著者代役逃亡記/Chapter1

Last-modified: 2025-02-14 (金) 21:04:07

第1話【追われるための生命】

私は走った。わけも分からずに、数多の奇妙な生物に命を狙われ蹂躙されながら。全身が痛い。幾度かどこから降ってきたのかも分からない瓦礫に巻き込まれ、スライドする木々に崖下へ落とされ、それでもなお走り続けた。それでもまだ追ってくる。跋扈する化け物たち。奴らから生きて逃れられるよう何度も祈った。恐怖の赴くままに、今にでも声をあげて泣き出したいという感情を押さえ込みながら何度も自分の身に幸運が起こることを願った。
その時、道端にあった石に躓きそのまま川へと飛び込んでしまった。幸いにも川の水は綺麗だったため傷が膿む心配は無い。しかし、川に飛び込んだ本人は川底に頭を強く打ち付けてしまったため、気絶してしまった。
「ヤツ、シンダノカ?」
「あの怪我のまま走り続けていたら消耗しているでしょう。その上川底に叩きつけられうつ伏せのまま気絶。直に溺死するでしょう。」
「デモ、コウイウノハ タイテイアトカラ イキテイル パターンガオオイ。」
「確かに創作ではそういったことがお決まりですね。一説によればここも"創作の域"にしかすぎません。死亡を確認次第遺体を持ち帰りましょう。」
「ソウダナ。」
「しかし川の流れが速すぎてもう彼女の姿が見えませんね。遠くに行ってしまう前に探してみましょう。」
追っていた化け物達がそんな様子を見て色々と話している。
一方、流れている彼女はまだ目を覚まさない。このままだとトドメを刺されてしまう。だが幸運にも体が一時的に沈み、水面下にのみ入口がある洞窟へと入り込んでいった。洞窟内にある空洞スペースにて体がまた浮かび、彼女の存在は偶然にも隠された。
「ドコニモイナイ。ココラニイテモオカシクナイ。」
「もしかして、死んだフリをして我々が去るのを待っていたのでしょうか?だとすると見事に踊らされましたね。」
そう言い化け物達はその場を後にした。
彼女は脅威から逃れることは出来たが、まだうつ伏せのままだ。このままでは幸運を無駄になってしまう。
「あれ?誰か浮かんでますね?新しいタイプでしょうか?」
洞窟の奥から幼い声が響いてきた。
「この体制じゃ溺死してしまいますね…というか息はあるんでしょうか?」
奥から歩いて来たのは銀髪の子供。なんとか水に浮かぶ身体を引き上げる。脈を確認し、手馴れた様子で心配蘇生処置を行った。
「ケホッ!ゴホッ…」
「良かった。まだ生きてるみたいですね。しかしこのままだと低体温症になってしまいますね。とりあえず"拠点"へ持ち帰りましょう。」
銀髪の少女が自分よりも少し大きい金髪の少女を担ぐ。
金髪の少女は意識が朦朧としていて何も分からないまま徒歩の振動を感じていた。
「着きましたね。とりあえず着替えさせて衣服を乾かしましょうか。」
到着したのは洞窟に似つかわしくない木造の一軒家。年季の入り方と規模からして銀髪の少女が建てたものでは無いことは明らかだ。
「広かったお家も独り占め出来なくなりましたかぁ。まあ、2人でも大きいくらいなんですけどね。ようこそ。遭難者の隠れ家へ。」
2人は家の中へと入っていった。

第2話【金と銀は打ち解け合う】

金色の髪の少女が花畑に立っている。気づけば上を向いており、不思議そうな表情で青色を見つめていた。花の背は少し高く少女の腰あたりまで伸びていた。時間帯は昼過ぎだろうか、太陽は下へ下り始めている。少女はここがどこか知らない。
少し離れた位置には背の高い不気味な"何か"が居た。水色の玉に赤い目玉の模様が入った頭部、上着から見えているむき出しになった骨、包帯だらけの手、その全てに何故か親近感が湧く。
不気味な何かが少女に対して話し始めた。
はじめまして、ではないかな。
私の"計画"は初期段階に差し掛かった。
砕いて説明すると、君は私とは違う存在だ。
正確には同じ人物と言えるが、人格、肉体、能力、経験、記憶、何もかもが違う。少なくとも、同じとは言えない存在だ。
唯一継承したのは、"役割"のみ。
私が秘密裏に進めていた研究の資料は技術のマニュアル以外破棄済み、君は目覚めたあと、何も気にする必要は無い。
しかし、オリジナルとは全く別の何者かが存在したら混乱が起きるだろう。だから12族と和解できる方法を伝えておく。
それは、自分がオリジナルそのものであることと、12使徒との関連性は何も無いとを証明することだ。
時間はかかる。それでも問題への解決に直結する内容だ。
1部の者にはあなたの旧名を伝えると協力を得ることはできるだろう。
その名は______

目を覚ますと木目の浮き出た天井。気絶する直前のことを瞬時に思い出し、急いで周りを確認する。少女がいる空間はなんの変哲もないただの部屋。手足には拘束具も付いておらず自由な状態。捕まったのでは無いと思いつつも警戒し音を立てないよう扉に手を掛ける。
その時だった、扉が急に開き額と衝突してしまった。
「ひゃっ!?大丈夫ですか!?」
扉の向こうから驚いたような表情で姿を現した。
「ひっ!?やめろ!近づくな!まだ死にたくない!」
「死にません!死にませんし殺しませんから!?」
銀髪の少女が金髪の少女を落ち着かせ、話を進めた。
「あなたは川からこの洞窟に流れ込んで来たんだと思いますよ。」

冷静さを取り戻し警戒した目で銀髪の少女を見つめている。
「警戒しなくても大丈夫ですよ。不安なら離れて聞いてもらっても構いません。」
「…いや、いい。」
「そうですか、体調はどうですか?」
「問題ない。」
「良かったです。でも、怪我が酷いですね。救急箱を持ってくるのでゆっくりしていてください。」
「ねぇ…」
「どうしたんですか?」
「どうして、私に優しくしてくれるんだ?」
「どうしてって?」
「私は生まれた時のことを知らない。だけど、その時に何かあったんだ。私はその何かの犯人にされて、追いかけられて、皆敵で、味方なんて居ないと思ってた。私の身は生涯追われる身にあると思ってた。でもなんとなくだが君も奴らの仲間だろう?だけど私を味方として見てくれている。優しくしてくれる理由を聞きたい。」
「あ~…あなた、そうでしたね。でももしあなたが犯人だったとしても私は何もしないと思いますよ。というか、皆乗り気じゃないと思います。」
「それは、なぜそう考えるんだ?」
「皆、優しいんですよ。少なくとも12族、私達の中で凶暴な人は居ません。よっぽどのことが無い限り人を殺すどころか人を怪我させることすらしないと思います。」
「…」

第3話【不完全な証明】

思えばこれらの怪我は彼らによるものではなく、至る所で転んだり、瓦礫に木に突っ込んで引っ掛けたり、逃げる過程で自然に付いたものである。彼らは攻撃せずただ追いかけるだけだった。それも、少女に逃げろと言わんばかりの速さで。少女に対しての殺意は微塵も無かったという訳だ。少し、目の前の少女の言葉も信用出来ると思うようになった。
「なぁ。」
「どうかしました?」
「私、彼らと和解できるのかな。」
「多分…厳しいかと…」
「何故だ?聞く限りでは和解できそうな雰囲気なんだが。」
「今あなたが関与しているかもしれない問題は、私たち12族の存続にかかってるのでね…」
「…え?」
「【12使徒】って知ってますか?」
「いや…知らない…」
12使徒。それは世界全体の脅威であり最悪の存在。1度別の次元に出現し、その次元のほとんどを壊し、奪い、無に還した。12使徒の被害者である旧十二族の生き残りによってその存在が明らかにされ、12族は出現するその日まで対策を練り続けてきた。
「それとこの事件になんの関連性があるんだ?」
「それじゃ【キーキャラクター】についても話しましょう。」
キーキャラクターは12使徒を退けることの出来る唯一の手段として知られている。そのキーキャラクターこそが12族のオリジナルとされる存在、Original12。
「そのオリジナルさんをあなたが吸収してしまったという情報が出回っています。」
「知らない…私、オリジナルなんて奴知らないし吸収の手段も無い…どうして?」
「オリジナルさん、ラボを持っていたんですけどオリジナルさんの行方不明から1番最初にラボから出てきたのがあなただったという目撃情報がありまして。また、魂追跡によってあなたが居た位置とオリジナルさんが居た位置が合致しているなど…様々な調査の末あなたが犯人という扱いになったという訳です。」
金髪の少女は目を覚ました時は何も知らなかった。
だけど生まれる瞬間からこの姿で知識も運動能力も持っていた。まるで元々何者かだったかのように…
「待って。確証は無いけど、事件の謎が分かったかもしれない。」
「徐々に思い出していくタイプですかね?」
「いや、色々不完全な証拠を合わせたものだし、そもそもこの結論が可笑しいと感じるかも。私は真剣だから、笑わずに聞いてほしい。」
「どれくらい可笑しいかにもよりますけど…まあ思い出せない中頑張って考えてくれたんですよね。教えてください。」
彼女の考え出した結論を発表するのにはかなり勇気が要る。しかし言わなければ何も始まらない。夢の人物が言っていたことを思い出して口を開いた。
私がオリジナル自身かもしれない。
あまりにも斜め上すぎたのか銀髪の少女は少し固まった。
「…理由はなんでしょう?」
「私は生まれた瞬間、というか意識を持ち始めた瞬間から話せたし、自力で動くことも出来た。そして、君が言ってくれた魂追跡の証拠。これも辻褄が合う。」
そして勝ちを確信したような表情で最後の証拠を話した。
「また可笑しいと思うかもしれないけど、さっき夢を見た。普通とは違う異質な夢。そこで私はオリジナルらしき人物と話をした。そいつは自分がオリジナルであることと自分が12使徒と関連性が無いということを証明しなければならないと言ったんだ。」
「その人の容姿は覚えていますか?」
「青い球体に赤い目玉の模様が付いた頭部に骨がむき出しの身体。青い上着に手に沢山巻かれた包帯。どうだ?」
「うーん…オリジナルさんの存在は機密にされていて、容姿が分からないんですよね。」
「じゃあなんで聞いたんだ。」
金髪の少女は不服そうな顔をした。
「一応ですよ。とはいえ証明がふんわりしすぎていてオリジナルと証拠するには少し不十分ですね…少なくとも私となんも考えてなさそうな人しか信じないでしょうね。」
「まあ、そうだな…」
何となく分かっていたがこれだけでは証明することができない。
「今日はもう休みましょう。怪我も酷いし、こんな時間なので。」
「もうこんな時間なのか。」
銀髪の少女が照明を消した。部屋を出ようとすると金髪の少女が呼び止めた。
「ちょっと待った。」
「どうかしました?」
「名前、言ってなかった。私はReincarnation12。転生12って呼んで。」
「私もですね。私はSilver cell 12。銀とか好きな呼び方で呼んでください。」
「なぁ、銀。」
「あ、銀に決まったんですね。どうしました?」
「ありがとう。ほんとうに。」
転生12はそう言い微笑みかけた。銀は照れを隠しながら扉を閉め、自身の部屋へ向かった。

第4話【なかよし】

再び同じベッドで目を覚ます。身体中の痛みは引き、傷も殆どが治っていた。部屋を出て間取りを見てみる。2世帯住めるような少し広い一軒家だ。この家に住んでいるのは銀1人だろうか、寂しくは無いのだろうか…転生12は昨日聞けなかったことを改めて聞いてみることにした。
「なあ、銀。」
「どうかしました?」
「この家1人で住んでるのか?」
「うーん…"1人"でもあり"無限"でもあります。」
奇妙な答えが帰ってきた。
「えーと…え?」
「ああ、そうでした。私の能力で人数を増やせるんですよ。」
そう言いながら銀はさりげなく2人に増えてみせた。転生12は思わず目を見開き、少し後ずさりした。
&color(silver){「「まあ驚くのも無理ないですよ
。ただの子供がこんな能力持ってるなんて思いませんもの。」」};
「お、おぉ…」
分裂した銀に交互に視線を向ける。どちらも同じ【銀】であり、2人に差異は全く感じられない。
疑問の答えと同時に能力も判明したところで、銀が提案を持ちかけた。
「あなたを12族に認めてもらうステップとして今から協力者を集めましょう。」
「協力者?能力を使ってひたすら増やせばいい話じゃないのか?」
「そう簡単に行く話では無いんですよね~…」
実際のところ彼女は1部から信頼されやすい立場にあるが、活躍の認知度が低かったり雑用や下の階級を任されることが多かったりと情勢全体を動かすためにはあまりにも不十分すぎる。だから認知度の高い人物、高い立場からの信頼を持つ人物が必要となってくる。
「そっか…そう簡単に情勢を操れるわけでも無いのか…」
「ですが、あなたの境遇を理解してくれそうな人はそこそこ居ます。きっと彼らも分かってくれるはずです。」
「…そうなると願うよ。」
戦闘面において強い人物を味方につけようと考え、2人が訪れたのは都市部から離れたトレーニング場。転生12の安全を確保するためにまずは銀だけが協力を乞うことにした。銀が扉を開けると中には筋肉質な赤色の何かが居た。筋肉質で健康的な体とは裏腹に心情面では元気が無いように見えた。
「ギン、ナニカヨウカ?」
「お久しぶりですね。54-5です。」
「スウジハオボエテイナイ…」
そんな冗談を交えつつ交渉に入った。
「実は協力したいことがありまして…」
「デキルコトナラナンデモスル。」
「"出来ること"、ですか…あなた次第かも知れませんね。それじゃ入って来てください。」
金色の少女は恐る恐る顔を覗かせる。そこにはかつて自分を追いかけていた赤い化け物の姿があった。思わず体を固めてしまい、動けずにいた。
筋肉質な存在の方はかつて"追いたくないけど追っていた者"を目にし、目らしき何かを丸くしていた。
「ムキムキさん。怒らないであげてください。あの子だって被害者なんです。」
転生12を追わないでほしいこと、自分たちの味方になってほしいこと、転生12がオリジナルであることを証明したいことなど、全て説明した。
「お願いだ。私は死にたくない。君もこんなことしたくないだろう?なあ、そうだろう?」
赤く逞しい拳が小刻みに震える。
「私のワガママってことは分かってます。だけど、あなたは私の持つ意見を待っていたでしょう?どうか、協力していただきたいです。」
「ゴメン。」
震える野太い声はそう呟いた。
「ギンノキモチモヨクワカル。オデダッテソウシタイ。デモ、ミンナヲマモル。ミンナハキミノセイゾンヲノゾンデイルハズナノニ、コロサナイトミンナシヌ。」
「…。」
「オデ、ミノガス。キョウリョクデキナイ。ゴメン。ホントウニ。」
「…分かった。すまなかった。」
そうして筋肉男の在る場所を後にした。筋肉男の目には、転生12の体が少し震えているように感じた。

第5話【どうしようも】

2人が次に訪れたのは、綺麗な屋敷。次に訪ねる人物は、またもや転生12を追いかけていた人物だった。
筋肉男を訪ねた時と同じように転生12は最初に身を隠し、銀が先に挨拶をすることにした。
小さな手でドアをノックする。
コン、コン、コン。
3回ノックをした後、向こう側から声が聞こえるまで待つ。
「はい。今、迎えます。」
ドアが開き、姿を見せたのは胴体が青い炎で構成された12族
「おや、銀さんでしたか。ごきげんよう。本日はどのようなご要件で?」
包み込むような優しい声は到底転生12を追いかけていた人物とは思えないものだった。
「実は協力していただきたいことがありまして。」
「ふむ、どういった内容でしょうか。」
「どうぞ。出てきてください。」
茶会主催者の視界に転生12が現れる。
「捕獲報告は非力な私ではなく都市部にしていただけると助かるのですが…」
落ち着いたようで戸惑ったような声色に変わった。表情がない分、感情のこもった声が強調されている。
「いえ、捕獲したのではなく…」
銀と転生12は今までのことを知った全て話した。
「つまり、証明をするために協力者を集めていると?」
ああ。だから、協力者になってくれないか?12族と私との良い仲が築けるはず…
「すみませんが、お断りさせていただきます。」
優しい口調から一変、はっきりとした口調に変化した。
「…理由を聞いてもいいか?」
「私はメリットデメリットで動く人間ではありませんが、今回ばかりは別です。こちら側の地位が不安定化してしまいます。」
「貴方は、今まで地位で判断するような人間ではなかったはずですが。」
「今の情勢は、そのあたりに敏感なのですよ。私は王家や貴族の方々に信頼を頂いている分、12族の敵とされている貴女と行動するのはかなり危険な状態です。少なくとも、貴女の思う世界は実現できません。」
「…そうか。すまない。この問題は自分"達"で解説する。」
転生12は一目散にその場を去った。
「転生さん…!すいません失礼しました。」
「銀さん。」
銀が踏み出そうとした矢先、突如として呼び止めた。
「なんでしょうか。」
「先程の地位の話は私だけのことではありません。貴女にも当てはまります。」
「ですが、私は自分のやると決めたことは最後までやります。私はあの人に幸せになって欲しいんです。新しい人生で、初の幸せを感じて欲しいんです。」
「貴女が崩れてしまうと都市部は機能を停止します。それは些細なことですが、貴女は大多数の群衆から失望されます。貴女のことを信頼している人は貴女が認識している以上に多く居るのですよ。それを意識して彼女をどうするか決めてください。」
少し間を開け、強調するように言った。
これは"皆さん"の願いです。
銀は急いで立ち去った。振り返りつつ茶会主催者を見る銀の目は、不安と悲しさで溢れていた。

第6話【激励】

その後も、12族の代表役とも言える者たちに協力を求めるも、全て断られてしまった。2人はクシロシティを歩き回り、すっかり疲弊していた。昼夜が共に沈みゆく中、銀の拠点へ向かっている。
「無駄足だった。誰も、味方してくれない。」
「皆さん、まだ決断できていないようです。実際、私が連れていたとはいえ道中は安全でしたでしょう?」
「しかし、みんな私を恐れていた。厄災そのものを見たような、気味の悪いものと相対したような眼差しで。」
「公開されている情報に不確定要素が沢山混じっているので、貴女そのものが危険人物として解釈されているようです。でも、非力である私が貴女を連れていた。1部の人には、安全な存在、またはあまり脅威的でない存在と考えられているという解釈も出来るでしょう。」
「"解釈にすぎない"だろう?実際にそう考える人は居ないかもしれない。希望的観測でしかないんだよ…」
「大丈夫です。私たちが貴女にとって生きやすい世の中に変えていきますから。」
銀は転生12の方に振り向いて手を差し出す。
「今日の貴女はもう疲れていると思います。次、頑張ればいいのですから。安心出来るように、手を握って…」
転生12は、銀の手をはたいた。
「安心出来るわけないだろ!」
突如とした出来事に銀は驚いた。
「結局、君の言うことはほとんど憶測と希望じゃないか!寄り添っているけど私の心境を1つも理解していないだろ!実際、君と私は無力だ!何も出来やしない!協力だって誰1人としてしてくれなかったじゃないか!」
「お、落ち着いてください!確かに不確定要素ばかりですが、信じなきゃいけないんです!信じなければ何一つ変わりません!」
「…どっちにしろ、私が12使徒と関係が無いとは限らない。キーキャラクターが私かもしれない話も、ただも希望にすぎない。ピンポイントで私がそうである奇跡はそうそう起きないんだ。」
転生12は帰り道と違う方向を向き始めた。
「どこに行くんですか?一緒に帰りましょう…?今の時間帯は危ないですよ…」
「私は逃げるよ。ずっと遠くに。」
「危険ですよ!最近この大陸に侵入者が沢山入ってきたのでいつ襲われてもおかしくないんです!特に貴女の場合並大抵の12族よりも耐久力がないのでもっと危険です!」
転生12は落ち着いて呟いた。
「…ごめんね、銀。」
「はい…?」
「君は、生きて欲しい。」
「それは…どういう…」
転生12は何も答えず暗い森の中へ向かっていった。
銀はただ、立ち尽くすことしか出来なかった。
彼女の意思を尊重するために。彼女はそれが役目だから。

第7話【未踏の地】

時は過ぎ、様々な天体が空を動かし始める。同時に、転生12は目を覚ました。茂みに隠れていたため、身の危険は無かった。
「ああ言ったけど…1人は、寂しいかな。」
唯一仲間だった、優しく接してくれた仲間はもう居ない。銀の気持ちを無下にしてしまうが、彼女を守りたかった。だから突き放したのだ。12使徒に関わりがあるかもしれない自分から遠ざけるために。
後悔はしていない。だから、もっと遠くに、誰にも見つからない世界の果てに行かなきゃならない。怖いけど、死ぬために。
目標はMETAfieldから脱出し、孤島や目立たない場所で死ぬこと。
銀から貰ったMETAfieldの地図を取り出し、自分の位置を確認する。ここはハコダテの北部のようだ。
脱出のための最短距離は、オー・キ・ナワのナッハ港だが、海を渡る必要が複数回あり、デッドゾーンを最も長く渡らなければならないため危険性が高い。かと言ってアオーモリやミヤザ・キまで行くのも骨が折れる。1番安定した場所はチーバだろう。デッドゾーン境界線までの距離が短く、海岸線は田舎のため人もほとんど居ない。
となると次にチーバまでのルートを決めなければならない。1度ホカイドーに戻ってイ・シカーワまで進むか、このまま北に進みドーゴ島を中継としてトット・リーに到着するべきか。イ・シカーワのルートは1度ハコダテとホカイドーを繋ぐ海底トンネルを歩かなければならない。銀が同行しているとタクシーに乗ることができたのでそこまで苦ではないが、1人となれば別だ。タクシー代は無く、休憩地点も無いため、とてもじゃないが選べるルートでは無い。そもそもトンネルに歩道は無いため不可能である。
つまり、最初からトット・リーへのルートを強制されていたのだ。
早速北上していくと、早速見覚えのある人物達が居た。
「…銀。そうか、銀は沢山居るのか。」
銀達は地質調査を行っていた。それぞれが無駄のない動きで自身の役割を完璧にこなし、順調に進めているようにも見える。
(彼女達は私の事を知っているのだろうか?)
少女は目立つ長い金色の髪を花々と同化させ、木々の影から伺っていた。
その時。
「なーにやってるんですか?」
「何!?」

第8話【一瞬の思い出】

銀の1人に見つかってしまった。半目で訝しげな顔をしている。
「何!?じゃないですよ…貴女、もしかして侵入者さんですか?」
否定しようとも証拠が無く、否定のしようがない。かと言って本当の事を言ってしまえば、また保護されてしまう。…そして優しさに依存してしまう。
どうすれば良いか考えてみた。
「地図。」
銀から貰った地図は書籍型でありかなり詳細に記されている。METAfieldの覚えづらい奇抜な地名や空港、コンビニの位置や名産品までもが記されており、それが全部書かれているものだから侵入者ではないと証明するには十分だ。
「侵入者ではない。これが証明だ。」
そう言って地図を差し出す。
「ふむふむ…確かにこの地図はMETAfieldの住人でしか購入出来ないものですね。でも貴女のような存在は今まで居なかったはず…ということは、新たに"発生"したのですかね?」
「"発生"?」
「立ちながら話すのもあれですし拠点の道中で説明しますね。貴女は信用出来る人のようですし。」
転生12は銀に着いて行った。
12族は何かしらの概念がモチーフとなってそれらを含有する物質、生物、現象等が1つの塊となり奇跡的に生物の形を持つ極めて不安定な存在。細胞、労働、幼少など全く無関係の概念同士が結びつくため、12族の発生は数多の平行世界で時計の部品を水流に流し、同時に完成する確率と同等と言えるほど確率が低い。そのため12族が発生した場合には直ちに保護し、仲間の一員として迎え入れる必要があるという。
(新しい12族だと思われた以上、このままでは保護されてまたホカイドーに戻ってしまう。どうにかして海を渡らなければ…)
そんなに時間は経って居ないのにも関わらず、拠点に着く頃にはすっかり暗くなっていた。
「最近1日が過ぎるのが早いですからね。1日の定義を忘れてしまうほどにね。」
「そ、そうか。」
1日が終わろうとしているのにも関わらず全く眠くないのはとても不思議な感覚だ。
「丁度よく空き部屋が1つあるんです。良ければそこを使ってください。」
「…ありがとう。」
「元気ないですね?発生した際にどこか怪我しました?」
「いや…なんでも…」
「それとも、何か辛いことでもありました?」
「な、なんでもないから…!」
「貴女のことは後日聞くとして、お疲れのようですから今日はお休みください。」
「うん…」
自身の部屋に入ると同時に部屋の鍵を閉め、枕にうずくまった。
銀の優しさに触れてしまい、またあの銀の優しさを思い出してしまい、限界を迎えていた。個体が違うとはいえど、優しさは皆本物。
もっと甘えていたかったけど優しい彼女を守るためにも、断ち切らなければならない。
でも自分の肉体もまだ幼い。本来の年齢は知らないが、それでも甘えていたい精神を持っているのだ。
2つの気持ちがぶつかり合い、声が響かないよう声を上げて泣いた。後に自分が使う枕だが、今は気にせず泣いていたい。死ぬための冒険なんてもう止めたいけど、止めるわけにはいかない。
自分のしたいことが、銀の優しさを守ることだけだから。
だから、自分がここにいてはいけない。
気づけば1日は始まりを迎えていた。

第9話【苦悩】

北から南へと橋が架かるように天体が並ぶ昼下がり、転生12は事情聴取を受けていた。
「とりあえずどこで発生しましたか?」
通常発生したばかりの12族に聞くことでは無いが、転生12の場合は地図帳を持っているため具体的に聞くことが出来た。
「ホカイドーのセントラルシティ郊外にあるラボ。」
出来るだけ戻されない範囲で正直に答えることにした。変に嘘を言っても心が苦しくなり、怪しまれるだけである。
「へぇ~じゃあモチーフは化学薬品とか元素とかですかね~?いやでも見た感じ文系って見た目ですね。」
「そうなのか…?」
「あ、勘ですよ?モチーフって見た目じゃ分かりにくいですし。そうだ、能力使えますか?」
「能力…分からない。」
「普通は生体分析を通すことによって初めて分かりますからね。偶然発動したなら別ですが、ほとんどは能力を持っていると自覚できる人はほとんどいません。」
しっかりしつつ優しく包み込むような声で話しながら横目でメモを取っている。
「1番気になってた事なんですけど、その地図帳どこで手に入れましたか?貴女が最近発生したのであれば地図帳は持ってなくてもおかしくないのですが…」
「迷わないように12族がくれた。」
「良かったですね~その人が12族で。侵入者さんだったら拉致されてたかもしれないですよ。あ、不安になること言っちゃいましたね…」
小さく白い手で書き連ねていった。そうこうしている内に事情聴取が終わった。
「ご協力ありがとうございました。少しのあいだ同居することになりますね。」
「あー…それなんだけど。」
「?」
転生12はしばらく銀達と同居になることを予測していたため、ホンシューのトット・リーに行くための理由を考えていた。銀に嘘をつくことはかなり躊躇ったが、銀を守るための嘘として腹を括った。
「実は、この世界魅力的な形をしているように思えて、ちょっとした冒険をしたいんだ。」
「うーん…でも未開拓部分が多いのであまりオススメできませんが…それに保護対象というのを自覚して頂かないと。」
「一般的な12族として定住してしまえば未開拓の部分は立ち入りが禁止されていると地図に書いてあるのだが…そうなれば、私は井の中の蛙状態になってしまう。私は世界を知りたい。お願いしたい。」
「まあ、私が着いていれば大丈夫でしょう!ただ、ホカイドーに向かう途中の"ついで"として旅を行いますが、それでも大丈夫ですか?」
「ああ。感謝するよ。」
計画としては、ホカイドーへ向かうためにまずトット・リーへ上陸し、1日が短いのを利用してイ・シカーワに到着するまでチーバまでの距離が最も短いキャンプポイントで銀達が寝ている間にチーバへと向かう。気をつけなければならないのが、"銀達が寝るポイントの中でチーバまでの最短距離のポイント"である必要があるということ。そしてそのために銀達と就寝時間をずらしておくことが必要だ。
出発までに準備しなければならない。

第10話【優しいあなたにさようなら】

ついに実行の日。寝る時間は銀達と真逆まではいかないものの大幅にずらすことが出来た。その甲斐あって非常に瞼が重い。
「転生さん?寝ちゃったら景色楽しめませんよ?」
「海は…大丈夫…目的はホンシューだから…」
「そうですか…」
船に乗り込み、ドーゴ島まで眠ることにした。
その際、以前と同じような奇妙な夢を見た。違うところは花畑の中に敷かれている石畳を進んでいることくらいだ。
感情の塊という抽象さで作られた12族はどうなる?
外的要因に関係無く少ない寿命で消えてしまう。
このケースは何度もあった。だから、そうならないべく私は研究し続けた。
…生涯を通してな。
なぜなら私は、"旧12族の阿鼻叫喚"で作られたのだから。
恐怖と絶望で作られた私はそろそろ寿命を迎える。
キーキャラクターはあなたが継いで貰いたい。
「…待て。」
転生12は思わず口を挟んだ。彼には言うべきことが沢山あった。しかし、彼女の声が聞こえなかったかのように男は話し始めた。
実験はほぼ失敗に近い形だが、寿命の継続自体は成功したのだから…
「て…さ…」
「転生…ん…」
「転生さん、もうドーゴ島に着きましたよ。」
目を覚ますと見慣れた人物が多数居た。その内見守っているのはごく少数だ。
「…ああ。」
「お疲れだったんですね。ドーゴ島を見て回るのは明日にしましょう。宿舎に案内しますよ。」
「ありがとう。」
船を降りた途端、森の奥から視線を感じたように思えた。
宿舎へ向かう途中転生12は銀に気になることを質問していた。
「なあ、途中で聞いたのだがモチーフとはなんだ?」
「砕いて言うと12族を構成する概念とかです。広い意味を内包するものであったり限定的であったり規則性はないですけどね。」
「12族って寿命はあるのか?」
「無いとは言えませんね。普通はないのですがTS(twelve stable)値というのが12族の身体にありまして、普通は100付近なのですが概念が奪われる、過剰に概念を含むなどと様々な要因により上下してしまいます。」
「100から増えすぎたり減りすぎたりするとどうなるのだ?」
「増えすぎるといずれモチーフの中で自己矛盾が起きて崩壊し、減りすぎると器を構成するモチーフが無くなり消滅してしまいます。」
「寿命の話だったのは覚えているか?」
「はい、今してます。寿命が無いとは言えないという結論に至るのはこのTS値がミソなんです。このTS値は」
少し言葉を詰まらせて言った。
「時間と共に消えていきます。…正確には"原子に還元"されます。」
「…原子?概念は物理学、いや量子力学的なものなのか?」
「と言うよりかは規模が原子レベル*1にまで縮小されるっていう話ですね。さっきも言った通り、概念に矛盾が生じると崩壊します。原子レベルにまで。話を戻すとEBS*2^55年周期にモチーフを表す単語が少しずつ失われていくんですよ。その単語は数多の概念を内包して自己矛盾を起こした原子レベルの世界に1つずつ戻っていき、単語がゼロになると消滅してしまいます。」
「随分と複雑な世界なのだな。」
「はい。不安定ながらも生きながらえてます。」

第11話【侵略】

なんか愚痴言ったり感想言ったり嘆いたりする場

  • 俺の定義ではCHAPTER=25~30話分と考えている。つまりこれがどういうことか分かるかッ!?あと10話以上書かなくちゃあならねぇってことだァッ!旧ボローニャみたいに失踪して最終的に没にならないようやらなくちゃァならねぇ! -- 12 2025-01-26 (日) 22:11:49
  • エンドスペース並みに莫大な製作費用がかかってやがるぜ… -- 暇人 2025-01-30 (木) 12:10:13
  • おもしろ -- hwh 2025-02-11 (火) 19:35:09

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