megadoomingir氏作/RedeemTheStars/04

Last-modified: 2020-08-25 (火) 12:46:22

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「さて、其処な戦士よ。貴様はどういった経緯で私の隣にいるのかな。」

スタースクリームはオプティックを点灯し、隣を見た。そこでウルトラマグナスが自身の寝台に腰掛けていると見とめると小さく笑った。
「そっくりそのまま返すぜ。あと、『戦士』ってのはもう時代遅れかもな。ほら、あんたも知ってるだろ?
少しばかりか皮肉を込めて言った。
「戦争は終わったんだ。」

マグナスは頷いた。
「ああ。仲間たちが貴様と話している最中に目が覚めてな。そして、貴様のプライムに向けた言葉には……些か、感動したぞ。」

スタースクリームは寝台に拘束されながら、軽く肩を竦めて見せた。
「俺のこと、いつ知った?」

「まさしく来た直後だ、ラチェットから聞き出すにはじゅうぶん時間があったからな。今、私から貴様に言うことがあるとしたら……」

スタースクリームも応えるように頷いた。
「そう急がなくたって、とうぶんはここにいるぜ。」

「……皆のオプティマスの思い出を、穢さずにいてくれたこと、感謝する。」
マグナスはつぶやいた。
「彼は友であり、素晴らしき恩師であった。その思い出を侮辱する言葉など、誰も聞きたくはなかった。」

そう聞きつつ、スタースクリームはほくそ笑み、言った。
「正直言うとよ、考えなかったわけじゃねえ。でも言って誰が得する?誰も傷つかなくていいし、俺だってボコボコにされずに済む。……というかあいつの悪口が思いつかねえ。強いて言うなら、ちょっとノロい?それもしょうがねえじゃんデカいんだから。」

その言葉にウルトラマグナスも仏頂面を崩してクスクスと笑った。
「それはもう、貴様よりは遅かろうよ。」

「当然!俺様は宇宙最速のジェットロンだぜ!その上で偉大なるオプティマスプライムを語るなら、俺はこの自慢の飛行能力で相手を翻弄し──それでも1発くらい当ててくるやつだぞあいつは!」

気分が乗ってきたかな?

こういう話を聞かせればよかったのではないのか?

彼を籠絡したいのかね?あとで出し抜くために。

違う──違う。スタースクリームは、楽しいからこそ語っていた。誰かを卑下することなく語りたかった。実際の話題などはどうでも良く、自分がそう楽しく語ることにこそ意味があった。嘘をつく必要などなく、慈悲を乞う必要もなく、媚び諂いも懇願も必要なかった。ただただ話したかった。今まさに考えたいこと、意識したいことは、この会話そのものだったのだ。

そしてウルトラマグナスも、気を良くしてくれているようだった。
「そうだな、きっと彼ならば可能だろう。いずれにせよ、貴様がそんな、彼の周りを積極的に飛び回るなどということはしないだろう?貴様なら、とっくに飛び去っている。」

これは彼なりの賞賛だ。悪い方向に捉えないように気をつけて。

スタースクリームは嘆息した。
「星を一周して戻ってくることだって余裕だぜ。」
言いつつ、マグナスを見やった。
「……あんた、オプティマスの思い出話のために声かけてきたわけじゃないよな?」

ウルトラマグナスは首をふった。
「ああ、ラチェットの言葉が気がかりでね。これから貴様をどうすべきか、という問題についてだ。」

「あんたはどう思う?俺みたいな悪党は何処か奥深く閉じ込めてそこで朽ち果てるが良しってか?」

青い機体は寝台から降りると、引っ張り出した椅子に腰掛けた。
「私も多数のディセプティコンを破壊してきた。」
深く座り込み、思い耽るようにして語り出した。
「敵の拠点を殲滅する作戦をいくつも考案してきた。多くのスパークをこの手で散らした。皆がそうだ。では、私も監禁され朽ちるに任せるべきだと思うか?」

スタースクリームはオプティックを瞬かせた。
「……あんたは勝ち組だろ。」

ウルトラマグナスは首を振った。
「この戦いに勝ちも負けもないのだ、スタースクリーム。皆、生き抜いただけ…代償を払ってきたのだ。」
その視線は鉤爪状の義手に落ち、静かに眉を顰めた。
「大なり小なり、心なり体なり。皆、何かしらを失い、何かしらの形で敗北をきたしてきた。だがいずれも目的をもって戦い、ついにその果てに辿り着き、『どちら側』かなどという垣根が取り払われた今、敗北した側のものを罰すればいいと思うか?勝者が絶対的に正しいなどと、誰か決めたというのかね?」

フム、とスタースクリームは唸り、寝台の上で落ち着くように居直った。
「なるほど、深い話だな?」

「戦士よ、」
マグナスは微笑みを浮かべた。
「内外に傷を負って治療室に運ばれた者は、得てして哲学的になるのだ。」

スタースクリームは頷いた。
「そうだな、よくわかる。ただ俺の場合は『メガトロンこんちくしょう覚えてやがれあとでぶちのめしてやる』みたいなことばかり考えてきたかな。考えるだけで実現できた試しはないけどさ。」

「どちらが『勝者』だとしても世界は変わるのだ。この戦争は勝ち負けの問題ではなかった……ただ生き残るための戦いだった。死んだ者が負け、最後まで立っていた者こそが勝者なのだ。ならば、同じく生き残った者同士、選んだ派閥を間違えたという理由で異なる扱いを受けることになんの意味がある?」

スタースクリームは首を振った。
「それでも俺はここを仕切っちゃいないから、決める権利なんて無い。所詮俺は囚人だ。ちなみにこれは逃してくれって頼んでるわけじゃねぇ。ぜひとも残りのオートボットに来てもらって俺がいかにお利口にしていたか見てもらいたいもんだ。変な顔もあかんべーもしてないんだからな。」

ウルトラマグナスは静かに頷き、黙る前にひと言だけ呟いた。
「貴様がそう望むのなら。」

気分はどうかな?

考えれば考えるほど、気分が悪くなるどころか良くなっていると自覚した。沈黙ですら心地よく感じられたのだ。

先程も君がプライムとかつて敵対しながらも決して侮辱しなかったのは、褒められるべき行動だった。しかし友好的すぎる振る舞いには気をつけて。彼らにも、君と同じく時間がいる。

困惑しているのは自分だけじゃないらしい。確かに彼らもかつて敵対した相手について心の整理をしたいだろう。今まで考えたこともなかった。もしや彼らも自分と同じ頭の中の声に悩まされていたりするのだろうか?

私は君にとって邪魔者かな?迷惑か?

迷惑とは違った。ただ……不思議、だった。

私は君を導くだけの存在だ、強制はできない。これまで君が構築してきた君自身の更にその先で、運命の描く姿を見守るためにここにある。それが如何に長い道のりだったとしてもね。

少なくともアドバイザーとしては使えるやつのようだった。ありがたいことだ。

もし君が私の助言を悪用するなら、立て直す余裕を与える気はないよ、スタースクリーム。その時は君自身がなんとかすべきだ。私のことは助言を与える内なる声以外の何者でもないと思ってもらって構わない。

そうか、ならば悪用は我慢しておこう。

スタースクリームはどうにかして居座りのいいように姿勢を直そうとしたが、拘束のせいで叶わなかった。その様子に、ウルトラマグナスも気付いてくれたようだ。
「拘束は解かなくていいのか?武器ならラチェットがとっくに無力化したろうに。」

スタースクリームは頷きつつ返事した。
「だろうな。でもまあ、逃げようとしてると思われて撃たれるよかマシかな。誤解されるくらいなら、全員の同意を得てから奴らの都合で外してもらった方がこっちとしても安心だ。そう思うだろ?」
「ならそのままにしておこう。……さて、最初の質問にお互い答え損ねたな。」
「へ?」
「私が最初に聞いた質問だ。」
「あー、そうだったな。」

「誰のせいでこの病室のお世話になったのかな?」
2人同時で尋ねていた。

重なった問いに、スタースクリームも思わず吹き出してしまった。
「うっかりしてた、忘れかけてたよ。でもさ、絶対に俺の方があんたよりひどい目に遭ってきたぜ。」
「本当か?2体のプレダコンを相手にして負傷することよりひどい目があるとでも?」
「ハハッ、勝ーった!俺は1匹のみならず3匹に襲われたんだぜ!3匹全員にだ!プレダキングに、ダークスチールに、スカイリンクスの3匹だ、あの裏切り者どもがよ……」
「それでラチェットやノックアウトが貴様の修理に難儀していたのか。ノックアウトが、貴様があまりにも頻繁に治療室に来るものだから、専用の部品倉庫まで用意してあると言っていたぞ。」

その言葉にスタースクリームは顔を逸らしつつ眉を顰めた。
「……ジェットロン最速でも、メガトロンの怒りを逃れるのも同じとは限らねえってこった。」

『圧政は悪だ』などとよくのたまったものだ。真の圧政を、彼は知りもしないのに。

彼の君への扱いのことか?君は何度、どれくらい、治療室に運ばれてきたんだ?

正直考えたくなかった。思い出すのも嫌な記憶ばかりなのだ。

「失礼、悪気はなかった。」
マグナスは穏やかに詫びた。
「彼らの作業を見ているときに気になっただけだ。」

「まあ……気になりもするよな。」
ぽつりと呟き、首を振った。

「過去の話はナシだ。……そういや、星の再建はどんな感じだ?進んでるか?」
「私の知るぶんでは、ゆっくりとだが、着実に進んでいるぞ。」
「進んでるなら儲けもんだな。」

なぜ聞こうと思ったのかな?
Why do you ask?

「なぜ聞こうと思った?」
マグナスは尋ねた。

「誰だって気になるだろ?ようやくサイバトロンが住める星に戻ったんだ。ユニクロンにビビる必要もない、メックどもに悩まされることもない。それに猫の手も借りたいなら、俺としては監禁されなくて助かるし、お前らとしても四六時中そばに置いて監視もできて一石二鳥だと思うけど、どう?」

「それは議論してから決める。」
突然割り込んできたのはラチェットだった。彼はいつの間にか入り口に立ち、忙しなくつま先を鳴らしてウルトラマグナスを見つめていた。
「ウルトラマグナス、早く星の復興に参加したいお気持ちはわかります。そのためには、少なくともあと丸一日ぶんは横になっていただかないといけません。」
そしてスタースクリームにも一瞥した。
「お前さんもな!」

「おおーこわっ、怒られちゃった。」

「いや。怒られたのは主に私だな。」
ケラケラと笑うスタースクリームのかたわら、ウルトラマグナスは椅子から寝台へと戻っていった。
「そしてラチェット先生、どうかご心配なく。貴方とノックアウトのおかげで、思ったより早く快癒しそうだ。」

「それを判断するのが私の仕事です。今は2人ともしっかり休むように。」
ラチェットは椅子を避けつつ2人の寝台の間に入り込み、スタースクリームを指さした。
「そして君!」
目の前の患者が怯えるような目をしたが、構わず続けた。
「非常に不本意だが満場一致で私が君の話し相手となった。そしてもしその星の復興を手伝いたいという意思が本物ならば、枠はいくらでも空いている。」

「あるなら是非とも混ぜてほしいぜ。」
スタースクリームは小さくつぶやいた。
「地図の穴埋めなら、放棄された拠点の座標を教えられる。あと……死ぬほど嫌いだが肉体労働もできなくはない。それに誇張抜きで、ネメシスで使えるコマンドは全部知ってる。医療に関しては、あいにく自分のこと以外はわからないからあんたの手伝いはできないかな。」

ラチェットは首を振った。
「何、心配はいらない。君を配属させられる場所は必ず見つかるからな。」

心配はいらないよ。決して理不尽に投獄させられることはない。

そうだといいな。
スタースクリームは心からそう思った。

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