「そうかな?」
「私にとってこの世界は、キラキラ光ってるように見えるよ?」
彼女は、とてもとても綺麗な笑顔でそう言った。
それは淡くて、光の中に溶けて消えてしまいそうなほど、綺麗で儚い笑顔だった
*
遠くで子供たちが遊ぶ声が聞こえる。近くに公園でもあるんだろうか。だけど、ここからじゃその公園は見えない。
楽しそうだな、と風香はうっすらと思う。
声の聞こえる方を見て、少しだけうらやましそうに……そして、悲しそうな表情を見せた。
それは優しい感情でもあるし、悲しい感情でもある。
きっと、かつてはあそこに居たんだろう。ああいうふうに、心から楽しそうな声をだして、たくさんの友達に囲まれて……
風香はかつて、絶対に許されない罪を犯した。彼らはきっと風香のことを許さないだろう。許しても、それは罪を償ったことにはならない。
この世界に罪を償う方法はない。なら、彼らの代わりになるしかない。
彼らのやりたいことを、したいことを、考えて、それを代わりにする。それしか償う方法はないのだろう。
風香は止めていた足を動かし、もう一度歩き始める。
今日は親子丼にしよう。きっとふわふわの卵と鶏の肉は美味しいだろう。汁の染み込んだ白いご飯もきっとおいしいに違いない。
彼女が、一番好きだったもの。
和食が好きだった彼女が特に好きだったもの。
だから私も和食が一番好きなんだ。
彼女は毎日でも和食を食べたいといった。だから、私は毎日和食を食べる。
彼は騙されてもその人を信じつづけた。だから私も人を信じつづける。
彼女はこの世界の全てを愛していた。だから私もこの世界の全てを愛する。
彼はとても優しかった。彼女はとても儚かった。だから私は、それを再現する。
彼は強かった。だから私も強くなる。
彼女は何かを守れるようになりたいと言った。とても大切な何かを。だから私は彼女の愛したこの世界を守る。
彼女は
彼は
だから私は
私は、一体誰なんだろう。
私にしかないことって、あるんだろうか
ああ
1つだけあった
ずっとこの胸を締め付けて、涙を流させる感覚
これは
罪悪感――――?
全てが終わって、たった1つだけ私に残った私が私である証拠。
最早これしか、私である要素はない。
「あ、風香さん……ですよね?」
かけられた声に、私は満面の笑みでこたえる。
いつも通りの、全く変わらない笑みで。
「あ!どうしたの?こんなところで会うなんて偶然だね。
そうだ!よかったら一緒にご飯食べない?晩御飯の材料買いすぎちゃって」
私は、誰――――?