ハーフな分だけ

Last-modified: 2009-04-22 (水) 13:23:31

ハーフな分だけ/星里 もちる

260 :ハーフな分だけ1/4:2009/04/22(水) 09:22:18 ID:???
ハーフな分だけ(星里もちる)

御前岳実(おまえだけ みのる)は駆け出しの役者。
容姿と演技力は申し分ないのだが、問題なのは、
「クサい台詞が苦手で、演技中でも思わず吹いてしまう」という点。
アルバイト先のレンタルビデオ屋で、流していた映画の台詞にも大爆笑。
たまたま店には、その映画の字幕翻訳を担当した、音裏由羽(おとうら ゆう)が居た。
真剣に考え抜いて選んだ言葉を笑い飛ばされ、泣きながら怒鳴る由羽。
由羽は、駆け出しの翻訳家で、この翻訳がやっとつかんだ一本立ちの仕事だった。
女性一人で仕事をしていく困難や、
周囲の女友達が結婚して仕事を辞めていく寂しさと戦う日々。

御前岳のマネージャーの鈴木は、御前岳の学生時代の先輩で、腐れ縁。
かつては自身も役者を目指していたが夢破れ、今は御前岳を一人前にするのが目標。
「御前岳は土壇場が面白い」が口癖で、考え計算した演技は見たくないと言い、
オーディションも仕事も、全て当日朝に迎えに来て告げる。
ある日「メシ付セリフ付の仕事」と言われて向かった先は、鈴木の結婚式の会場だった。
御前岳は結婚することすら全く知らされておらず、ぶっつけで司会をやる羽目に。
鈴木の結婚相手の君子は由羽の親友で、御前岳と由羽は再会をする。
2次会の会場で飲みながらお互いの身の上話をし、仕事に悩む由羽を、
御前岳はクサい台詞で励ます。何故か、クサい台詞アレルギーは出なかった。
台詞を朗々と語る御前岳には、人を引きつけるパワーがあった。
そして2人はそのまま、御前岳の部屋へなだれ込み、寝るまでの仲になってしまう。



261 :ハーフな分だけ2/4:2009/04/22(水) 09:24:18 ID:???
恋愛の順序を無視し、互いのことをよく知りもしないで、関係だけしてしまった2人。
御前岳は由羽に、ちゃんとしたお付き合いをしないかと誘う。
由羽は、感情の起伏が豊かで、人前でも外でも大粒の涙をこぼしたり、
感情の浮沈のコントロールが下手で自分では切り替えられなかったり、
知れば知るほど面倒なタイプだったが、何故か惹かれてしまう御前岳。

御前岳と由羽は、映画に関わる仕事をしたいと思ったきっかけの作品が同じものだと知る。
不思議な縁に運命を感じる2人。
御前岳は仕事で、宝石会社のCF、婚約者に指輪を送る場面を演じることに。
初めは台詞が言えなくてモタつくが、由羽のことを思い、撮影を成功させる。
気持の盛り上がった御前岳は、そのまま由羽に結婚を申し込むことに。
しかし、由羽の返事はNOだった。
運命は感じても、仕事のことを考えるとリアリストになってしまう由羽。
君子と鈴木が2人の間に入り、話し合いの場を設ける。
思い出の映画を見た日の記憶を辿っていくうち、
なんと2人は同じ街に居て、同じ上映回を見て、一度会っているのではという話に。
もしも2人が同じ記憶を共有し、同じ映画の道に進んだというのなら、
運命を信じてもいいのでは、今すぐ故郷に一緒に行って確かめて来いと言う鈴木。

故郷の町で、変わらない町並みを見るも、
映画館はポルノ映画館になっており、当時優しくしてくれた経営者はもう居なかった。
急に現実に引き戻される2人。
気持は通じ合っている、しかし、距離が近すぎて上手く行かないのかもしれない。
2人はしばらく距離を置こう、という結論になる。



262 :ハーフな分だけ3/4:2009/04/22(水) 09:27:56 ID:???
仕事へ行く御前岳を、鈴木の代打で森口という女性マネージャーが迎えに来た。
森口は、バイタリティがあり親しみやすく、仕事も出来て、広く慕われるタイプの人だった。
しかし森口もまた、女が社会に出ていくことに、困難を感じているひとりだった。
今回の代打のことは、森口が仕込んだことだった。
仕事を辞めるのは決定済みで、最後に御前岳と仕事をしたいと鈴木に頼んだのだ。
夢を持って楽しく仕事をしているかに見えるのにと、素直に見送れない御前岳。
森口の送別会にて、自分の仕事への思いを吹っ切らせてくれた人のことを語る森口。
よくよく聞けば、それは、鈴木の結婚式での、由羽のスピーチだった。
事情を聞いていた森口のおせっかいで、久しぶりに顔を合わせる2人。
由羽は、森口の気持が分かるようで、涙をこぼすのだった。

御前岳に、以前の演技を覚えていた監督からの指名で、有名刑事ドラマのゲスト役が回ってくる。
撮影所に行くと、犯人役の外国人俳優の通訳担当で、由羽が来ていた。
どうも、その仕事を手配したのは鈴木と君子で、ここにもおせっかいが居た模様。
犯人役俳優のひとりが、由羽に一目惚れしてしまう。
ストレートに愛を告白され、ちょっとイイ気分の由羽。
気付けば、SEXやプロポーズはしているのに、肝心の愛の言葉を吐いた覚えのない御前岳。
撮影所に近いからと由羽の家に泊まったり、一緒に暮らさないかとは言えるのに、
「愛してる」のひとことが、どうにも言えない。
そんな状況を見かねた鈴木は、土壇場の演技を期待して、
ドラマのラストの、御前岳演じる青年が、恋人の前で犯人に撃ち殺され、
最期に恋人に向けて語りかける場面を撮ることを持ちかける。
クサい台詞をシリアスにこなし、撮影は大成功。
由羽は御前岳の演技に圧倒され、御前岳は落ち着いてはいけないと感じる。



263 :ハーフな分だけ4/4:2009/04/22(水) 09:29:31 ID:???
撮影の帰り道、御前岳と由羽は買っているテレビ雑誌の趣味の違いから、
つまらないケンカを始め、そのままケンカ別れ。
ところが即テレビ番組欄を見るなり戻ってきて、
2人の思い出の映画が載っていると、上機嫌で意気投合する。
あきれ返る、鈴木夫妻。
安らぎなどなく、ケンカばかりして、でもそれが面白おかしく、楽しくて、
2人でそんな人生を一生続ければいい、と言う鈴木。
それもいいかな、と思う、御前岳と由羽。

先の刑事ドラマのオーディションの話が来て、レギュラー出演のチャンスが巡ってきた。
ところが、いつもは直接家に押し掛けてくる鈴木が、電話で知らせてきた。
珍しいと思いつつ家を出る御前岳に、隣のアパートの窓から由羽がのぞき、声を掛ける。
電話での連絡は鈴木が変な気を利かせたもので、由羽と話が通じているようだ。
由羽なりの選択、同居はまだ急ぎすぎているから、これくらいの距離から。
オーディション頑張ってと言う由羽に、思わず「土壇場」の瞬間を感じる御前岳。
往来であることも構わず、「愛してるぜ」と言ってしまうのだった。

(終わり)