始まり(風香過去話)

Last-modified: 2010-12-07 (火) 16:33:31

「おぎゃあ!おぎゃあ!」

小さな赤ん坊の泣き声が響く

ここは、大きな町だった

技術だって結構進んでいたし、人だってたくさん住んでいた

そんな町に住む1人の夫婦が、自分たちの赤ん坊の誕生に、未だ喜びに満ちていた途中だった

なのに、何故

何故、『こうなった』のだろう

今日赤ん坊と共に家へ帰れるはずだった

けれど次の瞬間には『これ』だ……訳が分からない

二人の両親は、赤ん坊を抱え、母親は地面に足をつきながら呆然とこの光景を見つめた

こんなことになるなんて、誰も予想しなかった

町が丸ごと消える

なんてこと、だれも予想しなかった――

―――――――――――――――――

「ママっ!」

母親に似た金色の美しい髪と、父親に似た透き通るような青い瞳をもった小さな小さな少女は、嬉しそうに母親に話しかける

何かを見せようと手を開き、その中には白い光で作られた、下手なりに上手な母親の好きなコスモスの花

先ほど、頑張って作り、上手く出来たから母親が喜んでくれるかもしれないと見せに行った

けれど――

「来ないで頂戴!化け物!!」

母親は、冷たくそう言い放ち自分に向かって差し出された手をパシッとはたいた

ずっとこうだ

どんなに頑張って笑顔になってもらおうとしても、答えはいつも同じ。

「化け物」……そう言って母親も父親も自分のことを拒絶する

産まれてすぐに自分が町を消した経験かららしい

けれど、怖くないんだ。大丈夫なんだって分かってもらうために笑いかけ続ける

「ごめんなさい。次はもっとじょうずにつくるね」

そう言っていつも通り笑い、花を片づける

小さな女の子……風香は、一度だって泣かなかった

こうして二人に笑いかけて接していれば、いつかきっと分かってくれるって信じていたから

信じていれば夢はかなうってテレビでもやっていた。

だから風香はずっと信じ続ける

いつか、両親が「化け物」ではなく、「風香」と呼んでくれて、笑いかけてくれると信じていた

でもそれは、すぐに叶った

『嘘』の形で――

コスモスの花を消滅させた後、ぴんぽんと音がして、両親が出る

入ってきたのは、見知らぬ白衣の人たち。

なんとなく怖い気がして、壁に隠れながら様子をうかがう

両親と白衣の人たちはしばらく何か話して、そして両親が此方へ来た

「『風香』」

父親が名前で自分のことを呼ぶ

ただ今はそれが純粋に嬉しくて、顔を輝かせた

「風香、いい子にしてたら迎えに行ってあげるから、しばらくあの人たちの所で暮らすのよ」

今まで一度だって聞いたことのない優しい声と、優しい笑みで母親がそういう

嘘だと思った

きっと両親は迎えに来ない

もしここであの人たちの所へ行けば、きっと2度と戻れない

あの人たちは怖いし、両親とも離れたくない

小さな少女は涙が出そうになってしまう

けれど、信じなければいけない

信じれば、きっと報われるから

だから、今は――

「分かった。じゃあ、むかえにきてね!パパ!ママ!」

キラキラとした笑顔を作り、そう言うしかなかった