megadoomingir氏作/RedeemTheStars/02

Last-modified: 2020-05-13 (水) 21:37:06

原文
ssssssssss

静かな通路に、幾人ぶんかの足音が響いてきた。生憎スタースクリームはすでに意識を落としていた──まだ起きていたならば、目の当たりにする光景を信じられなかっただろう。

「なんと……」
ラチェットが小さくつぶやいた。
「あれは……まさか……?」

その横でノックアウトも顔を顰めた。
「あの……私の考えが正しければ、急がないと彼は、その、それどころじゃなくなりますよね?」

両名は用心しつつ、地に伏して動かないジェットロンのそばに近づいた。その傷を確かめる間、背後でバルクヘッドとスモークスクリーンが武器を構えて奇襲に備えた。

「おい先生、こいつ起き上がると思うか?」
バルクヘッドは低い声で尋ねつつ、ゆっくりと近づいた。
「まあ、見るからに起き上がりそうにない感じだけどよ……。」

ラチェットは軽く手で制し、静かに答えた。
「心配はもっともだが、あきらかに意識がない。とうぶん起き上がってはこないよ。」

ノックアウトは近寄るスモークスクリーンにそのオプティックを向けた。
「で、どうします?放置します?」

その問いにスモークスクリーンが答えた。
「そりゃないよ、いくらなんでもこんな状態で放置するなんてできないだろ?いつも言ってただろ、オプティ──」
言いかけて、言葉を止めた。言わずとも、場にいる全員がその意味を理解していたのだ。
「……とにかく、置いてくわけにはいかないってことだよ。」

ラチェットが立ち上がった。
「ああ、決してな。私とノックアウトがスタースクリームを治療室に運ぶ。君たちのどちらかは上階のコンソールで、他に何者かが通って来る前にこのグラウンドブリッジを閉じてくれ。」

スタースクリームを抱えて運ぶのにはそう苦労しなかった──エネルゴンの流出と、装甲の欠損が著しかったのだ。どうにか治療室に運び終えたところで、どうせ助かる可能性などたかが知れるほどだった。

それでもラチェットは排気しつつ、治療器具を手に取った。結局、やれるだけのことをやるまでだ。

ssssssssss

目が覚めると、スタースクリームは真っ暗な空間に囚われていることに気付いた。

「ここは、」
声に出すと、音が反響してきた。

「今は待つ時だ。」
聞き覚えはあるが、捉え所のない声が返ってきた。

スタースクリームはせめて声の発生源を確かめようと周囲を見回した……が、誰であろうとその姿は全く見えなかった。続けて叫んだ。
「誰だ、おい出てこい!」

声は返答した。
「すまないスタースクリーム……今はダメなんだ。君がきたる試練を乗り越えられたなら、いずれ姿を見せよう。」

「しれっ、試練を乗っ──だあもう話が進まねえ!」
スタースクリームは叫んだ。
「回りくどいのはナシだ!ここはどこだ?俺は死んだのか、生きてるのか?ここはあのっ……あの世、なのか?」

声は答えるまで少し唸った。
「今の君は、どちらとも言えない状態だ。君の機体は今まさしく、ラチェットとノックアウトの2名により治療を受けている。」

「ラチェットと……」
スタースクリームの翼が垂れた。
「あー終わった、俺様マジ終わった。かたや俺様をディセプティコンとしてぶち殺す気で、かたやいきなりオートボットに鞍替えしたクズ!いっそダークマウントの麓でくたばった方がマシだったかも……。」

「その方がよかったか?あの場所で、あのまま死んだ方が君は幸せだったか?」

その言葉にスタースクリームは怒鳴りかけたが、口を噤んだ。正直、オートボットの手を借りるなんてごめん被りたかったが……結局、助かったのだ。助けてもらえるなら、それはそれで嬉しいかもしれないと思えた。

「……ちょっとばかし、早計だったかも。」
スタースクリームは自身の腕を押さえつつ、ばつが悪そうにつぶやいた。
「生きたいのは事実だし……なんというか、あらゆるサイバトロニアンの中で、あいつらにだけは借りを作りたくないというか……。」

声は少し笑ったように聞こえた。
「スタースクリーム。私が思うに、君は今誰よりも信頼足りうる者たちの助けを借りている。大丈夫だ。」
そう言ってしばし沈黙した後、言葉を続けた。
「世界はすでに変化しつつある。これから多くの者が新たな世界で生きるために、順応していかなくてはならない。」

スタースクリームは暗闇の中で座り込み、口を尖らせた。
「ぬかせ。メガトロンなんて……あんにゃろう、掌返して圧政による平和はダメだってか?今まで俺たちのやってきた戦い、強いてきたこと、耐えてきたこと、ぜーんぶ無駄だったってかよ?」

ふと、声が近づいたように感じた──それでも、スタースクリームは声の主の姿を捉えることができなかった。
「事実、そうじゃないか?君は他の者と同じくらい……あるいは誰よりも、多くの苦痛を経験してきた。君は他の者たちに、君自身の味わってきた苦痛を同じく与えたいか?」

その言葉にスタースクリームはほくそ笑んだ。
「まあ俺様を待ち受けるは薔薇色の未来だし?なんたって俺様は天才のスタースクリーム様だ。今はこの激動の時代を、クールに落ち着いて行動するまでよ。」

答えに対して声は重々しく、悲しげに排気したようだった。
「そう考え続けるならば、君は自身のあやまちから学ぶことはできないな。君は今までの経験から何も学べないことになる。」

すると、スタースクリームは声の方向に勢い良く振り向いた。
「文句あんのかよ?」

プレダキングも……あの塔からスタースクリームを投げ落とした時、同じようなことを言った気がした。

「それこそが問題なんだ。」
その声からは厳しさすら感じた。
「それでも、私は君を信じているよ、スタースクリーム。君は道を正すべくして何度もチャンスを与えられた。そして今ここにあるチャンスこそが、君を、君のものの見方を変えられると、私は信じている。」

流石に不気味さすら感じて、スタースクリームは身を守るように竦み上がり、不安げに辺りを見回した。
「……なあ、本気で言ってる?」
怯えを隠すことなく少し体を揺らすと、言葉を続けた。
「お前ほんと何なんだ。なんで、その……なんだ、こんな風に俺に寄り添って、話してくれてるわけ?何が狙いだ。こんなことして、お前に何の得がある。何を企んでいる?」

「私は君を助けたいだけだよ、スタースクリーム。」
応じてくれた声はどこか悲しげだった。
「何も企んでなどいない。強いて言うならば君の心の平穏だ。この戦争で傷ついた多くの者と同じように、君に苦しんで欲しくない。もし望まないなら、しばらくは君に変化が訪れることはないだろう。いずれ君に平穏が訪れることを願っている。」

その言葉にスタースクリームは失笑した。
「ハッ!俺様の心の平穏が訪れるのは、俺様があるべきリーダーになった時だな。つーわけでほっといてくんな。」

しかし、声は嗜めるように、だが静かに言った。
「私は君をコントロールできないよ、スタースクリーム。すでに言ったように、君こそが君自身の支配者だ。選択も、運命も、全ては君が決める。私としては、君がその選択をする時、将来のことをよく考えた上で決められるようになってほしい。」

暗闇の空間が揺れ始め、スタースクリームは翼の先を跳ね上げた。
「な、なんだ今の?何が起きてる、お前何しやがった!?」

「私は何もしていないよスタースクリーム。どうやら君の意識が戻りかけているみたいだ。でもラチェットとノックアウトの治療はまだ終わっていない、きっとひどい苦痛が君を襲うだろう。私はずっとそばにいるけど、痛みまで奪い去ることはできない。大丈夫、君は強い。ここまで頑張ってこれただろう。」

言葉と同時に、スタースクリームは突然機体を襲う激しい痛みに息を飲んだ──しかし悲鳴を押し殺し、唸るように呟いた。
「耐えて、みせる……今まで味わってきた苦痛に比べれば、こんな痛み、屁でもねぇ……」

「ああ、君はもう十分苦しんだ。」
次第に遠ざかる声がそう言った。
「時がきたら、また話し合おう。私はちゃんとそばにいる。」

ssssssssss

「まずい、ラチェット!スタースクリームが目を覚まします!」

スタースクリームの機体が反り返った。手は強張り、踵は治療台に深く沈み込んだ。片腕が勢い良く跳ね上がると、口を通して呼吸器官に深く差し込まれたチューブを鷲掴みにした。そしてそのまま引き抜こうとしたところでラチェットが即座に動き、患者に思い切り飛びついて腕を押さえ込んだ。
「ノックアウト、ぼーっとしてないで鎮静剤を!」

赤い機体は手にしていたトレイを乗せていた機材ごと落とし、慌てて引き出しを掻き回してシリンジを取り出した。
「なんで覚醒したんですかこの人は!プレダコンすらオトすような麻酔量だったんですよ!?」

ラチェットはスタースクリームを必死に押さえ込みながら叫んだ。
「知るか!専門医は君だろう、私よりは詳しいんじゃないのか!」

ラチェットの下から細長い腕が抜け、のしかかる機体を振り払って口からチューブを引き抜いた。一気に機内に入り込む新鮮な空気に激しく咳き込んだ。えずき咽ぶ横でノックアウトが一気に迫り、引っ掴んだ腕の関節にシリンジを突き刺した。突然の刺激に患者は絶叫したが、薬の効果は即効で、やがて何事もなかったかのように鎮静化した。

ラチェットは信じられないというような顔で、機体を震わせながらノックアウトを見つめ返した。
「ありえない。これだけの負傷に加え、多量の鎮静剤の投与に関わらず覚醒しただと?術中に意識が戻らないように確認したんだぞ!?」

患者が再び起き上がりそうにないことに安心したノックアウトは、治療台に肘をかけながら感心したような声をあげた。
「まあ、彼と一緒にいると驚きの連続ですからねえ。ほんと眠っていればいい患者ですよ、いちいち文句を言われることがありませんからね。」

「まあ、幸い自発吸気はできているな……とりあえず現状なら吸気管は不要そうだ。」
ラチェットは頭を振った。その横でノックアウトはしばし思案し、引き抜かれたチューブを横に置いた。
「あるに越したことはないでしょう。彼の気まぐれで自分で吸気したくなくなった時に備えて、置いておきましょう。」

「いい考えだな。」
その判断にラチェットも微笑みつつ、大人しくなった機体を見下ろして排気した。
「今度こそ彼の容体を安定させよう、そうすればもっと精密な部分に手が出せる。」

ノックアウトも微笑み返した。

「交替でやりましょう、その方がお互い楽でしょう?」
「ああ、しばらくは見張ってやらないとな。」

両者は、静かに眠る患者をもうしばらく見つめた後、それぞれ治療器具を手にして仕事に戻った。

ssssssssss