megadoomingir氏作/StopMe/03

Last-modified: 2020-09-18 (金) 23:22:25

原文
Ch. 3

ラチェットは仲間の確認を終えて、自身で手の届く傷の治療を始めたところだった。

そして、スタースクリームの要求に対してオプティマスが語ると、途端に顔を顰めた。
「話したい?私と?彼が?」
言いつつ、手で払い除けるような仕草を見せた。
「ダークエネルゴンを使ってスカイクエイクを蘇らせて、我々を危険に巻き込んだのは奴自身だぞ。その上で私と話がしたいだって!?ずいぶんと都合の良い話じゃあないか。」

そのままブツブツと何か言いながら傷の治療を続けた。

「気持ちはわかるぞ、友よ、」
オプティマスは静かに言った。
「しかし、今スタースクリームと話をすることはむしろ最善手だと感じる。ほんの短い間だとしてもだ。」

ラチェットは手を止め、不安げにオプティマスを見上げた。
「今はそんな場合じゃないぞオプティマス、バンブルビーだって気を失っているし──」

「『いた』な。」
バルクヘッドは話に上がった少年兵を支えながら仲間と合流した。
「しっかり元気そうだぜ?」

バンブルビーもビープ音で、多少あちこちが痛いものの大丈夫であると告げた。

「こら、こらこら!お前さんは医者の資格を持っていないだろう!」
ラチェットはいつものように口を挟んだ。
「全員高レベルのダークエネルゴンに曝露した上に、私自身もまだ治療が必要な状況なんだぞ。」

オプティマスは立ち上がろうとするラチェットを支えた。
「いったん治療と確認のために基地に戻るべきだと言うのなら、そうしよう。少し、スタースクリームに話をしてくる。」

ラチェットはプライムの後ろを見遣り、肩を竦めた。
「その必要はなさそうだよ。」

オプティマスが振り向くと、そそくさと歩き去ろうとするジェットロンの背中が見えた。

もはや時間をかけている場合じゃなかった。今何が起きているのかを知ることが先決だった。なぜこの場所、この時間軸にいるのか、そして他に何をやらかしてしまったのか。少なくともこれでサウンドウェーブの無事は確約された……と思う。オートボットがシャドウゾーンのことを知らなければ、奴らが遠い未来にネメシスに乗り込んでくる時にその手を使ってくることはないだろう。

ふと立ち止まり、考え込んだ。そうだ、多くのことを、自分のために変えることだってできるのだ。しかし、未来を変えるとそれは……

「スタースクリーム。」

名前を呼ばれたジェットロンがびくりと跳ね、近づくプライムを威嚇するように低い声を発した。
「てめえらの軍医が話す気なけりゃ、これ以上関わる気はないね。」
言いつつオプティックを細めた。
「ついでにてめえらの基地に捕虜を閉じこめておくだけの余裕があるかも疑わしいな。資源だってカツカツだろうにな。」

プライムは動かなかった。
「君の予想については肯定も否定もできない。しかし君はラチェットを救ってくれた。そのことを感謝する。」

スタースクリームは呆れたように天を仰いだ。やっていられない、いいから早くブリッジを要請してさっさと退散したかった。

「いいから忘れろ。ちゅうわけで俺様も暇じゃないから。」
「どうか私の言葉を考慮して欲しい。」
「プライム、やめろ。」
「道を正そう、スタースクリーム。平和を取り戻すため、我々に協力してくれ。」

オプティマスはつとめて穏やかな声で言った。それでもスタースクリームは首を横に振った。
「……時間切れだ、もう帰る。」

プライムの困ったような顔を見ても、決して止まろうとはしなかった。スタースクリームは軽く助走をつけると飛び上がってトランスフォーム……しようとした。途端、体の中で何かが突き刺さるような激痛が走り、そのまま地面に放り出された。痛みに体を丸くしつつも、オプティマスが近寄ると怒鳴り声をあげた。
「来んなバカ!」

プライムは苦情を聞き入れていないようだった。
「怪我をしているじゃないか。治療だって必要だろう?」
「ああそうだよ、だからさっさと帰って、ウチの軍医に診てもらうんだよ。」
「スタースクリーム──」

「あーもううるさいうるさい!」
ついに大声で怒鳴り出した。
「いいからほっといてくれ!とっとと帰って、戦場にノコノコ遊びに来たガキどもを叱り付けるなりなんなりしてこい!もう一度言うがほっといてくれ!!」

ここまでくると実質的に囚人にしなければ彼を懐柔させられないことは、オプティマスとしてもわかっていた。
ならば、その手を取るしかあるまい。

プライムは凛として、ふらつくスタースクリームを見下ろした。
「スタースクリーム、君を捕虜として我々オートボットが保護する。」

流石に勘弁して欲しくて目眩がした。
「プライマス畜生、やるわけねえよ。こんなことあっちゃならねえ。」

オプティマスは無視してスタースクリームの腕を引き、立ち上がらせた。
「スタースクリーム、君は私がこの戦争の中で思い描くものを知らないのだ。そして私の君を治療するため、また話を聞くために捕虜とする必要があるならば、それも厭わない。」

「言い直そうか。『無理』だ。さあ離してくんな!」

スタースクリームは必死に腕をひいたが、オプティマスの手から逃れられるわけもなかった。それでもこれ以上傷をつけまいという気遣いはやんわりと感じられた。

「バルクヘッド、手伝ってくれ。」
オプティマスがとんでもないことを言い出した。するとラチェットの傷を確かめていたバルクヘッドが笑ってこちらに向かってきた。

「ようやくスクリーミーおじいちゃんを確保できるってわけか。」

その言葉にスタースクリームの表情は殊更せわしなく動いた。
「おじっ、おじいちゃんだとぉっ!?おまっ、ほんとこのっ……!」
そこでようやくオプティマスの手から逃れ、数歩引き下がりながら無線を起動した。
「グラウンドブリッジを!要請する!いますぐにだ!!」

その後すぐにオプティマスがスタースクリームの腕を掴み、必死に暴れる機体の横に今度はバルクヘッドが加わった。たとえ彼らに危害の意図がないにせよ、自分より大きい2機を振り払うなど到底無理だった。グラウンドブリッジはいまだに開かない。

2人に取り押さえられながら、スタースクリームは再び無線に叫びかけた。
「いーまーすーぐ援軍寄越せ!オートボットどもが……」

今度はオプティマスに無線を切られた。途端、彼らから数百フィート離れたところにグラウンドブリッジが展開した。

プライムは腕をブラスターに変え、ブリッジに照準を定めた。その間にバルクヘッドがスタースクリームにヘッドロックをかけて自分の前に固定した。腕の中で哀れなシーカーはジタバタと暴れながら、「ブリッジの座標遠すぎんだろ」「タイミング下手くそか」などと文句を零していたが、そこから現れたシルエットにオプティックを見開いた。

「よ、よりにもよってメガトロン様……。」

歩み出てきたその機体の名を口にするとほぼ同時に、大量のヴィーコンとノックアウトが同じくブリッジから駆け出てきた。

「オプティマス、」
大帝はあたかも気軽に挨拶するように(もちろん皮肉である)言った。
「どうやら我が右腕を確保してくれたようだな?」

オプティマスは鋭い目を逸らすことなく、ブラスターを構え続けた。
「メガトロン。私としては、彼がこの傷でここまでやって来れたこと自体が驚きだ。」

「ああ、実に頑丈なやつだろう?まあ誰がディセプティコンの指導者であるかを知らしめるのは、これが最後になるかもしれんがな。少なくとも、今度こそ、」
メガトロンの紅蓮のオプティックが、スタースクリームの方を冷たく見据えた、
「身をもって学習したようだな?」

スタースクリームは不安げに辺りを見回した。こんなこと、前はなかった。メガトロンがこのスカイクエイク事件を知ったのはずっと後のことだった。この状況は記憶に全くない。これ以上状況を弄りすぎる前に、さっさとディセプティコンのもとへ戻らなくては。

「さて、我が要求は単純至極だ、プライム。」
逡巡してる間にメガトロンが嗤いながら言った。
「このまま我が右腕をこちらに返せば、貴様らを八つ裂きにしないでやっても良いぞ?」

スタースクリームは小声で愚痴をこぼした。
「タチの悪い冗談だこと……。」

「わかってるさ、メガトロンの芝居癖に決まってる。」
あいにく愚痴はバルクヘッドの耳に届いたらしい。いっそ笑いたかった。彼の言う通り、バケツ頭の大帝様は剣闘士時代の癖か、パフォーマンスのために物事を引き伸ばすのが大好きなのだ。

オプティマスは姿勢を崩さず、言い放った。
「彼が望もうが望むまいが、スタースクリームは私たちのもとへ連れて行く。」

ざけんな、そんなのごめんだね。

「悪いけど、ソレ俺のキャラじゃねえから。」
すぐにそう呟いた。バルクヘッドは不思議そうにオプティックを瞬き、途端に脇腹に鋭い肘鉄を受けて見開いた。衝撃のあまりに手が離れた瞬間、ヴィーコンの射撃の雨の中をスタースクリームは伏せつつ飛び込み、バルクヘッドとオプティマスの手から急いで逃れた。オプティマスはブラスターで応戦しながらよろめくバルクヘッドをラチェットやバンブルビーの方へ押しやり、どうにか近くの岩陰に隠れた。

スタースクリームはディセプティコン側のグラウンドブリッジに飛び込もうとした。瞬間、彼の腕を鋭い爪を生やした手が乱暴に掴んだ。
「帰ったら話はたっぷり聞かせてもらうぞ?」

メガトロンの唸るような声に竦む様子に、横のノックアウトがわざとらしく指を鳴らしつつ「いけないんだ、いけないんだ~」などとのたまった。
しかしスタースクリームは少し顔をしかめつつ、つとめて平静を振る舞った。今は傷よりも気にするべきことがあった。
「……構いません、ネメシスに戻ったら知りたいこと全部お話しします。」

「隠し事や作り話を抜きにしてな。」
少しの慈悲も与えないように、捕らえたシーカーを引きずるようにして、大帝はグラウンドブリッジへと消えた。その後ろをノックアウトが続き、やがてヴィーコンらも共に消えていった。

ブリッジが閉じると、バルクヘッドはスタースクリームに傷付けられた部分を確認し、あまりの傷の小ささに困惑した。
「こいつは、意外だな。」

「たとえ不忠で不実だとしても、メガトロンにとってスタースクリームは敵の手に落ちることを許さないだろう。」
オプティマスはブラスターを手に戻しつつ言った。
「彼はディセプティコンの情報を多く持っている。失うには惜しいほどにな。」

「あ、まあそれもだけどよ、」
バルクヘッドは肩を竦めた。
「こう……スクリーマーらしくねえ逃げ方だと思ってよ。だって肘にご立派な鋭いトゲつけてんのに、わざわざ使わないで拘束から抜け出したんだぜ?あいつってもっと容赦ないタイプじゃなかったっけ?」

ラチェットは傷口を確認すると鼻で笑って返した。
「フン、塗装が剥けたくらいだな。奴が君にトドメを刺そうと考える暇もなかったことを幸運だったと思うんだな。」」

バンブルビーも同意の声をあげ、自分たちのグラウンドブリッジが開いたことに安堵した。仲間たちが基地へと帰還していく後ろで、オプティマスは静かに思案を続けていた。果たしてスタースクリームがバルクヘッドにトドメを刺さないでいったのは、本当に偶然だったのかだろうか。