走り去っていく背をジッと見つめたまま、悟はその姿が見えなくなるまで同じ方向をずっと見つめていた。
ふと足元に何かを感じ視線を映すと、大福が此方を見つめていた。
「あ……ごめん、大福。ボーッとしちゃってた」
まだ見つめてくる大福をそっと抱き上げて膝に乗せる。
「………行っちゃったね」
そう言いながら先程突然慌てて走り去って行ってしまったいろはを思い返す。
何だかとても切羽詰まったような緊急事態とでも言うような様子だった。
「……どう思う? 大福」
大福はジッと悟を見つめる。
「やっぱり、心配だよね」
動物たちの異変と犬飼さんの慌てた様子。
「何か嫌な予感がするんだ。不安というか…………危ない目に遭ってないといいんだけど」
あの様子は尋常じゃなかったし、動物たちのことも気になる。それに。
「こむぎちゃん、喋ってたよなぁ……」
聞き間違えでなければ確かに"ガルガル"と言っていた気がする。
「ガルガル、何か関係あるのかな」
そういえばいろはもその前にガルガルと言っていた。
「海浜公園の件、やっぱり犬飼さん何か知ってるのかもしれないな」
何か困っているようだった。言えないようだった。もしくは言いたくないのかもしれないが。
黒くて大きな謎の動物。
「………心配だな」
袖を引っ張られ、視線を戻すと大福が悟の目をジッと見つめる。
ああ。そうだ。いつもそう。言葉は発さなくても、此方が言いたいことや思っていることを察してくれる。
「うん、そうだね。待とう。犬飼さんが言ってくれるのを」
きっと僕にも出来ることがあるはず。
悟は大福を連れていろはの家に向かう。その道中もいろはを案じて。
*
悟と別れた後こむぎをブラッシングして夕飯を終えてお風呂に入って一息ついた頃、いろはは自分の部屋で髪をブラシでといていた。
「はぁ………」
「いろは? どうしたワン?」
「えっ、あっ。ううん、なんでもない」
無意識にため息が出ていたようだ。先程までベッドの上でウトウトしていたこむぎが不思議そうにいろはを見ている。
「ごめんね、お起しちゃったね。寝てていいよ」
こむぎはまだ不思議そうにいろはを見つめるがいろはがこむぎの頭を撫でると眠気には勝てぬように素直に眠りはじめた。
それを見ていろはは笑みを浮かべ、また椅子へと戻る。
ゆっくりと腰を掛け、ふと顔を上げ窓に映る自分の顔を見る。
唇を噛み締め何かを言いたげな眉を顰めた表情に気を重たくする。
「悟くんにウソついちゃった………」
もともと秘密や隠し事は苦手だ。それに加えてウソなんて罪悪感で荷が重かった。
何もないなんて、本当はウソ。あぶないことをしていないなんていうのも、ウソ。
一歩間違えば危険が伴う。
お父さん、お母さんに言えないのも心苦しいし。それに。
「………悟くん、心配してくれてたのに」
プリキュアやニコガーデンのことを相談するなら絶対悟くんが適任だと思う。
動物が大好きで詳しくて、とっても優しい。
相談したい。でも出来ない。
"言っちゃダメェ~! 絶対ダメェ~!"
「メエメエにダメって言われてるし………」
ニコガーデン、ニコアニマルのことが大事で守りたいのはわかるけど。悟は誰かにそんな大事なことをバラしたりするような子じゃない。
「………うん。仕方ない。メエメエが心配するのはわかるし。それに」
悟にはいつか言える時が来るかもしれない。
だから……待ってて欲しいな。
ガルガルを察知したこむぎと一緒に匂いを頼りにその場所まで向かう。
はぁ はぁ はぁ
林の中まで入っていくと誰か人がいるのが見えた。
「えっ、あれは………悟くん!?」
その奥にはガルガルがいる。
悟くん、ガルガルに鉢合わせちゃったんだ………!
「悟くん!」
「えっ……犬飼さん!?」
悟は驚いたようにいろはを見る。いろははガルガルを捉えると顔を歪ませる。
助けなきゃ………!
「来ちゃダメだ! にげて!」
自分の身を顧みず、いろはの心配をする悟にハッとする。
"言っちゃダメェ~! 絶対ダメェ~!"
関係ないよ………だって悟くんは。
悟くんは。
大事な友達だから!!
「ワンダフルパクト!」
*
ニコガーデンに来て、悟くんはメエメエにガルガルたちのことを一緒に助けたいと言ってくれた。
でも………
「悟くん、いいの?」
協力するという事は、悟にも危険が伴う。悟なら絶対そう言ってくれるといろはは分かっていた。分かっていたからこそ、躊躇してしまう。
「ニコアニマルやキラリンアニマル、いろいろな動物たちと会えるのがすごく楽しみだよ」
「………………」
やっぱり。やっぱり、悟くんだ。
悟くんが居てくれて、ほんとによかったなぁ。
「いっしょにがんばろうね」
悟くん!