擬古田薬品 (6)

Last-modified: 2021-08-12 (木) 16:39:36

前回:擬古田薬品 (5)

858 名前: 36・擬古田薬品にて 投稿日: 2004/06/02(水) 18:14 [ YaZ5LRxs ]

夕方に擬古田薬品に着き、母親は、ベッドに両手両足を拘束され、横になっていた。
ベビ達の胎動が感じられなくなったのが、母親は気がかりだったが、
すぐに気を取り直した。「ベビチャンタチハ ネテルダケ ネテルダケ・・・・」
彼女は呪文のように繰り返し、体を休めていた。

一方ちびは、モララーやモナーと会食していた。
ちびの『後輩育成』についての話をモナーが話し始めた。
「ちびちゃんが日記に書いていた、ちびちゃんの仕事の『後輩』の育成なんだけど。
△★山の奥のほうに施設を建設しようって事で、話がついたんだ。後輩の育成対象も
でぃちゃんをリハビリ後に再教育と、ベビを教育するっていう案で決定してるんだ。」

ちびはニコニコして話を聞いている。レモナが会食の輪に加わり、続けて話し始めた。
「ちびちゃんにもね、まだどっちか決定してないんだけど、ベビ達かでぃちゃん達の
先生として、仕事をしてもらおうって話があるのよ。どお?」

ちびは、「やらせてください。」と、力強く答えた。
モララーが「じゃあ、この件はちびちゃんがOKしたっていうのを上に話しておくよ。
それで話をすすめるからね。とりあえず、冷めない内に食べちゃおう。」
みんな笑いながらうなずき、食事をとり終えた。

食休みを取り終え、モララーとモナーは、先にちび達に挨拶をし、別れた。
レモナは明日の予定をちびに伝える。
「明日朝一番で、術前の検査になるから、
AM9:30にお母さんと一緒にレモナ棟に来て頂戴。
術前の検査の説明とかもあるからね。それと、お母さんには、何も食べさせないで。」

「わかりました。レモナさん、よろしくお願いします。」
ちびはレモナに頭を下げ挨拶し、レモナと別れた。

ちびは、母親がいる部屋に戻ると、母親が、拘束されているベッドの上で
「ベビチャント イッショニ マターリ シヨウヨ ネ ? ベビチャンヲ オロセナンテ モウ イワナイデ チョウダイ」
と、笑顔でちびに語りかけた。ちびは冷たい目で言い放つ。
「あのさあ、ベビと一緒になんていってるけど、
まだちゃんと生まれてくるって思ってるわけ?
ベビ、絶対氏んでるって。明日、それを調べてくれるってさ。朝一で。
9:30に女医さんのところに行って診察してもらおう。それから、決めても遅くないし。」

母親は(ベビチャンハ ゼッタイニ ブジニ ウマレルモン。 ヤット チビチャンモ オネエサンニナル ケッシンガ ツイタノカシラネ。)と、
どこまでも、甘い考えを抱きながらちびの申し出を受け入れた。
「ワカッタワ。 ジョイサンニ ママ ミテモラウ。 ソシタラ ベビチャント イッショニ クラシテ クレルワネ ?」
ちびはうざそうに、「ああ、はいはい。金をあんたが稼いでくれるならね。」と適当にあしらった。

もう日付が変わろうとする頃に、二人は眠りについた。

859 名前: 37・術前の検査 投稿日: 2004/06/02(水) 18:18 [ YaZ5LRxs ]
AM9:00・・・・・
ちびは、サンドイッチを食べながら、母親に怒鳴りつける。
「何、物欲しそうな顔してるのよ!今日は検査だから、
食べるなって言ってあるでしょうが!」
「ダッテ ベビチャン オナカ スイテルッテ オモッテ……」
母親の抗弁にちびはカチンときたらしい。額に血管を浮かべ、顔には作り笑いで、
「氏んだベビって、お腹はすかないわよ」皮肉たっぷりに言い放った。

ちびが、サンドイッチにぬるめのココアで朝食を済ませ
壁の時計を見ると、9:15を指している。
   『コンコン』
部屋のノックの音に応答するちび。「どうぞ。」
看護師のモナーとでぃ、顔の造作が少々不自由なボランティアの青年がドアをあけて入ってきた。
「よろしくお願いします。」ちびが礼をすると、でぃは静かに頷いた。
ところが、母親は、でぃの顔を見たとたんわめき出した。
「キタナイ ディガ カワイイ シィチャンニ ナニスルノヨ! ヨルンジャナイワヨ! オマケニ ナニ コノ キモイ オトコ!
シィチャンハ ギコクンジャナキャ シンサツニナンカ イカナイワヨ!!」
ちびは、三人に頭を下げ謝罪し、彼らに何か囁くと、
モナー達は苦笑いをして、ドアを閉めた。

ちびは、母親のほうに向き直る。
彼女は殺気を漂わせ、母親の腹を拳で触り、軽く微笑みながら脅した。
「今ここで、ベビちゃんを産ませてもいいのよ?私医者じゃないから
ベビとあんたの命の保障はできないけど。」
母親は、顔を青ざめさせながら「ゴメンナサイ。 カンゴシサンタチニ シタガウカラ イノチダケハ タスケテ」
と、ちびに惨めな命乞いをした。
「すいませんでした。よろしくお願いします。」部屋の入り口のドアを開け、
ちびは、3人に声をかける。入室した3人は、手際よく母親のベッドの拘束を解き、
拘束衣を着せ、台車に乗せた。ちびを含めた5人は、無言でレモナ棟に向かった。

860 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/06/02(水) 18:19 [ YaZ5LRxs ]
レモナ棟に入ると、部屋の主であるレモナはすでに入室していた。
「いらっしゃい。早速検査を始めたいんだけど。」
母親は、「ドンナ ケンサ ナンデスカ? ベビチャン ブジニ ウマレテキマスヨネ??」 早口で質問を始める。
レモナは、拘束を解くように看護師のモナーに指示を出す。
拘束が解かれた母親とちびに椅子を勧めた後に、最初の検査内容を二人に説明した。
「まずはエコー検査です。お腹の中を見させてくださいね。子宮の大きさとか、
腫瘍の有無とかもわかります。ベビちゃんの様子もわかりますよ。生きてるかどうかもね。
ところで、お母さん。妊娠何ヶ月なんですか?」

レモナの質問に、元気良く「ハイ! 10 カゲツデス!!!」 と答える母親。
レモナは額に汗をかきながら作り笑いを浮かべ、
「いつ産まれてもおかしくないじゃないですか?検診には?」と続けて質問する。
「ケンシン? ナンデスカ ソレ?」 母親は怪訝そうな顔をしている。
レモナは呆れてしまった。これ以上何も聞かず、母親に指示する。
「そこのベッドに横になってもらえます?」母親が、レモナの指示に従い、横になる。
「じゃあ、ちょっとゼリーを塗りますね。」レモナは母親のお腹にジェルを塗り、
そして、機械をお腹にゆっくりと這わせた。

「ん?ん?おかしいわね・・・・」「ナニガ オカシインデスカ? センセイ。」
母親の問いにレモナが怪訝そうな顔で、説明する。
「胎動がないんですよ。」母親は気にも留めず、「オネムデスヨ。 」
と、ニコニコしながら答える。レモナは呆れながら、
「4体、ベビちゃんの姿を確認してるんですけどね。4体ともおねむっておかしいですよ。
次は、心臓の音を聞いて見ましょうか。」
ジェルがついた母親のお腹をティッシュで拭い、レモナは、聴診器をまず母親に渡し、
聴診器の採音部を母親の胸部に当て、イヤーピース部分を母親の両耳に差し込んだ。

ドクン ドクン ドクン ドクン …………
規則正しい母親の心臓の鼓動が聞こえてくる。母親の耳に差し込んであった
聴診器のイヤーピース部分を外し、レモナは、母親に問い掛けた。
「心音、聞こえました?」母親がうなずくと、次は、母親の胸部に当てていた聴診器の採音部を
ちびの胸部に当て、イヤーピース部分をまた母親の耳に差し込んだ。
ドッドッドッ・・・
ちびの心音も母親の耳に入ってくる。また、母親の耳に差し込んであったイヤーピースを外し、
レモナは尋ねた。「ちびちゃんの心音は?」 「キコエマシタ。」  
母親が答えると、「今度は採音部をママのお腹に当てますよ。ベビちゃんがおねむだったら、
ベビちゃんの心音は聞こえてくるはずです。ママやちびちゃんと同じようにね。」

「・・・・ハニャ? ハニャァアアア??????」
「どうなさいました?」奇声を上げた母親にレモナが尋ねると、
「ザアアア ッテ オトシカ キコエナインデス。 シィチャンノ シンゾウノ オトハ
ドクン ドクンッテ キコエルノニ 」
「ベビちゃんの心音もドクンドクン とか、ドッドッドっとか聞こえるんですがねぇ?
心臓の音まで止めておねむですか?お宅のベビちゃん達、お茶目ですね。」
レモナが皮肉混じりに母親に言うと、母親は黙り込んでしまった。

861 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/06/02(水) 18:20 [ YaZ5LRxs ]
「えーと、沈静剤の注射!ストレッチャーの用意もね。」
レモナは矢継ぎ早に看護師達に指示を出していった。
「エ? エ?」 戸惑った表情の母親に、レモナは説明を始める。
「ベビちゃんを産みましょう。お腹の中のベビちゃん、大きくなりすぎですよ。
自力分娩が無理なくらいまで育ってます。お腹を切りますよ。
お母さん、痛いのいやでしょ?
眠っている間に、ベビちゃんを出しますんで安心してください。
注射はその前処置です。」

静脈注射の用意を終えたモナーが、レモナの前に現れる。
「ベビちゃんの手本にならないとね。お母さん。」
レモナは、(我慢しろよ。ゴルァ。)と言う意味を含んだ口調で言う。
母親はしぶしぶ腕をレモナに差し出した。
駆血帯を腕に巻き、そばにいるモナーに目配せをする。
「はい、ママさん手を握ってくださいね。」
母親が手を握ると、腕に静脈が浮き出てきた。レモナが針を静脈に刺すと、
タイミング良くモナーが駆血帯をほどいた。
「手を開いてね。」
母親に指示を出した後、静脈にゆっくりとレモナは注射液を入れていく。
10ml……9ml……
徐々に液が減っていくのを見ながら、母親は「ベビチャンノ テホン・・・・ ベビチャンノ テホン・・・・」と、
自らを元気づけるように繰り返していた。

「お母さん。そこ、しっかり押さえてくださいね。揉まないで良いからね。」
モナーはレモナに、「お母さんは、ストレッチャーに?」と質問すると、レモナはうなずく。
ストレッチャーに横になるように指示を出された母親は、
足元をふらつかせながらストレッチャーの方にたどりつき、横になる。
「こりゃ、部屋に戻った頃熟睡だな……」
モナーは呟き、助けにきたでぃや、ボランティアの青年と一緒にレモナ棟を出た。

「ちびちゃんは、もう少し残っててね。手術についての説明と、
ほかに助けてくれる先生達2人を紹介するから。もう少ししたら来るからね。
ちょっとコーヒーでも飲んで待ってようか。」

ちびはレモナの厚意に甘えることにした。

862 名前: 38・術前説明 投稿日: 2004/06/02(水) 18:21 [ YaZ5LRxs ]
30分ほど経った頃、レモナ棟のドアがノックされた。
「どうぞ。」
レモナが入室を促すと、兄弟か双子と思われる
白衣を着た青年が2人入ってきた。レモナが、名札を見ながら二人の紹介をする。
「えーと、こっちがサスガ(兄)さん。麻酔医です。あちらが、サスガ(弟)さん。
専門が法医学です。役割は、自分で紹介してね。」

ちびが二人にお辞儀をすると、レモナが3人にいすに座るように促す。
「お茶入れてくるわ。」といい、彼女が席を外している間、
二人は交代に役割紹介を始めることにした。

3人は着席するとまず、サスガ兄弟がなにやら、二人でささやきあった後、
弟の方が先に、ちびに役割の説明を始めた。
「漏れの方が、説明の時間が短いから先に役割を説明するわ。
漏れのメインの出番は手術後。ベビ達の死因を詳しく調べて君たちに報告します。
手術中は兄のサポート。じゃあ、兄者。」

弟に促された兄は、「うむ。」とうなずき、自分の役割の説明を始める。
「漏れは麻酔医。麻酔って言うと、痛みをとるだけのように思うだろ?」
ちびがきょとんとしていると、サスガ兄は続けて、
「それだけじゃないんだ。手術によるダメージを最小限に抑えて、体への負担を軽くする役割も
あるんだ。それと、眠っている状態と、麻酔の状態は別物なんだな。呼吸や、血圧の管理が必要に
なってくるんで手術中は管理を行う。手術後は、痛みの強さによって、鎮痛薬や、麻酔薬を投与する
量を増減する。痛みも管理するのが漏れのメインの役割だ。ほかにも麻酔医がいるんで、
今回は、痛みの管理はそいつに任せることになる。
それと、今回漏れは手術後、弟のサポートだ。」

ちびは二人の役割を理解した。なぜか二人の説明を聞いてほほえましく感じた。
「お茶できたわよ~」
レモナがコーヒーとクッキーを持って、ちびたちのテーブルに現れ、
サスガ兄弟に「役割の説明終わった?」と聞くと、二人はうなずく。
「最後は私か・・・お茶飲みながら、説明しましょう。
まあ、3人とも飲んでよ。」 

コーヒーを飲みながら、レモナが説明を始めた。
「ちびちゃんの希望通り、子宮・卵巣とも取っちゃいます。
それと、ベビちゃん。全員氏んでるわ。安心して。サスガ(弟)君の管轄に
なっちゃうけど、死因を特定して、教えます。その際協力をお願いします。
お母さんの退路を断つ意味もあります。」

「退路?」ちびが首をかしげると、レモナが説明を続ける。
「お母さん、ちびちゃんや私がいくら『ベビが氏んでる』って言っても
『オネムダ』って言い張ってたじゃないの。おそらく、死産も認めず、
『ギャクサツチュウガ コロシタ』って言い出すと思うのね。
だから、サスガ(弟)君にちびちゃんや、私らがギャクサツチュウじゃないっていう
証明をしてもらうのよ。」
ちびはレモナの説明に納得した。

全員がお茶を飲み終わると、レモナがちびに手術の日を告げる。
「手術は明日の朝10:00です。執刀は私とモララーが行います。」
ちびは、「よろしくお願いします」とレモナたちにお辞儀をし、レモナ棟を出た。

863 名前: 39・手術 投稿日: 2004/06/02(水) 19:51 [ YaZ5LRxs ]
AM9:55-
ちびは、第3手術室の前にいた。もう少しで、母親の手術が始まる・・・
ちびは少々わくわくしている。あれだけベビが寝ていると言い張った母親が
ベビ達が氏んだことを知ったとき、死因を知ったとき、どんなリアクションを取るんだろうか?

ガラガラガラガラ・・・・・・・
ストレッチャーのキャスターの音が響く。ストレッチャーの右側にモララー・左側にレモナ・
モララーの後ろと、レモナの後ろにサスガ兄弟がいる。ちびの位置からは、名札が見えにくく、
どちらが兄かはわからない。
サスガ兄弟の後ろには、数名の看護師および、ボランティアが、走っている。
ちびを見かけたモララーがストレッチャーを止め、話し掛けた。
「これからベビを出すからな。それと、子宮・卵巣も取るからな。命は保障する。
ベビの死因を知ったときの母親の様子、漏れも見てみたいし。」
レモナが、「ごめん。モララーにも話しちゃった。」と目を細めながら謝罪した。
「いいですよ。レモナさん。」ちびは彼女に微笑みかける。

「よろしくお願いします。」ちびが、場にいた全員に頭を下げると、
うなずく者、サムズアップをする者、指でOKサインをする者、
それぞれが「まかせとけ!」という意思表示をちびにかえし、手術室に入室していった。

ストレッチャーから手術台にしぃを移し終え、
記録(ビデオ撮影)係の者以外の全員が消毒を済ませると、
サスガ(弟)の指示・レモナの号令、それに呼応しての全員の挨拶後、手術が始まった。

864 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/06/02(水) 19:54 [ YaZ5LRxs ]
「ビデオ撮影を開始してください。」
サスガ(弟)がボランティアの青年に指示を出した。
彼は続けて、看護師達にも指示を出す。
「ベビの清拭後、番号のついたリストバンドをつけていって下さい。
母親の縫合後、ベビ達のMRIとレントゲンの指示を出します。」

「これより、帝王切開術、並びに、子宮と卵巣の摘出を始めます。」

「よろしくお願いします!」

開腹する部分に穴のあいた緑色の布地が母親の腹部にかけられている。
腹部は剃毛されており、ピンク色の皮膚が除いている。
レモナはその部分にメスを入れ、徐々に切り開いていった。
皮膚の後に、黄色い粒々がとうもろこしのように並んでいる脂肪層、
そして、ピンク色の筋肉繊維、ゴム風船のように膨らんだ子宮……
モララーが看護師に命じ、器具で、開腹部を固定してもらう。
レモナのメスが子宮に達し、ベビ達の様子が彼らに見えてくると、
レモナ、モララー、サスガ(弟)は、絶句した。

もう少しで、チィチィ と泣き始めるであろうと思われるほど大きく育ったベビ達が、
ゆがんだ丸底フラスコ状の子宮内で、
すし詰めになっている光景が彼等の前にお目見えしたのだ。
「ここも撮影頼む。」サスガ(弟)の指示で、子宮内のベビ達の撮影が始まる。
左右対称に、顔を互いにそむけ丸まっているベビ2体。
彼らの上方に、背中を子宮口側に向け丸まっているベビが1体。
そして腹部を子宮口側に向けそっくり返っているベビ1体。
(どれから行こうか……)レモナとモララーは迷っていた。

「よし、この左右対称に丸まっている2体からいこう。」
意を決したレモナが左側の子宮壁に頭をつけて丸まっているベビを取り出し、看護師に渡す。
「一番」サスガ(弟)が、看護師に指示を出す。
モララーが右側の子宮壁に頭をつけて丸まっているベビを取り出し、看護師に渡す。
「二番」サスガ(弟)が、モララーがベビを渡した看護師に指示を出した。
二人は、左右対称に顔をそむけて丸まっているベビを取り出したとき、何か違和感を指に感じていた。
サスガ(弟)に胸部のMRI撮影をしたほうが良いと助言をする。
彼は、二人の言葉にうなずいた。

「三番」は一番と二番の上方で丸まっていたベビ、
「四番」が腹部を子宮口に向け、そっくり返っているベビである。

電気コードを束ねるベルトに似ているおそろいのリストバンドを右腕に巻いた
四体のベビは、羊水をできるだけ拭き取られ、鼻や口に入ったと思われる羊水は、丁寧に吸引された。
生乾きのベビ達は心電図の電極をつけられて、仮の棺であるベッドに寝かせられた。
モニターが映し出す心臓の鼓動を示す線は直線だし、
もちろん、血圧、心拍数といった数字も、0としか表示されない。

「次に、子宮・卵巣の摘出ですね。」「うん。」
レモナとモララーがこんなやり取りをしている隙に、看護師のでぃが二人の額の汗を拭う。
二人は礼をでぃに言うと、まず子宮の摘出に取り掛かる。
切り裂いた子宮をモララーがメスで軽く突っつくと、レモナが切開した場所と別の場所が裂けてしまい、
子宮の原形をとどめていない状態になってしまった。

レモナとモララーのやり取りが続く。
「あら、使えなくなりましたね。」

「ちびちゃんが怒って腹でも殴ったら、お母さん自体が危なかっただろうね。
しかし、取り出し辛くなったなぁ(笑)」

「卵管から行きますか。」 「じゃあ、漏れは子宮をやっとく。レモナ、卵巣頼むわ。」

二人は、手際良く役割を分担し、子宮、卵巣の摘出を終え、縫合作業に取り掛かった。
二十分ほどで母親の縫合は終了した。

865 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/06/02(水) 19:55 [ YaZ5LRxs ]
サスガ(兄)は母親の様子の観察や仕事の引継ぎがあるため、手術台に残り、作業をしている。
彼はモララーに、「少々遅れますが、引継ぎが終わり次第、そちらに向かいます。」という伝言を残していた。
レモナは、サスガ(弟)を連れて、ベビ達が横たえられているベッドへ向かった。
レモナは彼に、左右対称に丸まっていたベビ達の遺体について情報を入れる。
「多分、モララーも感じてたと思うんだけど、一番と二番、肋骨骨折してると思う。」

ベッドにつくと、サスガ(弟)は、困った表情になってしまった。
「解剖が必要になるかもしれない。それに、ちびちゃんの指紋や掌紋もだ。」
「ん?」
レモナが怪訝そうな表情をすると、彼は、めんどくさそうに
「簡単に済むかと思ったんだがね。あざが多すぎる。
それに、臓器の損傷具合も…… アレモ コレモ ブツブツ …………」

「お兄さんだけじゃ足りなさそう?」
「写真とビデオの記録係が欲しいな。それと、ちびちゃんの協力も。」
「わかった。手配する。」
レモナがサスガの頼みをを請け負った。

「17~8時間だな。全員。」
死後硬直の具合から、大体の氏んだ時間をサスガ(弟)は見立てる。
彼は続けてベビ達を触りながら、MRIとレントゲンの箇所を看護師に指示していった。

「レントゲンとMRIは全員全身を縦に。大の字の形になるように撮ってもらって。
三番は頭のレントゲン・MRIも追加だ。頭部のMRI写真は輪切りになるように撮ってもらって。」

「わかりました。写真はいつ?」看護師の質問に、
「なるたけ早く。技師さんの手が空いてたら、すぐに撮ってもらって。
 あさって朝一に解剖を始めたいんだって伝言も頼む。」

「わかりました。」

看護師がサスガ(弟)の指示内容のメモを取っている時、モララーと
サスガ(兄)がベッドがあった場所にやってきた。
サスガ(兄)は走ってきたらしく、息が弾んでいる。
「弟者。なんか大変そうだな。」
「兄者。このあざを見てくれよ。骨折か、打撲かを見なくちゃいけないし、
 臓器の損傷具合とか……」

モララーが警察に頼んでおいた、ちびの指紋を取った用紙のコピーと、
ちびギコ達のチン拓をサスガ(弟)に見せながら聞く。
「これどうだろ。役に立つかい?」
サスガ(弟)は礼をモララーに言うが、少々不満そうだ。
「ありがたいが、少々指紋の量が足りないみたいだ。チン拓は感謝するよ。」
「そうか。役に立てなくてすまんね。」
「いや、これだけでも十分。あまりにベビ達の状態がおかしすぎるのが悪いんだ。
 君が恐縮する必要はないよ。だろ?弟者。」
モララーのすまなそうな口調に、サスガ(兄)が弟のフォローを入れた。。
サスガ(弟)がモララーにわびる。
「モララーのせいじゃない。ベビの状態があまりにおかしすぎるんだ。
念には念を入れたいんでね。言葉が足りなくて申し訳ない。」

「あさっての朝一までの準備の確認をしましょうか。」
レモナがまとめに入り、みながうなずいた。
「ちびちゃんの指紋の不足分。MRIの写真。後なんかある?」
モララーが補足する。
「ちびギコ達のチン拓、大人のおもちゃもあるぞ。そっちに持っていこうか?」
モララーの申し出にサスガ兄弟はうなずいた。

「今日は疲れたんで、明日はゆっくり休もう。あさっては、大忙しだな。」
モララーがサスガ兄弟の肩をたたくと、彼らは苦笑いを浮かべていた。

「今日は、これでおしまい。明日、ちびちゃんをそっちに行かせるから。」
「じゃあ、みんなお疲れ。」 「お疲れ様でした。」

モララー・レモナ・サスガ兄弟は互いの労をねぎらい、手術室を出た。

866 名前: 40・解剖(午前の部) 投稿日: 2004/06/02(水) 20:00 [ YaZ5LRxs ]
「しかし、弟者はこの小さな指紋をどうしようと言うのだ……」
サスガ(兄)は、弟が責任者を勤める法医学棟へ向かいながら呟いた。
弟は前日、法医学棟にてちびの指先の指紋だけを採取していた。
彼女に、朱肉のついた指で、用紙を指差すように指示したと言う表現が一番近いかもしれない。
(まあいい。解剖ですべて判明するだろう……)
彼は思い直し、法医学棟へ急いだ。

「弟者!遅れてすまなかった。後、指紋と写真持ってきたぞ。」
「兄者。早速始めたいんだが……」
法医学棟に着いた兄は弟にせかされ、着替えを始める。

「弟者。写真を先に見ないか。それから始めても遅くはないだろう。」
「うむ。それもそうだな。」
着替えを終えた兄は、ライトボックスにMRIとレントゲンの写真を貼り付け始める。
全部写真を貼り終えた兄は、弟に指示を仰いだ。
「弟者。どれから行く?」
「一番と二番から行くか。レモナの言ってたことの確認だ。血液サンプルも取っておこう。
細菌検査の要請もレモナに出しとかないと。」
「胸部の切開か?」 「うん。」

「ビデオの撮影頼むぞ。君たち。」
サスガ(弟)に頼まれたビデオ係の青年が彼に質問する。
「先生、何分ぐらいかかります?もし時間がかかるようなら、途中でビデオテープを買う時間をいただきたいんですが。」
「時間がかかるのは三番だ。一番・二番が終わった頃、ビデオを買う時間を取ろうか。
ちょうど半分で切りも良かろう。それに食事の時間もあるしな。」

「わかりました。」 「じゃ、始めてくれないか。」
青年たちがサスガ兄弟の解剖の様子をビデオに取り始める。
サスガ兄弟は、カメラにまず、ベビしぃの腕に巻かれたベルトの数字、
そしてベビ達の遺体を続けて撮影させた。
サスガ(弟)は続けて、一番と二番のMRIの説明を始めた。
彼は写真を指し棒で示しながら、
「一番は右の肋骨、二番は左の肋骨がすべて折れていますね。
普通肺は2つあるんですが、写真では1つしか見えません。
1つの肺はつぶれていると考えられます。血液検査が必要ですが、細菌感染も考えられます。
解剖をこれから始めて確かめてみましょう。」

「では解剖を始めます。」少し間を開けて、彼はビデオ係に、指示を出した。
ベビの全身。そして彼女の腕に巻かれた一番のリストバンドがカメラに収められていく。

サスガ(弟)が主に説明を、サスガ(兄)が、解剖の担当をする。
「では、胸部を切開します。」弟の言葉を合図に兄は、
一番のリストバンドが巻かれたベビの体にメスを入れる。*の形にメスを入れ、
胸部をピンセットで開いていき、待ち針で開いていった部分を固定し、
カメラの部分に胸部を露出していく。弟がまた説明を始めた。
「胸が見えてきましたね。写真のとおり、右の肋骨がすべて折れています。」
兄が、つぶれた肺から骨の欠片を取り出し、レンズに見せる。
一番の肋骨の中に、複雑骨折をしている骨があるようだ。
「肋骨の内の数本が、砕けているようですね。肺に刺さっていました。」

「手の甲の静脈から、血液を採取してください。」
兄が、看護師に指示を出し、看護師が手首に駆血帯を巻き、静脈に注射針を刺す。
駆血帯を解くと、根元に小さな試験管がセットしてある注射器に、血液が流れていく。
「1番のラベルを貼って、後でレモナに持っていってください。」
弟の指示に看護師はうなずいた。
「手順を誤ったな。次は切開前に血液採取だ……」
「兄者、急がせてすまんな。」
兄の呟きに弟は反応し、謝罪する。

「2mlの注射器。」
兄は看護師に指示を出し、看護師から2mlの注射器を受け取ると、
一番のベビの潰れていない方の肺に注射器を刺し、水分を吸い取る。
「これの成分を調べてもらってください。血液と一緒に、細菌の検査もよろしく。
後、ラベルも忘れずにお願いします。1番ですよ。」
弟は指示を看護師に出した。

867 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/06/02(水) 20:02 [ YaZ5LRxs ]
一番について弟がまとめの説明を始めた。
「一番のベビちゃんは、右の肋骨が全部折れていました。砕けているものも見受けられます。
『あざ』の所見ですが、生活反応が認められます。生きているときについたものですね。
直接棒のようなもので突かれたか、ベビ同士が子宮内で暴れてモッシュ状態になったと思われます。
血液検査・肺の水分の検査結果を待つ必要がありますが、
このベビちゃんは、恐らく感染症も併発していたと思われます。
肺の水分の成分検査結果がもし、羊水だった場合、
肺が片方つぶれて酸素が大量に必要なのにもかかわらず、
このベビちゃんはママの羊水を飲んで
おぼれてしまった可能性がありますね。」

弟の説明中、兄はベビの小さな胸元を縫い合わせようとしていたが、難儀していた。
弟が一番の所見の説明後、兄に、(適当でかまわん)というニュアンスで問い掛けた。
「兄者。どうせ、これは母親に返すものだろう?」
兄は納得し、看護師にホチキスを持ってこさせる。
彼はベビの胸部周辺の皮膚を巾着状に縫い縮めると、先をホチキスで止めた。
「編集のこともあるんで、ちょっと休憩して、それから二番行きましょう。」
記録係の青年の呼び掛けに、サスガ兄弟、看護師らは同意した。

持参したミネラルウォーターを一口飲み、兄は、弟にぼやく。
「しかし、弟者。あのベビ達、結構凄絶な状況じゃないのか?」
「うん。一番初めに氏んだのは、恐らく三番だろうね。脳挫傷ってとこじゃないかな?
それに、術中………兄者見たろ?あの子宮の状況じゃ、ベビ達逃げ場所ないだろう。」
「うむ……」
「あの馬鹿母のリアクションが見ものかな……」
弟は、持参していた冷えた缶コーヒーを飲み、つぶやいた。

868 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/06/02(水) 20:02 [ YaZ5LRxs ]
10数分たった後、ボランティアの青年の
「次の用意ができました。」という声に、
「じゃあ、二番行きますか。」とサスガ兄弟はそろって反応する。
「じゃあ、次二番行きますよ。記録お願いしますね。」
兄の声に記録係の青年がうなずいた。

ベビの腕に巻かれた二番のリストバンド。そして全身が撮影される。
「採血おねがいします。」弟の指示に、看護師は試験管がセットされた注射器と
駆血帯を持って現れ、手の甲の静脈から、苦労して血液を採取していった。
「ラベル間違えないでくださいね。これは二番ですよ。」
兄が念を押すと、看護師は、注射器にセットされている試験管の
2という数字が書かれたラベルを兄に見せた。

「二番のベビちゃんの胸部を切開しますよ。」
弟の説明を合図に兄は、ベビの胸部の切開を始めた。
先ほど一番のベビのときに*の形に切開したため、縫合に難儀した兄は、
今度は体の中心線に沿って胸部を切り開いた。
器具で開胸部を固定する。すると、左の肋骨がすべて折れているのが
彼らの視界に入ってくる。
兄は、弟と記録係に無言で、ベビの胸部のある部分をメスで指し示す。
記録係はすかさず、兄が指し示した部分を撮影した。

弟は説明を始める。
「今度は、肋骨が肺に刺さっていますね。早く医者に見せればこのベビちゃんは助かりました。」
そして彼は2mlの注射器を兄に手渡し、
「右肺に水がたまってますね。このベビちゃんも、
恐らく大量に羊水を飲んでいるんではないでしょうか。水分を取って調べてみましょう。」

弟から渡された注射器で、兄はちびの右肺から、水分を採取した。
看護師に渡し、「これは二番のラベルです。これも、成分を調べてもらってください。」と、
指示を出す。渡された看護師は無言でうなずいた。
一方、弟は、兄の解剖の様子と平行して、
終始、彼女らの全身のレントゲンとMRIの写真とベビの遺体を見比べている。
「一番と二番は骨折はしてないようだな。この皮下出血は打撲だな。」

兄が二番のベビの縫合の許可を弟に求める。弟はこれに応じ、縫合の指示を出した。
縫合といっても、ホチキスでとめるだけなのだが。
「その他の箇所は?」 「ありません。縫合を開始してください。」

カシャッカシャッカシャッ……
兄がホチキスでベビの胸部をとめている時、弟は二番のベビの所見をカメラに向かって説明する。
「このベビちゃんも、肋骨を骨折していました。数本の肋骨が肺に刺さっていましたね。
緊急の手術が必要だったのですが、手遅れでした。一番のベビちゃんと同じく、
血液検査と肺の水の成分の検査結果待ちになりますが、恐らく、感染症を併発しているでしょう。
肺の水分がママの羊水だった場合、羊水でおぼれている可能性もあります。
このベビちゃんの『あざ』も生活反応がありますね。生きているときについたものです。
恐らく棒のようなもので突かれたか、ベビ同士で子宮内でモッシュ状態になったと思われます。」

10秒以上の空白があっただろうか。記録係の青年が、
「はい。終了です」と声をかけたのは。彼の声の後に、どこからともなくため息が聞こえてくる。
全員少々疲れがみえているようだ。

「昼食・休憩の後、夕方・夜の部を始めます。午前の部の皆さん、ゆっくり休んでください。
その前に引継ぎの方は、しっかりお願いしますね。夕方5時に法医学棟です。
夕方・夜の部の皆さんにお伝えください。」
サスガ(弟)は看護師、記録係の全員にそう語りかけると、
うなずく者、返事をする者、手をあげる者、それぞれがそれぞれのリアクションを
サスガ(弟)に返す。何かほほえましい光景を感じさせるものであった。

「では、午前の部解散!!!」 
笑顔の記録係の号令で、午前の部に参加していた看護師、記録係は、
ばらばらに法医学棟から出て行った。

869 名前: 41・昼食 投稿日: 2004/06/02(水) 20:04 [ YaZ5LRxs ]
サスガ兄弟が食堂にて昼食を取っていると、レモナとちびに声をかけられた。
「サスガ君。どう?解剖の方は。」
「ん?」
レモナに声をかけられた二人が同時に彼らのほうを見ると、
ギコとモナー・モララーの姿もみえる。
「とりあえず座ったら?食事とりながらでも話せるだろ?」
サスガ(弟)がレモナ達に着席を促した。

レモナ達が着席し、食事を取り始めると、
サスガ(弟)は解剖の進行状況を話し始めた。
「とりあえず、四体のうち二体が終了したところだ。君のところに
血液のサンプルと水分の成分の検査を依頼したんだが、サンプルの方は?」
弟がレモナに尋ねると彼女は浮かない顔をして、
「来てるわよ。すでに結果は出てるわ。」
彼女は、ちびちゃんには悪いけど、と前置きし、結果を話し始めた。
「一番・二番両方とも、血液中から同じ細菌が検出されたわ。
破水してたんじゃないかしら。それと、水分は両方とも羊水でした。
念のため、三番・四番の血液サンプルもお願いできる?」
サスガ兄弟はレモナの言葉にうなずいた。

「羊水?」
ちびは首をかしげて、サスガ兄弟に尋ねる。
彼女の顔を見たサスガ兄弟は、困った表情をしている。
「どうした?」
ギコに尋ねられたサスガ(兄)は、困り果てた表情で、
「迷ってるんだよ。手術中のことから話すべきか、
それとも、写真から話すべきか……
結構壮絶なんだ。ちびちゃんの妹たち。それに全部終わってないから。」

「大丈夫だよ。この子は漏れらの棟の中もしっかり見て、
『同族食い』を見ても、あまり動じなかった子だから。」
モララーの言葉を聞いたサスガ(弟)は話す決心を固め、
レモナとモララーにフォローを頼んだ。
「じゃあ、術中の話から行くか。モララーにレモナ、フォロー頼んだぞ。」
彼らがうなずくと、サスガ(兄)が手術の状況を語り始める。

870 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/06/02(水) 20:05 [ YaZ5LRxs ]
まず、彼はレモナと弟、ちびからコップを借り、さいころの4の目に似た形に
ちびの前に並べ始めた。ちびは「なんかひし形みたいですね。」と素直に
感想を呟く。
食堂で彼らは、テーブルをつなげて、それぞれの場所から持ち寄り
カタカナのコの字状に座っていた。
レモナの右隣にちび、ちびの右隣にモララー、モララーと対面してサスガ(兄)
が座っている。ちびと対面して座っているのが、サスガ(弟)、
レモナと対面して座っているのがギコだ。モナーはレモナとサスガ(弟)の間に、
ちょうど、コの字の縦棒にあたる位置に座っている。

「レモナの位置からの方がわかりやすいかな?頼むわ。」
「何番まで終わったの?」
「一番と二番だ。」
サスガ(弟)から解剖の進行具合を聞いたレモナは、ちびに説明を始めた。
「今ちびちゃんのところに置いたコップは、ベビ達の位置だと思って頂戴。
で、ちびちゃんの位置に一番近いこのコップのあたりが、子宮の入り口。」
ちびがうなずくと、彼女は4つのコップの周りを触りながら、説明を続けた。
四つのコップの縁を丸く囲ったという表現が正しいのかもしれない。
「お母さんの子宮にメスを入れるとこんな感じで、ベビ達はいたのね……」
ちびは驚き、レモナに質問した。
「動き回る隙間がないじゃないですか。」
ベビ達の位置を示すときに、ちびの前に並べたコップを指差しながらレモナは説明を続ける。
「ええ、なかったわよ。で、取り出すときに固体識別のために番号をつけたのね。
この位置の子が、一番。で、この位置の子が二番。で、解剖はここまで終わったのね?」
レモナに聞きなおされたサスガ(弟)はうなずいた。

「で、死因は……?」
ちびに質問されたサスガ(弟)は、困った表情をしながら、彼女に答える。
「これがいろいろありすぎてね……」
ここで、サスガ(兄)が口を開いた。
「弟者、話の腰を折ってすまんがいいか?」
弟がうなずくと、兄はちびに弟の言葉の説明を開始する。
「あまりに原因が多すぎてね。この2体のベビの死因の特定は困難になるかもしれない。
この2体は氏んだ可能性を並べるだけになるかもしれないけどいいかな?」
ちびはうなずくと、兄は説明を始めた。

「まず、一番から。肋骨が砕けていた。でね、片方の肺がつぶれていたんだ。
つぶれた方の肺から、砕けた肋骨の欠片がでてきたよ。
もう片方から、水分が検出されたんだ。」
サスガ(兄)の説明に、レモナが補足する。
「サスガ君達から、血液サンプルと一緒に、この水の鑑定依頼があったのね。
水は羊水。お母さんの中にいたときに羊水を飲んだのね。
さっきサスガ君が、肺がつぶれていたっていったでしょ?
ベビ達は早く、医者に見せるべきだった。ただでさえ狭いお家の中(子宮のことよ。)で、
酸欠状態だったのに。お母さんはそれをしなかったのよ。」
ちびの言葉は無かったが、表情がこわばっていた。
          『憤怒』
場にいた全員は、ちびの表情からこの2文字を頭に浮かべていたはずだ。

871 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/06/02(水) 20:06 [ YaZ5LRxs ]
「ほんと、わが母親ながら、人をギャクサツチュウなんていっておきながら…」
「まあ、怒りはわかるが、もう少しの我慢だよ。」
「え?」
モララーの言葉にちびは面食らった。
「実は、ダッコさん。ちびちゃん覚えてる?あの人たちが、ちびちゃんにお礼をしたいって。
ビデオがいいのが取れたんだって。それで、ちびちゃんと、お母さんのことを話しておいたんだ。
手術と解剖の様子、それと、血液検査もか?」
レモナが補足する。
「そうよ。胸の水分の検査結果も、ビデオに残してあるわ。」
ギコが続ける。
「あ、あれか?ダッコさんからの依頼って、このビデオのことか。」

ちびが何のことかわからず、きょとんとしていると、
モナーが微笑みながら、「まとめないと。」
と、場にいたほかの面々につげる。彼はちびに、説明を始めた。
「ダッコ映像さん。覚えているよね?」
ちびがうなずくと、モナーが続けて、
「彼らの麻薬乱用防止キャンペーンのビデオのプロジェクトがうまくいったんで、
ちびちゃんにお礼をしたいんだって、モラ谷さんが言ってきたんだ。
でね、ちびちゃんのお母さんのことをモラ谷さんに話した。
なら、死産ビデオを撮ろうかって。それと、ベビ達の解剖の様子も撮って、
母親に見せようかっていう話になってて、今、その映像を撮ってるんだよ。」
ギコが続ける。
「そのビデオは、手術中の様子の音声、解剖の様子の音声のほかに、
解説と、ナレーションが入るらしいんだな。で、解説が俺だ。」

「馬鹿親の妄想をぶち破ってもらえませんかね?」
「????????」
突然のちびの言葉に、みなは面食らった表情をする。
「どうしたの?」
「あの馬鹿親、ベビは氏んだっていってるのに、認めようとしないんです。
それに『ベビチャンタチハ センセイガ トリアゲテクレテ ミテテ クレテルンダカラ。ソレニ * ダッテ コンドハ
チャント アル ベビチャンナンダカラネ。 キケイノ アンタト チガッテネ』って。悔しいったらありゃしない。
私を生んだのはあの女なのに……」
ちびはまだ何かいい足りなさそうな感じの表情を浮かべていたが、
一旦深呼吸し、デザートのイチゴのショートケーキを食べ始めた。

彼女がケーキを食べ終わったのを見計らい、
サスガ(兄)がちびに、丁寧な口調で話し掛ける。
「ご遺体と対面されますか?お姉さまが先に。」
「え?」
「お母さん結構、ベビ達がかわいいって思ってるんじゃないかな~
と思って。それに、*。確か4体とも、なぁ弟者?」
話題を振られた弟は兄に答える。
「確か無かったぞ。ちびちゃんが興味があるなら、見にくればいい。
でも、夕方からだからな。しかも、脳出しと、生体の解剖もするからな。」

ちびは、「ぜひ!!!!」と弟に、答える。
弟は、ちびに時間と場所を伝え、兄は、ビニール袋を忘れるなとちびに伝えた。
「みんな食べ終わったし、そろそろ一旦お開きにしないか?
それと、漏れも一緒に見に行っていいかな?」
モララーがサスガ兄弟に尋ねると、彼らはうなずいた。
「PM5:00に法医学棟だな。ちびちゃんを連れて行くからな。」
モララーの言葉にサスガ(兄)は、モララーとちびを気遣う言葉をかける。
「4時ぐらいまで、昼寝でもしているといい。脳出しがあるから、長丁場になる。」

サスガ兄にちびは礼を言う。
「じゃ、そろそろ解散するか。漏れも昼寝するかな。」
モララーの言葉にレモナとギコ、モナーが突っ込んだ。
「お前は働け!」
食堂内に笑いが起こった。

それぞれが挨拶を交わし、昼食を終えた。

872 名前: 42・解剖 (夕方の部) 投稿日: 2004/06/02(水) 20:07 [ YaZ5LRxs ]
PM5:00-
息を弾ませたモララーとちびが法医学棟に到着すると、
すでに用意を済ませているサスガ兄弟、記録係、看護師が彼らを出迎える。
「お?きれいどころをそろえたのか?」
モララーがサスガ兄弟に尋ねると、弟は苦笑いし、兄は爆笑している。
笑いが止まらず、落ち着くのにやっとな兄の代わりに弟がモララーに答える。
「違うよ。もっと実務的なもんだ。脳出しをやるときって、野郎がサポートにつくと
仕事にならなくなっちゃうんだよ。嘔吐するのが多くて。
こういうのって、女性の方が強いみたいだ。」

サスガ兄弟が、ふとちびを見るとポラロイドカメラを持っているではないか。
どうしたのか彼女に聞くと、
「寝顔(実際は氏に顔ですね)を、親に見せようと思って。」
とニヤニヤして答える。
「実は、一番と二番のベビ、体をホチキスで止めてあるんだが。
お母さんは大丈夫か?」
心配した兄が、ちびに尋ねると、
「死産ビデオの件、すごく私も面白そうだって思ったんです。
顔しか撮りませんので、心配しないで。」
ちびはまたも、ニヤけながら答えた。

「まず、一番と二番と、お姉ちゃんの対面から行きますか。」
モララーに、サスガ兄弟、ちびが同調する。
「じゃあ、仮の棺へ。」
隣の部屋に案内されると、部屋の中に、大きなドアをちびが見つけた。
サスガ(兄)が、ドアを開けると冷気が漂ってくる。
どうも、部屋の中の大きなドアは、冷蔵庫であるらしい。
兄が、冷蔵庫の中から、発泡スチロールの箱を取り出し、机の上に置いた。
箱には、1・2と書かれている。
箱を開けると、ビニール袋にパックされている白い氷がちびの視界に入った。
この氷は乳白色の液体を凍らせたもののようだ。ちびは尋ねた。
「この氷は?」
「お母さんが毎日絞ってるでしょ?」
サスガ(弟)の言葉にちびは目を見開いた。
母乳を凍らせたものを保冷剤代わりに、箱に入れていたのだ。
弟は続けて、
「でね、定期的に解凍して……」
「ボランティアのお兄さんたちが?」
皆まで言う前にちびが答えたため、弟は微笑をちびに返した。

二体のベビが発泡スチロールから出され、ちびの前に置かれた。
「まず見させてくださいね。」
ちびの申し出に二人はうなずいた。
二体のベビは胸部に*型と、直線の傷跡を残している。
顔は、両方とも*が無かった。なぜかちびは気分が高揚していた。
自分と同じ『キケイ』だったことが、嬉しかったのだろうか
母親が言っていた言葉、母親の思いが崩れたのが、嬉しかったのだろうか。

「しゃ、写真とってもいいですか?」
サスガ(弟)に許可を取り、ちびはポラロイドのレンズを覗く。
「カワイイ ベビチャンノ シャシンヲ トッテ ハヤク ママニ ミセナサイ!」
法医学棟に来る前に、ちびは母親に、そう言い渡されていた。
レンズを覗き、胸部の傷が見えないように配慮し、彼女はシャッターを押した。

873 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/06/02(水) 20:10 [ YaZ5LRxs ]
一番のベビ、二番のベビ、一番と二番の2ショット。
3枚ほど撮ったちびは、サスガ兄弟に礼を言い、写真ができるのを待っていた。
出来上がった写真を見たちびは、満足そうな顔をしている。
彼女は、続けて三番・四番のベビの遺体の写真を取らせて欲しいと頼んだ。
「脳出しするベビや、もう一体のベビも、解剖する前に写真を取らせてもらえませんか?」
「かまわないけど、脳出しは耳をもいじゃうから、早く撮ろう。」
サスガ(弟)に促された3人は隣の部屋へ戻った。
隣の部屋に戻ると、会話を聞いていたらしい看護師が、ベビの用意をして待っていた。
「ありがとうございます。」
ちびは礼を言い、カメラを取り出した。
また3枚、写真をとる。三番のベビ、四番のベビ、三番と四番のツーショット。
出来上がった写真を確認し、看護師に礼を言う。
ちびは6枚の写真を持ってきていたポシェットに入れ、それからビニール袋を取り出した。

「はは、用意がいいな。」「だってお兄さんが言ってたんだもの。」
弟にからかわれたちびは、ちょっとむくれた表情をした。
彼はちびにわび、記録係にそろそろ撮影の開始を促す。
「ごめんごめん。じゃ、記録係さん。そろそろお願いしますね。」
「用意ができました。」
記録係の声に続いてカウントダウンが始まる。
「5・4・3・2…」
記録係がサスガ(弟)に『どうぞ』というジェスチャーをすると、
彼は、全身・頭部のレントゲンとMRIの写真を棒でさし示しながら、説明を始めた。
「三番のベビちゃんは、頭に一撃を食らっています。
ほら、ここ。頭蓋骨が折れてますね。で、こちらがMRIの写真です。
脳のこちら側に血腫がありますね。確認しましょう。」

腕のリストバンドに書かれた三の文字。そしてベビの全身が撮影される。
「前処置がまだだったので、前処置から始めましょうか。
採血をお願いします。その後に前処置を始めます。」
看護師が3のラベルが貼ってある試験管がセットされた注射器で採血を終えると、
兄はメスで、三番のベビの両耳を切り落とした。
出血は当然あるはずも無い。続いて彼は、かみそりを持ち出し、剃毛の作業に入る。
数分で前処置が完了し、頭部が看護師たちの手によって固定された。
「皮膚を剥いで頭蓋骨を見て頂きましょう。」
まぶたの上あたりを起点にCの字型にメスが入り、皮膚がはがされていく。
看護師は、頭蓋骨にこびりついた血を精製水で洗い流したり、皮膚を止めるクリップを
兄に渡したりと大忙しだ。

しばらくすると、頭部の皮膚があらかた頭蓋骨からはがされ
灰白色の頭骸骨の骨折部分が露出した。
弟は棒でその箇所を指し示しながら説明を始める。
「ここの穴は、大泉門といってベビちゃん特有の隙間です。
大人になっていくと、この隙間はふさがっていきます。
で、こっちの凹んでいるところが骨折部分ですね。陥没骨折です。」

「ノギス」ノギスを渡された弟は、陥没部分の直径を計りだした。
「2cm。」弟が言った数値を看護師がメモする。
「こちらに、ベビちゃんたちのお姉さんのちびしぃちゃんの
指紋や掌紋などをとらせてもらったデータがあります。どこにも
2cmという数値はありませんねぇ……」
弟がデータを見ながら呟く。彼は続けて、
「ベビちゃんたちのママは、ベビちゃんたちがお腹にいるのに
ちびギコ達相手に売春していたそうなんです。
大人のオモチャも使っていたようですね。
ちびギコのチン拓の直径が、骨折の範囲と符合します。
次は、脳がどの程度損傷しているか、頭蓋骨を外して、脳を見てみましょうか。」

874 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/06/02(水) 20:14 [ YaZ5LRxs ]
弟の説明の終了と同じくらいのタイミングで、
カメラは三番のベビしぃの頭蓋骨にいくつかの穴が開けられているのを映し出していた。
頭骸骨の穴を線でつなぐように頭蓋骨が切られ、黄色みを帯びた脳が露出した。
兄が、メスの先で血腫をしめす。
「ここが、ベビちゃんの骨折部分です。出血したようですね。」
弟の説明の後、兄はメスの先で、反対側のある範囲を丸く示した。
彼は、兄が示した範囲について説明を始めた。
「この範囲は脳挫傷です。しばしば、受傷部分と反対側に脳挫傷を作ります。
ちょっと範囲が広すぎますね……脳が出せると思っていたんですが、だめですね。」

弟は、三番のベビについての所見を話し始める。
「このベビちゃんは、ほかの姉妹より先に氏んだと考えられます。
一番・二番、そしてこれから解剖する四番のベビちゃんは体中にあざができていますが、
このベビちゃんはできていません。心臓が止まった後というのは血液の流れも、当然止まりますので、毛細血管が破れても、皮下出血にはなりません。そして、死因は脳挫傷です。
頭に強烈な一撃を食らって脳が直接傷ついてしまいました。凶器は、ちびギコのティンポと
考えるのが一番近いですね。」

「縫合はどうしましょう。?」
モララーが口をはさむ。
「とりあえず、母親との体面まで持たせることを考えよう。」
兄はうなずき、頭蓋骨を元の場所に置く。
皮膚をかぶせて、苦労して縫い合わせた。
「ベビの目がつり上がっちゃったよ。」
笑いながらの兄の言葉につられて、モララーたちも笑っていた。

「しばらく休憩して、四番いきましょう。」
記録係の声に、めいめいが法医学棟の部屋に散らばり休憩を取る。
ちびとモララーとサスガ兄弟も、休憩を取っていた。
「後一体だな。生体解剖ってどうすんだ?」
モララーの問いに、サスガ(弟)が答える。
「次は内臓破裂なんだ。で、どの内蔵が損傷しているか、比べようと。」
「で、生体はどこよ?」
「レモナがつれて来るそうだ。あふぉベビを1体処刑して、みせしめにするんだと。
で、レモナ待ちと。あと、あれだ。その見せしめの記録係待ちと。」
「ふーん……」

サスガ(弟)とモララーのやり取りから数分後―
バタバタバタバタ… ガラッ。
廊下を走る音の後、ドアが勢いよく開いた。見るとレモナが、ベビしぃを持って立っていた。もう少しでベビしぃからちびしぃになるだろうと思われるそのしぃは、
レモナに向かってダッコをねだってうるさい。

レモナはベビを無視して、サスガ(弟)に声をかけた。
「ごめんごめん。生体持ってきたわよ。」
「ん。あとで、三番と四番の血液サンプルを持って帰ってくれ。」
レモナとサスガ(弟)のやり取りから1~2分ほどたった後、記録係の女性が
慌てて入ってきた。機材を持って走ってきたらしく、息があがっている。
サスガ(兄)が缶入りの飲み物が入っているクーラーを指差し、彼女に声をかける。
「ご苦労さん。とりあえず、君が落ち着くのを待とう。
ここに飲み物が入っているから、お茶でも飲んで少し休憩しなさい。」
大きく息をついている記録係の女性の傍らで、レモナもついでに紅茶を飲んでいた。
「ナンテコトヲ スルンデチュカ コノ ギャクサッチュー」
ベビに罵倒されたが、レモナは無視している。
「ナッコ ナッコ ナコシテクダチャイヨォ ナッコォォォォ」
とうとうベビは泣き出してしまった。

875 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/06/02(水) 20:15 [ YaZ5LRxs ]
「レモナさん。三番の血液サンプルです。」「ありがとう。」
看護師は、三番のラベルがついた試験管をレモナに手渡す。
彼らのそんなやり取りが終わった後に、
レモナより少々遅れてきた記録係の女性がレモナに声をかける。
「レモナさん。準備できました。」
続けて、解剖担当の記録係がサスガ兄弟に声をかける。
「サスガさん。こっちもOKです。」

「生体の方は、漏れが担当したいんだがいいか?」
「助かるよ。同時進行だと、はやくすむ。」
モララーの申し出に、サスガ(弟)は感謝し、そしてみんなに声をかけた。
そして、処刑ビデオ担当の記録係の女性に頼む。
「じゃあ、そろそろ最後の四番始めましょうか。
それと、レモナのほうの記録係さん、テープをこっちにもダビングして欲しいんだけど。」
処刑ビデオ担当の記録係の女性は、サスガ(弟)に、編集についての段取りをつけてくれるように頼むと、サスガ(弟)は承諾した。
「その事を、解剖前の説明にでも織り込んでいただけると編集のときに助かります。」
「わかった。」

「じゃあ、始めます。」
記録係が、サスガ(弟)に片手を見せ、指を一本づつ折っていく。
5・4・3・2・1… 
記録係が『どうぞ』というジェスチャーをサスガ(弟)にすると、彼は看護師に
四番のベビの採血を命じた。看護師が採血を終え、血液サンプルをレモナに渡すと、
彼女は静かに法医学棟を去っていった。

まずベビの全身が、そして腕に巻かれている四と書かれたリストバンドが
カメラのレンズに映し出されていく。
そして、MRIとレントゲンの写真が並べてあるライトボックスが写された。
MRIの写真を示しながら、サスガ(弟)が説明していく。
「最後のベビちゃんは、内蔵が破裂したと思われます。レントゲンだと
骨折部分が見当たらないんですね。MRIの写真では、出血が多すぎて、
内臓の損傷部分がわかりません。対照標本として、健康体のベビちゃんを用意しました。
さあ、ベビちゃん。テレビの向こうのみんなにご挨拶しましょうね。」
彼に促されたベビは片手を挙げ、「チィ」と挨拶をしていた。
彼は続けて説明する。
「ええ、こちらのベビちゃんを解剖し、それぞれ内臓を比べていきたいと思います。
テレビの向こうの皆さんには、このベビちゃんの生体解剖の様子と、四番のベビちゃんの
解剖の様子が一緒に見られると思います。」

弟が記録係の方をチラッと見ると、記録係はサムズアップをしている。
(りょ・う・か・い・し・ま・し・た)
撮影中であるので、生体担当の記録係は唇だけ動かしていた。

876 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/06/02(水) 20:16 [ YaZ5LRxs ]
黙々とサスガ(兄)は作業していた。彼は看護師に次々に切り取った臓器を渡していく。
臓器を渡された看護師は丁寧に各臓器を洗い、ホルマリン入りの小瓶に詰めていく…
色あせたピンク色がほとんどを占めている心臓、心臓と同系色の蝶の羽のような肺、
Jの字のようなフォルムの食道から胃……
「洗浄を先に。」
小腸と大腸は分けずに切り取られ、兄から看護師に手渡された。
看護師は、10mlの注射器に入れた精製水を小腸側から流し、
ホースで水を出す要領で洗浄作業を始めた。
黒褐色の胎便が腸から水に混じり排出されていく。看護師は、数度その作業を繰り返し、
精製水が透明になったのを確認すると、静かにホルマリン入りの小瓶に腸を詰めた。

「ん?これかな?」
兄の呟きに弟が反応し、視線を兄の手元に向けた。
弟の視線の先には、小さな暗赤色の肉塊が見える。肝臓だったもののようである。
「どうも、肝臓のようですね…」弟が続けて説明を始めた。
「腹部に打撃を受けて、肝臓が破裂しています。主な死因は肝臓破裂によるショックではないでしょうか。後は膵臓や胆のうの様子を見る必要がありますね。」

弟の説明が終わった頃と平行し、兄は肝臓の摘出を終え、次の作業を始めていた。
膵臓、脾臓、胆のう…
洗浄された臓器は、それぞれホルマリン入りの小瓶に詰められていった。
「終了。骨はどうしましょうか?」
「必要ないです。縫合を開始してください。」
弟に指示された兄は、解剖中に使ったガーゼをすべて集め、小さくたたんで四番のベビの体内に詰めていった。そして、ホチキスを持ってこさせると、数箇所ホチキスでとめて
四番のベビの縫合を完了した。

877 名前: 43・生体解剖 投稿日: 2004/06/02(水) 20:17 [ YaZ5LRxs ]
サスガ(兄)が黙々と作業する一方で、モララーはベビしぃとの会話を楽しんでいる。
両手両足の肉球を待ち針で固定されたベビしぃはモララーに必死に抗議していた。
「イチャイ イチャイ ナンテコトヲ スルンデチュカ コノ ギャクサッチュー!
ハヤク チィタンノ オテテト アンヨノ イチャイノヲ ハズシテ ナッコシナチャイ」
「いいのかなぁ?そんなわがまま言ってると、漏れの友達とのナッコも
なくなっちゃうよ?」
「ナコ? ナコイパイ? ナッコ ナッコ ナッコォォォォ!」
モララーはニヤニヤと笑いながら、メスをベビしぃに見せた。
「漏れの友達のメス君だよ。さあ、メス君とナッコしようね~」

何かを察したらしいベビしぃは、突然謝り始めた。
「ゴメナチャイ ゴメナチャイ レモナタン。 モウ ナッコ イラナイデチュ。 マンマモ スキキライ シマチェン
ダカラ ココカラ ダチテェ。」
「いや、レモナは君を助けない。レモナは君をここに捨ててったんだよ。
ここで氏ねって。」
「ナッコスルカラ ユルチテ。 ナンナラ コウピモ シマチュヨ?」
「必死だな。母親から何を教わったの?そんな年でコウビなんて普通言わないよ?」
「マターリノ シカタデチュ。 ナッコシテ、 コウビシテ マターリスルンデチュヨ。」
「ふーん。漏れはお前が苦しんでる顔を見てマターリしたいんで、全く別だね。」
モララーは苦痛を長引かせようと両手両足を固定していた待ち針の量を増やした。
「ハ・ハズシテッテ イッタノニ グアアアアアアア」

「チィタン メスナンカト ナッコ チタク ナイデヂュ ダ・ダヂュゲデェ ギアガアアア」
メスを局部の方から上に向かって浅く入れるとベビしぃは悲鳴をあげた。
「メス君と、君とのコウビだね。でも、お前の臭いマソコになんか、ぶち込みたくないってさ。だからメス君、切り裂いちゃったんだね。」
微笑みながらのモララーの言葉に、ベビは、息をぜいぜいさせながらも、強気である。
「マ・マターリノ カミチャマガ チィタンヲ マモッテ クレルンデチュ… オマエナンカ アボーンデチュヨ。」 

「カ・カミチャマ…ハァハァ チィタ…ンヲ タタ・タ・タ・チュケ・テ クダチャアアアアアアアアアッガアアアアアア」
「祈らせてもくれないなんて、マターリの神様って、残酷だね」
モララーはメスを深く入れ、器具で中を開いた。もうベビには、モララーに
返す言葉も無いようで、荒い息だけをさせている。
「もうそろそろ〆ましょうか…」
そう言うとモララーは指を傷口に入れ、今度は小さなはさみで横に切れ目を入れた。
ちょうど、臍を中心に十字にベビの体に切り込みが入ったことになる。

「ギ・ギ・ギ… ヴァアアアアア ヴァアアアアア」
「まだ、こんな声を上げられるくらい元気なんだね。
それ、こてっちゃーん!!」
モララーは横に切れ目を入れた皮膚を器具で固定すると
中に指を入れて、腸をつまみ引きずり出した。
「ヂィダ…ンノ… オナガ… ヘンデヂュ…」
「逝ったか。図太かったな。」
ベビしぃの最期に、モララーははなむけの言葉を添えた。

『遊び』を終えたモララーの手際は神業という言葉がふさわしいほど早く、
次々にベビしぃの臓物を切り分けていった。
最初に先ほど引きずり出した腸を切り取り看護師に渡す。
「これ、洗浄。」
看護師は四番のベビと同様にこのベビの腸にも注射器で精製水を流し込み、
腸の洗浄を行った。あらかたきれいになった腸は、ホルマリン入りの小瓶に詰められる。
心臓、肺、腎臓… 手際良くモララーは臓器を看護師に渡していった。

878 名前: 耳もぎ名無しさん 投稿日: 2004/06/02(水) 20:18 [ YaZ5LRxs ]
『氏にたて』という表現はふさわしくないかもしれないが、このベビの臓器は
四番のベビの臓器より、鮮やかだなとちびは思った。
生の鮮やかさが故意に止められ、あるいは自然に止まって、だんだん色あせていき
我々というのは氏んでしまうのだろうか。普段考えないような疑問がちびの頭に
浮かんでいた。

ちびがそんな疑問を頭にめぐらせている最中にも、モララーは作業を続けている。
膵臓、胃、肝臓、脾臓…
「売れば、金になったのにね。」
モララーは軽口をたたきながら、臓器を続けて切り分けている。
「いや、売らなくても研究材料にはなったから、これは一応役にはたったさ。
ところでモララー、あれだけ遊んで兄者とほぼ同時って………」
感心した口調のサスガ(弟)に、モララーは苦笑いを浮かべながら言う。
「こっちが幾分、兄ちゃんよりも楽だろうが。形が崩れてない分。
胆のう。これで終了っと。」
暗赤色の液体が絡んだ、小さなナスのような形の胆のうを看護師に渡すと、
彼は、中身を抜き取られたベビをどうするか弟に聞く。彼ははモララーに
看護師に、焼却炉へ持っていかせるので黒いビニール袋に入れておいてくれと頼んだ。

何かが入った黒いビニール袋を看護師がモララーに差し出す。
看護師が差し出したビニールの中は猛烈な大便の臭いがするため、
彼はすばやく遺体を放り込み、口を縛って看護師に渡すと、
看護師はダッシュして法医学棟から立ち去った。

「ふーっ。これで終わりだな。」
モララーは法医学棟の窓を開け、外の空気を吸っていた。兄は一足早く手袋を外し、
白衣を脱ぎ始めている。弟は兄とモララーに感謝の言葉を述べる。
「兄者、モララー、ありがとう。漏れは、最後の一仕事だ。」
「解剖所見か。書面に起こすにはもう少し後でも良かろう。
ビデオが出来上がってからでも。」
仕事が速すぎないかと怪訝な表情をしているモララーに、
兄は笑いながら言う。
「弟者は昔から、宿題は早めに終わらせるタイプだからな。」

「まあ、疲れない程度にやるさ……」
弟が呟いた頃、記録係と看護師たちは、機材の片づけを終えていた。
「お、そろそろ彼らも終わったようだ。モララーも、早く着替えろ。
でないと終われないからな。」
「ん~。」モララーは返事をし、着替えに出かけた。

数分後、モララーが戻ってくると、みんな着替えを終え、集まっていた。
サスガ(弟)がみんなに声をかける。
「モララーに兄者。今日はどうもありがとう。ゆっくり休んでくれ。
それに、みんなもご苦労さんだったな。
ギコがダッコ映像さんのほうに行くと思うんで、彼と一緒にがんばってくれ。
今日はこれで終了だ。」
看護師、記録係達は口々にサスガ兄弟・モララーに挨拶をして去っていった。

「お前も少し休んでから、解剖所見をまとめるといい。」
「兄者。漏れは大丈夫だ。疲れない程度にやるさ。兄者も休んで、手術に取り組んでくれ。
モララーもありがとうな。休んで、次の日に備えてくれ。」
サスガ兄弟とモララーは、法医学棟の窓を閉めた後に、消臭剤をあちこちにおいて、
カギをかけ、法医学棟を出た。窓から外を見ると、漆黒の闇であった。

879 名前: 44・解剖所見 投稿日: 2004/06/02(水) 20:20 [ YaZ5LRxs ]
サスガ(弟)が4体のベビについての解剖所見をまとめたものである。
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解剖所見  擬古田薬品研究所 法医学担当サスガ 解剖担当 モララー・サスガ(兄)

出産時の様子
胎児が育ちすぎているというレモナの診断により、帝王切開術での分娩。
ベビ4体とも全員死産。死後硬直が見られた。
分娩した時点で、最低でも死後17~8時間経過していると思われる。

位置関係
子宮口を時計の文字盤で言う6時とすると、12時の部分に三番、3時の部分に二番、
9時の部分に1番、6時の部分に四番のベビ。

死亡したと思われる順番
3→2→1→4 OR 3→1→2→4

解剖結果
一番
右の肋骨全て骨折。粉砕骨折もある。骨片が右肺に刺さり、右肺に穿孔部位が見られる。
チアノーゼ反応あり。左肺より、羊水が検出された。

二番
左肋骨単純骨折。数本の骨折部位が肺に刺さり、左肺に穿孔部位が見られる。
チアノーゼ反応あり。右肺より、羊水が検出された。

一番と二番共通
肺から羊水が検出されていることから、羊水を大量に飲んでいると思われる。

三番
頭蓋骨陥没骨折。脳挫傷。
○凶器として一番可能性が高いもの………ちびギコ達の陰茎
母親が、ちびギコ達を相手に売春していたということから、
ちびギコ達が陰茎を母親の局部に挿入した際、
三番のベビの頭に打撃を与えたことによる脳挫傷の可能性が一番高い。

四番
対照標本と比較した結果、肝臓・膵臓に重大な損傷が見られる。
腹部に打撃を受けたことによる内臓破裂。すでに一~三番のベビが死亡していたため、
四番は逃げ場が無かったものとみられる。
○凶器として考えられるもの
ちびギコ達の陰茎並びに、大人のオモチャ(バイブレーター)

全員共通
○血液検査の結果、全員感染症にかかっていたことが判明。
レモナの診断によると、ちびギコ達とのコウビの際、
母親が破水していたものと見られる。

○血液中のアドレナリン濃度が極端に高かったことから、
死の直前に極端な恐怖を感じていたものと見られる。

生活反応
一番・二番・四番の体中の皮下出血は生活反応が見受けられた。
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「さて、後はダッコさんの映像待ちか……」
書類を作成した後、サスガ(弟)は一人、法医学棟の彼の机の上で、
コーヒーを飲みながら呟いた。

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今回は、日本麻酔科学会、OH・脳!のホームページ、
山口椿さんの著書から引用部分があります。

次回、ビデオ上映です。

次回:擬古田薬品 (7)