「なにをしている、こっちへ来るな!
まだ幻獣がいる!こいつは大物だぞ!」
剣闘士の男は駆け寄ってくる一行へ、危険を促すように叫んだ。
しかしその意識の大半は、対峙する大型の虫型幻獣へ向けられたままである。
「わかってる!加勢に来たんだ
こいつは、俺たちに任せてくれ!」
少年がそう言うと
「大口を叩くな!ヴィータごときでは、幻獣相手に勝算などない!」
と、剣闘士の男は一行を追い払おうとする。
「勝算ならあるっ!
このソロモンの指輪があれば…俺だって幻獣に対抗できるんだ!」
「ソロモンの指輪だとっ!?貴様、まさか…」
その確認を取る間もなく、大きな鎌手を広げて威嚇していた幻獣が飛び掛かってくる。
少年に続いて、駆け付けた追放メギドの仲間たちがフォトンを帯びながら相対する幻獣へと挑むのであった。
◇
「見せてもらったぞ、貴様たちのその力…まさか、メギドだったとはな」
ガープと名乗った剣闘士の男は、ブネたちが予感した通り、自身も追放メギドの一人だと明かす。
「そっちの指輪をしたヴィータは、「魔を統べる者」のようだな」
ガープは噂に聞くソロモンの指輪の所持者が実際にいたことに少し驚いた様子を見せるが、
少年もまた、ブネたち以外の追放メギドが新たに表れたことに驚いていた。
「追放メギドはな、ヴィータに生まれ変わって世界中に住んでるのさ」
ブネは少なくとも指輪で召喚された追放メギド以外にもヴァイガルドには無数の同胞がいることを説明しながら、ガープへ指輪の力が無ければ本来の力を取り戻すことはできないことを話す。
「…やはりそうでもない限り、この忌まわしいヴィータの身で、幻獣と戦うのはままならんか」
ガープは本来の力を発揮できない自分の身を見下ろすように表情に影を落として憂う。
「いや、この村の人たちを救ったんだ、大したものさ!
俺たちだけじゃ間に合わなかった」
と、すかさずバルバトスはフォローを入れるのだが
ガープは口惜しそうに
「俺にもその力があれば、「ヤツ」を取り逃がさずに済んだのだがな…」
と呟く。
「逃がしたヤツってアレかな…
村から飛んでった、顔の2つある幻獣がいたじゃん!」
モラクスは、ナーエ村に向かうさなかに目撃した翼を持つ大型の幻獣のことを思い出した。
「そうだ!そいつは俺の村、ここから隣のグロル村を襲って全滅させたヤツかもしれないんだ!」
少年が言うと、ガープはその動機に納得したという様子を見せた。
「俺はその幻獣を追ってずっと旅をしている
俺にとって仇なのだ、「村喰らいの双貌獣」と呼ばれているそいつはな」
ガープは同じ動機を持つ少年に、その幻獣の呼び名を伝える。
その名を反芻する少年に、ガープは続けて
「隣村を襲ったというのもヤツだな
それでフォトンには飢えてなかった…早々に撤退した理由はそれだ」
と、見解を話すと続けて
「もともと凶暴な幻獣だったが、この辺境に流れてきてからは見境なく村々を襲っているようだ」
と「村喰らいの双貌獣」の凶悪さを付け加えて話した。
執拗なまでに村に住むヴィータを襲い続ける様から「村喰らい」と名付けられたその幻獣の凶悪な素性を聞いて、少年の表情はこわばる。
「…どうやら見つけたようじゃねぇかグロル村の仇をな」
ブネが話すと、ガープも
「村の仇、か
では貴様も、ヤツを討つつもりなんだな?」
と少年に覚悟を問い掛ける。
「ああ、絶対に逃がさない!
ガープもそいつを追ってるんなら、いっしょに倒そう!」
少年の本気の言葉を聞くとガープもそれに応え
「ヴィータと共闘など気が進まぬが…まぁ、いいだろう
「村喰らいの双貌獣」のねぐらまで案内してやる」
と、少年たちの同行を認める。
「…待って…気が進まぬが、って何?
もしかしてヴィータ嫌いなの?」
黙っていたウェパルが先ほどのガープの言葉を持ち出して尋ねる。
「当然だ
この身は貶められたが、俺は誇り高いメギドだからな」
と、ただのヴィータの少年の前でも悪びれる様子もなく言いながらも
「…だが、下等なヴィータとはいえ、仲間を殺されて怒る気持ちはメギドも同じだ
動機は理解できる」
それに「村喰らい」を倒すには力が必要だとガープも痛感しており、ソロモンの指輪の召喚を受け入れるのであった。