書き起こし/メリ世

Last-modified: 2016-06-19 (日) 02:12:51

●一幕~メリーの夢

BGM

夢を見た
ひらひらと、赤い蝶が舞う夢
それと、あれは女の子だ
紫のドレスを着た女の子
音のない、真っ白な世界の中で、ただ赤い蝶々がひらひら舞っている
それを眺めてる女の子
それを見ている私
この世界の中で、ひらひらと舞っている蝶だけが命をもっているかのような
美しくて、少し、さみしい
そんな夢

以下夢シーン同じBGM

蓮子「要領を得ないわね。20点」
メリー「厳しいなぁ」
蓮子「夢の話はもううんざり。人の夢の話を聞かされることがどれだけ退屈な事か、メリーは想像したことがないのね」
メリー「いいじゃない別に。私は談話にまで効率を求めるような、乾いた人間性ではないのよ」
蓮子モノログ「この子の名前はマエリベリー・ハーン。通称メリー。ここ、首都京都で、普通の大学に通う、普通の大学生。この子の名前は私には発音しにくいから、メリーって呼んでるわ。この子、私がフルネームちゃんと覚えてるのか怪しいって思ってるみたいだけど・・・私の記憶力も舐められたもんね」
蓮子「(それにしても)今度の夢はなんだかピースフルね。化け物にも妖怪にも追っかけまわされなかったなんて久しぶり」
蓮子モノログ「私は蓮子。宇佐見蓮子。普通の大学生。特技が気持ち悪いってメリーは言うわ」
メリー「この前の鼠の化け物のことね。ああいうのも楽しいよ。夢の中では必死だけど」
蓮子「夢の話じゃなくて、もっとロマンのある話題はないの?」
メリー「ロマン?恋愛話とか?」
蓮子「恋バナなんて生産性のないものに興味はありません」
メリー「恋愛以上に生産性のあるものもない気がするけど」
蓮子「例えば・・・そうね、倶楽部の話とか」
蓮子モノログ「私達は二人で霊能倶楽部をやっている。その名も『秘封倶楽部(ひふうくらぶ)』。霊能倶楽部って言っても、まともな活動はほとんどしないんだけどね」
メリー「そういえば次はなにするか決めてないね」
蓮子「そう、だからいい機会じゃない?ここで一度フィールドワークの初心にたちかえるの」
メリー「そうね。私達の活動ってフィールドワークね。初心にってどういうこと?」
蓮子「フィールドワークの初心はロマンだわ」
メリー「なるほど・・・?」
蓮子「いい?例えば、パトリック・ハーンは異文化にロマンをもとめ、ジャパニズムにたどりついた」
メリー「パトリック・ハーン?」
蓮子「同じ名前の人のことも知らないのね。小泉八雲のことよ」
メリー「わざわざむずかしい言い方するのって、返って頭悪くみえるよ」
蓮子「ドナルド・キーン、イザベラ・バード、アーネスト・フェノロサ、スティーブン・セガール・・・いずれもロマンのゴールを最果ての地、極東日本に見つけ・・・」
メリー「フェノロサはアーティストよ」
蓮子「その生涯をフィールドワークに捧げた・・・じゃ、日本人の私はロマンの果てに一体どこへいけばいいと思う?」
メリー「よくわかんないけど・・・とりあえず西?」
蓮子「あんな砂しかないところでなにをしろっつーの。ばっちくて生きていけないわ」
メリー「よくないな、よその国を悪く言うのは。ユーラシア大陸の砂漠域は7割程度。3割は土だし、ちゃんと舗装された都市だってあるのよ。それに」
蓮子「それに?」
メリー「砂漠は清潔だわ。日光消毒されているもの」
蓮子「そういう問題じゃない・・・。砂漠化してたかだか100年の土地なんかにあるものは、置き去られたスーパーマーケットのペットボトルと、風化した公衆便所程度よ。なんのロマンもないわ~」
メリー「アイロニーがあるじゃない」
蓮子「・・・メリーはポジティブね。灼熱地獄にアイロニーを感じるなんて」
メリー「あら?詩人って言って欲しいわ」
蓮子「たくましい子・・・」
メリー「で、結局、次の活動はどこにしようか」
蓮子「メリーは私の話を聞いてなかったの?次の倶楽部は初心にたちかえって・・・」
メリー「初心もなにもネタ切れしたら、いっつもあそこじゃない・・・」
蓮子「そう!博麗神社の結界を今度こそ暴くわ!」
蓮子モノログ「私達は、ごく普通の都会で、ごく普通の二人暮らしをしている、ごく普通の学生です。だた普通じゃないことは、私達は誰よりも不思議に目がないってこと」
BGM

●二幕~二人は大学生

夢を見た
ひらひらと、赤い蝶が舞う夢
ひらひらひらひら
気がつくと蝶は増えていた
黒い蝶、青い蝶、緑の蝶
赤い蝶々とひらひら舞っている
ひらひらひらひら
ドレスの、紫の女の子は、ただ、それを眺めている

顧問「結界を見つけるなって何度言ったら解るんだ」
蓮子「やだな先生。たまたまに決まってるじゃないですか」
顧問「たまたまでそう何度も何度も政府の結界を見つけるのか君たちは!」
蓮子「え?あ、はい」

顧問「君ねぇ・・・」
メリー「そうは言いますけど先生?結界を見つけるってどうやってやるんですか?私達ただの学生ですよ?」
顧問「それは・・・むぅ・・・」
蓮子「そうそう、結界見つける方法なんてあったら教えてよ!倶楽部も活発にするから」
顧問「活発に結界を暴くんじゃない!言っておくがれっきとした犯罪だぞこれは」
蓮子「そんなこと言ったって・・・ねえ?」
メリー「たまたま結界が出ちゃうんですよ」
顧問「たまたま・・・たまたまねぇ・・・(ため息)全く君たちは、顧問をなんだと思っているのか・・・」
なにかをタイピングし出す顧問
蓮子「あはは、いつもすみませんね、どーも」
顧問「活動を報告どころか、隠蔽に私が翻弄されるってのはどういうことだ」
メリー「感謝してますわ。先生」
顧問「『今回も』今回だけだからね。(手を止めて)解ったね?」
メリー・蓮子「はあい」
顧問「・・・・」
メリー「えへへへへ」
顧問「全く君たちは・・・(タイピング再開)心霊クラブなら心霊クラブらしく幽霊のレポートでもしていたらどうかね」
メリー「あ、幽霊なら」
蓮子「こないだ墓地で結界を見つけてですね・・・」
顧問「そうだった。ああ、そうだったね・・・はぁ」
蓮子「あの~先生?私達そろそろ次の講義行きたいかな~とか思ってるんですけど」
顧問「そうだね。全く・・・全くそうだ・・・行って良し」
メリー・蓮子「失礼しまーす」
ドアを閉める
蓮子モノローグ「私達は大学生。専攻は別々でメリーは相対性精神学。私は超統一物理学。でも今私たちは別の講義に夢中なのです。なぜなら・・・」
蓮子「ねえメリー」
メリー「なに?」
蓮子「妖精は働き者だわ」
メリー「どうしたの?突然」
蓮子「妖精パックはどうしてオーべロンに尽くすのかしら」
メリー「シェイクスピア?ん~・・・そりゃ、オーべロンは王様で、王様は偉いからでしょ?」
蓮子「王様はなんで偉いの?王の王たるゆえんはなに?それは領地とかお金とかを多く持っていて、それをくれるからよ。パックは何も欲しない。ゆえに何にも縛られない。でもパックは誘惑の花を摘みに地球を一周したわ。オーベロンのために」
メリー「地球を一周?」
蓮子「地球を一周よ!なんて自由!仮にオーベロンには誰かに自由を与える力があったとしても、これに勝る自由があるかしら」
メリー「そんな話、あったかな」
蓮子「私がみたのはそういう話だったの」
メリー「ん~・・・」
蓮子「自由の体現者たるパックをオべロンが拘束できる理由は?パックはなぜオーベロンの我侭につきあうの?」
夢美登場
夢美「あなたは戯曲を本でしか読まないクチね?」
メリー夢美に気が付き
メリー「岡崎先生」
夢美「芝居をみたらそんなこと気にならないわよ。物語とは関係がないもの」
蓮子「舞台でなら1回みました」
夢美からかうように
夢美「じゃあ集中力がないのね」
蓮子「そんなことないです」
メリー「えっと、その芝居・・・なんていうか、役者が・・・その・・・」
夢美「あはははは。なるほどね、わかるわかる。つまんない芝居みてると、余ってる脳で別なことをいろいろ考えちゃうのよね」
蓮子「そうそう、この話は、ああした方が面白いんじゃないか、こう展開した方が盛り上がるんじゃないか~とかね」
夢美「ふふ。(間)宇佐美さん、パックがなぜオーべロンに尽くすのか、だったかしら?」
蓮子「はい。おかしいとおもいません?」
夢美「そうね、その疑問はもっともだわ。(切り替えて)模範解答はこうよ。オーべロンは比類なきいたずらの天才なの。だから他の妖精からも尊敬を受け、ひいては妖精の王足りうるのよ。パックはオーべロンからいたずらの教えを請うたいわば弟子ってわけね」
蓮子「そんなの物語の筋書きにはないわ!」
夢美「矛盾性を完結するためには、可能性をどんどん広げるの。じゃないと矛盾はいつまでたっても矛盾のまんまだわ。つまり大事なのは想像力ってことね」
蓮子「そんなのそれこそお話とは関係ないじゃないですか」
夢美「さっき言ったのは観劇を楽しむためのお話。宇佐見さん、あなたは少し想像力に欠けるわよ」
蓮子「む・・・そりゃ岡崎先生と比べたら・・・」
夢美「でも、好奇心には満点をあげる。発想は素敵だわ。今度のレポートはいまのをまとめてみて」
メリー「シェイクスピアのパラドックス、かぁ」
蓮子「ん~・・・かっこよさげだけど、いただきものっぽくてなんかやだな」
夢美「贅沢言わないの。形にこだわっていては創作はなりたたないわよ」
メリー「創作?先生にとって学問は創作活動なんですか?」
夢美「ええ。私たちは発想と想像力をもって、人が、神のつくりたもうた摂理と戦うための武器を創作するのよ。素敵でしょ?」
蓮子モノログ「これが専攻に集中できない理由。岡崎先生は十代でゲーデル解を上回る相対性理論の定説を打ち立てた、いわば天才ね。力学、特に量子力学の世界において岡崎夢美の名前を知らない人はいないんじゃないかな。岡崎先生みたいな有名人が、私たちみたいな不良に講義をつけてるんだから世の中不公平だわ」

●三幕~レコードを拾う博麗神社

ひらひらひらひら
やがて女の子が私に気がついた
私と目が合うと、静かに歩み寄り、私の頬を撫でて、微笑んだ
さみしそうな微笑み
その子の顔が、思い出せないの
記憶の中の映像にモヤががかかったよう
夢の中でははっきり見えていたのに
女の子が、私に、何かを囁く

フクロウの鳴き声、草を踏む音
メリー「蓮子、今なにか言った?」
蓮子「先生からもらった例の課題だってば。今度の土日は部屋で館詰だからね」
メリー「え?」
蓮子「ちょっとちょっと、ぼーっとして。また白昼夢でもみてたの?」
メリー「あ、うん」
蓮子「時と場所を選びなさいよね。気をつけないと怪我するわよ。ほら」
メリーの手を引く蓮子
メリー「あ・・・」
蓮子「手、握ってあげるから」
メリー「ありがと・・・」
蓮子「いつになったら私に頼らなくなるんでしょうね、メリーは」
メリー「そんなの・・・わかんないよ・・・」
蓮子「やれやれね・・・さて経過時間は・・・」
カセットテープが早送りになる系のSE
蓮子「午前1時12分29秒30、31・・・」
蓮子モノログ「これがこの子が気持ち悪いっていう私の特技」
蓮子「敷地に侵入して30分ジャスト」
蓮子モノログ「そう。私は」
蓮子「方角は、南南西を維持」
蓮子モノログ「星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力があるのです」
メリー「なんでパックがオーベロンに従うか、かあ」
蓮子「オーベロンがイタズラ王だから、ねぇ・・・」
メリー「それ、私達に当てはめたら蓮子がオーベロンね」
蓮子「なんで?」
メリー「なんでって、そりゃ秘封倶楽部のイタズラ王でしょ蓮子は」
蓮子「(うれしそうに)そうかな?」
メリー「あはは・・・そういうリアクションなんだ」
蓮子「でも、メリーの方がオーベロンっぽくない?お嬢様だし」
メリー「ううん。やっぱりオーベロンは蓮子。だってパックは・・・」
蓮子「パックは、なに?」
メリー「あ・・・えっと・・・なんでもない。部屋戻ってからゆっくり考察しよ?ね?」
蓮子「え?う、うん」
メリー「ほらほら!そろそろ着くんじゃない?」
蓮子「そうね。えーっと・・・ここを抜ければ着くわ」
草がさがさ
メリー「うん」
草がさがさ
蓮子「着いた。(寸間)博麗神社よ」
うぞ~んって感じのBGM
メリー「相わからずね、ここは」
蓮子「うん・・・すごく、寂しいけど」
メリー「雰囲気があって素敵」
蓮子「うん」

蓮子「絶対あるよ、ここには、すごいのが」
メリー「うん・・・じゃ、やろっか。蓮子も手伝って」
蓮子「私は裏を漁って見るわ」
メリー「マーキング忘れないでね」
蓮子モノログ「私の気持ち悪い特技は、星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力。そして」
蓮子「了解。メリーはこないだマークした所を見ておいて」
蓮子モノログ「この子、メリーの気持ち悪い特技は」
メリー「うん。わかった」
蓮子モノログ「結界が見える程度の能力」
SE共鳴
メリー「やっぱりなにも見えない・・・。けど」
SE共鳴
メリー「この感じ、多分、ううん、絶対なにかある」
SE共鳴止まって
紫「久しぶりねメリー・・・」
実際には頭フェードインになって、ぶりねくらいから聞こえる感じになる
メリー「え?(間)いま声が・・・あれ?」
紫「メリー・・・」
メリー「いまの声どっかで・・・・」
蓮子「メリー!!」
メリー「わ」
蓮子「来て!はやく!!」
メリー「蓮子!?」
駆け寄ってくるメリー
メリー「どうしたの!・・蓮子?」
蓮子「そんな・・・うそでしょ・・・」
メリー「なにかみつかったの。(間)なに?それ?」
蓮子「ラヴェルのLPレコード」
メリー「え?」
蓮子「亡き王女のためのパヴァーヌ・・・レプリカじゃない本物だわ!信じられない・・・な、中が見たい」
メリー「レコード?レコードって・・・あの?」
蓮子「そう、1900年代に活躍した音の振動を利用した記憶装置。(寸間)すごい・・・全然劣化してない。これ、絶対プレイできるわ!」
メリー「大変なものをみつけちゃったね。持ち主さんを探す?」
蓮子「そう、そこだわ!ちょっと待ってメリー・・・遺失物の所有権が拾得者に移る経過期間ってどのくらいだっけ」
メリー「3ヶ月」
蓮子「いい!マエリベリー・ハーン!私たちがこのレコードを拾ったのは2160時間前。それはどうゆうこと?」
メリー「わかった。ねこばばするのね」
蓮子「だー!!人聞きの悪い言い方すんなー!」
メリー「でもこれ、骨董屋に売ったらかなりの値段になるよ。本物なら」
蓮子「そ、それだ!まずはこれが本物なのか確かめましょう!その上で」
メリー「その上で?」
蓮子「さ、3ヶ月間守りきる?」
メリー「ん~・・・じゃあ、もしこれがレプリカだったら?」
蓮子「その時は交番ね」
蓮子モノログ「藪をつついたら、結界ならぬ、レコードが出て来た!結局この日の成果はこのレコードだけ。でもいままでの成果の中ではピカイチね。なんせ本物のLPレコードが手に入ったんだから!」

●四幕~卯酉新幹線「ヒロシゲ」

女の子が囁いた
すると緩やかに私の意識が薄れていくのがわかった
夢から醒めるんだ
そう思った私は慌ててあたりを見回した
この子の言葉は気になるけど
なにかが起こっていたら、見ておかないともったいないって思ったから

雑踏アリバイ風SE
骨董屋「は?レコードプレーヤー?あれってどっかで買える物なのかい?」
マダム「ごめんねぇお嬢さん。うちはそういうクラシック品は置かないのよね」
お爺「んん?なにかなそれは。流行りの食い物かなにかかい?」
ドンとジョッキを置く音
蓮子「んぐっんぐっんぐっ・・・ぶはぁ!オッさん!ホッピージョッキおかわり!」
メリー「あとあんかけオムライスと合成ししゃも2皿ください」
蓮子「くそぅ・・・せっかく私のラヴェルを守り切る算段はついたってのに・・・」
メリー「しょうがないよ。レコードプレーヤーなんて博物館でしかみたこともの」
蓮子「まさかこんなトラップが隠れていようとは・・・」
オヤジ「あいよ、ホッピー、ししゃも、オムライス」
メリー「わーおいしそー」
蓮子「んぐっんぐっんぐっ・・・ぶはぁ!オッさん!ホッピーダブル!」
オヤジ「蓮子ちゃん、そんな親の敵みたいにのまねぇんだよ」
蓮子「うっせー!オッさんは黙ってホッピーを二倍の濃さにした後私の前に運んでくればいいのよ!」
オヤジ「ほどほどにしときなよ?」
メリー「ごめんなさい」
蓮子「クラァ!一人だけいい子ぶってんじゃねー!」
オヤジ「いいけどね、物さえ壊さなきゃ」
蓮子「和んでんじゃねえボンレスハム!さっさとホッピーを持ってこいホッピーを!」
オヤジ「はいはい」
メリー「合成和牛のスジ肉煮込みと、合成ジャガバター塩辛と、合成カリカリベーコンのシーザーサラダ、ドレッシングゴマだれ、もちチーズ2つ、あと合成鳥串の盛り合わせ2人前、レバー以外全部塩で」
蓮子「皮もタレよ」
メリー「皮はタレ塩一本づつ」
オヤジ「サラダは?」
メリー「サラダは天然で」
蓮子「う、うう・・・やだよぉ・・・私のラヴェル・・・本物のLPレコードぉ・・・ぐっ、うっ、うう・・・」
メリー「泣くかししゃも解体するかどっちかにしてよ」
蓮子「だってぇ・・・こんなに近くにいるのに!愛しのラヴェル・・・うー・・・聞きたい!聞きたい!聞きたいぃ!!」
メリー「もう・・・じゃあ行くだけ行ってみよ。ね?」
蓮子「ぐすり、行く?行くってどこへ?」

メリー「東京」
SE電車が走りだす音
BGM
蓮子モノログ「ヒロシゲは私たちを乗せて東へ走る。音もなく、揺れもなく、ただひたすら東に走る」
メリー「ヒロシゲに乗るのも久しぶりね。お家には寄るの?」
蓮子「パスパス。時間もお金もないし」
メリー「ふふ。ごきげんね」
蓮子モノログ「車内のパノラマビューに富士山が映った。人口建造物のひとつもない偽物の景色。それでも私の胸は高鳴った」
蓮子「だってもうすぐ本物のレコードの音が聞けるのよ」
メリー「聞けるかもしれない、でしょ」
蓮子モノログ「今回の東京来訪の目的は、帰郷でも、結界探してでもない。博物館のサルベージだ。もちろん目当てはレコードプレーヤー」
メリー「富士山がみえなくなっちゃった。東京までもうすぐだね」
蓮子「あと14分32秒で到着よ。ヒロシゲは正確だからね」
蓮子モノログ「ヒロシゲは東海道五十三次にちなんで、53分で京都・東京間を走る。わざわざ速度を遅くして、時間を合わせているんだって」
SE電車のぷあーんって音

●五幕~東京で岡崎夢美と出会う事

そして私は見た
薄れゆく意識の中
女の子の肩越しに、最後に見たその世界は
真っ白だった
蝶はぜんぶ消えていて
ただ
真っ白だった

可能性空間移動船SE
風が吹き抜けるSE
夢美G「可能性空間移動船動作停止」
ちゆり「してる」
夢美G「復唱!」
ちゆり「可能性空間移動船動作停止」
夢美G「ふっふっふっ・・・」
ちゆり「並列体がいるのはここの時空であってると思うけど」
夢美G「反応は」
ちゆり「え~と・・・京都にある。ビンゴだぜ」
夢美G「ふっふっふっ、素敵」
ちゆり「並列体の回収か~。いつまでたっても慣れないっていうか、あんまり気持ちのいいもんじゃないぜ。こっちの世界の教授は、教授と合体したらいなくなっちまうわけだろ?そんなの死んじまうのと一緒じゃないか」
夢美G「合体とか若干セクシーな言い方するな。死ぬわけじゃないわ。記憶も人格も統合されるのよ」
ちゆり「そういうことを言ってるんじゃない。残された人はどうなる?悲しむ人だっているはずだぜ」
夢美G「ふん、感傷ね。そんなの一時の熱病と一緒よ。時がたてば誰も気にならなくなるわ。特に私には関してはね」
ちゆり「ひねてるんだか、達観してるんだか・・・」
夢美G「私の存在はすでにパラドックスに干渉しているわ。統合回収された私へのつじつまは事象がかってに合わせてくれるのよ」
ちゆり「寂しいもんだぜ」
夢美G「いいのよ。私が気にしてないんだから」
ちゆり「ま、私は教授とずっと一緒にいてやるよ」
夢美G「は?なに気取ってんの?いいから、いまの座標」
ちゆり「へいへい・・・現在の座標は・・・東京の、上野だ」
夢美G「東京の上野・・・って遠っ!なによそれ!」
ちゆり「知っての通りここの京都は史上5本の指にはいる多重結界都市だ。加えて警察も優秀。こそこそやるにゃ、東京みたいな辺境の片田舎がちょうどいいのさ」
夢美G「うぐ・・・そう。そうね。結界とか、もうこりごりだわ・・・」
ちゆり「よしよし、ちったぁいい子になったじゃないか」
夢美G「ぶっころすぞ!ちゆりのくせに!」
ちゆり「とはいえ、遠いものは遠い。足がいるな」
夢美G「歩いていくんじゃないでしょうね」
ちゆり「走りたかったら走ってもいいぜ」
夢美G「誰が走るか!ちゆりの馬鹿!」
ちゆり「馬鹿に馬鹿って言われた・・・ん?」
夢美G「うぐぃいい!!また馬鹿って言ったぁあ!」
ちゆり「静かに」
夢美G「なに?」
ちゆり「誰か来る」
メリー「なんだったんろうね、さっきのすごい音」
蓮子「バスガス爆発かな?」
メリー「階段が崩落したのかも」
蓮子「行ってみましょう」
メリー「うん」
ちゆり「こっちくる。隠れろ教授・・・教授?」
SEマントばさぁ
夢美G「はーっはっはっはぁ!」
SEジャーン
蓮子「なに!?」
夢美G「ここよ!」
ちゆり「怪人風に登場したい病でも患ってるのかおまえは!」
メリー「あ、あれ?岡崎先生?」
蓮子「本当だ。びっくりです。先生いつ東京に来たんです?」
ちゆり「やばい・・・こいつら、知り合いだ」
蓮子「はじめまして!私、宇佐見蓮子って言います。こっちはメリー」
ちゆり「あ~、あたしは、その~・・・あは、あははは」
メリー「先生はこんな所でなにやってるんですか?」
夢美G「それはこっちのセリフよ!あなた達こそこんな怪しい建物でなにをしているのかしら!」
ちゆり「こういう時は、教授のアレなところは助かるぜ」
夢美G「アレとは!」
メリー「私達は探し物をしてるんですよ。レコードを手に入れたんですけど、プレーヤーがなくて」
蓮子「京都を出るとき先生にもお伺いしたじゃないですか。お持ちではないですかって」
夢美G「そうなの?」
メリー「そ、そうなんです。それで・・・」
夢美G「それが、ここ科学博物館でなら手に入ると思ったわけかね!」
蓮子「先生、なんか、テンションが・・・」
夢美G「私のテンションは!・・・って、ふうん、そう、なぁんかおかしいと思ったらあなただったのね」
蓮子「はい?」
夢美G「よくもまあ白々しく現れたもんね」
蓮子「え?わ、私に言ってます?」
夢美G「他に誰がいるってのよ」
蓮子「メリーも一緒なんですけど・・・」
夢美G「もうあなたの箱庭に手だしはしないって言ったわよね?」
蓮子「え?え?ええ?」
夢美G「いまさら私の邪魔?私がなにをしようとあなたにはもう関係ないでしょ?」
蓮子「え?怒ってるんですか?私・・・」
夢美G「こいつ・・・」
メリー「先生、本当にどうしちゃったんですか?さっきからおかしいですよ?」
ちゆり「まて教授。よくみろ」
夢美G「・・・・ふん。なるほど、そういうこと」
蓮子「先生・・・私、先生を怒らせるようなことしちゃったんですか?」

夢美G「あは。なんか人違いだったみたい」
蓮子「人違い?」
メリー「ひ、人違いって、ひどい!毎日お会いしてるじゃないですか」
蓮子「え?・・・わ、私・・・」
メリー「蓮子・・・」
夢美G「行くわよちゆり。時間が惜しいわ」
ちゆり「お、おいおい教授」
メリー「待って」
夢美G「ん・・・なに?」
メリー「蓮子に謝ってください」
夢美G「はぁ?」
メリー「なにがあったのかは知りませんけど、あんな脅すみたいに・・・蓮子が傷ついてるじゃないですか。謝ってください」
ちゆり「待てアンタ、早まるな」
メリー「・・・・」
夢美G「ふぅん・・・(切り替えて、蓮子に)宇佐見さんだったわね」
蓮子「あ・・・」
夢美G「謝るわ。ごめんなさい」
ちゆり「なにぃ!?」
夢美G「知り合いに大っ嫌いな女がいてね。そいつと間違えちゃった」
蓮子「間違え・・・大っ嫌い?」
メリー「それです。私達を見間違えるなんて、どういうことなんですか」
夢美G「ごめんなさい。うまく説明できないし、その時間もないのよ。わかってもらえる?」
ちゆり「ま、また謝った・・・」
メリー「そんな説明で納得が・・・」
夢美G「宇佐見さん!」
蓮子「ひ・・・」
夢美G「箱庭で遊ぶのはやめなさい。いまなら間に合うはずよ」
メリー「箱庭?」
夢美G「お詫び替わりの忠告よ。覚えておきなさい」
メリー「な、なにを言ってるんですか?」
夢美G「行くわよちゆり」
ちゆり「あ、おい教授!」
メリー「待って!まだ話は・・・」
蓮子「あ・・・」
腰が抜けて座り込む蓮子
メリー「蓮子!」
蓮子「わ、私、大っ嫌いって・・・」
メリー「大丈夫。今、追いかけて話を聞いてみる」
蓮子「あ・・・」
メリー「蓮子はここで待ってて」
メリーの服の裾をつかむ蓮子
メリー「蓮子?」
蓮子「いかないでメリー。私を一人にしないで」

メリー「どこにもいかないよ。ずっと一緒だから。私だけはずっと蓮子と一緒にいるから」
蓮子「メリー・・・」

蓮子モノログ「それからすぐ私たちは宿へむかい、気持ちが落ち着くまで滞在した。そして博物館には戻らずに京都へ向かうヒロシゲに乗った」

●六幕~夢美の手紙

蝶はいない
あんなにいたのに
あんなに楽しそうに舞っていたのに
悲しい気持ちになった私は、もう一度ドレスの子の顔を見た
なにも変わらない
ただ、静かに微笑んでいるだけ
それが寂しい

蓮子モノログ「冷静に戻った私たちはヒロシゲの車中で考えた。東京で会った岡崎先生は明らかに様子がおかしかった。まるで別人のように。そう、あの人が岡崎先生がとは別人だというならあの様子もあのアホっぽい感じも納得できる。彼女は私を何者かと見間違えてた。その人物は一体何者なのか。私に残したメッセージ『箱庭』とは。なぜ岡崎先生と瓜二つの容姿をしているのか。支離滅裂に聞こえたあの言葉の数々も、なにか私たちが知らないことを知っていて、そのなにかを前提に話をしていたとすると違和感がない。そのなにかってなに?知りたいことは山ほどある。京都に戻った私たちは真相を確かめるため、まずは岡崎先生に話を聞こうと考えた。でも」
メリー「消えた?岡崎先生が消えたってどうゆうことですか?」
顧問「どういうこともなにも、私が聞きたいくらいだよ。無断欠勤が続いたと思ったら、いつのまにか失踪していたんだ。一部の人間に手紙を残してね。ほら」
蓮子「新聞?・・・量子力学の権威、岡崎夢美博士、謎の失踪・・・」
メリー「そんな・・・じゃああの時のあれは・・・」
蓮子「(なにかを言いそうなメリーを制するように)メリー」
顧問「どうかしたのかね?」
蓮子「な、なんでもないですー」
顧問「そうそう、岡崎先生は君たちにも手紙が残していてね」
メリー「そう、ですか・・・でも」
蓮子「こんな事件になっちゃったんじゃ、その手紙もいまごろ警察かな」
顧問「なにを言ってる。ほら」
手紙を二人に手渡す顧問
メリー「え・・・これって」
顧問「君たちとは特に親身だったからねえ。手紙の一通やニ通程度で、がみがみ言われることもなかろう?」
蓮子「ナイス先生!超かっこいい!」
顧問「やれやれ、調子のいい子だ」
メリー「ありがとうございます!」
顧問「礼にはおよばない。私もね、岡崎先生のファンなんだ」
扉を閉めるSE
蓮子「ここなら誰にも聞かれないよね」
メリー「うん。秘封倶楽部の二人へ・・・蓮子」
蓮子「うん・・・」
手紙の封を破く音
蓮子モノログ「それは岡崎先生らしくない、たどたどしい文章だった」
蓮子「筆圧が乱れてる・・・急いで書いたんだわ」
メリー「急がないといけない訳でもあったのかしら」
蓮子「わかんない・・・メリー」
メリー「うん、読むね・・・秘封倶楽部のお二人へ。この手紙をあなた方が読んでいるとき、私はもうあなた方の前にはいないと思います。ちゃんとお別れができなかったので」
編集点
夢美「ちゃんとお別れができなかったので、この手紙を残します。あまり多くを書き残す時間がありません。意味がわからなくて混乱すると思いますが、大事なことなので、どうか覚えておいて欲しい」

メリー「宇佐見さんへ・・・ここから先は蓮子宛みたい」
蓮子「うん、いいよ」
メリー「宇佐見さんへ」
夢美「そこに大きな箱があるでしょう?中にレコードプレーヤーがあります。餞別というわけではないけれど、どうかこれをあなたに受け取って欲しい。今はこれが、宇佐見さん、あなたの箱庭」
蓮子「箱庭!また箱庭って」
夢美「マエリベリーさんの能力には気をつけて、人の目で結界を見るなんて、簡単に使っていいものではないわ」
蓮子「どういうこと!?」
夢美「宇佐見さん、マエリベリーさんを止められるのは秘密を共有しているあなただけだわ」
メリー「そんな・・・私達の能力のことはだれも知らないはずなのに!」
夢美「そして、いずれあなたは重大な決断に迫られることになります。いいえ。「いずれ」ではなく「かつてあなたは」かしら?その決断は、多くの人を巻き込み、多くの事象を起こすことになる。それは悲しいことも含むでしょう」
メリー「支離滅裂になってきた。これってどういう意味だろ?」
蓮子「まただ」
メリー「また?」
蓮子「支離滅裂なように感じるけど、似ているのよ。ニュアンスが」
メリー「そっか、博物館ね」
蓮子「うん、続けて」
夢美「言葉では事象は変えられない。どんな選択をしてもあなたは後悔をすることになるでしょう。それだけは覚えておいて欲しい。来るべき日を覚悟を持って迎えられるように。願わくは、あなたの選択があなたにとって最善に結末でありますように願います。そして、どうかあなたの小さな箱庭に幸多からんことを」

蓮子「また箱庭」
メリー「これで終わり、みたい」
蓮子「そう・・・」
メリー「なんか怖いよ。まるで予言書みたいな・・・不吉なことばっかりだし」
蓮子「レコードプレーヤー・・・(ハコを探る蓮子)あった。本当にあった。岡崎先生・・・」
メリー「続きを読むね」
蓮子「そうね。お願い」
メリー「マエリベリーさんへ・・・」

蓮子「メリー?」
メリー「あ・・・ああ・・・」
蓮子「メリー?どうしたのメリー?」
メリー「ご、ごめんなさい」
蓮子「どうしたの?なにが書いてあるの?」
メリー「待って!」
蓮子「え?」
メリー「ごめんなさい蓮子、すごく、その・・・プライベートなことが書いてあって、だから・・・」
蓮子「そっか、じゃあいいよ、無理に読まないわ」
メリー「うん・・・ごめんなさい」
蓮子「気にしないで。(間)結局、博物館の人についての手がかりはなし、か」
メリー「うん」
蓮子「でも、また箱庭だわ。偶然とは思えない。これをヒントに調査をするしかないわね」
メリー「う、うん」
蓮子「メリー?本当に大丈夫?」
メリー「ごめんなさい、気分が悪くなっちゃって」
蓮子「もうこの話はやめよう。今日は一緒にいてあげるから」
メリー「蓮子」
蓮子「なに?」
メリー「手、握ってて」
蓮子「ん・・・」

蓮子モノログ「結局今も博物館の人についても箱庭についてもなにも分からないままだ。岡崎先生の失踪、不吉な予言。東京で出会った不思議は後味が悪いまま、私達の中で風化してしまいそうな気がしている。でもそれはそれでアリかなって思ってるわ。だって、不思議は不思議だからこそ魅力的。解明された不思議はただの事例だわ。そう思わない?新しい不思議を探す方がずっと前向き。次に出会う不思議はきっと、もっと素敵でもっと魅力的だわ」

あの子の顔が思い出せない
それが悲しい
覚えておかなきゃいけないって、私だけは絶対に覚えておかなきゃいけないって思ったから
だから、とても、悲しい夢
でも
あの子が微笑んだとき、言った言葉は、はっきり覚えている
いまにも泣き出しそうな顔で、こういったんだわ

紫「久しぶりね、メリー」

ED曲

●エピローグ

マエリベリーさんへ
あなたもお友達の能力について知っておいきなさい。
宇佐見さんの、星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力、あれは二時的な特殊能力などではないわ。天体の位置から瞬時に逆算している単純な暗算なのよ。彼女の特殊性は常軌を逸脱した、その数処理能力にある。人に知られれば日常生活を維持できなくなる可能性は大いにあります。いままで以上に気をつけて、人には秘密にしなさい。
そして、最後にあなたに自身への忠告。
シェイクスピアのパラドックス、あなたは答えの一つに気がついているわね。
その答えは公表してはいけない。誰にも相談してはいけない。
ずっとあなたの胸の中にしまっておきなさい。その解は必ずあなたを不幸にするわ。
パックがなぜオーベロンに従うか。あなたの出した解。
そう。
妖精パックはオーベロンに恋をしていたのよ。