オリオン街/山本 ルンルン
521 :マロン名無しさん:2009/08/31(月) 05:49:34 ID:???
オリオン街 - 山本ルンルン
連作短編だから、とりあえず一話を。
登場キャラ↓
・スモモ
おしゃれ大好き。ちょっとミーハーで勝気な女の子。
色々な事に興味はあるが、あんまり長続きしない。
大人っぽくて、カッコいい小学生を目指して頑張っている。
・みどり
スモモとは幼なじみで、我が道を行くかなり個性的な女の子。
人形劇やクラシックギター、老人ホーム通いなどさまざまな趣味を持つ。
スモモとは正反対の性格。
※そばかすだらけでキノコカット。目が前髪で隠れている。
流行りのお洒落とは無縁。
522 :521:2009/08/31(月) 05:53:11 ID:???
一話 おさななじみ
スモモとみどりは幼なじみ。とても仲が良かったが、
小学校も高学年になって来ると流行りや周りの目が気になるお年頃。
大人のお洒落に興味津々なスモモは、どん臭く、流行りや周りを気にしないみどりを
少し疎ましく感じ始めていた。
・1
体育の授業中。二人ひと組でバレーのトスを20回行うことになり、
スモモはみどりではなく、クラスのイケてる系女子・カンナを誘う。
「カンナちゃーん!一緒にやろう!」
「え~、でもスモモちゃん、カンナちゃんと一緒にやるんでしょ?」
みどりはどん臭いため、いつまで経っても20回成功しない。
一方、あっと言う間に終わらせて遊ぶカンナ達。
その日のお昼休み。スモモはカンナのグループと食事しようとするも、
「男子達と約束があるからダメ」と断られ、みどりと食事。
「スモモちゃん、見て!私が作った魔女(のマペット)だよ!」
「(またヘンなの作って…)上手だね」
「ホント?今日ね、老人ホームで人形劇やるの!
余った紙粘土でお揃いの魔女のキーホルダー作ったから、スモモちゃんのカバンにつけてあげる!」
スモモは思う。
みどりといると、あたしまでダサい子って思われてない…!?
523 :521:2009/08/31(月) 05:54:14 ID:???
・2
下校。スモモとみどりはいつものように一緒に帰宅。
みどりはスモモを老人ホームに誘うが、スモモはとてもそんな気になれない。
ダサいから。
カフェでカンナ達を見かけたスモモは、みどりの話を無視して走り寄る。
「何してるのーッ?」
「これから映画見に行くんだぁ。スペースコロニー2」
「あたしもそれ見たかったんだ!」
「…いっしょに見に行く?」
「わーっ、行く行く!」
カンナはみどりも誘うが、前述の通り老人ホームに行くので辞退。
じゃあね、と帰宅(※気にしてる感じは一切ナシ)。
みどりに対し、スモモはおざなりに別れのあいさつをしてカンナ達と一緒のテーブルにつく。
みどりってホント変な子。老人ホームより映画の方が断然お洒落で楽しいのに。
その席でカンナは、友達に遊園地のフリーパスを見せる。
子どもなら何人でもはいれるから、来週日曜に
「みんなで行こうよ!」
うかれる友達。スモモも俄然ハイテンションに。
「あたしその日誕生日なんだーッ!」
524 :521:2009/08/31(月) 05:57:00 ID:???
・3
帰宅後、さっそく日曜に着ていく服を吟味。
うかれているとみどりが来訪。楽しい気分に水を差されたスモモは不機嫌になり、
悪感情を隠さず冷淡な対応をする。
「あのねスモモちゃん。人形劇の音楽作りを任されたから作ってみたんだ。
聴いてもらおうと思って」
再生するも、スモモは聴く気にもなれない。早く帰ってほしかったしとにかく気に入らない。
「はっきり言って…ダッさーい。なんでアンタが曲作り任されたの?全然センスないじゃん」
スモモは悪感情から罵声を浴びせる。聞かずにテキトーに言っただけなのだが、
それを「親友からの批評」とシリアスに受け止めたみどりは
どこをどう直せばいいかなどを真面目に質問してきた。
スモモはいよいよ閉口し、みどりを追い返す。
525 :521:2009/08/31(月) 05:58:25 ID:???
・4
家族で夕食。
「ママ~、服買ってぇ」
「誕生日だものね。日曜にデパート行こうか」
「それじゃ遅いの。その日はカンナちゃんたちと遊園地に行くんだもん!」
「みどりちゃんは一緒に行かないの?」
「…だって、みどりとは幼馴染みってだけで…別に仲良くないもん。昔と今は違うの!」
言いながら、罪悪感にかられるカンナ。
526 :521:2009/08/31(月) 06:03:32 ID:???
・5
翌日。学校にて。
いつものようにみどりが話しかけてきた。
「ねースモモちゃん。今度の日曜誕生日だよね。一緒にどこか行かない?」
「ごめーんみどり!その日はカンナちゃんたちと遊園地行くんだよね」
「え?じゃあ私も行くー」
「え!?ダメだよ、だってカンナちゃんのフリーパスで行くんだもの。
4人までだからこれ以上人数増やせないし」
来られると困る。せっかくイケてる子たちと遊びに行くのに、みどりも一緒なんて…。
「じゃあ、私普通の料金払って入るよ。一度行ってみたかったんだー」
スモモはとにかくダサいみどりと一緒にいたくない。行きたくない!
「あんたとは一緒に行きたくないの!」
口をついて出てしまった本音。こみ上げる罪悪感。
走り去るスモモ。残されるみどり。
527 :521:2009/08/31(月) 06:12:26 ID:???
・6
昼。スモモは一人、カンナのもとへ。
「カンナちゃーん、お昼一緒に食べよう!」
「え?でもみどりちゃんは…?」 「いいのいいの」
こうして、スモモはカンナ達と楽しい昼食。
日曜の遊園地のことで盛り上がるカンナ達。スモモもテンションがいや増す。
「(遊園地の)新しい乗り物乗れるといいね、カンナちゃん!」
「えー、でもあれすっごく怖そう。あ、ティッシュ持ってない?」
持ってる、とカバンから出そうとするスモモ。その時、カンナの友人が吹き出した。
スモモのカバンについていた、悪趣味な魔女のキーホルダーを見て笑ってしまったのだ。
みどりが作ってくれたものだ。
「あ…笑ったりしてゴメン。上手にできてるけど…魔女?スゴいセンス」
「や、やだ、これはみどりが勝手に…」
スモモは慌ててそれをむしり、カバンの中に放り込む。
「さすがみどりちゃん、個性的~。取らなくてもいいじゃない」
しかし、スモモはとにかくイケテる女子グループに混ざりたい。ダサいと思われたくない。
「あたしがこんなダサいのつけるわけないじゃな~い!」
その時、近くのベンチでひとり食事しているみどりに
スモモ達は気づいてしまった。こちらを見ている。聞かれたかもしれない。でも…。
528 :521:2009/08/31(月) 06:17:18 ID:???
・7
日曜。当日。
ママに作ってもらったお弁当。新しい服。スモモは待ち合わせ場所の駅へ駆けて行った。
誕生日。カンナちゃんたちと遊園地。イケてるグループの仲間入り!
「カンナちゃーん!」
「あ~、スモモちゃん。またしても偶然~」
「え?」
「スモモちゃんもおでかけ?どこ行くの?」
「…え」
「あたしたちこれから遊園地行くんだよね。特別パスでタダなんだよ!」
ここでスモモは気付いた。
みんなで行こうよ!
『みんな』
あの日、カンナちゃんの言った「みんな」に自分は入っていなかったのだ。
最初から。
「そういえばスモモちゃん、今日誕生日だったっけ。おみやげ買ってきてあげるね。
スモモちゃんはどこまで行くの?途中まで一緒に行こうよ!」
「…あ、あたし動物園に行くんだ」
「ひとりで?」
「まッ、まさかぁ。向こうで友達と待ち合わせしてるんだ、あたし急ぐから!」
スモモは逃げ出した。電車に飛び乗った。
529 :521:2009/08/31(月) 06:20:15 ID:???
・8
動物園。
「こ、こども一枚…」
ひとり。呆然と動物園をさまようスモモ。
同年代の子たちの楽しそうにはしゃぎまわる声が聞こえる。
ベンチでひとり、ママの作ってくれたお弁当を食べる。
涙がこみ上げてくる。
通りすがりの親子がこちらを見た。
「ねえママ、なんであの子泣いてるの?」
「あら、あなた大丈夫?はぐれたの?ひとり?友達とはぐれたの?」
…泣いてなんかいないもん!
他人からの善意がいたたまれず、逃げ出すスモモ。
当てもなく走り回り、挙げ句転んでしまった。カバンの中身が地面に散らばる。
その中に、あの、悪趣味な魔女のキーホルダーを見出した。
むしってカバンに放り込んだままだったものだ。
「…フン、変なキーホルダー!」
530 :521:2009/08/31(月) 06:22:46 ID:???
・8
夕方。スモモはひとり、帰路についた。
誕生日の日に勘違いして浮かれて、一人動物園泣きながらうろついてたことなど
誰にも知られたくない。ママにもだ。だから…
「ただいまァーっ!あー楽しかった!」
笑顔で、元気よくドアを開けた。
「あのね、パレードがキレイだったよ!でもすっごい混んでて…」
楽しさが忘れられない、とでも言った風を装い、それらしいことを口走りながら応接間へ。
しかし。
「スモモちゃん…」
そこには、ママ、と、カンナちゃん達がいた。表情は一様に暗い。
なんで?
「あの…、わたしたち、おみやげを渡そうと思ってきたの…
まさかスモモちゃんもいっしょに行くつもりでいたなんて思ってなくて…
ほら、スモモちゃんはいつもみどりちゃんと一緒だったし…」
なんで!?
スモモは逃げ出した。
531 :521:2009/08/31(月) 06:30:13 ID:???
・9
涙で歪む夜の町をひたすらに走るスモモ。
全て知られてしまった。カンナちゃん達にも、ママにも!
溢れる涙をぬぐおうともせず、ひたすらに走る。逃げる。
走りつかれた頃、先の路地の角から何かの弾む音と、聞き馴染みのある声がした。
みどりだった。壁を相手にバレーの練習をしていたのだ。
「スモモちゃん、いまの見た?さっきなんて五回連続で出来たんだよ。
これで今度の体育はバッチリだよ!また一緒に組もうねー。…あ、ちょっと待ってて」
みどりは包みを取り出した。
「お誕生日おめでとう」
包みを開くとノートがあった。
手描きの絵にいろどられた表紙。その中心にこう書かれている。
『おさなともだち』
いつになく照れ笑いを浮かべながら、みどりは言った。
「初めて小説を書いてみたの!スモモちゃんに最初の読者になってほしくて…。
また厳しく批評してよ。アハハハ…」
曲を聞かされた時みどりにぶつけたのは、ただの悪口である。みどりがどう思うかなど何一つ考えず。
それなのに、みどりは…。いつも通り、我が道を行き、そして自分のことを思いやってくれている。
一方、己のことしか考えず、結果このような目にあっている自分。
スモモは、己の浅はかさ醜さと共に、みどりが本当に大切な自分の幼なじみ、
幼な友達であることに思い至った。
「ありがとう。読んでみるよ」
「エヘヘ…」
532 :521:2009/08/31(月) 06:41:25 ID:???
・9
※みどりはその時、スモモのカバンに魔女のキーホルダーがついているのに気付いた。
一度は「ダサい」とむしられたはずのものだ。
実は、スモモは動物園で転んだ時、それをカバンにつけ直していたのだった。
みどりは嬉しくてしょうがなかった。口に出さないだけで、みどりも密かに胸を痛めていたのだ。
みどりは言った。
「あのねスモモちゃん、実はケーキも焼いてるところなんだ。
あした学校に持っていくつもりだったけど…」
その時、スモモを追ってカンナ達がやってきた。
「あの…スモモちゃんホントにごめ…」
謝ろうとするカンナ。
そもそも己の浅はかさによる一人相撲であったのだ。
以前のスモモであれば、己の恥ずかしさから逃げ出したり、
あるいは己の悪感情をそのまま相手にぶつけたかもしれなかったが…。
スモモはカンナを制した。
「それ以上言わないで。…ケーキが焼けるんだって。みんなで食べようよ」
こうしてスモモとみどりとカンナ達の、少し遅い誕生日パーティが始まったのだった。
533 :521:2009/08/31(月) 07:01:05 ID:???
これで終わりです。
オサレな可愛い絵、人をナメてるようなペンネームとは裏腹に
話作りがやたら堅実なため、これ以上自分には省略できませんでした…
自分の文章力では表現しきれませんでしたが、
痛々しい展開をラスト2ページで一気に大団円に持っていくという
手腕の鮮やかさにヤラれたものです。
絵にしても話にしても、作話上無駄な部分は省き、
必要な部分を的確に描くというのが徹底しており
オサレ系漫画ってだけで馬鹿にしていた自分の不明を恥じましたね…。
この一話以降は、比較的ライトながら教訓的なちょっとイイ話が続き
読後感は非常に爽やか。ただ、話作りが堅実すぎるのが災いしてか
今イチブレイクしない作家でもあります。