第一部.定理11のおまけ
今、ぼくはわざと神が存在するという事実を「後づけ」(=「最初から」ではなく、結果として神が存在する)の形で証明した。でもそれはその方が証明が楽ちんだからというだけのことで、何も同じ条件から「まず最初に神がいて、それから...」みたいな、同業者がよくやるような神を出発点にした証明ができなかったわけじゃないんだ。さっきの話しにもあったけど、存在するということがそれだけでパワーがあるんだから、あるものごとがより確かにそこ(そいつの本質の中)にあればあるほど、存在のパワーもそれにつれて力強くなってくるはずだ。ということは、神みたいな途方もなく無限なものはそれこそ無限の存在パワーを獲得することになるし、だからこそイコールそいつは「途方もなく存在する」ってことになる。でも、今ぼくがわざわざやったこの証明がどのくらいわかりきったことなのか、それを分かってくれる人はほとんどいないだろう。みんなはきっと、「ものごとの原因はどこか他の場所にあるのが普通じゃない?」とか「こんなことになったのはあいつが悪い」という風に考える癖がついてしまっているだろうから。
この人たちは現象を見てはこう考える。「バナナはすぐ腐るが、石は簡単には腐らない(諸星大二郎)...成長の早い草はもろいが、成長の遅い木は頑丈だ...簡単に成り立つようなものはすぐ滅びてしまう。簡単に存在できてしまうようなものは簡単に消えてなくなる。だから、逆により複雑なもの(つまり簡単には成り立たないようなもの)はやはりそうそう簡単には存在することはできないだろう。つまり簡単には成り立たないようなものごとは簡単にはなくならないのだ」と。
ぼくとしてはこういう勘違いを早く訂正したくて仕方がないんだけど、だからといって「あぶく銭は貯まらない(What comes quickly, goes quickly)」みたいなことわざを持ち出して修正するつもりはない。ことわざやたとえ話で説明するのはイエスやブッダのやりかたで、マホメットが規律をたたき込む方法を使ったように、ぼくもまたそれとは違う方法を使う--でもみんな結論は同じなんだけどね(爆)。ましてや、「宇宙の本質を鑑みれば、万物は生じ易く滅し易しこと火を見るより明らかなり」だとか「万物流転」だとかそんなインチキくさいことを話題にするつもりもないからね。この勘違いを訂正するためにぼくがここで強調しておきたいことはただ一つ。「消え去ってしまう程度のものごとなら、そいつが消え去ってしまう原因はその外にあるだろう。でも物質は違う。物質を作り出せるような原因はそいつの外になんかありはしない(第一部.定理6を読み直そう)。だからましてや物質を消滅させてしまえるような原因も物質の外になんかありはしない」ってこと。そいつを作り出した原因(その原因の数が多かろうと少なかろうとこのさい関係ないんだけどね)がそいつの外にあるような、そんな程度のものごとなんて、一見完璧に見えてもそれは外にある原因のおかげなんだし、そいつが一見リアルに見えたとしても、それだって外にある原因があってこそなんだから。完璧さもリアルさも、全然そいつ自身がもたらしたものじゃない、全部その外にある原因様のおかげなんだからね。そんなのは親の金で遊んでいる子供みたいなものだ。
じゃあ物質はどうか。物質のほれぼれするような完璧さは、もう言うまでもなく物質の外にいる「何か」のおかげなんかじゃない。物質の完璧さは物質が自分自身でもたらしているんだ。だから、物質は何ものにも頼らずにひとりでに存在するんだし、存在しているその原因だって、物質の本質に最初からセットされているんだ。
ここで話しを広げて「あるものが完璧だとすると、その完璧さのせいで(何かの間違いで)存在が否定されるようなことは絶対にない。むしろ、完璧であるということはイコールそいつは間違いなく存在している」と言い切ってしまおう。完璧さは存在の身分証明書なんだ。だから逆に、不完全なものというのはそれだけであっさりと存在が打ち消されてしまう。はいさようならだ。
だから結論はこうなる。「この宇宙には完璧なものしか存在していない(笑)」。この宇宙に確実に存在しているのは誰あろう、途方もなく無限でほれぼれするほど完璧な「何か」--それが神なんだ。神の本質のどこを探したって、不完全なものなどありはしない。だから、神の存在をどんなにやっきになって否定しようとしたところで、否定できるような材料なんかどこにもありはしないんだ。だから神の存在感はもう最高ってこと。どんなものよりも確実に存在をアピールしている。これを読んでいる君たちはきっと賢いだろうからすぐわかるよね
ぼくスピノザがぶち壊したいと思っていることは、まさにこのことなんだ。君たちはすぐこう考える。自分の思う通りに行かない→それは自分のせいじゃない(と思いたい)→間違ってるのは自分をわかってくれない世の中の方だ→だから世の中はなにもかも間違っていて不完全だ→宇宙は不完全なんだそうだそうに決まってる→今は不完全でもそのうち完全になる日が来るだろう→ハルマゲドンが来て(UFOが来て)この間違った世の中をぶっ壊してくれるだろう→その時に救われるのは信心深い俺・あたしだけさ→そのためなら何だってする→ほかの奴らは地獄行き→ざまあみろ、とね。悪いけど、君らがどう思おうと神の完璧さは少しも損なわれたりしないんだ。宇宙は今も昔もこれからもずーっと完璧だよ。まあここまで書けば、もう神を否定しようなんてつまんないことをたくらむ気にもならなくなっているだろうけどね。