擬古田薬品 (3)

Last-modified: 2021-08-12 (木) 16:36:40

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293 名前: 17・6ヶ月 (ちびギコ&フサギコ) 投稿日: 2004/01/26(月) 10:01 [ Tlumu4ZM ]
ちびギコ・フサギコの張り紙のあるドアを開け、中に入ると、ガラスの壁の向こうで
転げ回るフサギコが目に入った。ふさふさだった毛はあちこちに飛び散り、
皮膚が剥き出しになっている。引っかき傷とも縦に切り裂いた傷とも見ることのできる傷が
胸から腹にかけて見て取れた。

この部屋のテーブルには、ヘロインの塊、ヘロインを削り取るナイフ・薬包紙・吸引具の他に、
注射器・駆血帯代わりと思われる細いゴム管が加えられている。

ギコが説明を始めた。
「音声の前に、説明が必要だなゴルァ。ここは、モルヒネの経口投与を始めてから
6ヶ月以上たった部屋だ。実を言うと、被験者達の中で1年以上生存した個体はいない。
禁断症状に苦しんでいる連中もいるし、苦しんでいる様を見て、自分はああなりたくないと思って
吸入の使用量を増やし始めている連中もいる。それに幻覚とか・・・・」

説明を続けようとしているギコをモナーが遮り、
「ギコ、幻覚とかの説明は、音声聞かせながら説明した方がわかりやすいかも。
注射器と駆血帯は・・・6ヶ月もたつと吸入じゃ効かないって言っている連中が出始めてね。
静脈注射のやり方を教えたんだ。ギコ、音声を頼むよ。」

「ん、わかった。」ギコはモニター室に連絡を入れた。

一分ほど経った頃、音声が聞こえてきた。8番の札を耳につけているちびギコが、
「虫がいるデチ・・・キモイデチ・・・・」とぶつぶつ繰り返しながら、
自分の体をナイフで切り裂いていた。「ギ、ギ、ギ、ギャアアアアアアアアアア」
痛みに耐え切れなかったのか、禁断症状からくる全身の痛みなのかは図りかねるが、
悲鳴をあげながらちびギコは床を転げ回っている。

ガラスの向こうでギコが説明を始めた。
「8番のちびギコが「虫がいる」って言ってるでしょ?蟻走感っていうんだよね。
体中を蟻が蠢いている感じって言ったらわかるかなぁ・・・・
気持ち悪くて、体中をかきむしるんだよね。幻覚なんかも出始めてるかもしれない。
体の中にいる虫の幻覚を何とかしてえぐり出そうとしてるんだろうね。」

また、傍らでは1番の札を耳につけたちびギコが、人形とのコウビもどきにふけっていたが、
こちらは3ヶ月のグループの部屋にいたチビギコと勝手が違っていた。
彼の全身から必死さがにじみ出ているのが、ガラスの向こうの面々に感じられたのである。
「なぁんか、1番の被験者って必死モナね。」モナ川が思わず、声を漏らした。
「必死ですねぇ。」ちびが思わず相槌を打つ。

「禁断症状が性器に出てきてるんだよね。勃起しっぱなしってやつだ。
何とかして静めようとしてるんだろうねぇ・・・・でも静まらないんだよね。
何回やっても静まらないの。もう1番の寿命も長くないだろうな・・・・」

ギコの説明に、ちびが疑問を口にした。
「1番の寿命も長くないって?なぜです?」

「まぁ、被験者全員を見てごらんよ。全員痩せているだろ?
食事なんか、もうどうでもいいって状態になっちゃってるんだよね。
それに、薬で衰弱してしまうし。1番みたいに禁断症状が性器にきてしまうと、
ここでは人形のオナーニだけどさ、お姉ちゃんとのセクースでおさめようとする奴もいる。
それで、また衰弱と。薬を取る体力があれば、まだ回復するんだけどもさ。
回復って表現はごへいがあるな。死への延期って言う表現が正しいかな。」

294 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/01/26(月) 10:03 [ Tlumu4ZM ]
「ちびちゃん!あれ!」
ギコがちびの質問に答え終わるか終わらないかのうちにモラ山が絶叫した。
「モラ山君大声・・・・・」
出さなくてもわかるモナとモナ川が言おうとしたが、彼も息を飲み込んでしまった。
1番のちびギコがなんと、あちこちに精を撒き散らしている。
「ちびしぃたん、逝くデチ、逝くデチよ。ああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」
彼が声を発した後、数十秒ほど精があちこちに放たれていたが、それも止まった。
1番のちびギコはその後、体を数回痙攣させたが、それも止まり、動かなくなった。

「モナー、モニター室に連絡頼むわ。」急にギコがモナーに告げる。

「り、臨終モナ?」「臨終?」「不謹慎だけど・・・・アハハハハ」
ダッコ映像の面々はそれぞれのリアクションを取っている。
ちびも、思わず笑い出してしまった。
「そう、臨終だよ。でも、笑い事じゃないんだよね。70年代じゃないけれど、
セックスとドラッグはここにあるからねぇ。死因の説明が必要かい?」
モニター室への連絡を終えたモナーの問いに、皆は首を横に振った。
「それよりももう少し落ち着くまで、時間をもらえませんか?」
ちびが笑いをかみ殺しながら頼むと、モナーとギコはうなずいた。
「ちびしぃやしぃの部屋に行くと、笑い事にならないから、今のうちに
笑っておくといい。ベビ棟なんかも、笑い事にはならないし・・・・・」
ギコの言葉に、ちび達の笑いは一斉に止まった。

「どう?そろそろ出る?」
顔が青ざめているダッコ映像の面々に、モナーが声をかけた頃と同じくして、
ボランティアが被験者の部屋に入室してきていた。彼はちびギコの首に触れ、
ガラスの向こうの面々に首を横に振ってみせた。臨終ですという彼なりの意思表示だろう。
すると、彼は盛んにちびギコの死体を指差し始めた。
「死体見るかって言ってるみたいだね。どうする?」
「お願いします。」
モナーの問いにちびは思わず返事をしてしまった。
「見るモナ?」「もしかして、ちびちゃん、ROTTENとかの常連さん?」
モナ川・モラ山の問いにちびは顔を真っ赤にして否定した。

「好奇心があるというのはいい事だね。」
と言いつつモナーは、ガラスの向こうのボランティアに「頼む。」というジェスチャーをした。
ボランティアは大きくうなずき、ちび達に、事切れた被験者の遺体を見せた。
彼は、首を握っている感じで、被験者を持っているため、ちび達には
死体が首吊りをしている状態に見えている。
詳細にちびは観察を始めた・・・・・・・・・

ちびギコやちびしぃは、ふっくらとしているイメージがあるのだが、
それがまったく感じられず、痩せてあばら骨が浮き出ている。
腕には注射のせいと見られる内出血だらけ。それに、縦に切ったと思われる傷跡も見える。
ナイフで切ったんだろうか?
体にも同じ様な縦の傷跡。ギコが言っていた蟻走感という奴に苦しんだのだろう。
股間のあたりを見てみると、毛が、整髪料で固めたように立っている。
先ほどの精子が固まった物だろう。

「モナーさん。手の縦の傷跡ってリスカ?」
「違うよ。血管を探したんだ。そこまでしてでも、薬が欲しかったんだよ。」

「もう、逝くとこまで逝っちゃったんですね・・・・・」
質問の答えを聞いたちびが思わずため息をつく。
「この被験者は1人で逝ったから、まだましな方だよ。
ちびちゃんには悪いが、しぃ族同士の争いは本当に凄まじいものがあるよ。
次の部屋に行ってみると運が良ければ、みられるかもね・・・・・」
ギコは、少し申し訳なさそうな口調でちびに話し掛けた。

しばらくして、急に部屋の中の連絡用の電話がなった。
「わかった。急いでちびしぃの部屋に行く。」
電話に出たモナーが電話を切ると、
「皆、急ごう。ギコが言った、ちびしぃ同士の争いが始まりそうなんだって。
ちょっとえげつないかもしれないけど、見ておく価値はあるよ。」
緊張した面持ちの皆は、モナーの言葉に従い、部屋を出た。

295 名前: 18・6ヶ月 (ちびしぃ) 投稿日: 2004/01/26(月) 10:04 [ Tlumu4ZM ]
ガタッ。
急いでドアを開けて中に入ると、モニター室のボランティアが気を利かせてくれたらしく、
被験者達の音声が聞こえている。
ガラスの向こうでは、3番と7番の小さな札を耳につけた
ちびしぃが互いにナイフを持って睨み合っていた。

「・・・カミサマハ シィチャンダケヲ アイシテ クダサルノ ・・・」
「・・・・ニセモノハ アボーンデス!!・・・・」

モナーは、「まただよ」と呟きながら、外国人の良くやる両手を広げるポーズをとった。
ギコもうんざりした表情をしている。

ちびは、ガラスの向こうの音声を聞きながら、あることを思い出していた・・・・・
いつの頃だったか、母親と母親の友人とともに、路地裏を歩いていたときのことである。
一匹のでぃが、ゴミ箱をあさっていた。
母親や母の友人は複数で、一匹のでぃを嬲り頃した。彼女らはでぃを殴りながら、
「マターリノ カミサマノ ナニオイテ シニナサイ」 と言うような言葉を連呼していた。
でぃが逝ってしまった時に、「キタナイノガ キエテ マターリダネ」と話していたのも、
ちびの脳裏に蘇ってきていた。

ちびの回想は、7番の札を耳につけたちびしぃの悲鳴によってかき消された。

296 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/01/26(月) 10:06 [ Tlumu4ZM ]
ガラスの向こうでは、3番のちびしぃが7番のちびしぃの耳を利き手でつかみ、
今まさに、(耳もぎ)をしようとしているところであった。
反対の手で、ナイフを持ち、切込みを入れた時に7番のちびしぃが悲鳴をあげたのだ。
「シィィィィィィ!!!! シィノ オミミガー!!!」
3番のちびしぃの力が弱かったのか、それとも筋肉繊維と逆らって切っている為なのかは不明だが、
耳もぎに、思いのほか時間がかかっている。それが、7番のちびしぃの苦痛を長引かせた。
「ギャアアアアアア ダッゴスルガラ モウ ヤベテェェェェェエエエ」
もう、7番のちびしぃは哀願口調になっているが、3番のちびしぃは無視している。
あろう事か、戦利品の耳を、口に放り込み噛み始めた!

「モウ ヤベテェェェ コンナノ マターリジャナイヨォ ・・・・ シィチャンノ オミミ カエジテェェェェェ」
7番のちびしぃが泣きながら3番のちびしぃに訴える。3番のちびしぃは、
「ウルサイワネ ニセモノノ クセニ。 ソンナニ イウナラ カエスワヨ」
と、口の中で噛んでいた(耳だったもの)を吐き出した。
彼女が噛んでいた耳は、もう繊維状の物に短い毛が絡まっている状態の
ガムもどきの物になってしまっていた。
「コンナンジャ モウ クッツカナイジャナイ! ナンテコト スルノヨ!」
さっき泣いたカラスがもう笑ったという言葉ではないが、
7番のちびしぃは3番のちびしぃに怒鳴っている。
「ダッコ スルカラ・・・・」と哀願していたのは、嘘だろうというくらいの変わり身の早さだ。

「モウ オミミモ アジガ ナクナッテ ダメネ。コンドハ、 ドコニ シヨウカシラ。」
「エ?」
凶器に満ちた笑みを浮かべ、3番のちびしぃが言った言葉に、7番のちびしぃが
面食らった表情をしている。
「ギュウタン ハ ウシサンダケド シィチャンノ シタハ ナニカシラネ。」
「コンナノ マターリ ジャナイヨ? マターリ シヨウヨ。 ミンナデ ナカヨク ハ・・・・グハァッ。 」
ボタボタボタボタッ。
7番のちびしぃがハニャニャニャニャンという前に3番のちびしぃが、
舌にナイフを入れたため、7番のちびしぃが吐血する。床にこぼれ落ちた血液に、
他の被験者が群がり、啜り、舐め尽くした。

「ボランティアサン イッテタヨ。 ニセモノノ シィチャンノ ホネハ マターリノ カミサマヘノ オソナエモノ ナンダッテ。」
「ニセモノノ シィチャンノ オニクハ マターリノカミサマカラ シィチャンヘノ オクリモノナンダッテ。 」
「ダカラ アンシンシテ シンデネ!」
痛みに転げ回る7番のちびしぃに、容赦なく他のちびしぃ達が言い放っている。
3番のちびしぃと5番のちびしぃが2人がかりで、7番のちびしぃの動きを止める。
「ジニダグ・・ゴボッ・・・・ナ・・・・グハァッ!!!!」

ボタボタボタボタッ。ザクッ。
吐血した血液が、床に流れ落ちる音と、
3番のちびしぃが、7番のちびしぃの腹にナイフを突き立てた音が、
ガラスの向こうにいる面々にも聞こえた・・・・・
「え?え?」「((((((;゚Д゚))))))ガクガクブルブル 」「か、解体?」
ガラスの向こうのちび達に恐怖と、混乱が襲っている。被験者のちびしぃ達が、
頃したての遺体の肉や臓物を切り分けて、皆で食しているのだ。
ガッガッガッという水分を含んだ音がなんとも生々しい。

ピンクの臓物、灰白色っぽい色をした脳、見る見るうちに、ちびしぃの体が
食われ、血を飲まれ、骨と化していく。ガラスの向こうで見ている面々は
顔をしかめているのだが、被験者達はお構い無しだ。
中には勝ち誇ったような笑みを浮かべて食している者もいる。
「コレハ カミサマカラノ オクリモノダヨ」 と・・・・
それが、かえってちび達の心の中に、胸糞悪い何かを残していた。

「ギコ。すまないが、詰め所に連絡頼むわ。食い終わる頃だね。」
モナーが、ギコに事務的に頼んだ。

297 名前: 19・マターリの神様の中のしぃ 投稿日: 2004/01/26(月) 10:08 [ Tlumu4ZM ]
ちびしぃ達が、同族の遺体を食している一方、ガラスの向こうでは
モナーが、ちび・モラ谷・モラ山・モナ川に(ガラスの向こうの同族食い)の説明をしている。
ギコが気を利かせて、ちびしぃたちの食事の音のボリュームを下げるように頼んだようである。

「周辺の住民から、苦情が来たんだよねぇ。」
「苦情?」 
モナーの呟きにモラ谷が反応する。

「そう。異臭がするって。で、異臭の元を調査したの。
うちの焼却炉から出ている肉の焼けた臭いだったんだけど。で、照合作業をしたのね。
焼却炉のジエンとタカラギコには、日報をつけてもらった。」

「で、住民の方々には、何月何日の何時ごろの異臭がきつかったかって言うのを
聞き取ったモナね?」

モナ川の質問にモナーが答える。
「そう。結果、ちびしぃ、しぃ、ちびギコとフサギコらの遺体を燃やした日の
肉の焼ける臭いが周辺の住民の苦情の元みたいだって事だった。で、対処法を話し合ったんだ。
単純な話だよ。肉や臓物の部分をいかに燃やさないかってことなんだから。」

「で、食わせようかと?」
ちびの質問に、モナーは少し申し訳なさげに説明する。
「ちびちゃんには、胸糞悪い話だよね。でも、同族間の頃し合いも頻繁に起こっていてね、
遺体が激増したって問題も抱えてたんだよ。それと、焼却炉の方でも問題を抱えていた。
確か、時間がかかって困ってたんだったっけ?」

「変な油汚れがひどくて、掃除が大変だっていうのもだ。」
モナーの説明に、ギコが付け加えた。彼はそのまま説明を続ける。

「ボランティア・俺達・焼却炉のジエンとタカラギコでの話し合いの中で、
確かボランティアが、(食わせますか?)って言い出したんだよ。
死体の肉や臓物の部分を減らせば、臭いも減るだろうと。
現にレモナさんの所で氏んだベビたちの臭いについては、苦情が無いじゃないかと。」

震えているダッコ映像の面々やちびに、
ギコは追い討ちをかけるように続ける。

「ちびギコたちの場合は、血や生肉・生臓物の味を全員が勝手に覚えちゃったんだよね。
それで、ほっときゃ勝手に食うだろうと言う話になった。で、骨を片付ければいいと。
でも、さっきみたいな氏に方をした場合は、しょうがないんで、こっちで解体して、
肉の部分を食事に出すって事で落ち着いた。」

「問題は、しぃやちびしぃっスか?」
「モラ山君だったっけ?少し落ち着いた?」 モナーは少々モラ山をからかいつつ、話し始めた。
「うん。軟らかくて、甘くて、高級な物しか食わないとか当初言ってたから。
どうやって食わせるかって事で、マターリの神様のご登場となったんだ。
神様の贈り物とか言えば、同族でも食うだろうと。問題は、罪悪感だったけどね・・・」

298 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/01/26(月) 10:09 [ Tlumu4ZM ]
(マターリの神様)と言う言葉を聞いたとたん、ちびは顔をこわばらせた。
そして、少々興奮気味にモナーに話し始めた。
「モナーさん。あのね。マターリの神様ってあたし、いないと思うようにしているの。
あれは(マターリの神様の中のしぃ)だと思ってるの。」

「ん?」場にいた全員がちびの発言に興味を示し、耳を傾ける。

「あのね、私達がここに入ってきたとき、
ガラスの向こうでちびしぃたちが、 マターリノ カミサマハ ・・・・って言ってたじゃない。
その言葉を効いて思い出したことがあるの・・・・・」

「うん、続けて?」モラ谷に促され、ちびは続ける。

「1人のでぃちゃんが、ごみを漁ってたのね。そしたら、母さんと、母さんの友達が、
マターリの神様の名において氏ねっていいながら、でぃちゃんをぼこぼこにしてたの。
でぃちゃんは氏んじゃった。キタナイノガキエテ マターリダネ って母さん達が言ってたのも覚えてる。」

モラ谷は合いの手を入れた。「ちびちゃんはどう思ったの?」

「違うって。マターリの神様の名前を借りて、勝手なことをしてるだけじゃんって思った。
別の日に母さんに質問したことがあったのね。
(でぃちゃんがもし、しぃちゃんだったらマターリの神様は彼女を守ってくれるの?)って。
そしたら、母さんは答えてくれなかったの。そんなこと考えたら、ギャクサツチュウなんだって。」

「ちびちゃんは、それでどう思ったモナ?」

「マターリの神様の中のしぃが、あのしぃたちを増長させちゃったんだって思ってる。
本当は、でぃちゃんにだって優しくしなきゃいけないのに・・・・
いろんな人に優しくできて、初めてマターリってできるって思っているの。
だから、マターリの神様はいないって思うようにしたの。マターリの神様の名前を借りて、
でぃちゃんを平気で頃せるしぃがいる間は。」
ちびは歯を食いしばり、苦渋の表情を浮かべていた。
場にいた他の面々は彼女にかける言葉が見当たらなかった。

突然、電話の音がけたたましく鳴り響いた。
「・・・・・そこもか?・・・・頼むよ。うん、すぐ行く。」
「皆、隣でもけんかが始まったらしいよ。きっかけはこことは違うけど。
頃し合いに発展しそうだってさ。見に行ってみよう。」
電話に出ていたギコが全員に退出を促し、皆それに従った。

ガラスの向こうでは、同族の遺骨を一箇所にまとめた他の被験者達が、
全員体のどこかを血に染め、マターリの神様に祈りを捧げていた。

299 名前: 20・6ヶ月 (しぃ) 投稿日: 2004/01/26(月) 10:15 [ Tlumu4ZM ]
ドアを開けると、ガラスの向こうでは8番の札を耳につけたしぃと、
2番の札を耳につけたしぃが、言い争っている声が聞こえてきた。
「ギコクンノ アツーイマナザシハ ミンナ シィチャンノ モノナノ!!」
「チガウ。 ギコクンハ シィチャンノ モノナノ!!」
どうやら、床の向こうのシャイなギコ(実際はボランティア)は、誰の相手かで
けんかが起こったようである。
実際は、ギコがペニスを穴から出しているのではなく、ボランティアの
少々顔が不自由な男性なのだが。(アツーイ マナザシ)とやらも、
彼女らの幻覚であろう。
「今度は(ギコクン)か・・・・」モナーは少々にやけながら呟く。
「勘弁してくれ・・・・」ギコは顔を青ざめさせた。

ちびは少々あきれていた。薬で頭がいかれているとはいえ、
これは普段の同族の争いと変わらないではないか。「ギコクン」
「マターリの神様の愛とやらの独占」・・・・・・・・・・
すべて「自分だけの」物にしたいんだ。「相手のこと」なんか範疇に無いんだ・・・・

「あ~あ、ちびちゃん。あれ。普段のしぃちゃん達と、あんま変わらないねぇ。」
のんびりとしている口調だが、鋭いモラ谷の指摘にちびは赤面した。
「恥ずかしいと思えることが大事だよ。ちびちゃん。彼女達よりもしっかりとした
考えを持ててるんじゃないのかな?」と、モラ谷はガラスの向こうを指差す。

一方、ガラスの向こうでは、「ニセモノ」 と、互いを罵り合う声が聞こえている。
8番の札を耳につけたしぃも、2番の札を耳につけたしぃも、薬のせいで痩せ細り、
彼女らの自称する(アイドル)的かわいらしさは、かけらも残っていない。
静脈をあちこち針で探した為と思われる内出血が腕のあちこちにできて、痛々しい。
ガラスの向こうでの、「シィチャンハ カワイイノ 」 という音声を聞いて思わず失笑が漏れる・・・

300 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/01/26(月) 10:19 [ Tlumu4ZM ]
突然、2番のしぃが、8番のしぃに向かって襲い掛かった。
8番のしぃも応戦し、殴り合いになっているのだが、どうもシリアスさに欠ける。
子供が2人で握りこぶしを作り、腕を振り回している見たいで、どうも滑稽であった。
またも失笑が漏れたが、その笑いが突然凍りついた。

突然、8番のしぃが、爪を立てて2番のしぃの顔を引っ掻く。
片目に爪が刺さったらしく、目から出血した2番のしぃは絶叫した。
「シィィィィ!!!!! オメメ オメメガァアアア!!!! シィノ オメメェェェェエエエエエ!!!!!」
怯んだ2番のしぃに容赦なく、8番のしぃはみぞおちを蹴り飛ばした。
「グハアッ!!」
転げ回る2番のしぃを8番のしぃは容赦なく踏みつけ、完璧に彼女の動きを止めた。
荒い息をさせながら、2番のしぃはあちこち目だけを動かし、
助けてくれそうな相手を探していたらしい。ガラスの向こうのギコを見つけて
助けを求めた。
「ギ、ギコクン シィヲ タスケナサイ 」
ギコは無言で、ガラスの向こうの2番のしぃに対し、さよならの動作をしている。
「ナ、ナンデ サヨナラナノ ギャクサツチュウニ センノウサレタノ?? 」
ギコは笑みを浮かべ、中指を立てるポーズをしぃにみせた。
2番のしぃは、ギコのほうに視線を向けていたが、ギコが助けてくれないのがわかると
顔を天井に向けた。「ギャクサツチュウ シンジャエ 」 と、最後の抵抗と思われる捨て台詞を残して。

ギコに対しては強気の姿勢の2番のしぃだったが、
すぐに卑屈な命乞いを始めることになった。8番のしぃがニヤけながら
粉まみれのナイフを持って近づいてきたのである。

「コンナノ マターリ ジャナイヨ?ネ? ダッコシテアゲルカラ タズケテ・・・」
「マタガミサマノ オツゲガ アッタノヨ。」
「エ? オツゲ?」
「アナタヲ コロシテ ホカノミンナデ マターリ シナサイッテ。 アナタハ イケニエダッテサ。」

「カミサマ ナンデ シィチャンヲ ミステ・・・ゲハァッ」
ブシュッ。2番のしぃが最期の台詞を言い終わらないうちに
首筋に粉だらけのナイフが突き刺さった。
驟雨のように首から噴き出す血の赤と、2番のしぃの毛の白が
奇妙な模様を描き出していた。他の被験者達は2番のしぃに群がり、血の雨を浴びている。
勝手な言葉を吐きながら。
「オオムカシニ コウヤッテ ケツエキヲ カラダニ アビタ オンナノヒトガイタンダヨ」
「シッテル。 ソノヒトハ ウツクシサト ワカサヲ タモチタカッタンダヨネ」
「シィチャンモ ソノヒトミタイニ ナレルヨネ」

勝者の8番のしぃが、かつての同族だった物の解体を始めている。
毛を剃り、皮をはぎ、肉を取り分け・・・・
とぼけたレクイエムを歌いながら。
「カミサマカラノ オクリモノ♪ シィチャンノ オニクデ ハニャニャニャニャン♪」
2番のしぃの肉を9等分し終えた8番のしぃは、
残りの全員を一箇所に集め、代表で祈りを捧げていた。
「マターリノカミサマ オクリモノヲ アリガトウ。 マターリデキマス。 ハニャニャニャニャン。」
「ハニャニャニャニャン」8番のしぃの祈りに続いて全員が唱和する。
祈りを終えた全員の被験者は、ちょっと早い食事をとり始めた。────

301 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/01/26(月) 10:20 [ Tlumu4ZM ]
ちびは気丈にも(顔は青ざめていたが、)ガラスの向こうの惨劇を注視できたが、
ダッコ映像の面々は、そうではなかった。
モラ山は持参していたスーパーのレジ袋の中に嘔吐していたし、
モラ谷は、めまいを起こしうずくまっていた。モナ川は失神しているという有様である。

モナーとギコ、そして眩暈がおさまったモラ谷は、失神しているモナ川を、
彼らがいる部屋の、長いソファーに寝かせた。
モナーとギコは、この状況を見慣れているらしく、流石に平然としている。

「ちびちゃん、よく見ていられたなぁ。」 モラ谷が感心した口調で言うと、
「怖かったですけど、見なくちゃいけないと思ったんです。」とちびが返した。

「モラ谷さん。どちらかというと女の子の方が、こういうの強いみたいだよ。
学生のとき、しぃの脳出しをやった事があるんだけどさ、俺も含めて、男性陣は皆、
今のダッコ映像の皆さんみたいになっちゃったもん。女子学生や、ナースは
比較的大丈夫だったんだよ。」
ギコが、モラ谷を慰めようとして昔話をすると、モラ谷は恐縮した。
「恥ずかしいですよ・・・ギコさん・・・いっそ笑ってください・・」

「モナ川さんが気がついたら、次の部屋に行きましょう。
次が最後の部屋です。ちびちゃんも、よく見ておいてね。」
モナーが皆に覚悟を促すと、失神しているモナ川以外の面々はうなずいた。
30分ほど後にモナ川が気がついたので、モナーが最後の部屋に行くことを彼に説明した。
彼が、気分が落ち着くまで15分くらい待ち、この部屋を出た。

302 名前: 21・ベビ棟 投稿日: 2004/01/26(月) 10:23 [ Tlumu4ZM ]
ベビ棟に入る前に入念に消毒をするように、看護師から言われたので、
手を消毒液で洗い、ベビ棟内で着用を義務付けられている白衣に着替え、棟内に入った。
「ベビたちが起きないように・・・・」というモナーの声を遮る女性の声がした。
「大丈夫。起きてるから。」診察に来ていたらしいレモナが、モナーに告げる。
「ちびちゃん。こんにちは。」レモナの挨拶に、ちびは丁寧なお辞儀で返す。

レモナが、皆に説明を始めた。
「この部屋は、ここにくる前に妊娠してたりとか、3ヶ月のお部屋で妊娠したしぃ・ちびしぃ達が
運良くって言っていいのかなぁ。出産したベビたちの部屋なの。全員生まれながらにして麻薬中毒。
ここで、解毒したり、食事で体力つけたりして、元気になった子達は乳児院に行きます。」

全員「生まれながらにして麻薬中毒」という言葉の意味が分からなかった。
最初にモラ谷が、レモナに尋ねた。「生まれながらにして麻薬中毒って???」

「赤ちゃんとママとは、胎盤とへその緒で繋がってるのはわかるわよね?
へその緒を通じて、お母さんから栄養をもらって育っているの。麻薬注射で
血液中に薬の成分が母体に入っていると、子供にもその成分は当然行くわよね・・・・」

「お母さんと一緒に、薬でマターリと言う訳ですか?・・・・」
ちびがレモナにおそるおそる聞く。

「そうよ。ちびちゃん。でもね、この子達は生まれたときに
麻薬の供給は断たれるの。で、生まれたときから禁断症状に苦しむと。
それに前のお部屋で、ママだった被験者達見てたでしょ?太ってた?」

全員レモナの問いに首を横に振る。
「そう。まともな食事なんて取ってない。あんまりぶくぶく太るのはまずいけど、
妊娠中ってある程度は太るべきなのよ。赤ちゃんのためにもね。
食事の代わりに麻薬じゃ、ここにいる子達みたいになるのもしょうがないでしょ。」

いらっしゃい、とレモナに促されベビ棟の一角を訪れたちび達は絶句した。
保育器に入れられたベビたちは、一様に毛が無く、ピンク色の肌が剥き出しになっている。
「ピィィィィ」と言うなんとも弱弱しい泣き声が、皆の顔を曇らせた。
「この子達は全員、超未熟児といわれる状態で生まれたのよ。」

看護士代わりのでぃがミルクをあげているのを見て、ちびがレモナに、
「ダッコしてあげてもいいですか?」と聞いたがやんわりと拒否された。
「ちびちゃん。ここら辺の子達はまだ、ダッコできるほど、強くないの。ごめんなさいね。
ただ、触るくらいなら大丈夫。触ってみる?」
ちびはうなずくと、でぃに抱えあげてもらい、保育器の中の手を入れる場所から
手を入れ、ベビに触れた。でぃに「ヤサシク・・ヤサシク・・」 と言われたので、
そのとおりにさすると、ベビの顔が少し微笑んでいるように見えた。

ちびはでぃに礼を言い、床に降ろしてもらうと、レモナは話を続ける。
「もう少し大きく生まれたベビちゃんたちもいるのよ。見る?」
皆でうなずき、棟内を移動し、また別の一角で止まった。そこの一角のベビたちは、
先ほどの「超未熟児」レベルのベビたちよりは大きかったが、保育器に入れられていた。

ちび、モラ谷、モナ川、モラ山は、なにか違和感をこのベビ達に感じていた。
保育器の中で、震えている者、荒い呼吸をしている者、
見かけはベビしぃだが、「キィィィィ キィィィ」と、でぃの様な金切り声を上げている者など、
さまざまな「禁断症状」を起こしているベビが大半を占めているのである。
「ここら辺の子達は、さっき私が言った、生まれたときから禁断症状を起こしてる子達ね。
できる限りのことはしているけど、最後はこの子達の体力次第になっちゃうのよね・・・」
レモナはため息混じりに呟いた。

「アフォが増殖するよりは、捨てられた方がまだましな方なのかもしれないですね。」
「ちびちゃん????」
意外なちびの発言にその場にいた全員は面食らった。
「ここで話すべきことではないですね。別の場所で話しませんか?」
ちびの申し出に、皆でうなずき、この部屋を出た。

303 名前: 22・申し出 投稿日: 2004/01/26(月) 10:25 [ Tlumu4ZM ]
ちび達は、薬物についての知識を学んだ部屋に、もう一度通された。
レモナが、「何か飲みながら話をしましょう」と、お茶を用意しに部屋を出る。
しばらくしてレモナがお茶とお菓子を持って戻り、皆に配り終えると
ちびは話し始めた。

「ベビちゃんたちの部屋にいてふと思ったんです。びっくりさせてすいませんでした。」

「いや、意外だったのよ。ちびちゃんがそんなことを言い出すなんて。
しぃ族って、母親のもとで子供を育ててるのって多いじゃない?
(捨てられた方が・・・)って考えるしぃって珍しいと思って。」

レモナがちびに、自分の考えを話す。
ちびはレモナに思わず、自分の心情を吐露した。

「乳児院に行くってレモナさんの言葉を聞いて、羨ましいなと思ったんです。
まともな教育が受けられるかもしれないチャンス・・・
(あやふやな物なのかもしれないけど・・・)がこの子達にはあるんだって。
全角で喋るのがギャクサツチュウなんて考えをすり込まれないですむかもしれないでしょ?」

「そうか。ちびちゃんはベビたちを見て、この子達はやり直しができるかも
って思ったモナね。羨ましかったんだ。」

モナ川の問いにちびはうなずいた。

「話を変えようか?」ギコの声に皆がうなずく。

「実は、6ヶ月の所でもそうだし、3ヶ月の所でもそうなんだけど、
被験者同士の頃し合いがあると、個体数が減って困るんだよね。
どうしたらいいか悩んでたりするんだけど。」

「既に、薬物中毒のしぃ・ちびしぃ・ちびギコをつれてくるって言うのは?」
ちびの提案に、モナーとギコが「おお!」と言う表情をした。

「それいいね。ちびちゃんやってくれる?」
モナーのお願いに、ちびが頷く。
「実は口上も考えてたりして・・・」
ちびが呟くと、「なおさらいいね。」ギコは喜んだ。

「今日で見学は終わりだけど、もう2日ほど、お家に帰る日を延ばしてもらえるかな?
作る物と、ちびちゃんに教えなければならないこともあるんだ。それと、もし
中毒状態の被験者を連れてくることができたら、一体あたり2000円出そう。
具体的な契約は擬古矢と詰めてくれる?」

モナーの話にちびは頷いた。
彼は続けて、ダッコ映像の面々に、
「ダッコ映像の皆さんは、見学は終わりです。ご苦労様でした。詳細はまた後日ということで・・・」

ダッコ映像の面々・擬古矢が部屋を出て行き、姿が見えなくなった頃、
会議室にはレモナとモナー・ギコ・ちびが残された。

ギコはちびに、
「明日は、擬古矢が起こしにくるからな。ここの部屋にくるように彼には話してある。
まず、擬古矢と契約の詳細を詰めてくれ。それから、ちびちゃんに渡す麻薬を作るからな。
ある程度の薬の量ができたら、ちびちゃんの研修はおしまいだよ。」
と明日の説明をすると、ちびは頷いた。
次にレモナが、
「今日は疲れたでしょう?お食事を取って早めにお休みなさい。また明日ね。」と声をかけると、
ちびは「また明日よろしくお願いします。」と、モナー・ギコ・レモナに声をかけ、部屋を出た。

食堂で、ちびは軽い食事をとり、自分の部屋に戻ると、
強烈な眠気に襲われたので、シャワーを軽く浴び、
擬古矢が起こしにくる時間の30分前に目覚ましをセットし、床についた。

304 名前: 23・本契約/金裏銀児 投稿日: 2004/01/26(月) 10:27 [ Tlumu4ZM ]
[ジリリリリー]
目覚ましの音でちびは目を覚ました。
今日か明日で、擬古田薬品での研究は終わる。顔を洗い、身支度を整え終えた頃、
ノックの音がした。擬古矢が起こしに来たのだ。
「おはようちびちゃん。よく眠れた?」
擬古矢の問いにちびはうなずく。
「じゃあ、会議室に行こう。」
擬古矢は、ちびを会議室に連れて行った。

会議室に着くと、擬古矢は早速契約書を取り出しちびに渡す。
条件が変わった旨をちびに説明した。

「前に契約書に、お手手のはんこ押してもらったよね?中毒にした被験者も連れてくるって
ちびちゃん言ったじゃない?それを上に話したら了承したんで、
新しい契約書作ったんだ。もう一度これを見て、ハンコを押してくれる?」

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契約書

妊娠しぃ・しぃ・ちびしぃ・ちびギコ&フサギコ 1人 2000円
     (既に薬物中毒であることが前提)

しぃ・ちびしぃ・ちびギコ&フサギコ  1人1000円
(薬物中毒ではないことが前提)

もし、アフォしぃではないしぃ族を連れてきた場合
罰金 1500円
                     (ハンコ)
--------------------------------
ちびは、迷わず左手に朱肉をつけ、手形を押す。
「じゃあ、契約成立だね。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
互いに挨拶を交わし終えると、擬古矢は、ベンジンとティッシュペーパーをちびに渡し、
「これで、朱肉が落ちるといいけど。落としてみてね。」
ちびはベンジンをティッシュに浸し手を拭きながら、
「ギコさんが言ってた、作る物ってなんだろう・・・・」と呟いた。
擬古矢が、「なんかね~。ミングオイルとか言ってた。俺も手伝えって。
モナーとギコが、後ね、ボランティアも2~3人連れてくるらしいよ。」

305 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/01/26(月) 10:31 [ Tlumu4ZM ]
「ふうん・・・あ、擬古矢さん。朱肉落ちました。どうもありがとう。」
ちびが擬古矢に礼を言い終えた頃、モナーとギコが2人のボランティアを連れて入ってきた。
彼らは、小さな密封できるビニール袋・薬包紙をたくさん持ってきていた。
それに、秤、分銅、大きなあへんの塊、ヘロインの塊、ナイフ、使い捨て手袋・・・
かなりの大荷物である。

「やあ、ちびちゃんに擬古矢。よく眠れた?」
二人がモナーの問いに大きくうなずく。
モナーが会議室のホワイトボードに、大きく
「金裏銀児 ミングオイル」と書くと、ギコが説明を始めた。

「今日の作業は阿片のタバコ作りと、ヘロインを粉にして袋に詰める作業だ。」

モナーが続ける。
「これは、金裏銀児 (ミングオイル)といわれている方法の改良版だよ。
金は阿片、銀はモルヒネの隠し言葉なんだって。でも、今回は、モルヒネの変わりに
ヘロインを使うんだ。まずは、阿片のタバコを作ることから始めようか。」

ドン。
生阿片の塊をボランティアが机に置くと、
ギコが、ゴム手袋を手にはめ、作り方を説明し始めた。
「皮膚からも成分が吸収されてしまうんだ。まず、手袋をはめてくれ。
ここにいくらでもあるからな。」

へらを取り出し、少々の生阿片を取り分け、薬包紙の上に置く。
「粘土くらいの軟らかさだから、簡単に取れるぞ。
 そして紙の上に少し置いてくれ。薬包紙はいくらでもあるから、
失敗してもかまわない。こつをつかんでくれな。」

生阿片を乗せた薬包紙を筒状に巻き始める。
そして、両方の紙の端をキャンディの包み紙のようにねじった。
「これでタバコは出来上がり。乾かすのに少し時間がかかるから、
ちびちゃんがこれを使うのは、もう少し後になるな。」

「作り方はわかった?」 「はーい」
ギコが全員に聞くと返事が返ってきた。
「じゃあ、お昼まで作ろう。お昼をとってから、ヘロインの袋わけだよ。」
モナーの声が合図となって、皆タバコを作り始めた。

ちびは、最初の2~30本ほどは要領がつかめず、
たばこのような形に巻かなければならない物が、キャンディ状に巻けてしまったりしたが、
徐々に要領がつかめてきた。流石にボランティアの青年二人は上手に巻けているようだ。
モナー・ギコは言わずもがなである。
擬古矢はまだ、要領を得ないらしく、へらで薬包紙についた阿片をこそぎ落としていた。
「なかなかうまくいかないなぁ・・・みんなうまいなぁ・・・」
擬古矢のぼやきに、ちびがアドバイスをする。
「擬古矢さん。割と、阿片の量、少なめでいい感じですよ。」

アドバイスが功を奏したのか、擬古矢のタバコを作るペースも上がり、
だんだん出来上がったタバコの量が増えていった。
お昼の30分前くらいには200本くらいは既に出来上がっていた。

「皆ペースが上がってきたな。後15分でとりあえず切り上げよう。」
モナーの言葉に皆でうなずいた。15分経つとギコが、
「今巻いているタバコで、終わってくれ。それから荷物を片付けて、
午後からはヘロインの袋詰めだからな。」
皆で荷物を片付け終えた頃、お昼の時間の3分前くらいになった。

306 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/01/26(月) 10:32 [ Tlumu4ZM ]
「食堂に行こう。」モナーの先導で、全員で部屋を出た。
食堂に着くといい匂いが立ち込めていた。

「カニグラタンと、プリン下さい。」「A定食」 「B定食ね」・・・

それぞれが好きな注文をとり、すぐに出された食事を持ってテーブルに移動した。
口々に「いただきます」の挨拶をし、食事をとり始めた。
あまり行儀のいい状態ではないが、食べながら、という状態で、
午後の予定の説明がモナーよりなされる。

「午後は、ヘロインの袋詰だよ。あの塊を削って、5gづつ量って袋に入れるの。
後で、マスクを持ってくるから少し待っててね。吸い込んじゃったら事だから。」

ちびが不安を口にする。
「いきなり5gも渡しちゃったら、すぐに使い切って、氏んじゃう予感がします。
少しずつ渡した方がいいかもしれない。それに、私、最初から大勢にばら撒こうって
思ってないんです。少しテストしたいの。」

ギコは、はっとした表情をし、
「そうか、そういう危険性もあるんだ。気付かなかったぞ。ゴルァ。
袋詰の方法を変える必要があるな。マジックが必要になるな。
でも、問題はテスト方法だぞ?」

モナーが口をはさんだ。
「袋詰のときにグラム数を記入しよう。一日量0・5g~2gぐらいが妥当かも。
それから、ちびちゃんに、観察日記をつけてもらうのはどう?
ちびちゃんのテストの目安にもなるし、その日記が連絡帳代わりになるし。」

ちびが表情を曇らせながら言う。
「いいですね。やります。でも、筆記用具・・・」
モナーがちびの肩を叩いて言った。 
「筆記用具はあげるから、心配しないの。連絡帳の使い方は袋詰の後に教えるからね。」

ちびの顔に笑顔が戻った。40分ほど経ったあと、全員食事をとり終えた。
「会議室に先に行っててくれ。筆記用具と、マスクを忘れたんで持ってくる。」
ギコと別れ、モナー・ちび・擬古矢・ボランティアの青年2人は会議室に向かった。
会議室に着き、10分ほど経ったあと、ギコが戻って来た。
不職布で作られた精巧なマスク、サインペン・鉛筆・鉛筆削り・大学ノートを持って戻ってきた。

「さて、ヘロインの袋詰だぞ。俺が言った通りに真似してくれ。」説明をギコが始める。
「その前に・・・」マスクをギコが配り始めた。
「マスクを皆してくれよ。でないと、ミイラ取りがミイラになっちまうからな・・・」
全員がマスクをつけ終えると、説明をギコが始めた。

「サインペンは全員に渡っているな。まず、0・5gの袋から始めるぞ。
それぞれ、各70袋づつな。まずビニールに、0・5って書いてくれ。書いたか?
それから、秤の上に、薬包紙を置くんだ。そして、目盛りが0・5を示すまで
薬をけずって紙の上にのせてってくれ。」

全員、少々手間取りながらギコに言われた通りにする。
「のせたか?」ギコの質問に、全員うなずいた。
「よし、それを0・5って書いたビニール袋の中に入れるんだ。そして、チャックを閉じて、
ここにおいてくれ。」と目の前の小さなダンボールを指差した・・・・・
その後、ギコの号令に合わせ、袋詰の作業が4時間ほど続いた。
外は、もう暗くなり始めていた。

ダンボールの中に袋詰した麻薬の小袋が280包。
ギコが、終了の号令をかけると、皆、ほぼ同時ぐらいに伸びをしていた。
相当根を詰めての作業だったようだ。

「ちびちゃん、時間も時間だし、今日も泊まって行くといい。食事をとって
早めに休みなさい。明日のお昼で、ここでの打ち合わせはお終いだ。
擬古矢に、公園まで送らせよう。ゆっくり休んでね。」

モナーの言葉にちびは「はーい」と返事をする。
ちびはその後食事をとり、部屋へ戻る。軽くシャワーを浴び、
早めに床に着いた。

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次回、観察日記についての説明を受け、
いよいよ、町に出かけます。

今回は山口椿さんの著書と、
警察関係のHPより引用部分があります。

次回:擬古田薬品 (4)