)


追跡について

ITT解析、per protocol解析など、追跡の方法について検索する

・詳しいサイトはあるか?
・見つけたサイトは、必ずすぐに保存すること。次は見つからないかもしれない。


論文ではITT解析と書かれているか?

・文中にIntention to treatの文字を確認する。
・実際のITTかどうかは、解析で外している症例がないかどうかを確認する。
最初の人数と、解析時の人数があっているかどうか、必ず計算すること。
nで示されている数値のチェックだけでは、不十分なこともある。
・研究計画を発表した先行論文があれば、そのnと照らし合わせる。実は数値が違うことは、よくある。


脱落について

脱落の割合と、その理由を確認する

それがどのような影響を与えうるか書き出してみる


介入ができなかった人数、クロスオーバーした人数を書き出し、結果への影響を書き出す

クロスオーバーの数を必ずチェックする。またクロスオーバーでなくても、両群で予定と違う治療がどれぐらいでたのかもチェックする。


※たとえば、コントロールから介入群へのクロスオーバーが多い、ということはその研究の潜在的な問題点かもしれない。コントロール群として観察することは、ハイリスクなのかもしれない。
※介入群で実際に介入した割合と、コントロール群のクロスオーバーした割合の差は、介入群での不要な治療を表すかもしれない。
介入群で9割予定通り治療を行い、コントロール群で2割がクロスオーバーして介入群の治療を行ったRCTがあったとする。ということは、9-2=7割の治療は、もしかして不要であったかもしれない?とは考えられないか?

マスキング、ブラインドについて

マスキングされていない人の存在は、結果にどのような影響を与えうるか?


※マスキングは、以前はblind、maskingなどの単語を本文で探すと明らかであった。
しかし、最近は「データにアクセスできない担当者が統計処理を行った」などの、文章での言い回しが目立つようになっている。
ブラインド、マスキングについては本文を根気よく探す必要がある。


※昔はダブルブラインド、という言葉がよく聞かれた。しかし、現在は臨床試験のかなりの部分でマスキングが必要といわれている。参考 4S論文とは何だろう?。

fundingを確認する

fundingはどこが行っているか?


○製薬会社からのfundingの場合
データの解析や研究デザインにどのような影響を与えているか確認が必要である。
その会社に有利な結果であれば、研究デザインを確認し、有利な結果とするような恣意的な操作がないか確認する。
(例:inclusion やexclusion criteria で、差の出やすい症例のみをピックアップしていないか?もともとの研究計画よりも人数が増えていないか?減っていないか?)
○製薬会社が関連していない場合
第三者からの干渉がないため、逆に論文の質の低下にいたる可能性がある。
特に、作者達の意図する結論に導かれていないか確認が必要である。

サンプルサイズについて

研究計画を発表した先行論文がある場合は、必ず用いること。
(研究計画と、実際の論文のサンプルサイズが全く違うことがある 例:MEGA Studyなど)

研究計画のチェックポイント

・アウトカム発生率の予想
・介入群とコントロール群のアウトカムの差の予想
を確認する。αやpowerについては、一般的な数値を採択しているはずなので、それほど気にしなくても良いと思われる。
これらと、吟味する論文の中で実際ににおきたそれらのアウトカムの率を比較し、それが予想よりも小さいか大きいかを確認する。


○予想よりも多くアウトカムが発生している場合
→アウトカムが多く発生した理由を考察する(重症例が多いのか?など)
→powerが大きくなり、差が出やすくなるはずである。予想よりも大きい差がでたり研究が打ち切りになっていなければ、治療効果が小さいのかもしれない

○予想よりもアウトカムが少ない場合
→アウトカムが少なく発生した理由を考える(軽症例が多いのか?など)
→powerが小さくなり、差が出にくくなるはずである。差が出ていたら、治療効果が大きい可能性がある。また、何らかの問題がある(恣意的に差を出しているとか)可能性もある。

○予想されたアウトカムの発生率と実際の発生率に差があるばあいは、サンプル集団について再度確認を行う
・inclusion criteria、exclusion criteria などを確認して症例の選択が不適切化どうかを見る
・アウトカム自体が不適切ではないか?
(慢性疾患では決して総死亡率などは治療効果の指標にならないこともある、など)
などの点を確認する必要がある


※介入(治療)とアウトカムの選択については、重要な問題である
例:安定狭心症に対するPCIの効果をみたCourageトライアルでは、総死亡率という指標を使ったのが、PCIの成績を低く見積もらせた可能性があると指摘されていた。PCIの効果なら胸痛の頻度や、再狭窄の方が妥当かもしれない。だれもが知りたいように思える「総死亡率」というアウトカムには要注意とも言えるかもしれない。

結果を考える

○カプランマイヤー曲線で示されている場合
・二本の線が交わっていたら、無効と考えるのが原則である
・縦軸が不必要に拡大されていないか確認する
・カプランマイヤーは、信頼区間も確認できないので、必ず追跡の年度でのアウトカムで2×2表を計算すること
○2×2表を書くこと
追跡期間=(       )
介入群の発生率=a/(a+b)=(    %)=EER
対照群の発生率=c/(c+d)=(    %)=CER
RR=EER/CER=(       )
RRR=1-RR=(       )
ARR=EER-CER=(       )
NNT=1/ARR=(       )


Step4

適用について考える

適用にあたって、衝突が予想されるとき

・結果を適用するにあたり、あなたと衝突が予想される部署、人を書き出しなさい


・どのような事前の説明をすればよいか?


・事前の説明会、小さいプレゼンテーション、個人的に説明をして回る・・etc
・各部署の部長、院長など責任者への説明も、忘れないこと

適用にあたって、設備や施設の問題が予想されるとき

・結果を適用するにあたり、必要かつ問題となる設備や施設を書き出しなさい


・それは解決できることか?
・代替案はないか?
(あなたがこだわらなければ他院での治療、検査が問題なくできることも多い)


Step5

・論文の吟味自体を反省する
・このチェックシートの改善点を記載する
・バックグラウンド、フォアグラウンドの情報の補充が必要なことが多い。必要なことは情報の検索に戻って、調べること。


お疲れ様でした・・・