RCT 生活習慣か、がっつり運動か?

Last-modified: 2008-11-22 (土) 00:56:19

運動の指導方法に関する論文です。
Comparison of Lifestyle and Structured Interventions to Increase Physical Activity and Cardiorespiratory Fitness A Randomized Trial
JAMA, January 27, 1999―Vol 281, No. 4
http://jama.ama-assn.org/cgi/content/abstract/281/4/327
生活習慣に運動を取り入れるように指導した場合と、エクササイズをさせた場合でのランダム化比較試験です。
タイトル通り、RCT 生活習慣か、がっつり運動か?というところでしょう。
これも、非常に面白い結果がみられました。

アブストラクトから

アメリカ人の実に60%が、運動の足らない生活をしているのだそうです。運動をしてもらうために、有効な指導方法を検討するべく研究が作られています。
研究の期間は24ヶ月で、生活習慣を変えさせる指導を行った「ライフスタイル群」と、従来の「structured exercise」の指導をした群(いわゆる運動を指導した)を比較しています。
この指導方法を、身体活動の増加、心肺機能の向上、心血管疾患の危険因子で評価します。
1993年から1997年間に行われた、ランダム化比較試験です。


指導の方法に、うならされるものがありました。
それと、やはり結果が興味深かったです。

詳細な検討に進みます。

参加者は、基本的に健康な男女です。男性116人、女性119人で35~60歳。
筆者達のリサーチセンターから16km以内に住んでいる人が対象です。
研究から除外された人達は、
(1)心筋梗塞、発作、1型糖尿病、骨粗鬆症、関節炎がある
(2)理想体重の140%以上である
(3)研究期間中に引っ越して離れてしまう予定がある
(4)毎日3杯以上のアルコールを飲む
(5)週3回、20分以上の運動をしている、総エネルギー消費が36kcal/kg per day (男)か34kcal/kg per day (女)
以上の活動性がある
(6)血圧160/100mmHg 以上
(7)運動に影響を及ぼす内服薬の使用
(8) 2年以内に妊娠の予定である
こういう方達は、研究からはずされます。
まあだいたい、健康で(まだ病気がなくて)そんなに運動していない人を対象にしているのが判ると思います。

この参加者の皆さんに、まずセンターに来てもらって説明してと同意書を頂いて、その後質問票で運動量を教えてもらったり、採血や血圧測定など身体計測をして、研究に参加してもらったり場合によっては除外していくわけです。
筆者達は、行動変容についてもアンケートをしていて、やる気の度合いも計測しています。(1) not intending to change, (2) intending to change, (3) making small changes, (4) meeting a behavior change
変わる気がない、変わる気がある、すでにちょっと変わり始めている、行動変容をしているところである、、などですかね)
これはbehavior change と書かれていますが、人間が行動を変えることに関する様々な研究があって、その方式を使っているようです。ちょっと詳細がわからないですね。
ポイントは、相手に運動をさせる従来の方法と、認知行動療法の手法を利用して相手にあわせて指導する方法を比較したということですね。

両群の内容~

さて、ランダム化比較試験の、2つの運動指導の方法をご紹介します。
両方のグループで、6ヶ月の間は積極的な運動指導を行います。
まず身体活動の量を3kcal/kg/日もしくは、VO2maxを5ml/kg/分の向上を目指すのだそうです。
これは60kgの人で、1日180kcalです。
どれぐらいか?
例えばジョギングの消費カロリーは「消費カロリー(kcal)= 体重(kg) * 距離(km)」なのだそうです。
となると60kgの人が1日に3km走らないといけないわけですね。
今まで運動してなかった人には、結構キツイと思うんです。。


さて、6ヶ月が過ぎたら、運動量を維持する時期にはいります。これは24ヶ月まで続けられます。
この目標は、2kcal/kg/日と3mL/kg/分とありますので、1日に2kmのジョギングに相当する運動を推奨されるわけです。
この期間の指導の方法が、2通りあるわけです。

従来の運動指導群
最大運動容量の50-85%の運動を20-60分続ける。(限界の50~80% 結構ハード)
これは指導者がついて、ステートオブアートフィットネスセンターに週に5日間6ヶ月の間通うように指示されます。まず参加者は、少なくとも週に3回以上は専門家の指導をうけて、それを5回に増やしていくことを推奨されます。
グループリーダーは、参加者自身に現実的な到達目標を決めることを学ばせて、身体活動をモニターして、実際の指導をします。3週間の指導とエクササイズの導入の後、参加者は好きな運動を選んで自分たちで運動プログラムを作成します。週に1回も参加出来なかった参加者には、連絡を取り、エクササイズに戻るように励まされます!
18ヶ月の間、季刊誌が渡され、さらに1ヶ月の活動を記したカレンダーと、運動の効果について解説したニュースレターも3ヶ月に一度送られてきます。

ライフスタイル群
参加者は、可能なら毎日30分以上の中等度~高度の身体活動を行うようにアドバイスされます。
それは各自のライフスタイルにあわせた方法での指導なのだそうです。
参加者は、このゴールに向けて指導されるのですが、各自のやる気にあわせて指導されます。
これはスモールグループ方式(少人数でのミーティング的なもの。糖尿病教室みたいな感じかな?)の指導で、1週間に1回1時間を最初の16週まで行われます。その後は24週まで認知行動療法についての指導を行います。(生活習慣を変えるための、精神面を中心にした指導というところでしょうか。こういうのはアメリカは盛んです)ミーィングは同様のスモールグループで行われます。そしてこの群にはフィットネスセンターへのフリーパスは支給されません。ファシリテーターは、問題解決型アプローチを用いて認知行動療法についてディスカッションし、身体活動プログラムを開始し、選択し、維持するための方法を探ります。
参加者は、毎月変化のステージを評価されて、それにあったマニュアルを渡されます。また毎週、行動変容を起こすための課題を毎週渡されます。
18ヶ月の維持の期間の間、ミーティングは徐々に減らされます。6ヶ月後にはミーティングは1ヶ月に1度から2ヶ月、最終的に3ヶ月に一度まで減らされます。
ミーティング内容は様々な活動で、ウィンドウショッピング、オリエンテーリング、バレーボール、行動変容を指示するようなボードゲームなどです。
参加者には、1ヶ月の活動性のカレンダーと、季刊のニュースレターが送られます。

・・・どちらも、すごい指導でしょ?
大変なことですよね、これは。
論文を読むまでは、普通の運動の指導と、簡単な指導、ぐらいに考えていたのですが違いました。
普通の指導と、認知行動療法の手法を利用した、精神面重視の指導ではどう違うかということが論文の骨子です。

結果

さて、こうして集められた参加者は、平均45歳ぐらいで、BMIが28と小太りぐらいの人達です。
データをみると、特に異常な数値もない。。。
アメリカの人ですけど、よくいる中年の運動していない人達という感じをうけました。
結果は、面白いものでした。

ライフスタイル群従来の指導群
評価項目変化の率(95%信頼区間)P値変化の率(95%信頼区間)P値両群の比較したP値
Energy expenditure(kcal/kg per day)0.84 (0.42 to 1.25)<0.0010.69 (0.25 to 1.12)0.0020.63
Sitting(h/wk)-1.18(-4.98 to 2.62)0.54-6.85(-10.80 to -2.91)0.0010.04
Walking(min/d)13.07(-0.77 to 26.92)0.0626.75(12.37 to 41.13)0.0010.18
Stair climbing(flights/d)2.56(0.91 to 4.21)0.0032.29(0.57 to 4.00)0.0090.82
Treadmill time(min)0.23(0.09 to 0.38)0.0020.37(0.21 to 0.52)0.0010.22
VO2peak(mL/kg/min)0.77(0.18 to 1.36)0.011.34(0.72 to 1.96)0.0010.19
Body fat(%)-2.39 (-2.92 to -1.85)0.001-1.85(-2.41 to -1.28)0.0010.17
Weight(kg)-0.05(-1.05 to 0.96)0.930.69(-0.37 to 1.74)0.200.32



運動を従来通り指導した群では、やはりライフスタイル群よりも活動性が高いですね。
トレッドミルという(あのジムで歩くやつです)負荷の量も多いし、それによる心肺機能(VO2peak)も高い数値で出ています。
面白いのは、体重は落ちないんですよね。
これは他の研究でもそうです。運動を指導しても、体重は変わらないものです。
示していませんが、その他コレステロールなんかもほとんど変わりません。
この研究は体脂肪率を出してくれていますが、これは低下するんです。
運動をはじめた患者さん達と話していると、「体重は変わらないけど、体型は変わったんです」っておっしゃいます。
体って、体重は一定に保とうとするんですね。体の知恵です。素晴らしいことです。。

figを見てみると

Lifestyle vs structured fig2.JPG

半年後の心肺機能は著しい差がありますが、24ヶ月経つとあまりかわんないと思いませんか?
消費カロリーに関しては、ほとんど同じです。(といっても代謝を計算したわけじゃないのですけど)
生活習慣をかえるだけでも、ジムがよいと同じ効果がありうるのですね。
もちろん、スポーツの大会に出たいとか試合に勝つためにはジムが必要です。
でも疾患の予防や、健康のためであれば、歩いたり階段を使ったり、週に3回はそういうことを強めにすることを心がけて変えていくだけでも良いのでしょうね。


この論文には、二重の結論が見えてきます。
先にも書いたように、運動を普通に指導した場合と、精神面からの手法を使った場合とでの比較なのですが、結論には、エクササイズを重視してジムに通った群と、生活習慣改善をした群の効果が現れてきます。
運動を指示通り維持できたかどうか、は運動処方か精神的な指導か、ということが現れます。
運動の実際の効果は、また別に現れるんですね。
不思議な論文。。ですね。