Skywinder氏作/Pariah/Chapter08

Last-modified: 2025-01-08 (水) 20:46:32

──アイアコン オートボット司令部 2日後──
──オプティマスプライム司令室──

今日もまた、オプティマスはため息をついた。

「信憑性は?」

「はい。シムファーの惨劇直後に基地付近で目撃されたとのパンチからの報告です。それと、マーキュリオンの死亡時刻付近に、屋敷周辺での目撃証言をいくつか確認しました。」
報告する声は平坦だった。
マーキュリオンや議員の死や失踪を嘆くものは少ないが、そう単純な話ではないとオプティマスは感じていた。サウンドウェーブがほとんど目撃されずに都市に忍び込み、あまつさえ脱出したのだ。それだけの抜け道が知られていたことに加え、彼の存在を誰も疑問に思わなかったのだ。さらにまずいのが、彼の抱えるカセットロンのラヴェッジとレーザービークの存在を、多くの者が知らないという点だ。オプティマスもマーキュリオンの死亡現場を映像で見たが、凄惨というほかなかった。もしジャズの懸念通りラヴェッジの仕業だとすれば(確定と言っていい)、ラットバットの末路も穏やかではないだろう。

「サウンドウェーブが敵に回ったことは間違いないようだな。」

「そのようです、司令官。」
ジャズの声は落ち着いていたが、滲み出る怒気は隠しきれなかった。何せ、これまでの議員の失踪や殺害事件は全て、ジャズの監視下で実行されたのだ。彼は仕事に真面目な性格であり、こうも小馬鹿にされて黙っていられる性分ではない。しかし今はより重大な問題を抱えていた。

「都市の防衛機能をもっと固めなければならないな。ジャズ、君とミラージュに防衛措置の検査を任せる。状況に合わせて今後の方針を決めたい。」

おそらく、今となっては手遅れだろう。それでも綻びは少しでも対処すべきだと、オプティマスは考えた。

「了解。」
ジャズも快く応じてくれた。縄張りをさんざん踏み荒らされたのだ、すぐにでも問題の対処に回りたいことだろう。
サウンドウェーブのやったことは挑発だ。『俺が入り込めるならば、他の密偵も易々と通り抜けられるぞ』と。そんなことをされて黙っていられるほど彼も呑気ではないし、次に会ったならば奴の胸に刃を突き立ててやりたいことだろう。

このような真似をして無事でいられた者はいない。あってはならない。

「レッドアラートも巻き込んでいいでしょうか?」

「ああ、その方がいい。どれだけの工作が進んだか未知数だ。それと、サウンドウェーブが反逆者であることは正式に発表する。奴の対処については、君のチームに任せよう。」

ジャズの口角があがった。お墨付きというわけだ。
そこで次の話題に移ることにした。ミラージュの報告についてだ。

「スタースクリームのことはどうします?」

質問に対し、オプティマスは鋭い視線を向けた。
「どういう意味だ?」

「とぼけるのはやめてくださいね。オプティマス司令。なんのことかはおわかりでしょう?」

オプティマスはジャズの声色をしっかり読み取った。冷徹で、打算的な声だ。こういうときの彼は真剣そのものだ。
それと、彼が『オプティマス司令』と名指しするときは、冗談の余地がなく、真面目な話をしたいときだ。

決して同様せず、しっかりと視線をかわして聞き返す。
「なんとなくしかわからない。具体的な説明をくれ。」

バイザーに隠れた目が細まった。
「サウンドウェーブがわざわざ潜入してきたのは、我々への挑発や議員の殺害だけではないということです。奴は、噂のシーカーのことも探っていたんです。」

少し沈黙が流れた。報告に目を通したとき、疑念はよぎった。ディセプティコン本部に潜入中のパンチの報告では、サウンドウェーブの目撃だけでなく、ストームレーザーが『はぐれ』シーカーの情報をメガトロンに伝えたという話もあった。シムファーの戦いで、明らかに他のシーカーと敵対したスタースクリームが見逃されるはずもない。

「メガトロンは動くでしょうね。引き抜くか、殺すか。いずれにしてもオートボットに与するシーカーを看過しない。加えてプロールのおかげで、ここにいる最中も彼の生活が脅かされるのは目に見えています。」
そこでジャズは口を閉ざし、返事を待った。

オプティマスは目を細めて答えた。
「彼はほんの5日前まで昏睡状態だったんだぞ、ジャズ。それからずっと誰かがそばにいる。君の考えるようにメガトロンがスタースクリームを狙ったとして、サウンドウェーブが本部に忍び込んで彼と接触することは不可能のはずだ。」

しかしジャズはその説明──特に最後のひと言に同意しきれなかった。
サウンドウェーブの能力は厄介だ。議員の屋敷に堂々と忍び込んで大胆な暗殺を実行した奴が、『流石に本部は控えよう』なんて消極的にならない。ジャズが以前からサウンドウェーブを怪しんでいたことを知る者は少数だ。それを抜きにしても、あの段階で奴のスタースクリームへの接近を止める者はいなかっただろう。一方で、ジャズに特殊能力がバレていると奴も自覚しているはず。そんなリスクのある状況で潜入するほど、サウンドウェーブは無策じゃない。それを踏まえると、カセットロンを使った可能性が高い。だとするともっと厄介だし、レッドアラートにも共有しなければならない。

個人的に、オプティマスが真っ先にあのシーカーの擁護に備えたことは興味深かった。ミラージュの報告の件も気になる。これもいずれ詮索すべきことだろう。むしろ今までやってこなかったのが不思議なくらいだ。

「怒らないでくださいよ、司令官。私はあくまでも可能性の話をしているだけです。……考えてもみてください、メガトロンはノーと言われて黙っているような性格じゃない。そしてスタースクリームがここで惨めな生活を送ったなら、もしかするかもしれないでしょう。加えてサウンドウェーブは周囲の目を掻い潜ってどこにでも潜入する神出鬼没。ありうる話ですし、客観的な事実です。」

オプティマスは何も言わなかった。最後の一言は不穏だが、それでもスタースクリームが裏切るとは思えない。しかし問題は彼の刑務所での経歴だ。先日は万が一に不当な被害を受けたら報告すると約束したが、きっと相応の反撃はしてしまうだろう。それに部下達のこともある。ジャズは友好的な性格だが、仕事柄どうしても周囲と壁を作り、たとえ心から友人と呼べる相手ができても警戒を怠らない。きっとスタースクリームのこともそう簡単には信用しないだろう。

だが少なくとも、ミラージュにプロールの監視をさせ、彼がスタースクリームを始末するためにオプティマスの命令に背いたことをすぐに報告したという事実がある。これはつまり、たとえ信用はせずとも、ちゃんとオートボットの一員として認識してくれているということだ。傾向は好ましい。

「ジャズ、私はスタースクリームと個人的に話をした。そしてこれまで受けてきた報告からすると、彼は不都合を理由に簡単に逃げ出すタイプではないと思う。」
ジャズが口をはさむ前に続けた。
「君もシーカーという機種の危険性を考慮し、彼の監視をしてきただろう?その結果、何がわかった?」

ジャズは少し考え、まもなく答えた。
「……聞いてきたのとだいぶ違うなと。」

「そう感じたうえで、まだ彼が裏切ると思うか?」

ジャズは少し待って、ようやく頷いた。
「わかりました。でも油断しないでくださいね。スタースクリームに裏切る気はなくても、メガトロンはお構いなしですから。」

ジャズが退室した後、オプティマスは椅子にもたれながら考えた。
最近は悪い知らせばかりだ。マーキュリオン議員暗殺の犯人がサウンドウェーブで確定したならば、都市の防衛網は敵の総攻撃に耐えられない恐れがある。1人が都市のセキュリティを通り抜けられるなら、他にもできるものがいるということだ。加えて、サウンドウェーブが本部に潜入して防衛システムのデータどころかあらゆるシステムに手をつけられるかもしれないと思うと、もはや絶望的だ。

戦況は瀬戸際なのに、悪いことばかりが重なる。

シムファーで囚人部隊のみならず多くの兵士が命を落とし、有利な要素は減るばかりだ。そしてジャズが報告したように、メガトロンがオートボット側についたシーカーのことを知ったなら、あらゆる手を使って奪取を試みるだろう。

攻勢に回るべきだと決めたのはついこの前のことなのに。防衛も同じく強くあるべきことを失念していた。どうにかジャズとレッドアラートが協力してこの驕りを解決してくれると祈るばかりである。それが叶えば、サウンドウェーブが奪った防衛システム情報を無力化できる。

席を立ち、窓に歩み寄った。都市の方には目を向けず、遠い地平線をじっと見つめた。このどこかで、サウンドウェーブは好き放題に闊歩し、誰にも気づかれぬまま悪さをしていると思うと頭が痛くなる。

そしてすぐにでも思い知ることになるだろうと、予感がした。


──クリスタルシティ──
──サイエンスアカデミー 最高機密資料保管庫──

タン。

タン。

タン。

青い手がキーボードの上を踊る、アカデミーの最高機密保管庫に潜入するなど容易い。
部屋は暗く、スクリーンの光だけが赤いバイザーを照らしていた。暗がりには棒きれのような機体が、こじ開けられた胸部から潰れたスパークチャンバーを晒し、冷たい灰色に染まっていた。

最後のファイアウォールを突破したとき、サウンドウェーブは滅多に見せない笑みを浮かべた。展開されたデータは多くの大都市の防衛機能や青写真だ。
アルティヘックスの反重力エンジン。
プラクサスの自動センサー式タレット銃システム。

スペースブリッジの技術情報や設計データ。

3つめは時が来たら大変有用なものだ。世界一卓越した頭脳が集う偉大なるサイエンスアカデミーの叡智の結晶が、ディセプティコンの手に落ちた。

容易いな、愚か者ども。

サウンドウェーブがクリスタルシティに到着したのはほんの先日。議員とのコネを利用して、科学評議会メンバーにオートボット勝利を約束する新兵器開発の話という名目でアポイントメントをとった。応じたのがあのトランジットだったことは幸いだった。奴はマーキュリオンと近い関係で、名前を聞きつけてすぐに機会を設けてくれた。

奴の脳をハッキングして保管庫へ案内させることは児戯に等しかった。そのまま胸を開かせてスパークチャンバーを晒させるのも容易かった。最後まで何が起きていたかもわからないまま死んだことだろう。

大都市のあらゆる情報のダウンロードを完了し、次なる段階に移行した。

最高クリアランスの情報をハッキングするのは通常不可能だが、経験豊富のサウンドウェーブにとっては遊び同然だ。数分経つ頃には、アカデミーの最重要機密情報が手に落ちた。隣の死体には目もくれず、目的のデータを検索し……

完了するまで、そう時間はかからなかった。


──アイアコン オートボット司令部 2時間後──
──兵舎 上層──

これが俺の新しい部屋か。
スタースクリームは導かれた部屋をぼんありと眺めた。場所は非常口に近い最上階にあった。
至って平凡な部屋だ。薄灰色の壁に囲まれ、片方の壁にはテーブルと椅子が1脚ずつ。反対側には翼を広げて寝るに十分な広さの寝台。あとは机と一体化した空っぽの棚があるだけ。正面の壁にはられた大きな窓は目隠し処理がされ、景色がうっすらを色味がかっている。広々として、翼を持つシーカーも悠々と動き回れる程度だった。

この部屋を用意するのに、さぞかし苦労しただろうに。
部屋を見回しながら思った。他の幹部たちとどう議論したのか気になった。アイアンハイドは(もう訓練所で顔を見ずに済むことはともかく)きっと真正面から反対しただろう。他の幹部のことはよくわからない。知っているのはオプティマスとプロール(この男は、オプティマスから話を聞いただけでも不穏だった)くらいで、あとはラチェットから各人の性格の概要を聞いた程度だ。おかげで誰が危険で誰が安全かもおおよそ把握できた。

聞くぶんでは、レッドアラートが1番面白そうだな。
スタースクリームは笑った。いちおうラチェットから注意されたことも意識しつつ、今後どう彼にちょっかいをかけるか計画するのが楽しみだった。

ジャズは要注意対象だ。表向きにはフレンドリーで明るいが、裏では冷酷で計算高い男だという。多少警戒した方がいいだろう。敵に回したら厄介な相手にちがいない。

問題はプロールだ。彼については、どうやら知らぬ間に恨みを買ってしまったらしい。思い返して笑みが失せた。
逮捕されたあの日、プロールと他のエンフォーサーの区別なんてつかなかった。奴の恨む気持ちは理解できなくはない。スタースクリームだって親しい者が乱闘に巻き込まれて大怪我を負わされたなら、相手のことを根にもつだろう。特にプラクサス人は執念深いことで知られ、たとえ直接的でなくても傷を負わされたら相手をどこまでも恨むのだという。
しかし、だったらどうすればよかったというのだろう。無実の罪を突きつけられて、ただぼうっと突っ立って、おとなしく連行されるバカなんていないだろうに。

さらにタチが悪いのは、ヴォスとプラクサスが一時的友好関係にあったことだ。それが戦争が始まるや否や、敵対派閥に分かれたとなると……

暗雲を振り払うように首を振った。プロールがあんな回りくどい嫌がらせをするのも不思議ではない。確かにオプティマスから話を聞かされた時は戦慄したが、後から冷静になって考えると想像に難くない話だった。昔から周りはよく敵を作った。それにラチェット曰く、昏睡中も何人か「シーカーに立場というものを教えてやる」と豪語して治療室に乗り込んできたそうだ。もちろん医師としてラチェットが彼らを口頭で(あと物理的に)叱責し続けた結果、そういった足も途絶えたという。しかし退院した今、トラブルが起きてもラチェットは頼れない。

部屋を案内してくれた黄色いミニボットは、確かバンブルビーといった。気さくなやつでエネルゴンの補給所や共同洗浄室など、各施設を丁寧に教えてくれた。ただ終始緊張した様子が見てとれて、居室への案内を終えるや否や、逃げるように去ってしまった。

あの噂のせいだ。
すでに影響は広く及んでいるようで、問題もすぐには解決しないだろう。ふらりと窓に近寄って、特に何を見つめるでもなく遠くを眺めた。まだまだ考える時間が必要だ。

ひとつだけハッキリしている。
オプティマスはできる限りの助力をしてくれる。だが全てを止められるわけではない。懲戒処分沙汰になったとしてプロールが今後も介入するのは想像に容易いし、加害者らはきっとその意味に気づく。たとえどんなバカだったとしても、あの副官が加害者側の罰を軽くして、スタースクリームに責任を押し付けるだろうことは想像できるだろう、あの監獄にいたとき、さんざん思い知った手口だ。

オプティマスが囚人部隊の派遣のことを事後に知ったことがその証拠だ。

あの司令官は真摯に対応してくれているし、手を尽くしてくれることは間違い無い。実際味方を数人でも見つけてくれたし、また科学に従事できる場まで用意してくれた(知らされ方には怒りを爆発させてしまったが、内容自体はとても嬉しかった)。しかしそれでも安全は確約できない。スタースクリーム、そしてシーカーという機種に対する嘘や噂に数千年囚われた頑固な男がいる限り、平穏は望めそうにない。

腕を組み、顔をこわばらせた。わだかまる怒りや悲しみを整理し、落ち着かせた。オプティマスには、命に関わらない限りは無闇な抵抗をしないと約束した。だが喧嘩や口答え以外にもやり返す術が存在すると、長年の苦痛の末に学んだ。

あらゆる虐待を受けても決して壊れなかった。訓練所での理不尽に対しても癇癪を抑えられた。結局怒りに任せたところで、すべては自分に跳ね返るだけなのだ。

同族殺しのために軍に入ったとしれば、スカイファイアは悲しむだろう。しかしスタースクリームが信条を曲げたりしたら、もっと失望するだろう。

今度は自分の本当の力を見せつける番だ。

誰にも止めさせはしない。


──クリスタルシティ──
──サイエンスアカデミー 最高機密資料保管庫──

最後のファイルのダウンロードを完了した、目的はすべて果たした。敵軍の防衛システムからスペースブリッジの建設データまで、破壊大帝メガトロンの目的に寄与するような情報は取り尽くした。そしてあのスタースクリームというシーカーに関わる情報も全て。その後メガトロンから連絡を受けて計画の変更を聞かされたとき、今回得たデータからしても奴が有用な人材であると確信した。

しかし、ストームレーザーの報告内容の裏付けになるだけならまだしも、アカデミーの記録によればスタースクリームは相当な癇癪持ちらしい。

サウンドウェーブは気にしなかった。それも時がくれば対処すればいい。あとは仕事の始末だ。

数分ほど時間をかけて、監視カメラから自分の姿の情報を改ざんし、トランジットの目撃情報も徹底的に削除した。侵入の形跡も残さないように処理をした。目撃者は……記憶を消してやればいい。

最後のひと仕事。
データによると、クリスタルシティの建設者らが市内にいるらしい。しかし彼らは下層に追いやられ、今となっては忘れられた存在と化していた。
彼らを仲間として迎え入れたなら、メガトロンは喜ぶだろう。

部屋を去る直前、ふと立ち止まった。傍に転がる死体を見下ろすうち、ある考えがよぎった。
操ることも容易かったが、この死体にはまだ利用価値がある。

数秒ほど考えて、決めた。

トランジットの死体をかき集めて保管スペースにしまい込むと、誰もいなくなった部屋を静かに立ち去った。

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