megadoomingir氏作/StopMe/04

Last-modified: 2020-12-15 (火) 14:18:16

Ch. 4

ネメシスの司令室にて。
栄光に満ちていた頃の姿だった。
だがそれも今だけのことだと、スタースクリームは知っていた。なにせあと地球暦2年ほどで、この場所はサイバトロンにあるオールスパークの泉のほとりで、無様な残骸として朽ち果てるのだ。儚きこと。憐れ。已んぬる哉──

その場所でじっと立つスタースクリームの周りを、メガトロンは獲物を捉えた猛禽がごとく、鋭い牙を剥き出しに、ゆっくりと回っていた。
「貴様は負傷に関わらず、ネメシスを勝手に外出し、オートボットに見つかったな。」

これは問いかけではなく、解説だ。

こんなこと、今までなかった。少なくとも「前回」は、こうはならなかったから、果たしてどう返せば良いのかわからなかった。しかし経験から推測するに、今は手短に、端的に済ませるべきだろうと考えた。

「その通りです、メガトロン様。」

なるべく明瞭に応えると、メガトロンは歩を緩めることなく続けた。
「攻撃を受けた時、応援を呼ばなかったな。」

「呼びませんでした、メガトロン様。」

「さて、是非とも教えてくれスタースクリーム。なぜ最初に攻撃を受けた段階で、応援を呼ぼうとしなかった?」
巨大な腕がスタースクリームを床に突き倒した。
「答えろ!!」

気分は猛獣に捕らわれた獲物だった。横ではノックアウトも特に介入せずに見ているだけだった。メガトロンにそう命令されたのだろう。すぐに気絶されてはつまらないということだ。

スタースクリームは微動だにせず、構築した虚言をなるべく明瞭に、丁寧に発するようにした。
「──私は考えをまとめられる場所を求め、ネメシスを出ました。あなた様の帰還と復活から多くの出来事が起こりましたし、このディセプティコンにおける己の立場を再認識する必要がありました。ちょうどあなた様が私に施されたように。ただ、私は思った以上にダメージを受けていたようで、オートボットどもがエネルギー反応を探知して現れて敵意をもって相対しました。私はすぐさま撤退を試みましたが、負傷によりトランスフォームに失敗したので、そこでグラウンドブリッジを、その少し後に援軍を要請しました。そうしたら、あなた様が参られた、というわけです……。」

本当に聞こえたことだろう。この説明で問題ないはずだ。前回も、スタースクリームの隠し持っていたダークエネルゴンのことをメガトロンが知ったのはチクリ屋サウンドウェーブが言いつけてからで、その後あの恐怖の廃坑で問い詰められることとなった。メガトロンはあのように、スタースクリームが一番追い詰められて苦しむ瞬間を狙い済ましている。今はその時ではないはずだ。

メガトロンは真っ直ぐ立ち、肩を揺らした。
「さっさとメディベイに行って、ノックアウトの治療を受けてこい。このことは、一度サウンドウェーブと話が必要だ。」

影からぬっと、細身の青い機体が現れた。無機質なバイザーは相変わらず2機を映すだけで、いかなる感情も発露していなかった。スタースクリームは会釈してゆっくり立ち上がり、ノックアウトとともに司令室を出てようやくひと息ついた。

一方、横の真っ赤なやつはケラケラと笑いだした。
「いやー今度ばかりはあなたも溶鉱炉行きかと思いましたよ。よくもまあメガトロンもそうしませんねぇ。」

何気ない皮肉だったが、今更驚きもしなかった。それよりもノックアウトが隣でいけしゃあしゃあとネメシスを闊歩していることに腹が立った。彼は最終的に裏切ってオートボットに仲間入りしたのだ。最後の最後で手のひらを返し、あっさりと受け入れられたのだ。
クソ野郎め。

「あいつが俺を殺さないのはな、」
スタースクリームは低い声で言った。
「誰かがやらかしたときに確実に責任を押し付けられる相手が欲しいからだよ。」

さらりと伝えられた事実に、ノックアウトが固まって馬鹿みたいに瞬きした。
「……え、マジですか?」

先にリフトに入り、固まる馬鹿を待ちながら続けた。
「当然だろ。あいつが他の連中を俺にするみたいにボコるのを見たことあるか?無能な雑魚にすらやりやしねぇ。てめえやブレークダウンだって経験ないだろ。ここで起こるミスの精算は俺に降りかかるんだ。」

ノックアウトは再び瞬き、咳払いをしながらリフトに乗り込んだ。
「ええ、まあ、あなたなら耐えられるからじゃないですかね……?というかほんとよく死にませんよね、あなた。」

「否定できねえなぁ……。」

リフトのドアが閉まり、2人を下階へと運んだ。

幸い、ノックアウトの修理作業はあっさり終わった。ダークエネルゴンのことなんて気づかれたくなかった。スタースクリームも自身に軽いマニュアルチェックをして、体内に何も残っていないことを確認した。いつ誰に弱みを握られるかわからないここでは、万全に期した方がいい。

ノックアウトはデータを確認しつつ、ふむ、と小さく唸った。
「やんちゃの賜物としてあちこち怪我をしましたね。そこに傷、かしこに凹み、でもそのくらいであとは大丈夫です。」

スタースクリームは治療台から身を起こし、心配そうに尋ねた。
「Tコグは?大丈夫だったか?」

「ええ、問題ないです。トランスフォームを妨害したのは機体に刺さった異物のせいで、Tコグ自体は無傷です。単に異物による痛みで反射的にトランスフォームを中断してしまったんでしょうね。」

そう聞いて安心した。
「そっか、じゃあ俺はこれで……。」

安堵のため息をつき、台を降りようとした。が、ノックアウトの指先が胸にトンと当たった。
「ちょっと待ってください。ねえ、せっかくなので武装をアップグレードしませんか?今のあなたの武装って骨董品みたいなもんですよ。」

待て、この展開は知っている。

顔を顰める代わりにやんわりと笑顔を浮かべた。
「ご提案どうも、けどお断りだ。今の武装は気に入ってんだ。便利だしな。」

「でもイイ感じのがいっぱいあるんですよ!というかとにかくあなたのスタイルがですねぇ!」

そこまで聞いてオプティックを細め、ノックアウトの口を手で塞いだ。
「これ以上はナシ。俺は今のままでいいんだっての。」

そのまま医務室を出ようと歩き出した。そこで、ふと考えがよぎって立ち止まり、ノックアウトに向き直った。

「なあノックアウト。もしも……もしも未来の結果がわかるなら、過去を変えるのは賢明だと思うか?」

ノックアウトはコンソールに打ち込む作業を止め、唐突に尋ねられながらも首を傾げて考えた。
「まあ、人間たちの映画から察するに、過去を変えるのは危険ですね。特に結末を変えられないならなおさらです。かえって物事を掻き回すだけに終わるかもしれませんしね。」
そこまで答えて、笑顔を浮かべた。
「そうですね、例えばあの映画。ある男が過去に戻って何度も許婚を助けようとするも、どうしても彼女は死んでしまって……」

「映画じゃなくて論理的な話だっつの。」

スタースクリームの指摘に、ノックアウトは肩を竦めた。
「なんとも言えませんが、世の中にはね、どうやっても変えられないものがあるんです。」
そのまま笑いながら作業に戻った。
「でも、もし未来予知なんてものができて、それが気に入らないものだったなら……私なら絶対に自由に!優雅に!変えちゃいますねぇ。」

スタースクリームは露骨にため息をついてみせ、そのまま視線を合わせることなく出ることにした。
「先生あーばよーっ!」

立ち去る背中を見送ったあと、ノックアウトはにっこりと笑いながらコンピューターに向き直った。
「あの映画、面白かったですね。すごくよかった。」
少し考え込み、デスクを漁り始めた。
「どれ、ダウンロード保存してましたかね……」

———————————

スタースクリームは自室に戻ると、ありったけのデータパッドを床に広げて1枚1枚に文字を書き込み始めた。一番隅にあるデータパッドには「死」と記述し、一番近いものには「テラーコン・スカイクエイク」と記述した。さらにデータパッドの束を作り、それぞれに日付、場所、時刻、出来事、さらにどのようにしてその情報に至ったか、個人的なものから公的記録に至るまでも仔細を書き込んだ。これだけ書いても、まだ全体の1割にも満たない。

「さーてと……今どの段階だったかな。」

「テラーコン・スカイクエイク」と書かれたデータパッドを軽快に叩きながら、内容をじっくりと読み始めた。
「さてこの事件の後から、ブレークダウンがMECHに捕まるんだったな。それまで数日間は考えを整理する余裕があるわけか……その後は?そうだ、エアラクニッドがMECHと手を組んでジャックの母親を攫うんだったな……」
少し笑いが漏れたが、すぐに不機嫌な声に取って代わられた。
「そしてブレークダウンがエアラクニッドを見つけて磁力フィールドで貼り付けて帰って、奴はネメシスに来るわけで……ああ素晴らしいな……」

読み進めるにつれ、頭を抱え始め、ため息まで出てきた。
「そう……うん、そうだな……それからメガトロンが俺を洞窟で殺そうとして、その後は……」
次のパッドを叩き、思わず固まった。
「……オートボットにつこうとして……その後1人に……」

次の瞬間、全身がブルブルと震え出し、データパッドを放り投げた。
「不公平だーっ!こんなのってアリかよ!どうすりゃいいってんだ!もうあと3週間で俺はひとりぼっちになるだって!?飢えに苦しみながら、敵に怯えながら、そんな、あと3週間で……」

そこまでのたまって、息を呑んだ。
「あるいは……あるいは、何かを変えれば……俺が……覚悟を決めて──」

拾い上げたのは、『ブレークダウン 対 MECH』と書いたデータパッドだった。

「ここだ。」
オプティックを細め、静かにつぶやいた。
「こいつが実験台だ。」
データパッドをまた下ろし、睨みつけた。
「ここから未来を変える……全てをやりなおす。ここから俺の計画は始まるんだ。そして、『死』の結末を『生存』に導く第一歩となるんだ。」