megadoomingir氏作/RedeemTheStars/03

Last-modified: 2020-05-30 (土) 11:14:42

原文ssssssssss



くぐもった声がした。

スタースクリームは顔を顰めた。また覚醒しつつある。痛みは思ったほどひどくなかった。まったくないというわけではなくズキズキと疼痛がするものの、少なくとも先ほどの激痛よりは遥かに耐えうるものだった。

彼の表情の変化に誰かしら気づいたことだろう。くぐもった声が先ほどよりも大きく、興奮の様子を示したからだ。やがて最も年寄り臭い声が「シッ」と周囲を静め、騒ぐなだのなんだのとこぼしていた。

スタースクリームは顔の近くに寄せられた手の存在に気づいた。それに伴うようにラチェットの声が聞こえてきた。
「スタースクリーム?スタースクリーム、オプティックを点けて、まっすぐこっちを見るんだ。」

横たわるジェットロンは敢えて応じなかった。要求を理解できる程度に意識が戻っているが、なんとなく応じたくなかった。
すると今度はラチェットの排気が聞こえた。
「スタースクリーム、君の脳波はこっちで確認取れているぞ。ちゃんと聞こえていることはわかっている。」

「だから?」
スタースクリームは不機嫌そうに言い放った。するとすぐそばの機体が、今度は低い声で言ってきた。
「オプティックを点けないとシステムをオーバーライドして強制的に点けさせるぞ。」

「あるいはあなたをこのまま放置しちゃったりなんだり?」
ノックアウトの楽しそうな声が上がった。さらに横からアーシーの声がした。
「個人的に私はそっちに賛成よ、ラチェット。こいつのために時間を無駄にする必要ないし。私なんて今頃パトロールに行ってたはずよ?」
ついでにバルクヘッドの声が響いた。
「俺なんか建設現場の監督の仕事があるんだぞ。」

「私なんてこの美しい体をさらに美しく磨く予定だったんですよ。」
ノックアウトが何かほざいた。
「というわけで、放置しましょうか。このわがままさんが意地でも言うこと聞かないというのならね。我々だって暇じゃないんです。」

流石にスタースクリームも観念し、嫌々ながらオプティックを点灯した。ただし全点灯はせず、わずかな明かりだけをつけて、自分を取り囲む者どもを見上げた。
「わかったよバカ、やればいいんだろ。ほら、さっさと検査なりなんなり済ませてほっといてくれや。」

するとラチェットが、ぼんやりと点灯した赤いオプティックをしげしげと確認しつつ笑った。
「ほっとくだって?バカ言うな、メガトロンのことは捕まえられなくても君はここにいる。だから君にはこれまでの精算をしてもらえるというわけだ。」

途端、スタースクリームのオプティックが一気に点灯し、機体を持ち上げようとしたところで引っ張られる感覚に気づいた。
「なっ……はぁ!?」
見下ろすとエネルゴン製の枷が自身を寝台に縛り付けていた。
「お、おい!まさかこの俺様を虜囚扱いする気か!?」

アーシーが身を傾けつつ答えた。
「周りを見なさいよ。戦争はオートボットの勝利で終わったの。そしてあんたはいまだに野心あふれるディセプティコンとして活動続ける姿勢でいる。」
「前に俺がソッチに鞍替えしようとして何が起きたか忘れたとは言わせねえかんな。結局どっち側についても結果は変わんねえみたいだな!」
「こんのクソディセップ……!」

生意気な物言いにアーシーが拳を固めて近寄ろうとしたところでスモークスクリーンとホイルジャックが彼女を押さえた。その様子にスタースクリームは勝ち誇ったように嗤ったが、ふと違和感に気づいた。

「ところで、残りの連中はともかく、プライムはどうした?都合悪くなけりゃ話はヤツを通したいんだけど。」

途端、室内は一気に静まり返った。アーシーは顔から怒りを消して背け、ホイルジャックの陰に隠れた。スモークスクリーンとバンブルビーは俯き、残りの者たちも、困惑するジェットロンと視線を合わせることを拒否した。こればかりは予想していなかったスタースクリームも、急に不安な気持ちになった。
「……いないのか?」

ゆっくりと吸気しながら答えたのはラチェットだった。
「彼はもう、いない……」
話すにつれ、そのオプティックには冷却水が溢れるのが見えた。
「彼は……。」

バンブルビーも顔を歪めつつ、誇らしく胸を張ってスタースクリームを見据えた。
「オプティマスは星の未来のために、俺たちや生まれくる世代のために、オールスパークに身を投じた。自身の体を犠牲にして新たなスパークたちを解放し、星に命を取り戻したんだ。」
その声は揺らぐことなく、毅然として語った。
「彼の犠牲で皆が救われたんだ、スタースクリーム。……残念ながら、彼と謁することは叶わないよ。」

アーシーの厳しい視線がスタースクリームに向けられた。他の者たちも同様に、目前の愚か者が誇らしき司令官に対して意見を物申すのを黙って待った。誰もがどうせ投げかけられるのは侮辱や皮肉であろうと予想していた。しかし、スタースクリームはただ黙していた。言葉を聞いた時のまま、困惑を表情に浮かべてその意味の処理に時間をかけていたのだ。

黙しているようだが、何か言いたいことはないのかな?

突然聞こえた声に、スタースクリームのオプティックが見開かれた。あの時と同じ声だった──グラウンドブリッジを前にした時に運命を決めろと促し、夢の中で語りかけたのと同じだった。できるだけ平静を装ったが、いい加減この状況に恐怖を覚え始めた。

怖がることはない。私が君を支配することはないから。

ああ、これはさっきも言っていた。

まず君の内なる気持ちを教えてほしい。君が黙す間に彼らが何を考えているかは気にしなくていい。ただ、なぜ黙っているのかを、まず私に教えてくれないか?

声に出せと?冗談じゃない。

私も今の君に悪意がないとわかっている。私のことはとりあえず君の善の心のようなものだと考えてくれればいい。

スタースクリームは目元を顰め、慎重に思考を巡らせた。内心では、矛盾する感情がないまぜとなっていた──二度とあのプライムと戦わなくて済むという喜びと、自らの手で奴のスパークを消すことの栄光を失ったという怒りだった。そんな中で、もう一つ、慣れない感情が渦巻き始めた。これは言うなれば、悲しみだろうか。

心のどこかで、今こそあのプライムと話をしたかったと感じていた。彼にだけなら話をしてもいいという自分のわがままに応えてほしかったのだ。何せプライムは高潔な人柄で、彼に会って話をすること自体が、胸を張って自慢できるような、光栄なことだったのだ。

ふと、あの声の言葉がよぎった。『蛮勇』と『臆病』の選択について……。

うん、なるほど。君は今激しく動揺しているようだね。大丈夫、君は乗り越えられる。君が勇気を持つということの意味を理解し始めていることが嬉しいよ──。

「それで!?」
オプティックから冷却水を流すアーシーが怒鳴った。
「何か言いたいことはないわけ!?」

怖がらないで。彼女の怒りももっともだし、誰もが傷ついているんだ。今の君の考えを口にするんだ。何が正しい反応かを決めるには十分考えただろう?大丈夫。

スタースクリームはアーシーを睨みつつ、ゆっくりを顔をあげた。
「一言ほしいなら、言ってやろうか。」

言葉選びは慎重に。余計な一言を加えない方がいいこともある。なるべく敵意を見せずに、でも、しゃんとして。

「言いたいことは、ある。聞きてえなら聞かせてやるよ。」

いいぞ、君の感じたことを言うんだ。適切な言葉を選んで──君もちゃんとわかっているはずだ。

「正直……オプティマスプライムが最期を迎えたと聞いて、不満も、満足もない。かと言って、オールスパークのもとに還った奴を侮辱するほど俺も愚かじゃない。だから言うことはなんもなし。少なくともこうして寝台に縛りつけられてる状況で何かを語りたい気持ちにはならねえよ。」

言葉を終えると、アーシーは驚愕の表情で、すっかり怒りを鎮めて目下のジェットロンを見下ろした。室内全体が今まで以上に静まり返った。

えらいよ、よくやった。かのプライムも、きっと君の言葉を聞いて喜んだことだろう。

少ししてスタースクリームはひとつ咳払いをした。
「さて、俺の今後を終身刑にする予定でもあるのなら、全員さっさと出て行って独りにしてくんな。今は一人で静かに過ごしたいんでね。」

ラチェットは首を振りつつ、なるべく皮肉を堪えて言った。
「終身刑はない……正直言うと、スタースクリーム。君を今後どうすべきか我々も悩んでいる。我々は皆、星の再建に忙しいんだ。ただ、君のことを信用すべきか、我々もよくわからない……。」

「なんかしでかした時にかまってられる余裕もないしね。」
横でスモークスクリーンがつぶやいた。

話を聞きつつ、スタースクリームは嘆息した。
「じゃあほっといてくれ。どうせまだまだ話し合うことが山ほどあるんだろ?」
最後にそう告げ、寝台の上で少し体を調節してオプティックを消灯し、ひとつ吸気して深い眠りについた。

取り巻くオートボットらはしばし言葉を失ったが、やがて隠しきれぬ困惑のまま、ひとりひとり診療室を去っていった。



ssssssssss



「あいつの言うこと為すこと、何ひとつ信用できないわ。」
アーシーは顔を顰めて言った。
「考える余地があったにせよ、どうせ損得勘定でしか動かない。掌を返されないためには何かしら見返りを用意しておかないと、話なんて到底ムリよ。」

ノックアウトもコンソールに寄りかかりながら排気した。
「近いです。彼は欲しいものがあると勝手に来て勝手に持っていくんです。ほんと、いっつも。特に誰も見てない時はね。ブレークダウンがいれば代わりに見張ってくれてたんですけど、彼はとっくに解体されて……」

ふと、オートボット達の視線が集まっていることに気づき、ノックアウトは気まずそうに笑い、咳払いした。
「失礼、ちょっと思い出話が……。つまり、スタースクリームがイイコなのは眠ってる時くらいってことです。」

「だなぁ~。」
スモークスクリーンもゆっくり頷いた。

その後、全員司令室に集まった。艦はもはや廃墟同然だったが、少なくとも臨時基地として遜色ないだろう。寝室もあり、エネルゴン貯蔵庫もあり、今や入手困難な物品もひと通り揃っていた。この艦を使わない手はなかった。

「で、どうする?」
アーシーは頬杖をついて聞いた。

「錆びて死ぬまでほっとくに一票。」
バルクヘッドは不機嫌そうに言った。
「さんざん戦って、邪魔して、何もかんも台無しにしてきたようなヤツをその辺に自由に泳がせるなんて論外だぜ!」

するとラチェットが呆れたように言った。
「で、彼をここから出ないように見張ってかつ脱走しないように取り押さえるだけの人材や資材はどこから調達するのかな?いいか、我々全員、これから仕事があるんだ。バルクヘッドとホイルジャックの2人は都市再建のためにヴィーコンを指導しなくてはならない。ノックアウトと私は難民たちのケアや怪我人の治療と、何よりも今後のために合成エネルゴンの精製をしなくてはならない。」
続けて室内に揃った者たちを順々に指し示した。
「スモークスクリーンとバンブルビーは他拠点との通信網を確立するのに忙しい。これはディセプティコン拠点も、オートボット拠点も全て共通だ。そしてアーシーは生存者捜索のために惑星の探索任務がある。さて、誰がスタースクリームを見張るというのかな?」

バルクヘッドは少し席に居直り、肩を竦めた。
「俺はウルトラマグナスで十分だと思うなぁ。目が覚めれば早速あのディセップ野郎が逃げないようにしっかり見張ってくれるさ。」

ラチェットは首をふった。
「確かにウルトラマグナスなら信用できるだろう、そこは認める。だがオプティマスを失っ……」
その時、言葉に詰まった。胸につかえた痛みに耐えながら、どうにか言葉を続けた。
「……オプティマスがここにいない今、我々には新たなリーダーが必要だ。我々を支え、導いてくれるためのリーダーが。そんなウルトラマグナスに看守を頼むというのは、いささか気が引ける。」

「どっちかというと『子守』って感じですけどね~、どうせスクリーミーだけですし。」
ノックアウトが茶化したが、ラチェットがに汚いものを見るような視線を向けられると縮こまった。
「ちょっと言ってみただけですってば……。」

次にスモークスクリーンが口を開いた。
「人間たちに任せるっていうのは?いや、確かに技術的には劣るかもしれないけどさ。」

その言葉に今度はホイルジャックが答えた。
「案外良いかもしれんな?『メック』がブレークダウンを捕えたのだ、ファウラー長官や子供達にできぬとは限らん、任せるのも案外手だと思うで候。」

「そして脱走したら!?ハッ!」
そこまで聞いて、ラチェットは両手を振り上げながら怒鳴った。
「スタースクリームの狡猾さはこういう時にこそ発揮される。あらゆる手管も広長舌も使って脱走を試みるぞ。」

アーシーも同意して息巻いた。
「まさしくそうね。だいたいさっきのは何?『オールスパークのもとに還った奴を侮辱するほど俺も愚かじゃない』ですって?どの口が語るの?」

「えっと、そのことなんですが……」
ノックアウトが割り込むと、全員の視線が集まった。
「……あの時の彼の言葉、この上なく本心だったと思います。信じられないほど素直な様子でした。少なくとも私の知るスタースクリームとして、もしあれが演技なら稀代の大名優ですよ。」

「しこたま破壊された影響で、イカれたプロセッサがようやく治ったのかもしれんな?」
ホイルジャックは笑った。

「じゃあ、対話する、というのはどうだろう?」
バンブルビーは静かに提案した。
「みんなで行くんじゃなく、1人に任せるんだ。そして真っ直ぐそのまま対話する。オプティマスだって彼にチャンスを与えるはずだ、特に星を再建している今こそね。みんなこの戦争で苦しんできたし、手を汚してきた。スタースクリームはそういった汚名を全て受け入れて勲章のように纏ってきた。でも、時代は変わった。過去にとらわれる必要はなくなったんだ。俺たちの故郷を取り戻したのだから。確かめようよ、あいつが本当に変わろうとしているのか。」

その言葉に、ノックアウトも手を挙げた。
「私も、ホラ、こうしてここにいるわけですし?確かめとくぶんに損はないでしょう。」

ラチェットはしばらくバンブルビーを見つめた。スモークスクリーンは隣のビーの肩に手を乗せつつ、うんうんと頷いた。
「俺もビーに同意。唯一の問題は俺含めて、あいつと2人っきりでお話ししたいヤツがいないってことかな!でもオプティマスに免じてそのくらいはやらないと。……で、立候補者はいる?」

手を挙げた者は1人としていなかった。

ssssssssss