チキタ☆GUGU 34話~最終話

Last-modified: 2011-07-16 (土) 21:35:33

チキタ☆GUGU 34話~52話/TONO

181 :チキタ☆GUGU:2010/10/02(土) 21:20:06 ID:???
34話

借りたチキタの服が小さいことに気づき、バランスは彼が成長しないことを思い知る。

チキタと同じケースで、クリップは三百年も生きていると話すバランス。
「そりゃあさぞかし周りの人間が虫ケラみたいに見えるでしょうね」と答えるサデュース。
「そうかなあ…… 知り合いとか全部死んで 自分だけ置き去りだぜ
 さぞ淋しかろう……」
「チキタはラー・ラム・デラルがいれば 淋しくないでしょ」
そう言いながら、サデュースはクリップの連れであるオルグを思い出していた。
オルグの命を救うためにあんなことをしたのだろう…とサデュースは考える。

バランスとサデュースは人気のない村までやってきた。
家や付近を調べて、人喰いカズラのタネの入手路を見つけるためだ。
バランスはツタに絡め取られた青年を助けようとして、ツタに首を絞められてしまう。
あわやという所でサデュースが除草剤をぶちまけると、
ツタはあっというまにしおれてしまった。
バランスがサデュースに感謝の言葉を述べているところに、チキタとオルグが現れる。
オルグはバランスに、なぜあの男を助けようとしたのかと尋ねた。
「知り合いなのか」と言うオルグに、バランスは戸惑いながらも否定する。
「そうだよな 知り合いでなくても
 助けたり助けられたりするんだよな……人間って……」

人喰いカズラと美白玉の関連を危惧するチキタとバランス。
その隣で、オルグはクリップの為にみかんを取りにきたのだとサデュースに話しかけた。
クリップの具合が悪いと聞いたサデュースは笑顔になり、
「とっとと死んじまえば愉快なのにね」と答えた。
オルグはサデュースの言葉にショックを受ける。
昔から人に好かれず、助けられることもないクリップをオルグは悲しむ。
そんなオルグに、サデュースは「当たり前じゃない」と言い放つ。
「でも」とオルグは言い返す。「クリップだって人間なのに…… 人間なのに……」
オルグがいなくなった後、サデュースは子供をいじめたような後味の悪さを感じていた。


182 :チキタ☆GUGU:2010/10/02(土) 21:20:51 ID:???
その頃、ラーはオルグに頼まれて、調子の悪いクリップと自宅に残っていた。
クリップは身体が重く、手も足も自分のものでないような感じを抱いていた。

クリップはふと何かの気配に気づき、ラーに小さくなって隠れているように告げた。
現れた長い髪の女は、パイエだった。
しかしその姿は髪型や服装を変えただけではなく、目は人間のものではなくなっていた。
パイエはある人に出会って妖にしてもらったと話す。
「あなたのように 老けない 死なない身体にしてもらったの
 あなたのように 人間達に復讐する為に」
「復讐!?」
パイエはクリップが骸髏の街を作り出した理由は、はるか昔、
人食い人間として追われ、誰からも許されなかった恨みをはらす為だったと言う。
一緒に行こうとパイエは誘う。しかしクリップは「お門違いだ……」と答えた。
骸髏の街が復讐の為だと認めないクリップの返事を、パイエは滑稽だと笑った。
「きれいなフリするな! 血まみれで真っ黒なくせに!!」
その言葉にラーは怒り、クリップがお前についていくなんてありえない!と怒鳴つける。
パイエはひるみながらも、自身がラーの出生の秘密も知っていると告げ、姿を消した。

自宅に戻ってきたチキタに、ラーはパイエのことを話した。
ラーはクリップが急にしゃんとしてきたことが気になるとチキタに囁く。

クリップはパイエの「人間への復讐」という言葉について考えていた。
 たとえどんな理由で 俺があの件を起したにしても……
 まだ 俺には 答えを出したい事ができたような気がする……
 皮肉にも 彼女(パイエ)の出現で……

34話終わり


183 :チキタ☆GUGU:2010/10/02(土) 21:22:54 ID:???
35話

かつてチキタは、クリップの気持ちがわかる唯一の人間だからずっと一緒にいようと言った。
チキタは自分もいつかラーの為に何でもするかもしれない、とクリップに話す。
一方で、骸髏の街はオルグの為ではなく、
人間への復讐の為だったというパイエの言葉は「新説」だとクリップは考えていた。

パイエの出現を知り、サデュースはチキタたちにパイエとの関わりを語る。

パイエは盗賊と売春婦の間にできた娘。そしてサデュースの兄の幼なじみだった。
兄はパイエを好いていたが、周囲は邪悪なパイエとの付き合いに反対した。
パイエはサデュースの兄を利用して妖術・知識を習得し、それを悪事に使った。
兄は7年前の件で命を落としている。
サデュースはパイエの悪事はザイセルの一族に責任のあることと思っていた。
パイエは人間を大好きで、特に意のままに操り弄ぶことを好んだ。
だからこそ、ペトラス皇帝のカリスマ性に平伏したのだろうとだとサデュースは話す。

パイエを妖にした存在、彼女が話したラーの出生の秘密について気にかけるチキタとラー。
そこにいくつもの人間の目玉が出てくる。現れたすべての目玉は、じっとクリップを見つめた。
その時、部屋の扉が開き、眼窩から血を流した老夫婦が現れる。
ふたりは7年前に骸髏の街で子供や孫をすべて失った夫婦だと名乗った。
先日、若い娘(パイエ)がやってきて
目玉を差し出せば子や孫の命を奪った張本人を見せてやると言ったのだという。
老爺はカタキであるクリップに鎌で襲い掛かるが、あっさりと術で弾かれてしまった。
サデュースは打ちひしがれる老夫婦の手を取り、少女について話して欲しいと頼む。
老夫婦をつれて帰る前にと、サデュースはクリップに思い切り平手打ちをした。
サデュースは笑顔のまま、二度とクリップの前で泣き言を言わず、皆と力を合わせて
必ずクリップとオルグを仕留めてみせると言い放った。


184 :チキタ☆GUGU:2010/10/02(土) 21:24:56 ID:???
サデュースが家を出ると、外で待っていた老夫婦は泣きながら礼を言った。
先ほどのクリップとのやり取りを聞き、見ることができた。
いつかみんなであいつを倒そうと老夫婦は話す。
サデュースはその姿に涙を浮かべた。

目玉の持ち主がまた来ればチキタがわずらわしいだろうと、クリップは自身が出て行くことを提案する。
チキタはわずらわしくないと答えるが、クリップは聞き入れなかった。
クリップは自分とチキタは違うと言う。
チキタには大切な人間がいて、人間の中で人間としてやっていけるから、
一緒にいる必要はない。そう話す途中で、クリップは言い直した。
「ああ そうか…お前 俺を見張ってたんだよな 7年前のような事を もうしないように……」
チキタは自分も7年前のつぐないがしたいのだと語った。
自分がクリップを止められなかったのが自身の怠慢であり、責任を感じていると言う。
それを聞いたクリップは、チキタもあの女も怠慢ではなく傲慢だと言い放つ。
部屋を出て行くクリップの背中を見ながら、だけど、とチキタは考える。
 だけど クリップ……
 さっきのあの夫婦が サデュースから受け取れた あんな気持ちを……
 俺がお前に あの頃渡す事ができていたなら……

明日の朝には目玉の術が解けて何も見えなくなるとオルグから聞いたラーは、
せめて朝まできれいなものを見せてあげようと、外に置いて星を見せようとする。
チキタはそんなラーを「やさしくなったねぇ…」と抱きしめる。
「そう……!?」と喜ぶラー。

翌朝、カラスがぎゃあぎゃあ鳴きながら目玉をついばんでいる。
ラーは泣きながら、夜明けとともに目玉を全てカラスに食べられたと訴え、
チキタは少々おバカなところは変わんないな…と呆れる。

35話終わり


185 :マロン名無しさん:2010/10/02(土) 21:26:18 ID:???
36話

渦巻きのような模様の入った大きな目、餓鬼のような姿の妖が人間を食べている。
「美味い 美味い 困った これも美味い」

チキタたちは三対いた人喰い妖を退治するが、集落はほとんど全滅してしまっていた。
オルグは自分も見たことがない人喰い妖だったので、首を持ち帰って調べることにした。
あまりの臭気に吐くサデュースを気遣い、
オルグは匂いでスッキリする葉っぱを差し出した。

サデュースを心配するチキタに、バランスはサデュースが疲れていると話す。
先日の目の見えない老夫婦はサデュースたちザイセル一族のところに身を寄せていた。
7年前に孤児や孤老になった人間が集まっており、その中でうまくやっていると言う。

サデュースは気分転換に茶店でハーブティーを飲みながら、オルグのくれた葉を見た。
「憎み続けるのは なんて難しいんだろう……」
ザイセル一族のところでは、明るく世話を焼く孤児たちに囲まれて、老夫婦は微笑を浮かべていた。
傷ついた者たちが支えあい、忘れなくても、次の幸せを見つけていく。
それが人間の強さだという父の言葉をサデュースは思い出す。

サデュースを除くチキタたち5人は、自宅に戻って人喰い妖を調べていた。
オルグはこの妖は3つの生物の合体だと話す。
奇妙な模様の両目玉をとると、顔は人間の形になった。
オルグは人間の眼底にひとつずつ卵を植えつけ、寄生させ、本体を操っているのだろうと分析する。
その話をきいて、バランスは顔色を変えた。


186 :チキタ☆GUGU:2010/10/02(土) 21:27:30 ID:???
ザイセル一族の元に戻ったサデュースは、涙を流して立ち尽くしていた。
「困った 困った」「美味い 美味い」と言いながら、
二体の老いた妖が孤児たちを食べ尽くしている。
そこにパイエが現れ、サデュースの目の玉をくりぬいて同じにしてあげると微笑んだ。
サデュースは「触れるな」と言霊を操りパイエを退かせようとするが、
吐いたせいで喉がいかれていることに気づく。
私はここまでなのかしら…と考えながら目的を尋ねるサデュースに、
パイエはツタや土虫、美白玉を使って、無敵になるために"不味い人間"を探しているのだと言う。
意味がわからずに戸惑うサデュースに、パイエは"不味い人間"は人喰いにとって劇毒だと話す。
なおもサデュースが疑うと、パイエはチキタとクリップが"不味い人間"だと言った。

その場にチキタたちが助けに現れる。
オルグとクリップはあっという間にパイエを追い詰めるが、
パイエは「ダムダム」に助けを求めて姿を消してしまった。
ラーは困惑するが、オルグは「ダムダム・グーグーか」と呟く。

ダムダムが誰かわからないのに、知っている。
その事実に戸惑い、ラーは人型のままチキタに抱きついた。

36話終わり


187 :チキタ☆GUGU:2010/10/02(土) 21:30:16 ID:???
37話

バランスとサデュースそれぞれの一族の歴史書にもダムダム・グーグーが記載されていた。
それによれば、彼は五百年前の妖作りの天才だった。
皇帝の命で不老不死の研究をしていたが、ある日、行方知れずとなったという。

ラーは「ダムダム」という名前に懐かしさがあるのに、何も思い出せないことに動揺していた。
オルグが言うには、妖にはオルグたち天然のと、ラーのような人工のがあるという。
ダムダムの作る人工の妖には「くせ」があり、
シャルボンヌ、ギスチョ、ラーはダムダムの作品だと話した。
ラーの額にグーグー家の家紋が入っているのは自信作だったからだろうと言う。
チキタは、ダムダムがギスチョやパイエのような危険な妖を作り続けることに疑問を抱いた。

バランスとサデュースはふたり、馬を引きながら歩いている。
人喰いどもやクリップよりも、人間をもてあそぶパイエを先に何とかすべきだというサデュース。
ふたりとも人喰いの劇毒である"不味い人間"の存在はまだ父親に伏せているものの、
いつか人喰いを倒さなければならない。
その時、チキタはどちらの側につくんだろう!?とバランスは考えた。

平原にいるクリップはツタのようなものが右足に絡まり、足止めをくらっている。
再度、一緒に行こうとクリップを誘うパイエ。クリップは「殺すぞ」と言う。
パイエはそんな言葉は聞き慣れていると言い返した。
子供の頃から危険にさらされて、身を守るために死に物狂いで妖術を学んだと話す。
パイエは土クラゲ(クラゲの形をした妖)に乗って飛び去ろうとするが、
ツタ(本当は土クラゲの足)に血を取られたことに気づいたクリップは土クラゲを攻撃する。
パイエが突然現れたサデュースの姿に気をとられた隙に、
クリップは土クラゲを壊して血を回収することに成功する。
バラバラになった土クラゲを頭からかぶって、バランスとサデュースはべとべとになった。


188 :チキタ☆GUGU:2010/10/02(土) 21:31:20 ID:???
巣に戻ったパイエは笑顔で「本当に意外なことがわかったの」とダムダムに報告する。
百年を過ごしたオルグにはクリップの血は無害になっている。
それにも関わらずクリップが取り戻そうとしたのは、
オルグ以外に守りたいものができたからだ、と。
「本当に人間て甘ったれでだらしがない生物ね どこまでいっても……」
そう言うパイエに、ダムダムは「そういう自分はどうなの?」と問う。
パイエは「クリップへの気持ちは乙女心です」と答えて、蝶を指し示した。
蝶には先ほどの隙を突いて奪ったクリップの髪の毛が付いており、それをラーに試すのだと言った。
パイエにねだられるがまま、新しい妖を作る約束をするダムダム。
ダムダムはパイエを乗り越えられないチキタやラーなら会う価値がないと考えていた。
ラーとオルグを倒して、早く彼をひとりきりにして私のものにしたいわ、とパイエは言う。
「どーせ孤独に耐えられない甘ったれですもの きっとそれは容易い……」

土クラゲの残骸を見て、オルグはそれがダムダムの作った妖だと断じる。
パイエとダムダムの存在に危機感を募らせるチキタ。
クリップは風呂場まで行くと、クラゲ汁を落としていたバランスとサデュースに向かって
「とっとと出てきてあの女の話を詳しく聞かせろ!」と怒鳴りつける。
ラーは相変わらず「ダムダム」が思い出せず動揺している。
チキタはダムダムの行動を疑問に思いながらも、まだ会うのが怖いと思っていた。

37話終わり


189 :チキタ☆GUGU:2010/10/02(土) 21:32:55 ID:???
38話

風呂からあがってきたサデュースはチキタたちにパイエのことを話す。

6歳の時に自分の妹を殺して以来、パイエのまわりではケガ人や事故死が続いていた。
しかし盗賊の父親を持つ少女にどうして良いかわからず、
大人たちはパイエに近づくことを禁じるだけだった。
そんな中、サデュースの兄であるクラフトは山の中で沼にはまった所をパイエに助けてもらった。
傷だらけになり、何時間もかけて助けてくれたパイエにクラフトは感謝し、
パイエは自身に痛覚がないことをクラフトに教えた。
パイエは陽気で悪びれなく悪事を語り、大人しいクラフトは強烈なパイエに傾倒した。
クラフトは彼女と付き合ううちに、パイエが金持ちと寝て稼いでいること、
パイエの父がかかえている女が汚くなると足を折って物乞いにすること、
また、パイエの一族にも子供が何人かいたが、みんなまるでキズだらけの浮浪児で、
パイエと数人の女の子だけがいつも美しい姿をしていることを知っていく。
パイエと自分の住む世界が違うと感じたクラフトは、二度とパイエに会わないと宣言する。
しかしクラフトは「まるきりパイエが悪いって思えないんだ」とサデュースに話していた。
クラフトが呪文を覚えられないように、パイエは痛いとか苦しいとかがわからないのだという。

そのすぐ後に骸髏の災厄が起こった。


190 :チキタ☆GUGU:2010/10/02(土) 21:40:14 ID:???
サデュースと父は10日後に旅から戻ったので、亡くなった家族の姿はむごいものだった。
唯一姿がないクラフトの姿を探していると、パイエが現れ、庭にあった氷室に案内した。
そこにはパイエが持ち込んだ花々できれいに飾られたクラフトがいた。
「毎日氷をかえたけどそろそろ限界だったわ 早いとこ燃やしてね」と言ってパイエは去った。
生前、クラフトは「パイエはね 花よりも宝石の方がきれいだって言うんだよ」と話している。
花のほうがきれいだと思う、というと、花は枯れて汚くなると答えた、とも。
「"痛み"がわからない彼女にとっては
 "汚くなる"ってことが一番恐ろしい事みたいだな……」とクラフトはサデュースに語った。

サデュースはパイエについて、出会った中で一番計りがたい人間だと評する。
しかしクリップは実にわかりやすいガキだと思った。
腹の中が穴だらけで、なんにもつかめずに全部通り抜けていくのだ、と。
そしてパイエもクリップを"わかりやすい"と思うからそばに来たいのだろうと考える。
ラーは自分とパイエはちょっと似てる、と言った。
理由を聞かれたラーは「俺もチキタをなめるまで"痛い"ってよくわからなかった」と答える。
「わかって良かったね」と言うチキタに、「そうだね」と答えるラー。
ラーはカップの飲み物を飲むと、そのまずさにむせる。
クリップは水甕と蝶の姿を見咎めると、グーグーの秘伝の書で結界を張ろうとチキタに言った。

隠れ家からチキタたちの様子を見ていたパイエは、ラーの様子に落胆した。
クリップの髪を細かくしたものを水甕に入れてラーに飲ませたのに、たいした効き目がない。
なんとか血や肉を食べさせる方法がないかしら、と話すパイエ。
ダムダムは「お前は……賢いね」と言う。
「昔からよくそう言われたわ」「誰に!?」「さあねえ……」
パイエは時々、クリップと言おうとしてクラフトと言いそうになる。
そしてクラフトの事を思い出すと胸の奥が少しチリチリした。
これが"痛い"ってことかな?…とパイエは思っていた。

オルグは水甕の水を飲んで「この水 美味いじゃん」と驚く。
しかしラーは「まずいのっ!!」と言い返し、一緒に水をくみかえに行こうと誘った。

38話終わり


191 :チキタ☆GUGU:2010/10/02(土) 21:43:55 ID:???
39話

グーグー家を訪れたバランスは、クリップの結界をヘタクソと批評して、あれこれと気になる点を指摘する。
チキタとクリップは書物でグーグーについて調べていたが、未だ成果はない。
同じ本に手を伸ばそうとしたバランスは、袖の隠し武器でチキタの手を切ってしまう。
慌てて血を拭い、バランスはチキタに謝った。

バランスはグーグー家を離れると、パイエを呼んだ。
パイエはチキタの血がついた布と引き換えに、捕らえていたサデュースを開放して飛び去る。
サデュースはパイエが約束を守り、自分を殺さなかったことを不思議に思った。
パイエは彼女なりの理由に従って行動しているのだろう、とバランスは言う。
サデュースはチキタ達を気にかける。
できるだけの結界を張ってきたので、家の中にいれば大丈夫だろうとバランスは答えた。

パイエの接近に気づいたクリップは、外に出てパイエを捕まえようとする。
チキタも付いて行こうとするが、クリップは「足手まといになるから」と撥ねつけた。
やり取りを聞いたオルグは、この中で一番強い自分がパイエを捕まえようとする。
クリップの制止は間に合わず、オルグはあっというまに家を出てしまう。
パイエは土クラゲのシェルターの中で、クリップたちが家の外に出てくるのを待っていた。
土クラゲを壊そうと力を使い始めるオルグだったが、いきなりぽてっと倒れてしまう。
クリップたちに続いて外に出てきたラーもまた、「空気が痛い」と苦しみだした。
パイエはチキタの血を霧状にして周囲に撒いたのだと得意げに説明する。
土クラゲを壊そうと術を使うクリップに、チキタはオルグを助けるほうが先だと怒鳴る。
ラーは泣きながらドロドロと溶け始めていた。

離れた岩陰からその様子を見ているバランスとサデュース。
バランスはパチンコ(スリングショット?)のような道具でクラゲシェルターを壊す。
怒ったパイエはふたりの前に飛ぶが、その隙をついたオルグがパイエの胸を突き破った。
オルグもラーもけろりとしていて、ラーは苦しんでいたのは芝居だったと白状した。


192 :チキタ☆GUGU:2010/10/02(土) 21:46:12 ID:???
チキタたちは重症のパイエを家の中に入れ、両手両足に封魔の印を結んだ。
死にたくなければダムダム・グーグーの居場所を言うように求めるクリップに、
パイエは「死ぬのなんか どうでもいいのよ」とあっさり答えた。
彼女はペトラス皇帝のもとに持ち込まれた不老不死の情報からダムダムを知り、
皇帝が亡くなった後は人間が嫌になってダムダムの所に向かったのだと語った。
ダムダムは妖になりたいと言ったパイエに、まず人間をやめろと言う。
それが自分を試す言葉だと感じたパイエは落ちていた石を拾って――。
妖であるパイエが髪をほどくと、額に傷跡が見えた。
「ダムダムはこの傷を 消してくれなかったわ」

サデュースと風呂に入ったオルグはぐったりしてしまった。
クリップは「ああ 疲れたんだろう」と言ってオルグを受け取る。
パイエは大っ嫌いな人間を全部殺してくれたクリップに感謝しているのだと告げた。
いつも殴る母、すけべジジイ、のけ者にした町の奴ら、
私とクラフトの付き合いに嫌な顔をしたザイセルの一族。
それから、"もう会わない"と言ってきたクラフト。
「だから私 あなたが大好きなの あなたのそばに 来たかったのよ……」

グーグー家から帰る前に、バランスはチキタに、
ダムダム・グーグーの所に行くときは自分たちも一緒に連れて行って欲しい頼んだ。
「でも命の保障はないよ?」
バランスは笑って手を振った。「何を今更 そんな事もう とっくに毎日じゃないですか」

パイエが撒いたチキタの血を感じたのに、ラー・ラム・デラルは不思議なくらい平気だった。
すっかりまいってしまったオルグとは裏腹に、ラーは気分が良いくらいだ。

バランスは一緒に帰る道中で、サデュースに
「事態が落ち着いたらおれたち2人一緒になろうね」と言う。
サデュースは「何浮かれてんのよ ばかっ!」とバランスを叩いた。

39話終わり

193 :チキタ☆GUGU:2010/10/02(土) 21:50:41 ID:???
40話

眠りから覚めたクリップは、チキタが掛けた布を投げ捨てる。
その辺の人間と同じ扱いをするなとクリップは怒った。
「この際だから言っとくが お前が7年前のことを"許せない"とぬかすなら
 俺に仲間みたいな態度をとるのもやめろ
 これからだって 俺はオルグの為なら何度だって同じことを繰り返すからな」
さらにクリップは続けて、ジャマするならチキタもラーも倒してやる!という。
チキタはクリップのムシの居所が悪いみたいだと指摘した。
ダムダム・グーグーに何を期待しているのかと尋ねるチキタに、
クリップは"不味い人間"や"百年"の本当の意味が知りたいのだと答えた。
チキタはひょっとしたら、不老不死、人喰いの妖怪、"不味い人間"、百年の時間が
全部関係あるのかもしれないと話す。
その時、オルグが目を開けて、パイエが目を覚ますと言った。


194 :チキタ☆GUGU:2010/10/02(土) 21:53:58 ID:???
目を覚ましたパイエは、クリップににっこりと微笑みかける。
ダムダムのことを聞かれると、彼女は
「危ないからダメよ……」と心からクリップを案じる様子を見せた。
チキタたちが態度の違いに戸惑っているところに、バランスとサデュースが合流する。
オルグはパイエを見つめて「もう そろそろだめだぞ」と告げた。
パイエはクリップの呼び掛けだけに応じて、嬉しそうに笑った。
「ダムダムは 時々しかいないの もう 時々しかいないのよ クラフト」
そう言って、パイエは再び、危ないから会わないで欲しいと『クラフト』に懇願する。
「大丈夫」とクリップは答えた。「俺は死なない 知ってるだろう!?」
パイエはクリップの言葉を肯定する。
最後にクラフトを見たときと同じように、ペトラス皇帝の宮殿の奥で、花の中で眠っていた。
死んだなんて信じたくないって思ってたけど、やっぱり生きてたのね、とパイエは語りかけた。
オルグは、パイエは初めてクリップを見たときから、
クラフトとクリップを混乱していたのだろうと言った。
パイエの額の傷が「ぱん」と大きな音を立てた。傷から一筋の血が流れる。
ぐったりしたパイエはクリップに水晶の欠片を手渡し、死んだ。

すっかり元気になったオルグは、ラーと一緒に、パイエの為の花を摘んだ。
サデュースは「あの女は花なんか好きじゃなかったわ!!」と花を取りあげて、
とっととパイエを燃やすように言った。
クリップはバランスと一緒に、妖達の作った火柱を家の窓から見ている。

ヒステリックなサデュース、いつも通りのチキタ、
グーグー探しにやる気のバランス。そしてクリップとオルグ。
ラーはみんなの様子を見ながらそれぞれの悲しみを感じた。
さんざんてこずらされたパイエが死んだのに悲しむ姿を見て、
人間はなんて不思議なんだろう…とラーは考えた。
そしてその夜、ラーは気づいた。
眠るチキタにキスをしたのになんともない。チキタはラーにとって無害になっていた。

40話終わり



238 :チキタ☆GUGU:2010/11/07(日) 20:13:29 ID:???
41話

ラー・ラム・デラルは8年と少しで、"まずい人間"であるチキタが無害になった。

以前、オルグの知る人喰い妖は60年飼育したまずい人間を「おいしい」と食べた。
しかしその後は人間を食べようとせず、飼育していた人間の名前を呼びながら餓死してしまう。
オルグは"百年"という時間に意味はなく、人喰いと飼育されるまずい人間が馴れ合い、
相思相愛になるまでの時間が"百年"だろうと語った。
もう"百年"が終わると知り、ラーは焦って「ダムダムに頼みたいことがあるんだよ!」と口走る。
チキタはその言葉の意味を問うが、ラーは答えない。

サデュースは"百年"は自滅のシナリオだと指摘した。
ラー・ラム・デラルも、オルグも、もう人を食べることはできない。
相思相愛の人間ができた人喰いは、心がある限り、人間を食べられずに餓死してしまうのだ。
「"百年"って 一体誰が考え出したことなの…!?」

パイエの残した水晶を手がかりにチキタたちはダムダムを探したが、成果はなかった。
数日後、バランスは「ダムダムはもう時々しかいない」というパイエの言葉を思い出して、
同じ所に時間を変えて行く必要があると考えた。
夕食後、疲れて眠ってしまったサデュースを置いて、チキタたちは近くの山にやってくる。
その時、チキタの額にグーグー家の家紋が表われた。
チキタが水晶を投げると、岩場に隠れ家の入り口が出現する。
その奥には、ラーにそっくりの顔立ちの黒髪の女性、ダムダム・グーグーがいた。
顔が同じなのはラーが初めに人型を取るときダムダムを基本にしたからだと説明する。
彼女はまた、パイエやラーたち多くの妖を作ったのは、
これから起こることを阻止するためだと語った。

41話終わり



239 :チキタ☆GUGU:2010/11/07(日) 20:15:09 ID:???
42話

ダムダムの生まれた頃、グーグー家はひとつの村ができるほどの人数がいた。
また、よく人喰いが出た頃だった。
ダムダムは何度も危機を脱する中で、自分が人喰いに食べられない人間だと知る。
そして彼女は人喰いの研究を始めた。
人喰い妖を飼い始めたダムダムは歳を取らずに、5百年を過ごした。
ダムダムは複数の妖を飼ったが、誰もがダムダムも他の人間も食べることを拒み、
やがて飢えて死んでいった。
時間はかかるが、人喰い妖を葬る確実な退治方法だと考えたダムダムは、
まずい人間と"百年"の話を妖たちに広めたのだった。

ダムダムは飼っている人喰い妖が死ぬ度に、彼らの気配を近くに感じるようになった。
そしてある日、見知らぬ子供を殺して食べようとした自分に気づいて愕然とする。
 私のまわりに 私の中に 死んだはずの妖たちがいる……
絶望したダムダムは死のうとしたが、
不老不死の体ではどんな方法を使っても死ぬことができなかった。

それを聞いたクリップは突然ダムダムを攻撃する。
けれどダムダムにはあっさりとそれを防ぎ、傷一つつかなかった。

ダムダムはラーを見て「かわいいなぁ…」と微笑みかける。
「それでラー・ラム・デラル 私はお前を作ったんだよ
 お前ならひょっとして 私を殺してくれるかもしれないと 思ってね…」

42話終わり



240 :チキタ☆GUGU:2010/11/07(日) 20:18:15 ID:???
43話

強い妖たちを作れば自分を殺してくれると期待したのだと、ダムダムは語った。
チキタは声を荒げる。
「ばかな!! あの……パイエやギスチョが どれほど多くの命を奪ったか」
「その ラー・ラム・デラルもね」
「おっ… 俺は…… もう人殺しなんか しないよ……」
動揺するラーを、チキタは「もう 昔のラー・ラム・デラルじゃない!」と庇う。

ダムダムは正気を失いつつある自分をすぐに始末すべきだと言った。
私にはグーグー家始まって以来の才能、妖たちの魂、人喰い達には猛毒の体がある。
そう話すダムダムに「そして 何よりも」とクリップは続けた。
「そして 何よりも 人間に対しては激しい憎悪を抱いている」

ダムダムはチキタたちにもう帰るように促し、
もう一度ここに来るために、足元の水晶をひとつ持って変えるように言った。

隠れ家を出ると、皆を追いかけてきたサデュースがいた。
クリップは率先して隠れ家を出ようとしたバランスを臆病者と罵るが、
バランスはダムダムの周囲に殺気だった気配を感じていたのだと言い返す。
一方のクリップは、妖たちの魂はもうなく、ダムダムの話は詭弁だと怒った。
クリップが攻撃したとき、ダムダムを守ったのは本人の力だった。
「ダムダムは『死ねない』んじゃなくて 『死にたくない』んだ!!」



241 :チキタ☆GUGU:2010/11/07(日) 20:21:32 ID:???
クリップは人喰いとして人間に追われた。誰も傷つけても殺してもいないのに。
なのにそれはそんなにも許されないことなのか。許されないことなのか……。
何百年さまよっても、クリップは何も忘れられなかった。
パイエに指摘されて、はじめて人間を憎んでいたことに気づいた。
骸髏の街が復讐のためだったのかはわからない。
「ただ 人間は結局 どこまでいっても
 いつまでたっても"人間"から完全に離れることなんてできないんだ」
たとえ、ダムダムのように5百年生きていても、忘れない。何もかも。
「だからあの女が妖のせいにしている "人を殺して食べよう"とする衝動にも……
 きっと何か たった14、5年しか生きちゃいないお前らにだって わかる理由がある」
サデュースは「そうね」と背中越しに言った。
「たった15年しか生きちゃいない私にだって あなたの気持ちがわかるんだものね」

サデュースが行ってしまった後も、
クリップは長い間凍りついたように焚き火の前から動かなかった……。

ラーは涙を流した。
「どうしてもっと早く 生まれてすぐに チキタに会えなかったんだろう……」
 俺もクリップも 決して許されない
 あの空の星が消えていくように
 チキタに出会うまでのラー・ラム・デラルも消えてしまえばいいのに……

43話終わり



242 :チキタ☆GUGU:2010/11/07(日) 20:23:14 ID:???
44話

ダムダムの水晶を持ち、隠れ家の周囲を調べているバランスとサデュース。
ふたりはダムダムの作った二匹の人喰いを見つけると、あっという間に退治した。
その様子を見たラーはバランスに言う。
「俺がもし こいつくらい弱ったら 俺の事もすぐ 殺すね」
「うん でも お前を死なせた後は きっと俺もサデュースもひどく辛いと思うよ」
驚くラー。
「だって 俺もサデュースも お前を好きだもの」「……」
ラーはバランスの持っていた水晶を見つめる。

 水晶の道を 飛びまわった
 いきなり なんでもできた
 歩けず立てずはえず 走れず
 飛ぶものを見つめ 走るものをみつめ 泳ぐものを見つめるばかりだったのに
 「お前は」記憶の中のダムダム・グーグーが言う。
 「まるで "あこがれ"のかたまりだね…」

ラーは涙を零す。
震えながら「大丈夫」と答えるラーを、サデュースは抱きしめた。
 よろこびも 知らなかった……
 人間の手が温かい事も
 今日みたいな日が来る事も



243 :チキタ☆GUGU:2010/11/07(日) 20:25:59 ID:???
クリップはグーグー家の書庫からラーのことらしき記録を見つける。
人の形さえなしていない人間の子供をグーグー家に引き取ったという記述だった。
また、グーグー家も不老不死の研究を熱心に行っていた。
「不老不死をどう思う?」とクリップに聞かれてチキタは苦笑する。
「さあ…!? まだ死にたくないけど…」
「そうだろうな……」
クリップはチキタの言葉を心の中で反芻する。
まだ死にたくない。まだ死にたくない……。

バランスはダムダムの周囲に感じた殺気だった気配を警戒している。
「生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされた 大勢の生物の 喘ぎみたいな…」
チキタたちに説明する途中で、ラーに呼びかける声が響いた。
"じきに お前も夢を見る" "お前の存亡に かかわる伝言の夢……"
オルグは声の本体のチンケな目玉妖を見つけて飛び掛るが、あっさり逃げられてしまう。

くそチンケな奴の言葉どおり、その夜、ラーは"伝言の夢"を見た。

44話終わり



244 :チキタ☆GUGU:2010/11/07(日) 20:28:12 ID:???
45話

翌朝、ラーはひとりでニッケルの墓参りに出掛ける。
いつもはうっとうしいくらい一緒にいたがるラーの変化に、チキタは困惑する。
"伝言の夢"を見た場合、いつものラーなら大騒ぎしてチキタに話すだろうに、それもない。

ラーはニッケルの墓に座り込んでいた。
昨日、バランスはラーに「本当は 人間 喰ってもいいんだぜ」と言ってくれた。
「ただし時間をくれ たとえば俺ならサデュースと結婚して 子供を2、3人作って
 そいつらがある程度大きくなるまで待ってくれ」「……」
「考えてみりゃ お前らが人喰いなのは お前らのせいじゃないんだもんな…」
ラーはニッケルの言葉を思い出していた。"俺を喰っていいんだぜ ラー・ラム・デラル"
そしてその頃から、ラーは人喰いができなくなった。
餓死ならそれはそれでかまわないけど…。一人で思い悩むラー。
呼びに来たクリップは、様子のおかしいラーに深くは尋ねず、ただ助言する。
「どうせどんなに思いつめても その時がきたらとっさに体は動いてしまうんだ
 自分が求めている方向へ」「ふたつの道は選べないし 後戻りもできない」
7年前のクリップがそうだったのだろうと思いながら、ラーは頷いた。

家に戻ると、結婚衣装のバランスとサデュースがいた。
「思い残しがないように」とけさ結婚して、チキタに部屋を借りて暮らすのだと言う。
ふたりの笑顔を見て、ラーはふたりが何度も死に掛けてきたことを思い出す。
今回のダムダムの件も命懸けだ。ラーは心の底からふたりをなくしたくないと願った。
 大切なチキタ。
 大切なクリップとオルグ。
 ずっと一緒にいる為には どうしたらいいんだろう…!?

その日の深夜、ラーはひとりでダムダムの前に立っていた。
ふたりきりで話すために隠れ家の入り口を塞いできたとラーは説明する。
「全部話してくれる? 俺が人間だった頃の事から…」

45話終わり



245 :チキタ☆GUGU:2010/11/07(日) 20:30:03 ID:???
46話

ダムダムが何匹目かの妖を飼っているころ、奇形の子供が持ち込まれた。
立てない座れない声も出ない。人間の形からは程遠く、普通は生きられないほどだ。
母親にも見捨てられて、カゴの中に入れられて、それでもなかなか死ななかった。
村人は子供を殺そうとしたが、不思議な不都合が起きてそれもできず、
困った末にダムダムの所に持ってきたのだった。

ダムダムは小さな奇形の子供に語りかける。
「なんて醜い姿だろう これでは母親に見捨てられても仕方ない」
その時、小さな小石が飛んでダムダムの目の下を傷つけた。
ダムダムの言葉を理解し、生きようとする意志を見て、ダムダムは子供を妖にすることにした。
「自由になんでもできるようにしてあげよう
 その代わり いつか必ず私のところへ帰って来るんだよ……」

 そうだ 覚えている
 鳥が飛ぶのを眺めて "あんなふうに飛びたい"と思い
 魚が泳ぐ姿を見て"あんなふうに泳ぎたい"と思った
 だけど
カゴの中の姿を見て、おびえる少女。
一緒にいる女性はそこには何もいないと言って笑う。
妖になったラーはぐったりした少女を掴んでいた。その足元には多くの死体。



246 :チキタ☆GUGU:2010/11/07(日) 20:31:50 ID:???
どうして自分を人喰いにしたのかと怒鳴るラーに、ダムダムは微笑んだ。
ラーには体がない。だから大きなクジラにも小さなイトミミズにもなることができる。
強いエネルギーの塊であるラーは人喰いではない。何かを食べる必要はないのだから。
「じゃあ俺は どうして ずっと人を殺してきたの…?」
「そんなこと 私に聞かなくたって わかるだろう…?」
ダムダムはラー・ラム・デラルを人喰いにしなかった。勝手に人喰いになっただけだ。

ラーの不在に気づいたチキタたちは、ラーを追いかけてダムダムの隠れ家の入り口まで来ていた。
そこに、本来の姿(奇形の赤ん坊)のラーを抱きかかえたダムダムが現れる。
チキタたちは憤慨するが、ダムダムはただ昔話をしただけで、
ラーが自ら今の姿になったのだと語った。

46話終わり



247 :チキタ☆GUGU:2010/11/07(日) 20:43:03 ID:???
47話

ラーを抱いてチキタは怒鳴る。「一体何の話をしたんだ!? ダムダム!!」
「私は そいつに本当の事を話してやっただけ
 "お前は 人喰いじゃない"って」
ラーはチキタにそのことを知られたくなかった。
ラーは叫び声をあげて、ダムダムを隠れ家の中に吹っ飛ばした。

子供の姿のまま沈黙して、誰にも何にも語らないラー。
ラーは心の中で涙を流していた。人喰いじゃなかったのにたくさんの人を殺してしまった。
チキタに言えない秘密ができてしまった。俺は"人喰い"じゃなかった。
かつて"気持ち悪い" "化け物!!"と吐き出された言葉。向けられたまなざし。

 ダムダムに何にでも姿を変える力をもらって
 可愛くなったりきれいになったり
 自由にもなっ…て

「それで満足だったはずなのに」
微笑みあい、手を繋ぐ母娘。それを見つめるだけのラー。

 どうしても いつまでたっても
 自分には何かが足りないような気がして……

「たぶんその気持ちをずっと"空腹"だと勘違いしていたんだ」
チキタに嫌われることを恐れ、サデュースたちにも知られたくないと、ラーは泣く。
「バカなクマだな…」「何を今さら…」そう呟いていた二匹の魚は、
カナヤンとチョロルの姿をとった。
 ※ラーの夢に出てくるカナヤンとチョロルはチキタの両親の仮の姿(第33話より)



248 :チキタ☆GUGU:2010/11/07(日) 20:44:37 ID:???
「チキタは もう何があってもお前のことを嫌いになったりはしないよ」
「わかってるだろう?」
「…… うん そうだね…」
 俺を許せないのも 俺を嫌いなのも チキタじゃない
「今 俺は 自分で自分を 許せないんだね……」

チキタがラーを抱いて眠っている頃。
グーグー家には信じられない量の妖たちが押し寄せていた。
彼らはラーの名を呼び、ラーが眠っていると知ると笑い出した。
「ネテル!?」「じゃあ"伝言の夢"を見てるんだ」「ソ…ソウダ」「デンゴンノユメ」
「ソレヲ ラー・ラム・デラルガ ミテクレタラ」「モウ アンシン…」「安心」

すべてダムダムの作った妖であり、
バランスがダムダムの周囲に感じていた不穏な気配は彼らのものだった。
ダムダムを倒そうとしても、あの量の妖に襲われては勝てるわけがない。
クリップはラーを叩き起こして"伝言の夢"の内容を知るしかないと判断する。

ラーは自分が呼ばれているのを感じている。
「でもまだ 俺は行かない だってまだ何も 答えられないんだもん……」
 チキタに…… 絶対に言えないことができてしまった
 "伝言の夢"…… "伝言の夢"に関わることもそのひとつだ……

47話終わり



283 :チキタ☆GUGU:2010/11/28(日) 21:25:40 ID:???
48話

真夜中、チキタは額にグーグー家の家紋が表われ、ダムダムの目覚めを知った。
チキタはラーのことを知ろうと、ひとりでダムダムの隠れ家に向かう。
ダムダムはチキタに、この世で一番つらいのは忘れられて放置されることだと語った。
ダムダムはかつては村に住んでいたが、
妖達を飼い、歳を取らなくなり、やがて村の人々に忌避されるようになった。
ダムダムは村を離れて、長い年月を妖達と過ごした。
気が付くと、村は廃墟になり、ダムダム・グーグーを知る人間は一人もいなくなっている。
ダムダムはもはや人間達よりも、妖達の方が自分に近しい存在だと感じ、
多くの妖を飢え死にさせたことを深く後悔するようになった。
「人間なんか 何人でも殺して食べさせてやればよかった」
そしてラー・ラム・デラルと共にいるチキタにも気持ちがわかるはずだとダムダムは言った。
クリップが言ったとおり、ダムダムは人間を憎んでいる。
妖達を死なせた自分。私を忘れて置き去りにしたみんな。
本当は妖達に食べる物をやりたかった。

後から来たクリップが術を使ってダムダムの喉に短剣を刺すが、彼女は平然と投げ返す。
ダムダムは自分に出来なかったことをしたクリップが憎いのだと言った。
「だけど 今 一番憎いのはお前だよ チキタ・グーグー」
今のチキタは、昔のダムダムのように、忘れられることも諦めることも知らないのだから。

ダムダムの首の傷は塞がり、彼女は「こんな事では私は死なないよ」と言う。
「お前の一番大切なラー・ラム・デラルを 連れておいで
 きっと私の事は 私の創った あの子が決めるだろう…… ……」

 今日は目が覚めたら 男の子がふたりも 私を訪ねてくれた
 ああ……
「死ぬなんてもったいない もったいないな…」
 こんな毎日なら…

48話終わり


284 :チキタ☆GUGU:2010/11/28(日) 21:27:52 ID:???
49話

チキタとクリップが隠れ家の外に出ると、ダムダムの作った妖達が囁きあっている。
チキタ達が聞くと、ある妖は"伝言の夢"によれば、
「ダムダムに作られた妖はダムダムが死んだら死ぬ宿命」だと答えた。
妖達は、絶対にダムダムを死なせないと宣言する。
「だってまだまだ 死にたくないもんね」「俺達も ラー・ラム・デラルも」

楽しそうに笑いあうバランスとサデュースの気配を感じながら、ラーは考えている。
 まだ死にたくない。
けれど人殺し妖を作るダムダム・グーグーを、バランス達はそのままにできない。
"伝言の夢"を見たラーは、ダムダムが死ぬと自分が死ぬことを知っている。
夢の中のラーは涙を浮かべて怒った。
俺はずーっとチキタ達と一緒にいたいんだぞ。
自分が死ぬカラクリでダムダムを始末するわけないだろうが。
「だって 俺は まだ死にたくないんだもの!!」
"俺もそうだったよ"と誰かが答えた。
見覚えのある後姿だった。半信半疑のラーに、彼女は「久しぶり」と言う。
ラーは涙を流しながら名前を呼んだ。「ニ…… ニッケル……」

ダムダムの死がラー・ラム・デラルの死に繋がると知ったチキタは衝撃を受けていた。
チキタは7年前、オルグが死に掛けていたのに力になれなかったことをクリップに謝る。
「だけど助けてくれ 一緒に考えてくれ 俺はこれから一体どうしたらいいんだろう……?」
地面に座り込んだまま必死に言い募るチキタに、クリップは右手を差し出した。
「ついて来い 帰るぞ」「うん…」
ふたりで並んで歩きながら、クリップはチキタに語った。
人間の世界からつま弾きをくらいながら生きてこれたのは、オルグがいたからだ。
あの女もひとりではいられず、どんどん妖を作った。
そして「死ななくては」と思いつつも、本当は死にたくないんだ。
もっともっと生きていたいんだ。

49話終わり


285 :チキタ☆GUGU:2010/11/28(日) 21:28:45 ID:???
50話

ラーもチキタも、どれだけ願っても、ニッケルの夢は見れなかった。
ラーの夢の中、ようやく現れたニッケルはふたりのことを全部見てきたと言った。
そしてニッケルはラーを抱きしめて、自分を許せと語りかけた。
「お前も俺も クリップも人殺しだ だけど"空腹"を感じていたんだろ!?」
「……うん おなか…空いてた なんだかずっと…」
チキタ・グーグーと"百年"を始めて、やっとラー・ラム・デラルは
「かわいくても」「きれいでも」「自由」でも「手に入らないもの」を手に入れたのだとニッケルは話す。

それからニッケルは、自分の人生で一番幸せだった事は剣を拾えた事だと言った。
一つ目の妖・ギスチョと戦う中で、逃げる事もできたのに、ニッケルは戦った。
 チキタやラーの為に 自分以外の誰かの為に
それは一度も味わったことのない幸福だった。
「この気持ちを味わうために 俺は生まれて来たんだって そう思った」

「俺にも……選べるんだろうか」と言うラーに、ニッケルは「できるよ」と微笑みかける。
俺でもできたのだから、ラーにも選べるよ、とニッケルは励ます。
「一人でも もう一人じゃないって わかってるだろ? ラー」
 きれいでも かわいくても 自由でも手に入らないものを 俺はもう 手に入れたんだ
ラーは涙を流しながら言った。「見ててね ニッケル」


286 :チキタ☆GUGU:2010/11/28(日) 21:29:48 ID:???
目を覚ましたチキタは一緒に寝ていたラーの姿がない事に気づいて半狂乱になるが、
クマ型ラーはいつも通り皆の食事の用意をしていた。
ラーは「心配かけたな」とチキタに謝った。「でも もう 大丈夫だよ」
チキタはラーに言った。
「ラー 一緒に"百年"やろうな
 お前がもう 人間でも妖でも人喰いでも なんでもいいんだよ
 百年 一緒にいような」
チキタの言葉にぽかんとしていたラーは、嬉しそうに笑って答えた。
「うん もちろんさ チキタ」
その時、チキタの額にグーグー家の家紋が表われる。
呆然としながら、チキタは額を手で押さえた。
 時間をくれよ ダムダム
 "百年"なんて 贅沢は言わない
 だけど もうしばらく……

50話終わり


287 :チキタ☆GUGU:2010/11/28(日) 21:31:55 ID:???
51話

ダムダムの目覚めを知ったチキタ達が到着した時、山は一変していた。
ダムダムの作った妖達はもはや姿を隠さず、ダムダムの周囲を取り囲んでいた。
山のような妖達の後ろには喰われた人間の髑髏が転がっている。

チキタを見上げて、ラーは聞いた。
チキタは優しいのに、俺が人喰いでも『百年一緒に行こう』と言ってくれるのに、
俺が人を喰ってきたこと、人を殺してきたことをどうして許すと言ってくれなかったの?
チキタはラーが大切だからだと答えた。
「お前はこれからもずっと一緒にいる大切な 俺の家族だもの
 だからうやむやにできなかったし 嘘はつけない」
そして、とチキタは髑髏を指差した。
「あなたを同じ人間だと思えばこそ あんな…ことは 見過ごせない ダムダム・グーグー!」
無力なくせに、とダムダムは言った。
「智恵も力もない 無力なくせにどうしてここに来た? チキタ・グーグー」
ダムダムやラーを相手にしては何もできない、とチキタは認める。
「でも ラーもあなたも 俺の言葉を聞いてくれる」


288 :チキタ☆GUGU:2010/11/28(日) 21:33:45 ID:???
ラーはチキタに微笑んで、ここに来たのは最後の人殺しとしてダムダムを殺すためだと言った。
驚くチキタに、ラーは「でも もう だって そんなことは必要ないんだ…」と続ける。
ケガでも魔法でもない。"百年"をクリアした人間にも寿命があったのだ。
ダムダムは自身の死期を知っていたわけではないが、
なぜか自分の作った妖達に会いたくなって"伝言の夢"を作ったのだった。

ラーに「死ぬのは 怖い…?」と聞かれると、ダムダムは笑った。
「いや …… ただ とても眠い… とても眠い とても…」
ラーは自身を元の、産まれたままの姿に戻して欲しいとダムダムに頼んだ。
もう一回、初めからチキタと"百年"をやるために。
ダムダムは自身が死ねばラーに施した術の作用が解けると説明した。
「おやすみ 会いに来てくれて ありがとう これで やっともう
 何の心配もない…… ……」
そしてダムダムは姿を消す。
 何の心配もない……
ラーはクマの姿をとり、哀しげな顔のチキタを笑顔で見上げる。
「帰ろ! チキタ」「ラー ……」
 俺は死なない チキタと"百年"を
 "百年"を……

51話終わり

289 :チキタ☆GUGU:2010/11/28(日) 21:37:29 ID:???
52話

ダムダムは寿命で死に掛けている。
ラーはのんびりといつも通りだが、チキタは書物を撒き散らしていた。

もうすぐ元の姿に戻って何も出来なくなるラーは、バランスに頼んだ。
「チキタを お願い チキタに 罪はない」
バランスはサデュースとふたり、絶対にチキタから離れないと約束した。
バランスはラー・ラム・デラルにも言ってやりたかった。"お前に罪はない"

方法を探し続けるチキタに、サデュースは何を探しているのかと問いかける。
ダムダムやラーは何年生きたのか。人は寿命である百年以上を生きる必要はない。
「わかってるよ!!」とチキタは怒鳴った。
「だけど…… 何もしないでいるなんて……」
チキタは混乱してつぶれそうだ。ラーはチキタを「泣くな」と慰める。

眠るチキタに寄り添うラー。その前に、ダムダムと妖達が現れる。
光の扉の前に立つ妖達に「一緒に行こう」と誘われても、ラーは迷わず首を横に振った。
 俺はもう一度
 チキタに何か言わなきゃならないことはなかったか考えたが
 やっぱり何にもなかった
 チキタに話したいことは毎日話していたし
 聞きたいことも毎日聞いていた
目を覚ましたチキタは、産まれたままの姿に戻ったラーを見つけた。

立てず、歩けず、話せない、何も出来ない最弱の体に戻ったラー。
チキタはもう泣かなかった。毎日、ラーの世話に明け暮れている。
ラーはいつも苦しそうだ。本当にこんな体で"百年"をやるのかとバランスは考える。
ラーの「お願い」という言葉が思い出して、バランスは涙を浮かべた。
「こんな体で そんなに長く生きていけるはずないじゃないか」

52話終わり



元の異形の姿に戻ったラーは毎日苦しんでいた。
立てず、歩けず、話せない、体中ができものだらけで痛く呼吸をするのも苦しい。
そんなラーを毎日世話するチキタ、サデュース、バランス。皆が寝ているときはクリップがラーの側にいた。
ある日サデュースは"百年"をやめたチキタが成長を始めた事、バランスの子を身篭った事をラーに告げた。
(成長していくチキタ バランスとサデュースの赤ちゃん)
(見たい……ずっと生きて見たい……だけどそれはかなわない事なんだ) 嘆くラー。

またある日の夜クリップとオルグはラーに別れを告げ家を出て行った。
「俺もオルグもお前が死ぬ所を見たくない」
「だから今からこの家を出て行くよ、もう帰らない。俺はオルグと行くんだから」
「お前が死んだらきっと俺はチキタやサデュースやバランスと同じ気持ちになってしまう。
だけどそんな気持ちにはなりたくないんだ」
「ラー、ありがとな。お前とダムダムのおかげでとても気が楽になったよ。
この体にも限りがあるってわかったから」
「俺はもうただ待っていいればいいだけなんだ、最後の時間まで。きっとその時もあっと言う間だな」
最後は笑顔で去っていくクリップの姿を見て涙を流すラー。



チキタ☆GUGU 53話その2
新しい"百年"を始めて三ヶ月目、苦しみぬいたラーは遂に限界に達した。
話しかけても反応が無くなり、苦しそうに息をするだけ
チキタはラーの側を片時も離れず世話をしていたが、三日目の夜バランスはチキタを休ませるため薬を盛った。
眠ったチキタからラーの世話を代わったバランスは居眠りをしてしまう。
目を覚ましたバランスの膝にラーはおらず、目の前にはいつかラーが使っていた赤十字入りの治癒袋があった。

意識だけの空間、もう痛みも苦しみも無く、耳を澄ませば知ってるもの知らないもの色々な声が聞こえる。
"百年"をがんばれず世話だけさせたことを心中で詫びるラー。
ダムダムとニッケルの声が聞こえてきた。
(お前はまだわかっていない)(チキタはそんな事で不幸になるわけじゃないよ)
(だからもう一回やり直せ も少し賢くなるまでね)

(クマじゃいかんかなあ ありゃあ可愛かった)(ダメに決まってるじゃん!)
今度はぺトラス皇帝とパイエの声。またダムダムとニッケルの声が聞こえる。
(性別……どうする?)(俺がやりたかったことをやらせてやりたい)
(ではこの子のイメージ通り私をモデルに)(年齢はチキタに出会ったときからスタート)
どこからか心臓の鼓動が聞こえてくる。

さあラー・ラム・デラル 百年の本当の喜びと百年の本当の苦しみを
チキタの側で力いっぱい味わっておいで

(誰かのあたたかい手が背中を柔らかく押す)

(耳に響くのは自分の心臓の鼓動)

(目の前は一際まぶしく)

(俺はまだ目を開けることが出来ない)

53話終わり



[チキタのそばを離れないと、ラー・ラム・デラルに約束をしたので
結局最期までバランス・シャンシャンはチキタ達のそばを離れなかった]

すっかりいいオッサンになったバランスの元に、何度めかのシャンシャン家からの呼び出し状が届いた。
だが父親が嫌いなバランスは、誰が帰るかい、とそれをぐしゃぐしゃに丸めてしまう。
「とうの昔に親父どもとは縁を切ると百万回は言ってんだろうが!」
怒るバランスを、美女に成長したサデュースが微笑みながらなだめていた。
「やっぱりあなたにシャンシャンの頭領になって欲しいんでしょ。
私は悪い気はしないわ。何だかんだ言ってもあなたが優秀ってことよ」

そこに彼らの子供達が飛び込むようにして帰ってくる。
子供達は皆それぞれバランスに似ていたり、サデュースに良く似ていたりした。
その中には、チキタの面影がある子供も混じっている。名前はナクタだ。
ナクタは当然のようにバランスの家に「ただいま」と言って帰ってきた。
子供達は二つの家を好きに行き来しているのだ。

部屋も土地もたくさんあったから、チキタやバランス達は少しずつ増築したり離れを作ったり
家を広く大きくしていった。その場所で、バランスとサデュース、チキタとラーは
それぞれの夫婦にどんどん増えていく子供達と一緒に、ずっと暮らしつづけてきたのだった。

その日の夜、ナクタはバランスと一緒に寝るのだと言って泊まっていた。
「ねぇおじさん」
ナクタは尋ねる。昔は山のように人喰いが出たというが、今はほとんど見かけない。
それは父親のチキタや、バランスが退治したからなの、と。
「もう人喰いはいないの?」
バランスは、クリップとオルグのことを思いだしていた。
「いや、今も……いるけど。数が少ないから、もうめったに会わないね……」

次にナクタは母親であるラー・ラム・デラルの事でバランスを質問責めにする。
そのやり取りを、家の見回りをしていたサデュースは、通りがかりに見かけて思わず笑ってしまった。
煮込みオタマジャクシなど懐かしくもおかしい思い出の話をしていたからだ。
(明日、お昼のことでチキタとラーに相談する時に今のナクタの話を教えてあげよう……)

ナクタはバランスの早寝の理由についても聞いてくる。
「おじさんは明日早起きして、山ん中にあるシャンシャン邸まで行かなきゃなんないんだよ」
父親も兄弟も、いくら言っても呼び出し状を送るのをやめる気配がないので、どなりこみに行くのだ。
「山!? 危ないよ、最近山賊がでるって父さんが」
「人喰いに比べりゃ山賊なんぞ、そよ風みたいなもんだろう」
笑うバランスを見てナクタは安心する。「そうだよね、おじさんは強いもんね。山賊なんか……
***
**

バランスの意識は闇に落ちていく。その闇の中で、バランスはかつてラー・ラム・デラルが
よく変身していた可愛い子ぐまの姿を見た。子ぐまはバランスに呼び掛ける。こっちこっち、と。
その声に導かれていく道中、光や花や美しいものが見えた。
子ぐまは更に遠くまで導いていく。こっち、こっち、こっち……

『……バランス』

名前を呼ばれ、目を覚ましたバランスの前。そこにはオルグがちょこんと座っていた。
驚愕のあまりしばらくは口もきけなかったバランスだが、ようやく「オルグなのか?」と声を絞り出す。
「うん。久しぶり」
オルグはまったく変わっていなかった。バランスを見てこんな事まで言う。
「……ちょっと見ない間にずいぶんおっさんになったなぁ」
目の前の光景がとても信じられず、困惑と懐かしさに震えていたバランスは、はっと気がついたように息を呑んだ。
「クリップ! クリップは!?」
「クリップならここにいるよ」
オルグが指し示した後ろには、いなくなってしまった時と何一つ変わっていないクリップがいた。
「信じられない、まるで……時が止まったままだ……」
俺も皆もすっかりオッサンになっちまったのに…!とガクリとするバランスに
サデュースとラーはオバサンだろ、とオルグが突っ込みをいれる。

「信じられない。お前達とは、もう二度と会えないんだと思ってたから……」
目を細めるバランスに、クリップはかすかに笑って言う。
「俺達、ずっと近くにいたんだぜ」
だから、子供達のことも全部知っていると言うクリップにバランスは驚きを隠せない。
「だけど……会えなかった。ずっとみんな、お前達を探していたのに。なぜ……?」
「なんて、言えばいいのかな……」
クリップやオルグは、チキタ達が生きている世界とは少しずれた場所、
つぎの次元のような場所を見つけ、そこにずっといたのだという。
にわかには信じられない話だが、あのオルグやクリップならば不思議はないのだろう。
驚きに慣れてきたバランスはふと自分の体の違和感に気づく。何かが変だった。

「だから、生きてる人間は普通の状態じゃ俺達には気づかなかったろう」
クリップの言葉にバランスは目を見張る。
「……俺、は……」
ああそうだ、とバランスは思い出す。山賊の襲撃。普段なら山賊などバランスにとって
ものの数ではないのだが、問題はその中に年端もいかない子供が混じっていることだった。
「なんで山賊の中に子供なんかいるんだ! 子供相手じゃ何もできなかった」
そんなバランスにクリップは言う。山賊はそれを承知で子供を盾に使ってるのだろうと。
子供をけしかけられ、躊躇したバランスは山賊たちに殺されたのだった。

「……結局、どんな人喰いよりも一番どうしようもないのは人間だったな……」
呟くバランスは今、生と死の狭間にいる。クリップは彼に、体の場所を指し示した。
身ぐるみをはがされ、打ち捨てられたバランスの体はボロボロだ。
「ひどいなー、パンツ一丁じゃないか。自慢の顔もずたずただ」
もはやその体は虫の息。オルグはバランスに顔を向けた。
「お前を……食べさせてね、バランス」
それを聞いて思わずバランスは微笑む。
「ああ……」
「一番最後に人間の心臓の周りを流れる、一番キレイな光を俺は食べるんだ」
オルグは更に言う。「だけど、あの時お前達と別れて以来、一人の人間も殺しちゃいないよ」
考えてみれば世界中どこでだって毎日人間は死んでいるのだ。
だからこの場所でクリップと共に、死に掛かった人間の気配を探って
最期の時を頂くことにしたのだと。
「そうだったんだ……いい方法だな」

「いつか必ず、お前達ともこうして話ができるだろうって信じてたけど。
バランスがまさかこんなに早いなんて……」
そう言うとオルグはひとつ言葉を切った。
「どじ」
苦笑するバランス。血まみれのバランスの体を見てクリップがつぶやいた。
「サデュースが泣くな」
「うん」
この死はバランスにとって思いもよらぬものだった。自分はもっと長生きすると思っていたのだから。
だが、バランスは不思議なくらい落ち着いていた。サデュースと子供達のいる場所に、
あんなに愛した場所に、もう二度と帰れないのに。

「そういう顔をするんだ」
「えっ?」
バランスはクリップの言葉の意味を聞き返す。
「……百年生きた老人も、三日で死んでいく赤ん坊も。突然殺された人間も、
病気で死んでいく人間もみんな同じ。最後はそういう顔をするんだ」
「そうか……」
クリップはようやく何かを見つけたのだ。そんな発見があったのなら、
「クリップは……ここに来て、良かったな」バランスはそう思った。
「そろそろ行くね、バランス。お前の心臓のそばへ」
オルグは倒れたバランスの体の傍に降りると、ちょんちょんと近づいていった。
それを見つめるバランスにクリップは別れの言葉をかける。

「さよなら、バランス」

バランスもまた、別れの言葉を返す。そしてクリップは静かに言った。
「……俺はもう少しここにいて、サデュースやチキタや、ラーを待つよ」
もうバランスには思い浮かぶ事は何もなかった。これから先の事は何も。

すべてが遠くかすんでいく。許したことも許せなかったことも。
夢も、愛も。サデュースの笑顔もかすんでいく。涙も、言葉も。
こんな気持ちになることを知らなかった。バランスは、知らなかった。

たったひとつ残る思いは。

会えてよかった。ただ、それだけだった。
クリップにオルグ、チキタにラー・ラム・デラル……。
会えて、よかった。

そしてバランスに終わりが訪れる。彼の心は最後に……


「女の子ですよ。軽いお産、母子共に元気」
産婆のおばちゃんがにこにこと笑う。
「やった!!女の子だっ!!」
それを聞いてバランスは泣いて喜んでいた。

「女の子だ、チキタ!ラー! 俺は絶対最初は女の子が欲しかったんだ!」
「おめでとう、バランス」、「良かったな、バランス」
チキタもラーも嬉しそうだった。
「ばんざい! 女の子!」そう叫びながら部屋に走りこむバランスを産婆のおばちゃんが叱責する。
「あっ、こら父親! 走らないで!」

バランスが部屋に入るとサデュースが顔をあげた。幸せそうな笑顔を彼に向ける。
赤ん坊はサデュースの腕の中でいとけない寝顔を見せていた。
それを見たバランスの目に涙がにじんでいく。

会えて、よかった……。

サデュース、それから子供達……。

(チキタ★GUGU 終わり)