今や人間失格、昔や不良品

Last-modified: 2011-10-20 (木) 16:50:07

 近い未来には興味ないのに、今日を生きたかった人の今日を、無駄に過ごす為に奪い取って。
でもそうしなければ、生きて行けなかった。死にたいと思ったことも多いけれど。
 ……俺は、昔から、そんな――生き物だった。人間でなく、生き物。人間失格、不良品。

 ぼくは、何故生きているのでしょうか。幼いぼくには、そのような疑問は解けそうにありませんでした。
生きている理由、存在理由。それはきっと、大昔から人間が課せられ続けた問題ではないのでしょうか。
何よりも難しく、何よりも無視して構わない、そんな問題。
 でもぼくは、人間でない、いわば――不良品でしたので、別に気にすることでないと思いました。
元より、存在理由も存在価値も無い、余り物。世界のゴミ同然のガラクタでした。

 不味いものを口に運んで、つまらないものを見させられて、欲しくもないものを与えられて、汚いものを触らされて、やってほしくない行為をされて、最後は汚される。だから、人間というものが嫌いでした。妹以外の家族というものが嫌いでした。物言わぬ姉に笑わぬ兄に何も見ぬ姉。下らぬ父に優しくない母。これをどう好きになれと言うのでしょうか。そんな中、妹だけは、人間でありながらも、ぼくに普通に接してくれました。たったそれだけのことでも。ぼくは、彼女を許せたのです。
 彼女を許せた――赦したということは、とても大きな事実でした。

 障らせたくない、赦したくない。他人をとにかく嫌う生き物が、ぼくでした。
笑わぬ、無愛想な、本音を言わぬ生き物。否、不良品。それがぼくでした。つまらぬ不良品。
 そんなガラクタだったからでしょうか、ぼくは気が付けば、捨てられていました。

 壊れた玩具と錆びたナイフと動かぬ人間は捨ててしまえばいい、というのが一族の掟だった気がします。
捨てられてしまったぼくは、学園島を放浪し続けました。不良品として。まだ小学三年生程度の頃でした。
 けれどもぼくは、決して自分を哀れだと思ったことはありません。不良品は、捨てられるのが運命ですから。
そしてぼくはそのようなことを考えつつ、光の差さぬ路地裏で、ぼくは呟いたのです。

「生まれてきて、ごめんなさい」

 思えばこの一言が初めて、ぼくを完成させたのかもしれません。
完成した、不良品。そう、それは――『人間失格』。ぼくの名前は、『人間失格』でした。
 誡 祗という名を、ある人にもらったことがありましたが、今のぼくの名前は、人間失格なのです。

 人間失格と化した不良品のぼくでしたが、小学校五年生になった十歳の頃、ぼくは家族に呼ばれました。
家族ではない、家族に。
呼ばれた理由は、しきたりらしい儀式を行う、とのこと。ぼくは黙ったまま、実家というところへ帰りました。
 実家へ帰ったぼくは早速、儀式の準備を行い、すぐに儀式を行う場所へ一人で行かせられました。

 儀式を終わらせた帰り道、ぼくは言いつけを守らずに、振り返ってしまいました。
それから、ぼくの記憶が、――俺の記憶が、抜けていました。五年間の記憶。
 十一歳から十五歳までの五年間、俺が何をしていのかは、さっぱりわかりません。
けれども一つだけ、俺は知っていることがあります。
 俺は、最低の落ちこぼれの、人間失格であることを。

 人間失格である自分は、人を殺し続けました。生きる為に。妹以外の家族を、皆殺しにしてまで。
そしていつしか、人間を嫌わなくなっていました。
 更に、初めて、友達というものが出来ていました。
そのおかげで、俺は、ようやく自分の存在価値と、存在理由、生きる意味を、わかったかもしれません。
 だからこそ俺は、もう少しぐらいは頑張ってみようと思います。
 ――こっから先は、俺が紡いで行く、俺という一匹の生き物のお話です。
どうか、お暇な方は、俺が死ぬまでのお話を、見届けてくれると、嬉しいかもしれません。
    fin.
――――――