第二部.定理11のおまけ

Last-modified: 2007-08-05 (日) 17:43:16

第二部.定理11のおまけ

ここで17世紀の読者だったら、確実にわけがわからなくなってしまうはずだ。21世紀のみんなも、もしかすると途方に暮れてしまうかもしれない。ぼくスピノザが、いったい何をたくらんでいるのかを勘ぐりたくなって、今まで説明してきたことをあわてて読み返すかもしれない。でもまあしょうがない。でもこれまで通り、一歩一歩着実に足場を固めて登る以外に方法はないんだよね。だから申し訳ないんだけど、今「とすると?」で説明したことについては【納得してもらう】以外にないし、これについてはこの本を最後まで読み終るまでは疑ったり反論しないでいて欲しいんだ。約束してくれるかな?

今の「まともじゃない」だの何だっていうのは、つまりこういうことだ。いい?
思いがたった一つの時、ぼくたちはその思いの相手であるものごとをまともに感じとることができる。
思いが複数あっても、そいつが一番強い思いなら、その思いの相手をまともに感じとることができる。
ということは、一番強い思いの相手以外の相手は、どれもこれも「まともに感じとることができない」んだ。言い替えれば、「思いはあるんだけど、その思いの相手に関しては不完全な情報しか得られなくなる」んだ。
これを読んでいるみんなの頭から「?」が生えてきている姿が目に浮かびそうだけど、それは無理もない。これはものすごく重大な結論なんだけど、何でそうなのか、ぼくスピノザはひとっことも「説明していない」からなんだ(爆爆爆爆)。
みんなにうそをついてもしょうがないんだけど、ぼくスピノザはここまできっちりきっちり説明しながら、「一番強い思い以外は、どれもこれも相手に関する情報がまともになれない」ってことの理由を説明できないでいるんだ。だから疑り深いいやーな読者(笑)は、このことを「仮説」としてとらえてくれてもいいよ。しかし、この仮説がどれほど強力なものか、この先を進むのにどれほど頼りになるものかは自分の目で確認して欲しい。素直な読者はそのまま【納得して】欲しい。よろしく。じゃあ次に行くよ。
その目は何?疑ってんの?しょうがないなあ(笑)。じゃあ完全な説明にはなっていないけど、もう少しだけ違う言い方をしようか。人間の「こころ」は、どういうわけか一度に一つのものごとに対してしか「ピントを完全に合わせる」ことができないんだ。他の思いは間違いなく存在しているし、思いであることは間違いないんだけど、そいつらの相手については「ピンぼけ」になってしまう。そのピンぼけ状態をぼくは「まともじゃない」って言ったんだ。しかもどういうわけか、ピントを合わせられるのは一番強い思いの、その相手だけになってしまう。
なぜそうなのかは、残念ながらぼくスピノザははっきり説明することはできなかったけど、これはおそらく人間というハードウェア(笑)の限界なんじゃないかと思う。人間をかたちづくっているものごとはどれもこれも頼りないってさっき言ったけど、このことがまさにそれを強力に裏付けている(爆)ってことになるかな。
ここでこんなことを書くと、「じゃあ一度にたくさんの思い(の相手)にピントを合わせられるような薬を作ったら、ぼくたちはもっと頭が良くなるかもしれないですね」とかつまんないことを思いつく(笑)人がきっといると思うけど、悪いことは言わない。マジでやめた方がいいよ。たとえそんな薬があったとしても、ぼくたちの身体は一つしかないってことを忘れてもらっちゃ困るな。それはちょうど、一台の自動車にたくさんハンドルとアクセルをつけて、たくさんの人がいっぺんに運転しようとしているのと同じ状態だ。100%事故るね(笑)。でなかったらピクリとも動かないか(笑)。マリファナでもLSDでもスピードでも、基本的な効果ってのはこれなんだ。ピントを合わせられるものごとは一度に一つだけ。だからそれにつながる思いまともになるけど、それ以外のものごとにつながる思いまともじゃなくなる。これは身体が人間である限り、逆立ちしても変えられることじゃない。クスリで超人になろうなんていう甘ったれた考えは、ぼくスピノザが何度も言った「に対する大勘違い」そのものなんだから。だいたいクスリが何の役にも立たないってことがたった今よくわかったでしょ?
「そんなふうに、一度に一つのものごとにしかピントを合わせられないお前の方がトロいんだよ」「おれだったら、次から次にすばやくピントを移しかえて見せてやるよ」っていう人がいるかもしれない。それでもいいよ(笑)。やればいいじゃん、できるんならね。でもぼくスピノザが今相手にしているのは、この本を読まずにいられないほどせっぱつまった悩みを持っている君たちだ。そういう君たちもきっと、少なくとも「「一つのものごとにピントを合わせるのがやっと」な、ぼくと同じぐらい不器用な人たちだと思うんだ(笑)。「悩みなんか一つもない」って胸を張って言える人ならこんな本を読む必要はない。とっとと山を降りたらいいじゃない(笑)。
時間を食っちゃったね。先を急ごう。でもあわてずにね。