せつないね

Last-modified: 2008-09-28 (日) 10:00:40

せつないね/小花美穂

420 名前:小花美穂短編集その5[sage] 投稿日:05/03/06 05:36:03 ID:???

『せつないね』
パチンコ屋のひとり娘千絵。中学生の千絵は、従業員の恭司に一目惚れするが、
彼には駆け落ちしてきた郁子という彼女がいて、ともに住み込みで働いていた。


「立ち仕事は脚にくるよな」そう言って、恭司は郁子にマッサージをする。
千絵は、郁子のことを、とても素敵でライバルなのに憎めなくて辛いと思う。
でも、郁子は休憩時間にふと姿が見えなくなると、時々、目を赤く腫らして帰ってくる。
遠く離れた両親を思って影で泣く郁子は、恭司をとても不安な気持ちにさせている。
千絵は、私を見て欲しいと思う。郁子さんじゃなくて……私を。
郁子さんがいなくなれば、恭ちゃんは私を見てくれるかもしれない。きっと……。


恭ちゃん恋しさに思いつめた千絵は、事務所から郁子の履歴書を盗み出し、実家に連絡する。
その日の夜、思い出話に花を咲かせ、幸せになりたいと肩を寄せ合うふたりを見た千絵は、
早く逃げてと叫ぶ。一刻も早く……そうしないと、離れ離れになる……!
千絵の取り乱した様子に、訳も分からず、ただ呆然とする恭司と郁子。
そんな彼らの前に、怒りに身体を震わせ、気色ばんだ表情をした郁子の両親が現れる。
父は恭司を殴り飛ばし、母は泣いている郁子の腕を取った。連れ戻される郁子。
郁子の居場所をリークしたのが千絵だと知っても、恭司は責めることはせず、
逆に、これで良かったのかもしれないと言って、泣いて謝る千絵を慰める。


421 名前:小花美穂短編集その6[sage] 投稿日:05/03/06 05:36:58 ID:???

ある休日、どこかに出かけようと誘うために恭司の部屋を訪れた千絵は、
郁子のヘアバンドをつけて放心している恭司を見て、胸を痛める。
気丈な恭司は、普段はいつも以上に元気に振舞い、皆に心配をかけまいとしている。


ある日、郁子から恭司に、別れを告げる電話が入る。
落ち込む恭司に、千絵は意を決して告白するが、郁子を想う恭司の言葉に傷つけられる。
しかたない……恭ちゃんから郁子さんを遠ざけたのは、私だもの……。
それでもそばにいたいと思う千絵だったが、恭司の寂しそうな表情は一向に晴れない。
ああ…今になってわかった…私は郁子さんを一生懸命愛してる恭ちゃんを好きになったんだ…
郁子さんがいないと、恭ちゃんが、私の好きな恭ちゃんじゃなくなってく……。


数日後、郁子から恭司宛に手紙が届き、千絵は迷いながらもそれを恭司に手渡す。
手紙の内容には、察しがついていた。別れの電話を打ち消すように届いた手紙。
恭司に会いたい……郁子の気持ちを再確認した恭司は、郁子の元へと急ぐ。
はじめてのキスは恭ちゃんとしたかった……そういう千絵の唇に優しいキスを残して。<了>