書き起こし/ファッセ1

Last-modified: 2016-06-19 (日) 02:17:22

●1場--------------------------------------------------------

ナレ「かつて戦があった。貴族と武家との巨大な抗争である」
夜。月を背に巨大な桜がたたずんでいる。息とし生ける者の命を吸い尽くすという大妖、
西行妖(さいぎょうあやかし)である。
桜の花に埋もれるように黒装束の男と、しに装束をまとった少女が宙に浮いている。
男は源頼朝、壮絶な笑みを浮かべて対峙する男を見下ろしている。
その先にいる男は魂魄妖忌、白髪蓬髪の大男。いまにも飛び掛らんと猫科の獣を思わせる姿勢で身体にバネを蓄え地に立っている。憤怒の形相で頼朝を睨み付けていたが
妖忌「おおおおお!!」
吼えると、桜の木に向かい走り始める
ざざざざざ走る妖忌
妖忌「頼朝ォ!」
刀の閃く音。なおも走る妖忌
尊大に語りかける頼朝
頼朝「遅かったな魂魄妖忌。西行妖はいままさに満開を迎える」
妖忌「させるかぁ!!」
妖忌、頼朝の元へ飛び上がると斬りかかる。斬撃
妖忌「うおらぁ!」
ガキィン。受け止められる妖忌の斬撃00
頼朝「貴様の魂そのものを叩きつけているような力強く荒々しい剣だ。だが」
妖忌「なにッ?」
バキッ。折れる刀
頼朝「やめろ妖忌。力の差がわからん貴様ではあるまい」
妖忌「うおぉらぁ!」
殴りかかる妖忌。だが結界に阻まれ逆にふっとばされる。
妖忌「ぬあああ!!」
地面にたたきつけられる妖忌。爆発音
妖忌「がはっ・・・」
頼朝「退け。俺は貴様を殺すつもりはない」
妖忌「クソッ!」
立ち上がる妖忌
しに装束の少女の口がひらく。目はうつろなままである。
幽々子「妖、忌」
妖忌「お嬢・・お嬢ー!」
幽々子「妖忌・・・にげて・・・」
頼朝「まだ意識があったか」
共鳴音
幽々子「あっ・・・」
意識を失う幽々子
妖忌「頼朝、てめえぇえ!」
頼朝「死んではいない」
距離遠い妖忌の叫び
妖忌「なぜだ!それだけの力を持ちながら、なぜいまさらこんなもんに頼る!」

頼朝「西行妖、か」
SEどーん
妖忌「こんなもんで戦争を止めて、後に一体ナニが残るってんだ!」
頼朝「俺は戦争を止めたいのではないよ。そんなものは最初からどうでもいい」
妖忌「なんだと」
頼朝「全ては幽々子の生きる世界を作るため。西行妖はそのためのマイルストーンに過ぎん」
妖忌「お嬢はこんなこと望んじゃいねえ!なぜそれがわからねぇ!」
頼朝「貴様には一生わからんよ」
妖忌「わかってねえのはてめえだ!もどれ楼観剣!」
妖忌「ぬあああああ!(可能な限り長く叫ぶ)」
吼える妖忌
ギギギギ。再生し赤熱する楼観剣
頼朝「おもしろい、いいだろう。最後の一太刀、届くかどうか試してみろ!魂魄妖忌!」
四股を踏むように強く踏みしめる妖忌
どおん!爆発音
妖忌「妖怪が鍛えし我が楼観剣!斬れぬ物は何一つないッ!」
ナレ「戦争の終わりは、人の英知により生み出された秘術により決着を迎えることになった。
その術のただ一度の発動により、人類は破滅の寸前に追いやられ、多くの命が失われた。
西暦1191年。
貴族と武家の抗争は武家が勝利に終わり、長きにわたる戦が終結して、6年。
戦後と呼ぶには争いの傷跡は、未だ深い」

●2場--------------------------------------------------------

場転 冒頭の6年後。地下牢。
水滴の音リバーブで。
岩窟の縦穴を利用した地下牢である。
さらに横穴に続く。その入口を二人の牢番が見張っている。
牢番1「ふああああ~・・・(あくび)」
牢番2「たるんでいるぞ」
牢番1「だってよぉ、こうなんにもねえと退屈でしょうがねえよ」
牢番2「いいからしっかり見張るんだ。交代までまだ時間がある」
牢番1「へいへい・・・・(間)なぁ、本当にこの奥にあると思うか?」
牢番2「なんのことだ?」
牢番1「あるって話じゃねえか、ここには・・・戦争を終わらせたナニカってやつがよ・・・」
SE共鳴音
地下牢の奥から不穏な音が聞こえてくる
牢番2「ん?」
牢番1「どうした」
牢番2「なにか聞こえなかったか・・・?」
共鳴音が徐々にはっきりと聞こえてくる
牢番2「牢の奥か・・・うわ!」
共鳴音さらに大きく
地下牢の横穴から閃光が漏れている
牢番2「こ、この光は・・・急ぎお館様にご報告せねば」
牢番1「へ、へへへ・・・戦争を終わらせたお宝か・・・」
ふらふらと光のほうへ歩みだす牢番1
牢番2「おい、どこへいく」
後ろから1の肩を強くつかむ2
牢番1「まぁ聞けよ。ちょっと様子を見に行こうってんだ。報告はその後の方がいいと思わねえか?」
牢番2「それは・・・」
一瞬迷った2を尻目に横穴に向かっていく1
牢番2「おいまて!」
走り去る足音、続いて足音もうひとつ
共鳴音さらに大きく
足音が止まり
牢番1「なんだ・・・こいつぁ・・・」
光の中に人影をみる二人
幽々子「ここから出て行ってください」
牢番2「これは、人・・・子供、か」
1の絶叫。BGM緊迫
じゅうじゅうとなにかが焦げるような音
牢番1「うわ、うわあああ!」
牢番2「どうした!?」
牢番1「腕!俺の腕がぁ!!」
1の体が腕からミイラのように干からびていく
ほどなく絶命する1
牢番2「(おびえるように)なんだこれは・・・」
幽々子「お願い、早く逃げて」
牢番2「お前の仕業なのか!?」
2の絶叫
牢番2「お館様・・・これは一体・・・」
2も1と同じように体が干からび始めやがて絶命
徐々に収まっていく蒸発音、共鳴音。
光の中の人影は少女であった。朽ちてゆく牢番二人を見守りつつ身じろぎひとつしなかったが
やがて悲しそうに顔を伏せる。
幽々子「・・・ごめんなさい」
沈黙
虫の鳴き声
OP曲 or ジングル

●3場--------------------------------------------------------

戦闘風のBGM
場面山中。
巨大な獣(猪?獅子?SE次第)に追われて、山道斜面を走る男二人
一人は野武士の風貌をした男。追われながらも冷静である。もう一人は少年。少年の方は死にもの狂いでダッシュしている。
次郎「(息も切れ切れに)話が違うじゃねーか!なんなんだよあの化けモンは!?」
妖忌「俺ァハナっから化けモン退治だって話をしただろーが」
次郎「ガキでも倒せる雑魚だって言っただろ!ありゃどう見ても妖魔兵器の生き残りじゃねえか!」
ナレ「かつての戦争では、力をもつ妖怪の意思をを術によって操り、兵器として利用する者がいた。操られたそれら妖怪は、妖魔兵器と呼ばれていた」
妖忌「黙れ小僧。泣き言いってんじゃねーぜ」
次郎「小僧って言うんじゃねえ!俺には次郎って名前があんだ!」
妖忌「オラ、逃げ回ってねーでさっさとあいつをぶっ殺せ」
次郎「勝てないよあんなの!」
妖忌「そーかい」
野武士男、冷たくつぶやくと
ザザ!急ブレーキをかけるように足を止め、振り返り、背後に迫る獣をにらみつける
次郎「あ!馬鹿!」
次郎、遅れて振り返る
野武士男、首で次郎を軽く振り返ると
妖忌「チイッ」
次郎「え?」
男が上から降ってくる。その音
次郎「うわ!」
那由他「やれやれ、相変わらず根気ないなぁ君は」
妖忌「うるせえ。見物気取るなら最後まで黙ってみてやがれ」
那由他「はいはい」
次郎「な、なんだよアンタ」
優男ニコニコと愛想を振りまく
その間にも獣の足音はどんどん大きくなる
那由他「いやあ、ごめんごめん驚かせちゃって。実はさあ・・・」
次郎「はっ!?あぶない!」
那由他「わ!」
次郎、優男に体当たりをして迫る獣から庇おうとする。間
次郎「・・・あれ?」
なにも起こらない代わりに、しばらく間があった後、獣の頭が落ちてくる
ボトリと落ちて弾む音、ぶちゃりと血肉がひしゃげる音
次郎「わああああ!・・・こりゃ、さっきの妖怪の・・・首?」
妖忌「そういうこった」
次郎「倒しちゃったの?アレ、一人で?」
妖忌「まーな」
次郎「すげえ、あんなでかい妖怪をイッパツかよ」
妖忌「剣の強さは体のでかさや膂力できまるもんじゃねーよ」
次郎「(関心したように)はー・・・ん?じゃあなんで、俺に仕事を依頼したんだ?アンタ一人で倒せたのに・・・」
那由他「あはは・・・えーっとそれはだねえ・・・」
次郎「あ、アンタら、俺をからかいやがったな!」
妖忌「うるせえ、男がぴーぴーわめくな」
次郎「なんだとぉ!」
那由他「(妖忌をなだめる)どーどー。だめだよ妖忌、逆なでしちゃ。君の悪くせね」
次郎「アンタら、大人のくせにかっこわりいとおもわねーのかよ」
那由他「(険悪な雰囲気の次郎の態度を受けて)そうだよねえ。ま、あんな態度されちゃあね。悪く思わないでよ、彼。重度のへそ曲がりでさ」
妖忌「俺はへそ曲がりじゃねえ」
那由他「握手握手。仲良くしようよ、ね、次郎君?」
次郎「ちょ、ちょっとちょっと!」
那由他「俺は魂魄那由他。んで、この大男が魂魄妖忌ね。今後ともよろしく」
次郎「こんぱく、って・・・え?兄弟?ぜんぜん似てないけど」
那由他「はは、兄弟じゃないよ。単に同族ってだけね」
次郎「同族」
妖忌「ケッ」
次郎「で?なんなんだよこりゃ。手の込んだドッキリ?」
妖忌「ンなわきゃあるかよ。こいつはテストだ」
次郎「テストだぁ?」
那由他「そ、本当に頼みたい仕事が他にあるってわけ」
次郎「どっちにしても悪趣味だぜ。人を試すようなマネしちゃってさ」
那由他「まあまあ、そういわないでよ。俺たちにも事情ってやつがあってね」
次郎「アンタ達の事情なんて俺は知らないよ。見つかるといいね、腕のいい助け屋」
その場を去ろうとする次郎
ナレ「先の戦争で人材や資源は枯渇していた。慢性的に不足する、調達、運送、護衛、など、それらを請け負うものたちは助け屋と呼ばれた。彼らは各々の知識や経験を元にさまざまな者が存在し、時には血なまぐさい事も行う者も少なくなかった」
那由他「ちょっと待ってってば」
次郎「まだなんかあんの?」
那由他「これは合格テストなんかじゃないんだよ」
次郎「どういうことだよ」
那由他「最初から君に頼むつもりだったってこと」
次郎「なんでもいいよ。とにかく俺は降りるからね」
那由他「降りるのは仕事の内容聞いてみてからでもいいんじゃないかな」
次郎「いやだね。アンタ胡散臭いよ」
那由他「それ言われると痛いね。まいったな・・・」
次郎「じゃ」
妖忌「待て」
次郎「聞こえなかった?俺、この仕事するつもりないよ」
妖忌「ふん」
那由他「(なにかを察して)はっ!まて妖忌!」
妖忌「隠岐次郎左衛門広有。てめえの名だな」
次郎「えっ?・・・アンタ達、俺のこと知ってるの?」
那由他「あちゃ~・・・」
次郎「知ってて俺の所にきたんだな。アンタ達一体何者だよ!」
妖忌「那由他」
那由他「はいはい・・・俺と妖忌は、とある貴族に仕えてる人間なんだよね。で、その人、今拉致られちゃってるの。君に頼みたいのは、その人を助け出して欲しいって事。ここまでオーケー?」
次郎「人助け、か?」
那由他「そういうこと。ぶっちゃけて言うと、ポカしてもフォロー利くように君の顔が必要だってわけ。同じ貴族出身の君のね」
次郎「わかんねーよ」
那由他「その辺説明するの、ちょーっとややこしいんだけど、聞く?聞きたいなら一応喋るけど?」
次郎「いい、どうせ政治ってやつだろ」
那由他「ま、一言でいっちゃうとそーね。貴族出身の助け屋っていそうでいなんだよね。特に、腕が立つやつってなると、君くらいしか頼める人、いなくてさ」
次郎「人助けか」
妖忌「コイツはその政治ってやつの事情で同行できねえ。現場には俺とてめえで行く。わかったな」
那由他「ちょいちょい!いいかげん空気読まないね君も」
妖忌「そーか?」
那由他「いま俺が彼を口説いてる最中なの。わかる?」
妖忌「俺にはこいつがやる気になったように見えるぜ」
那由他「あのねぇ今の流れをどうみたらそんな・・・」
次郎「やる」
那由他「ほらみろ次郎君も・・・え?」
次郎「俺やるよ」
那由他拍子抜けしたように
那由他「えっと・・・君がいいってんなら、俺としては楽でいいんだけど・・・本当にいいわけ?」
次郎「なんだよ?俺がいくのが都合いいんだろ?」
那由他「いや、まあ、そうなんだけど」
次郎ドヤ顔で
次郎「人助けなら最初から言えよ。俺、そういうのしたくて助け屋やってんだ」
妖忌「な?」
那由他「なって・・・なんていうか、ときどきすごいね、君」

●4場--------------------------------------------------------

場転。しばらく台詞リバーブ
那由他「いいかい?その人が捕らわれているのは、鎌倉だ」
次郎「鎌倉って・・・源氏の本拠地じゃないか!」
那由他「そう。貴族である君は発見された場合、とっても危険だね」
次郎「元、だよ。それでも俺の方が都合がいいんだろ」
妖忌「失敗した場合、俺達にとってはな」
那由他「妖忌・・・言い方」
妖忌「なにが」
次郎「そいうこと、はっきり言ってもらったほうが楽でいいよ」
那由他「君達気が合うねえ・・・。地図をみてくれ」
次郎「ああ」
那由他「湾岸沿いに孤島がある。その島の中心に竪穴を利用した天然の牢獄がある。そこが目的地ね」
次郎「そこまでは妖忌が案内してくれるんだろ」
妖忌「ああ、竪穴より先は小僧、てめえ一人でなんとかしろ」
次郎「わかってる」
那由他「俺はここで君達の帰還を待つ。京都まで一気に戻れる手配をしておく」
次郎「京都・・・か」
那由他「あらら、もしかして、京都に行きたくない系な感じ?」
次郎「あ、うん、ちょっと、ね」
那由他「いやならここに置いてってもいいけど。追っ手はきっと巻けない。危ないよ~?」
次郎「ああ・・・いや大丈夫だよ。わかった、竪穴からそいつを助け出して、ここに戻ってそれから京都。それでいいんだろ」
那由他「そゆこと。ま、面倒な手配はお兄さんにまかせときなって。楽させてもらう分、その辺はちゃんとするからさ」
リバーブここまで
場転。フクロウのなく声。草のがさがさいう音

妖忌「小僧」
次郎「なに?」
妖忌「なぜ急にやる気になった」
次郎「へー、そんなこと気にしてるんだ。アンタ以外とデリケートなんだな」
妖忌「俺が言うのもおかしいがよ、てめえ、引き受ける要素ねーじゃねえか」
次郎「言ったでしょ、俺は人助けがしたくてこの商売してんだって」
回想シーン。リバーブ。倒れる次郎
子供次郎「あう!」
次郎父「立て次郎左衛門」
子供次郎「父上・・・私には剣の才はございません・・・」
次郎父「そうだな」
子供次郎「う・・・」
次郎父「どうした、早く立たぬか」
子供次郎「これ以上、続けたくありません」
次郎父「そうか」
父足音。次郎に歩み寄ると頬を張る
子供次郎「あう!」
次郎父「立て。立って我が突き受けてみせよ」
さらに張る父
子供次郎「いやだ・・・もういやだ!父上は私になんの恨みがあってこんなに辛くなさるのです!」
次郎父「辛いか」
次郎、怒りもあらわに父をにらみ付け
子供次郎「はい」
次郎父「我らに流れる広有の血は、望むと望まざると破邪顕正(はじゃけんしょう)の神力(しんりょく)を体現する。己の意思で制御せねばならん。剣を修める事もその道筋と心得よ」
子供次郎「・・・わかりました」
次郎父「わかっておらん顔をしているな」
子供次郎「だってこんなの!」
次郎父「よいか、我らが超常の力、必ず正しき事に使わねばならん。わかるな」
子供次郎「・・・はい」
次郎父「大きすぎる力は使い方を誤ればたやすく人を不幸におとしいれる。強い心を身に着けるのだ次郎左衛門。人の道を見誤らぬ、なにがあっても決して揺れぬ、強い心をな。剣も技を修めるその結果よりも、過程が大事なのだ」
子供次郎「強い心」
次郎父「お主もいずれ広有が力に目覚める。使い方を違えず救世に尽くさねばならん」
子供次郎「私は救世など望みません・・・」
次郎父「なに?」
子供次郎「身近な、愛する人だけを守れれば、それでいいのではないでしょうか・・・救世などと、私には大きすぎます」
次郎父「そうか」
次郎を張る父
子供次郎「・・・くっ」
次郎父「立ちたくなければ、立たなくてよい」
回想シーンここまで
妖忌「人助けか。ぜんぜんピンとこねえな」
次郎「親父がそんな人だったからさ」
妖忌「とーちゃんに憧れてってやつか?」
次郎「いや・・・大っ嫌いだったよ・・・戦争で、死んじゃってさ。オフクロもね」
妖忌「そうか」
次郎「ウチ、スパルタ教育だったから友達もいなくってさ、おかげで助け屋なんてやってるってわけ」
妖忌「まあ、なんだ、悪かったな、へんなこと聞いちまってよ」
次郎「へ?」
妖忌「俺もアレだ、親の面しらねえし、ガキの頃から戦場駆け回ってたからよ、てめえの気持ち少しは分かる、つもりだ」
次郎「やだな、別にもう気にしちゃいないよ。それにこの商売気に入ってるんだ」
妖忌「どうして」
次郎「親父が俺に何を教えたかったのか、俺なりに知りたいんだ」
妖忌「それで人助けか」
次郎「ああ」

妖忌「タフだな。俺はもうちょい世の中を斜めに見てたぜ。てめえくらいの時分はよ」
次郎「まーね、教育だけはしっかり受けたから。アンタ学なさそうだもん」
妖忌「へっ、言うじゃねえか小僧」
次郎「だから小僧じゃねえっての」
妖忌「そうだな。てめえみたいな野郎は嫌いじゃねーぜ、次郎」
次郎「へへへ・・・あっ、妖忌、この辺って・・」
妖忌「ああ・・・あれだ」
次郎は場所が合っているかを指摘するが妖忌別のことを疑わしげに
妖忌「(おかしい)間違いねえな」
次郎「じゃここからは俺一人ってわけだな。サクっといってくるぜ」
立ち上がろうとする次郎の腕をつかむ妖忌
妖忌「まて」
慌ててしゃがみ周囲を警戒する次郎
次郎「なに?」
妖忌「妙だ」
次郎「妙って、なにが?」
妖忌「ここまで誰にも会ってねえ」
次郎「そうだっけ?」
妖忌「みろ。見張りがいねえだろ」
次郎「え?・・・うん」
妖忌「仮にもやんごとない人間が捕らわれてるんだ。そこにきて偵察もいねえ、見張りもいねえたあ、こいつぁ罠かもしれねーぜ」
次郎「ん~・・・でもさ、罠だろうとなんだろうと、結局いかなきゃなんないんだろ?だったらいいじゃん、誰もいなくてラッキーって思ってればさ」
妖忌「ん?・・・そうなるのか」
次郎「そうそう、用心はしたほうがいいだろうけどね」
妖忌「よし、あとは小僧、テメエ次第だ。ぬかるんじゃねえぞ」
次郎「だから小僧って言うなって。見つかったらこの爆竹を使う、そしたらアンタは逃げてくれ」
妖忌「ああ、テメエにゃ悪いが面が割れるわにゃいかねーからな」
次郎「わかってるよ、それも俺の仕事のうちってね」
妖忌「気をつけろよ、次郎」
次郎「アンタもね」
妖忌「いけ!」
次郎「おう!」
すり足ですばやく移動する次郎
入り口に侵入すると、竪穴にたどり着く
次郎「ここも人がいない・・・よし」
どこで手に入れたのか松明を持っている
梯子を下るギシギシ音
周囲を警戒しながらゆっくりと降りてゆく
次郎「ここまで来ても、見張りもなし、罠もなし、か。こりゃ確かにおかしいわ。でも、いくっきゃないんだけどね・・・」
やがて底がみえてくる
次郎「・・・っと」
梯子から飛び降りる着地音
次郎「牢屋ってのはここら辺か。そろそろお出ましのはずだな」

●5場--------------------------------------------------------

ときおり落ちる水滴の音が反響する
奥を目指す次郎
共鳴音
違和感に足を止める次郎
目の前を一房の桜の花びらが舞っている
和風な澄んだBGM(曲が間に合えば、幽々子のハミング)
次郎「え?・・・これ、桜の花びら?なんでこんな地下で?」
牢の奥。大きく広がり部屋のようになっている。格子はない。
桜の花びらが、雪のように降っている。
月光に照らされるように舞う桜。
部屋の中心、天井に小さな縦穴があり、そこから月光と花びらが降りてきているのである。
そこに人が立っている。
軽く顔をふせ、まるでなにかの音に集中しているかのうに瞳を閉じている。
次郎の声に気がつくと、ゆっくりと瞳を開き次郎を見つめる。
やがて
幽々子「それ以上こないでください」
次郎「そこにいるのか?」
小走りに近寄る次郎
幽々子「こないで!」
共鳴音。ぱきぃん。なにかが割れる音
幽々子「え?死蝶の力が・・・消えたの?」
次郎「女の子」
幽々子「あなたは誰なんですか?」
次郎「・・・」
幽々子「?」
次郎「はっ!?ご、ごめん!え~っと・・・そうだ!俺、アンタを助けにきたんだよ、頼まれてさ」
幽々子「たのまれて?」
次郎「うん。那由他と妖忌って2人組のおっさんに、知ってる?」
幽々子「ええ。よく知っています。二人とも生きているのですね」
次郎「ピンピンしてるぜ」
幽々子微笑んで警戒を解く
幽々子「そうですか・・・良かった」
次郎「え?」
心臓の音。鼓動しばらく続く
次郎心の声、リバーブ
次郎「な、なんだこれ、急に心臓が・・・」
次郎の様子を覗き込む幽々子
幽々子「どうかしたのですか?」
次郎「いや、なんか急に心臓がさ、大丈夫、収まってきたよ」
幽々子「はい」
次郎「びっくりしたよ。偉い人って聞いてたからさ、勝手に大人の人だと思ってた」
幽々子「偉い人、ですか・・・」
次郎「いこう、妖忌が外で待ってる」
幽々子「私、いけません」
次郎「え?俺、別に怪しくないってば。えっと、証拠は・・・」
幽々子「疑っているわけじゃないんです。私、ここを動きません」
次郎「そんな困るよ。俺、仕事なのにさ」
幽々子「ここを動かないって決めたんです」
次郎「アンタさらわれたって聞いてたけど」
幽々子「はい」
次郎「じゃあ、なんでだよ。助けてやるって言ってんだぜ?」
幽々子「それは・・・」
沈黙。間。
次郎「わかった理由は聞かないよ」
幽々子「ごめんなさい」
次郎「でも、俺はアンタを連れて行くぜ。いやって行ってもな」
幽々子「いけません」
次郎「さっき妖忌の話したとき、笑顔すっげぇ可愛いかった」
幽々子「え・・・」
次郎「どんな理由があるかは知らないけどさ、いまのアンタこの世の最後みたいな顔してるぜ」
幽々子「私、そんな顔をしていますか」
次郎「うん・・・会いたいんだろあいつらに」
幽々子「はい・・・でも、私は・・・」
次郎「えっとさ、幸せには、二つの幸せがある、って知ってる?」
幽々子「二つの、幸せ?」
次郎「うん、今の幸せと、先の幸せ・・・」
回想リバーブ
子供次郎「二つの幸せ、ですか?」
次郎母「そう、今の幸せと、先の幸せ。今の幸せっていうのはね、好きなだけ寝たり、美味しいものを食べたすること」
子供次郎「遊んだりすることも?」
次郎母「そうね、好きな人に会ったり・・・」
子供次郎「好きな人・・・母上です!」
次郎母「まあ、ふふ・・・」
子供次郎「わかりました!今、こうして母上と話ができること、今の幸せです」
次郎母「それではもう一つ、先の幸せとはなにかしら?」
子供次郎「え?・・・人には今の幸せ以外にも幸せの形があるのでしょうか?」
次郎母「はい」
子供次郎「・・・私にはわかりません」
次郎母「次郎、もっとこっちへおいで」
子供次郎「はい!」
次郎母「よしよし・・・」
子供次郎「母上・・・」
次郎母「先の幸せはね、今より先をより大きい幸せにするために、今を耐え、勤勉につとめること」
子供次郎「今を、勤勉につとめること・・・あっ」
次郎母「どうしたの?」
子供次郎「私は今、勤勉を忘れ、怠惰に甘んじています・・・」
次郎母「あら」
子供次郎「父上は私に先の幸せを、お与えになってくださっているでしょう?」
次郎母「そうですよ。決してあなたが憎くて辛くしてるのはありません」
子供次郎「今の私は、今を甘んじて、父上の愛に背いています」
次郎母「まあ、そういうところは本当、父上にそっくりね」
子供次郎「しかし・・・」
次郎母「いい次郎、よく聞いて?人はね、今の幸せを糧に、先の幸せを作り上げるものなの」
子供次郎「今の幸せを糧に・・・」
次郎母「次郎、今の幸せは恥ずことなく心の底から受け入れなさい」
子供次郎「はい」
次郎母「そして・・・今を耐えなければならないときは、必ずその先に幸せを見据えること」
回想ここまで
幽々子「必ずその先に幸せを・・・」
次郎「うん。オフクロの受け売りなんだけどさ、結構合ってると思うんだよね」
幽々子「そうですか」
次郎「アンタが一人で耐えて、ここに残って・・・その先にアンタの幸せが待ってるの?」
幽々子「でも・・・」
次郎「いこうぜ。会いたい人のいる。他に理由なんていらないよ」
間、顔上げると笑顔になる幽々子
幽々子「・・・はい」
次郎「ほらね、へへへ」
幽々子「ふふ。私は幽々子。西行寺幽々子と申します」
次郎「俺、次郎。隠岐次郎左衛門広有。改めててよろしくな」
幽々子「次郎左衛門広有・・・そう、そうですか・・・」
次郎「長ったらしいだろ?」
幽々子「いいえ・・・次郎。私はあなたを信じます」

●6場--------------------------------------------------------

元の道を戻る二人、やがて縦穴に到着する
次郎「よし、あとはこの梯子を登れば外だ。結構長いから俺がおぶってやるよ」
幽々子「はい」
もぞもぞ
次郎「!!?・・・い、いまのって・・・」
幽々子「ん・・・」ほ
なにやらすごく焦っている次郎
次郎「ち、ちょっとまって!」
幽々子「?」
次郎「ごめん!離れて!やっぱおんぶなし!ごめん、先登ってよ・・・」
幽々子「はい」
次郎「もし疲れたら下で支えて・・・俺が・・・下で・・・」
幽々子「はい」
次郎「・・・ごめん、やっぱ俺が先登るわ。悪いんだけど、がんばってあげって来てくんない?」
幽々子「はい」
かさかさ音。なにかのうめき声が聞こえてくる。
次郎「なんだ!?」
干からびたゾンビのような人影が二体現れる
次郎「こいつら妖怪、妖魔兵器か」
幽々子「この人達は、私の・・・」
次郎「逃げるぞ!掴まれ幽々子!」
幽々子「え?・・・きゃっ」
山賊がやるように、幽々子の腰を担ぎ上げげ、ものすごい勢いで梯子を駆け上がる次郎
次郎「うおりゃぁー!!(息が続く限り長く)」
ドドドド。一気に駆け上がる。
次郎「はー・・・はー・・・ど、ど根性だぜ・・・」
幽々子「次郎?大丈夫ですか?」
次郎「へへ、任せとけって・・・ん?」
SE:ぷにぷに音
次郎「う、うわ!ごめん!!」
SE:ガタガタと、幽々子から手をはなすと体勢を崩してこける次郎
次郎「わあ!・・・いててて・・・はっ、幽々子怪我ないか?」
幽々子きょとんとして
幽々子「はい」
次郎「へへ、大丈夫そうみたいだなー」
幽々子「くすくすくす」
次郎「あ、面白かった?」
幽々子「はい。次郎は面白い人ですね。ふふ」
次郎「アンタ、笑うとほんと可愛いよな」
幽々子「え?」
次郎「うん。にこにこしてた方がいいよ」
幽々子「はい」
次郎「へへ。よし、行こうぜ。妖忌が待ってる」
場転 外。ふくろうの声。
かさかさと足音。次郎と幽々子の二人。
妖忌の元にたどりつく。
しばらくヒソヒソ声
次郎「妖忌」
妖忌「次郎か?」
次郎「ああ、連れて来たぜ」
幽々子「妖忌・・・」
妖忌「お嬢」
幽々子「妖忌、私・・・」
急に怒鳴り声を上げる妖忌
妖忌「馬鹿野郎!どうしてあの野郎に従った!てめえの身がどうなるかぐれえわからなかったのか!」

幽々子「ありがとう妖忌。元気でしたか?」
妖忌「っ・・・馬鹿野郎」
幽々子「ごめんね」
妖忌「二度とふざけた真似できねえように鎖でふんじばってやる」
次郎「おっかねえなぁ」
妖忌「あ?いたのかよてめえ」
次郎「失礼なやつだなぁ。連れて来たの俺だぜ?」
妖忌「・・・そうだな。すまん次郎。恩に着る」
次郎「なんだよ急に」
妖忌「ああ・・・よし、早速戻るぞ。いいな」
次郎「あ、ちょっと待って。変なんだよやっぱ」
妖忌「なにがだよ。いいから行くぞ。急がねえと追っ手が来る」
次郎「それだ。追っ手が来るならもうとっくに来てるはずだ。途中で妖怪に見つかった」
妖忌「なに!?」
次郎「幽々子を見つけて結構すぐにね。おかしいと思わない?」
妖忌「コラ小僧。なにお嬢を呼び捨てにしてやがる」
次郎「おっさんがいい歳こいて細かいこと気にしないの」
妖忌「いいか!この方はだなぁ・・・」
次郎「いいじゃん幽々子が気にしてないんだからさ。なあ?」
幽々子「はい」
次郎「ほら」
妖忌「こいつはこういう性格なんだよ!」
次郎「はいはい。俺は恩人なんだろ?」
妖忌「ぐっ・・・てめえ・・・」
次郎「話続けるよ。いい?俺はたしかに見つかった。でも追っ手は?」
妖忌「増援どころか、獣の気配一つしねえな・・・」
次郎「おかしいと思わない?他に幽々子を誘拐しそうなやつって誰もいないわけ?」
妖忌「いやいる。かなりの数のやつらがな・・・たしかに妙だ」
次郎「この場所だって、アンタ達が知ってて他の奴らがしらないとは思えない。でも幽々子はいた。見張りのいない牢屋に」
妖忌「誰かが見張りを掃除したってのか、お嬢を残して」
次郎「わからない。でもおかしいぜ。これじゃまるで・・・」

●7場--------------------------------------------------------

那由他登場。距離遠。声にリバーブ
那由他「それがさあ、それほどおかしいことでもないんだよねぇ」
感激している幽々子
幽々子「那由他」
妖忌「那由他てめえどうしてここに」
那由他「どうしてもなにも。俺の目的、ここだからね」
妖忌「あ?なにいってやがる」
次郎「待て妖忌」
那由他に近づこうとする妖忌を制する次郎
妖忌「ああ?」
次郎「アンタは幽々子についててくれ」
那由他「ありがとね次郎君。おかげで助かったよ」
次郎「アンタなにを知ってる?」
那由他「ん~・・・だいたい全部?」
次郎「なぜ退路の確保を買って出た?」
那由他「・・・ねえ次郎君、ギャラは払うからさ、君、退場してくれないかな」
次郎「牢屋がもぬけの殻ってことも知ってたのか?」
那由他「はい、君のお仕事ここまで、ご苦労さん」
次郎「アンタ幽々子をどうするつもりだ!」
しゅー。ざく
次郎「え?」
突如目の前に現れた那由他に心臓をつらぬかれる次郎
那由他「好奇心猫を殺すってやつ?馬鹿だね君も」
妖忌「なっ!?」
幽々子「次郎?」
妖忌「那由他てめえ!なにしてやがる!」
イタズラを誤魔化すかのような口調
那由他「あはははは。ほら、俺って面倒なの苦手なタイプだから」
ぞぶぞぶ。次郎の体に刃が食い込んで行く
次郎「がはっ・・・」
血を吐いて倒れる次郎
幽々子「次郎!」
妖忌「那由他てめえ!一体何のマネだ!!」
那由他「ほんと頭かたいなぁ君って、邪魔だからに決まってるでしょ」
次郎「がふ・・・見張りを斬ったのもアンタだな・・・」
妖忌「なんだと!?」
那由他「ま、そゆこと。つっても外にいたやつらだけね」
妖忌「牢に進入してたってのか?どうしてお嬢を助けなかった・・・いやそれよりも・・・」
那由他「君もしかして、俺達が牢屋に入らない理由、本当に面が割れないためって思ってた?」
妖忌「ああ」
那由他「おいおい妖忌。君ってほんとお人よしっていうかさぁ・・・」
妖忌「理由なんざなんだって知らん。てめえの言うことだから信じだ。それだけだ」
那由他「は・・・そっか。悪いね信用裏切っちゃったみたいで」
妖忌「もう一度いうぞ那由他。一体何のマネだ」
那由他、大きく深呼吸をする。大きなため息のようにも聞こえる
真剣な眼差しになる那由他
次郎の体をなげうつ。どさっ
次郎「う・・・」
幽々子「次郎!」
妖忌「どけ!」
次郎の服を破く。傷は内臓を深く傷つけている
もう手遅れであることを知る妖忌
幽々子「ひどい・・・」
妖忌「クソッ!」
那由他「一体何のマネ、か。そう、君が想像してるとおりだよ。俺の目的は最初からお嬢様だ」
幽々子「なにがあったのです那由他。どうしてこんなひどいこと・・・」
那由他「世界は貴族の手により治められるべきだ。先の戦で遅れをとったのはあなたが源氏の手に落ちたからに他ならない」
妖忌「てめえまだそんな世迷言を・・・戦は終わった。この後におよんで貴族だ武家だとくだらねえごちゃごちゃで世をかき乱すことはねえだろうが」
那由他「本当に君はシンプルだ。くだらない、か。確かにその通りだよ妖忌。俺は君のそういう純粋さに惹かれていた」
妖忌「清盛は死んだ。平泉も消える。立てるべき御輿はもうどこにもねえんだよ」
那由他「平家に藤原か・・・俺はあんな腰抜け共に世を預ける気はないよ」
妖忌「なんだと?」
間。ごごごごご
妖忌「てめえ・・・まさか・・・」
那由他「全て俺に任せてよ妖忌。幽々子が我が手に落ちればソレは可能だ!」
妖忌「那由他ァ!」
ロックなBGM
共鳴音
妖忌「うらぁあ!」
ガキィン!
楼観剣を打ち付ける妖忌
那由他、これをこともなげに受け止める
那由他「どうした妖忌。これじゃあ稽古の時のがまだましだよ」
妖忌「マジかてめえ!マジでまた戦争おっぱじめる気か!それもてめえの手で!お嬢を巻き込んで!」
那由他「巻き込まれたのは人類のほうさ。彼女は人じゃあない」
幽々子「私は・・・!」
那由他「今宵の月は小望月(こもちづき)。あなたの力は開放され、正邪必滅の力、黒死蝶が顕現する。牢番がいない?そりゃそうさ、今の彼女に見張りなど必要ないんだよ。なんせ近づいただけで殺されちゃうんだからさあ」
妖忌「うるせえ!」
ガキィン!
さきほどよりも強い打ち込み
那由他「そして・・・月光は我が剣の力のみなもとでもある」
BGM悪の必殺技
妖忌「なに!?」
那由他の刀が光る。音
那由他「魂喰らう青楼剣(せいろうけん)穿てぬ物はない・・・たとえ君でもね」
共鳴音。那由他が高速移動する音キィン
妖忌「消えた!?後ろかあ!」
待宵反射衛星斬(まちよいはんしゃえいせいざん)準備SE
イメージ=サテライトキャノン。共鳴音徐々に大きくなる。キラーン
那由他「待宵・・・」
幽々子「やめて那由他ー!」
那由他「反射衛星斬」
※待宵反射衛星斬炸裂
妖忌「ぐああああ!」
やられる妖忌。どさっ。BGM落ち着く

●8場--------------------------------------------------------

妖忌「黒死蝶だと・・・なぜ俺もてめえも生きてる・・・」
ナレ「黒死蝶。触れた者の命を奪う呪いの妖蝶である」
那由他「次郎君だよ。黒き呪いを退ける広有の力。幽々子に近づくことは彼にしかできないことだったんだよ。今日この日においてはね」
妖忌「訳がわからねえ。一体どういう(こった)・・・」
ドスっ。刀を突き立てられる妖忌
妖忌「ぐう!」
那由他「関係ないだろ。今の君には」
斬撃。止めを刺す
幽々子「妖忌ー!・・・那由他、あなたはなんてことを」
那由他「さ、ゆゆちゃん。おいで、一緒にいこう」
幽々子「おかしいわ・・・どうしてこんなことを」
那由他「あなたの力を狙う者はこれからも現れ続ける。あなたの力が誰の物か世にわからせる必要がなるんだ」
幽々子「戦争は終わりました」
那由他「俺の戦争は終わってない。あなたの力が源氏の・・・頼朝の物だなんて、俺は許せない」
幽々子「だからってどうして妖忌まで!あんなに信頼し合っていたではないですか!」
那由他「ああ、妖忌を斬った。唯一心を許した友を、この手で・・・」
幽々子「那由他・・・」
那由他「これで俺にこの世で斬れぬ物はなにもない」
幽々子「その道に待っている物は孤独だけだわ」
那由他「あなたが手に入るなら、この世で一人きりになろうとかまわない」
幽々子「あなたは・・・間違っています・・・」
那由他「来い幽々子。俺の物になるんだ」
次郎「幽々子は・・・物じゃない・・・誰の物でも・・・がは!」
幽々子「次郎!!」
那由他「まだ息があったか広有」
幽々子「いや、やめて!逃げて次郎ー!!」
次郎「逃げろ幽々子・・・こいつは狂ってる」
那由他「狂っているのはこの世界の方じゃないか!俺は幽々子が欲しいだけだ!」
次郎にとどめをさす那由他。わかりやすくするために派手めのSE。太いビーム音。
幽々子「次郎ー!!」
無音。間。次郎の声リバーブ
次郎「あ・・・だめだ、俺、こんどこそ本当に・・・」
妖忌「諦めんな小僧」
次郎「妖忌?妖忌か!?」
妖忌「俺の命をてめえにやる」
次郎「命?」
妖忌「いまからてめえは息を吹き返す。なにも考えねえで那由他の野郎をブチ殺せ」
次郎「嫌だよそんなの!アンタ強いじゃないか。アンタが幽々子を守ってよ!」
妖忌「俺じゃだめだ。てめえならできる」
次郎「なんだよそれ!」
妖忌「時間がない。俺を信じろ」
次郎「嫌だ!妖忌も生きてくれ!」
妖忌「お嬢が・・・幽々子が救えるなら命なんざ惜しくなねえ。俺はそのために生きて来たんだ。安心しろ、てめえは強い」
共鳴音
次郎「待て!やめろー!」
妖忌「頼んだぜ。次郎」
共鳴おさまり。間。リバーブここまで

●9場--------------------------------------------------------

ゴウ!炎立ち上る音

幽々子「次郎!」
那由他「貴様・・・」
炎の中立ち上がる次郎
次郎「那由他・・・どうしてだよ。他にやり方ってのがなかったのかよ」
那由他「なんだと?」
次郎「妖忌に頼まれた・・・いまからアンタをブチ殺す」
ごあああ。炎は次郎の体から吹き出している
那由他「合身半霊(ごうしんはんれい)の術・・・妖忌、こいつを認めたのか?俺は否定してこの子供を認めたのか!」
次郎に斬りかかる那由他。だが、受け止められる。次郎の手には楼観剣が握られている
しばらくセリフの裏でチャンバラ音
次郎「アンタに幽々子は渡さない!!」
那由他「君は死になよー!」
次郎「うおおー!!」
激しい連撃
妖忌「離れるな次郎!ヤツの技はは発動にタイムラグがある。ための時間を与えるな」
次郎「わかったぁ!」
さらに激しい連撃
那由他「なに!?・・・そうか・・・妖忌、貴様かああ!!」
妖忌「水月に蹴りだ!フッ飛ばせ!!」
次郎「おらあ!」
那由他「なに!?ぐわああ!」
那由他を蹴り飛ばす次郎。ものすごい距離をふっとぶ那由他。爆発音
次郎「なんだ今の。俺がやったのか?」
妖忌「今だ次郎、気を強く保ってイメージを高めろ」
次郎「イメージ?」
妖忌「おまえの剣は巨大な刃。おまえの剣は山もぶった斬る」
次郎「俺の剣は、巨大な刃・・・」
妖忌「おまえの剣はなにも通さねえ。鋼より硬く、何よりも迅い」
次郎「鋼より硬く、何よりも迅い」
妖忌「我が剣は楼観剣!」
次郎「妖怪が鍛えし我が楼観剣!」
二人「斬れぬ物は何一つない!」
次郎「はあああ!!」
那由他「なに!?」
次郎「断命剣(だんめいけん)冥想斬(めいそうざん)!!」
炸裂する冥想斬。SEすごく派。ごごごご。しばらく無音
土煙が落ち着くと、ぼろぼろで倒れている那由他が姿をみせる
那由他「が、ぐがが・・・」
次郎「はぁっ、はあっ・・・あ、あれ食らって生きてるのかよ・・・」
那由他「がはっ・・・」
チャキ剣を構えなおす次郎
次郎「妖忌、いいんだな・・・」
返事はない。無音。間
二人に間に立ちふさがる幽々子
幽々子「待ってください」
次郎「なに!?」
幽々子「命を取る必要までありません」
次郎「どいてくれ、こいつは・・・こいつは妖忌を!」
幽々子「わかっています」
次郎「幽々子・・・くっ」
レーザー音。月光が光線になり那由他に降り注いでいる
妖忌「いかん!次郎!」
次郎「なに!?」
剣撃音
那由他「くっくっくっく・・・よくやった青楼剣。俺はまだ死なない」
次郎「しまった!」
炎が立ちふさがる
次郎「うわあ!」
那由他「俺はまだ死ぬわけにはいかない・・・」
次郎「逃がすかよ!」
炎強く吹き荒れる。
次郎「くそっ!那由他ぁ!!」
那由他「幽々子、必ずあなたを手に入れる。次郎座衛門広有、貴様を八つ裂きにしてな・・・」

●10場--------------------------------------------------------

炎が徐々に落ち着いてゆく
妖忌「逃がしたか・・・あの野郎、マジでお嬢を・・・」
次郎「何度来たって返り討ちだ。アンタの力があればさ」
妖忌「・・・そいつぁ無理な相談だな」
次郎「な、なに言ってんだよ!あいつに幽々子とられちゃっていいのかよ!」
妖忌「それは絶対にするな。だが・・・俺ぁもうてめえに力は貸せねえ」
次郎「え?」
妖忌「いいか時間がねえ、よく聞け」
次郎「力を貸せないって・・・」
妖忌「お嬢を連れて陸奥の平泉へ向かえ」
次郎「なに言ってんだよ妖忌」
幽々子「わかりました。陸奥の国ですね」
妖忌「俺の声が聞こえるのか?」
幽々子「はい」
妖忌「そうか・・・」
幽々子「妖忌、私は・・・」
妖忌「時間がねぇ!聞け!」
幽々子「・・・わかりました」
次郎「わかりましたって・・・ねえ妖忌、幽々子を見捨てたりしないだろ!?」
妖忌「陸奥で人を探せ」
幽々子「はい」
妖忌「名は・・・源九郎義経」
次郎「九郎義経!?そいつは・・・」
妖忌「もう時間切れだ」
次郎「待ってよ!幽々子はどうなるんだよ!」
妖忌「次郎、お嬢はてめえが守るんだ」
次郎「那由他があんなになっちまってアンタまでいなくなたら幽々子は・・・」
妖忌「心配すんな、てめえは強い」
次郎「でも・・・俺・・・」
妖忌「頼む」
次郎「・・・わかったよ」

次郎「妖忌?」

幽々子「逝ってしまったのですね」
次郎「ああ・・・平泉にアンタを連れていく。必ず」
幽々子「陸奥平泉、義経様の流刑地」
次郎「知ってるのか?」
幽々子「はい。義経様が封ぜられた地。決して人が踏み入れらなぬ人外の魔境」
次郎「妖魔兵器の棲家なのか?」
幽々子「いいえ。そこは根絶を望んだ妖怪の巣窟。この世の最後の隠れ里」

幽々子「そこを知る者はその土地をこう呼びます・・・幻想郷、と」