夢やしきへようこそ1

Last-modified: 2008-09-23 (火) 10:20:45

夢やしきへようこそ/さちみりほ

470 :夢やしきへようこそ :04/04/17 20:21 ID:???

夢やしきへようこそさちみりほ


大抵は一話完結型で明治大正昭和から古代まで様々な時代を扱っています。
旅芸人のふりをする人を愛する妖怪たちさすらいの旅。主に主役となるのは
旅芸人一座の座長の兄さん(あにさん)こと那智。
長い黒髪に片目がなくそこに眼帯をして着流しの着物をきた美貌の鬼。
普段出さないが角をもつ。昔、鬼の一族の首領だったことがあり、
その因縁も出てきたりします。
ほかに重要なのは勇太という人間。一話でいったん退場しますがその後も過去や未来でかかわってきます。
旅芸人の一座には、妖怪がたくさんいます。
ろくろ首の女、河童、小河童、三つ目小僧、泥田坊、百ん爺、市松人形、火喰い、などなど。
ちなみに大抵しゃべりは関西弁。


結構後ですが鬼の姫・八楯(やたて)、那智をうらむ、那智そっくりだが肌の色が浅黒く髪の色が白髪の鬼、夜刀(やち)もでてきます。


一話ずつ解説していきますがけっこう話が入り組んでるのでストーリーが理解できないところ、
また間違っているところがあったら教えてください、その時は直しますので。


471 :第一話 夢やしきへようこそ :04/04/17 20:33 ID:???

(モノローグ)風に乗って遠くからお囃子の音が聞こえてきた。
弟は兄に言う。
「まつり囃子じゃ 兄ちゃ」
「アホ ありゃ旅芸人の学の音じゃ はよしい、学校遅刻するで」
モノローグ)近づいてはまた遠ざかる 旅芸人たちの笛太鼓
遠い昔 どこかでそんな音を聞いたような気がした……


時代は明治、文明開化のころ、田舎の村にやってきた旅芸人の見世物小屋、
妖怪やしきの夢やしきの宣伝をする一座。等身大の人形の首がはずれたりして
動いたりして客を驚かしながら誘う。一座の仲間の勇太(10歳)は買出しに出かけるが、
買い物をすると「旅芸人の子」だと不快な表情をされる。帰りには村の子供たち数人に
「化け物屋」とからかわれる。その一人、杉作は「一座は見世物のふりをしてるけど
実は全部ほんまの妖怪やろ!」という。杉作は一座が夜中、舞台でもないのに
鬼火を飛ばして踊っていたのを見たのだ。勇太は芝居の予行演習だといい、
子供らは納得するが杉作だけは納得せず、勇太とけんかになる。見世物小屋に
帰り、けんかの手当てをされつつ座長の兄さん(あにさん)に本物の妖怪だと
いわれたことを話すとそばにいたろくろ首女が、くびをにょろりとのばしながら
「ええやないの ほんまやねんから」ばれたらどうするという勇太に、
兄さんは「今の時代ほんまやゆうたかて誰が信じるかい」とからから笑う。
そこに最近やっと歩けるようになってきた生き人形の市松(いちま)が
買出しに連れて行ってくれなかったと勇太を怒る。勇太は一座の中で唯一
の人間で、ただの人間だから芸ならないのでせめて役に立とうと、河童に
キュウリをすり、ろくろや油すましに油を与えたりとおさんどんをする。
兄さんに「お前だけならいつでも人間の世界に戻れる」といわれても
こっちのほうがいいと言って断る。


472 :第一話 夢やしきへようこそ :04/04/17 20:38 ID:???

破れ提灯に明かりの役割をしてもらい本を読み勉強する勇太とそれに
まとわりつく市松と三つ目。
兄さんはそれを見ながら思う。
(山を追われ 故郷を追われ どこ行くともなくみな肩寄せあい
 生きてきて 飴の峠に赤子(ややこ)拾たは十年前か…)
市松は自分に爪が生えてきた事を喜び、もうじき腹も人間になって
みなとご飯が食べれるようになる、とはしゃぐ。
「兄さんがいうとった…百日かけて指一本、千日かけて目ェもろて…
百年願掛け続けたら人形も人間になれるやろて」
「そない人間になりたいか」と聞く勇太に
「なりたい そしたら勇ちゃと一緒やもん。そしたら勇ちゃ、市松をお嫁にしてな」
それまで自分が生きてるんかいなと思いつつうなずく勇太。
「どこにも行かへんよね、ずっとうちらと一緒に旅するよね」と聞く市松に
「行かない」と勇太。その言葉に安堵する市松。
ある日、川へ三つ目と小河童、市松と遊びに来ていた勇太は、
犬を連れたこのあいだの村の子供が来て、小河童に犬をけしかける。
棒を持っていっせいに襲い掛かる村のこから小河童をかばう勇太。
市松はそれを助けようと村の子へ手を伸ばす。勇太は市松がなにかするのでは
ないかと思い、あせる。そこへ村の子供の一人、杉作が現れ、自分より子供に
手を出すな他の子を叱り、勇太らを逃がしてくれる。何か言いかける勇太に
市松は「何もせえへんよ 人間の子やったら犬噛み殺したりとかせえへんもん」という。
ほっとし、勇太は市松らを先に返し、自分達を逃がしたことで他の子らとけんかに
なった杉作の助っ人をしてともにけんかする。杉作はそんな勇太を家に招き、
けがの治療をしようとする。
だが勇太は「おまえはようても、旅芸人の子なんぞ家に上げたら親に何言われるか分からんぞ」
と断るが、杉作の母親は気にせず治療してくれる。それから勇太と杉作は親しくなる。
見世物小屋へ行った杉作は、あまりの精巧さに本物の妖怪かと疑うが、
勇太にニセモノだと否定され、「ま、ええわ どっちでも」といい、さらに友情が深まる二人。
学校へ行った事のない勇太に教科書を見せ、日曜日に一緒に学校へ行ってみないかと誘う勇太。


473 :第一話 夢やしきへようこそ :04/04/17 20:42 ID:???

勇太と別れた後の杉作に、このあいだけんかをした犬を連れた村の子等がきて、
杉作に寺で貰った護摩焚きの灰を渡そうとする。
「最初にあいつら本物やいうたんは杉ちゃや」
といわれるが、「…見間違いや、勇太は人間や」と相手にしない。
しかし村のこの一人は勇太はともかく、市松は人間ではない、と体を震わせる。
学校に行ける嬉しさを市松に話そうと帰ってきた勇太は、市松に今夜中に
この村を出ることを聞く。
兄さんは「村人が疑い始めた。こどもが寺に駆け込んだとまで聞いてはの」という。
勇太は借りた本を返しに行こうとすると、
兄さんは「この村に残って杉作の家の子となって暮らしてみるかえ?」という。
彼らの記憶を操るくらいワケないと。
だが勇太は「俺がいてへんようになったらだれがみなの飯つくんねん」と断る。
(学校…白墨…石盤…オルガンの音)それにあこがれつつも、
(江戸をなくし 山を追われ 故郷を追われて さまよい続けるしかない 
優しい化け物たち だから俺はもし勉強して偉うなれるもんやったら
 きれいな水 静かな沼と森 人の入ってこれん奥深い山をひとつ買うて
 追われる不安も 野宿のわびしさもないところ ずっと一生
 みなで暮らしていけたらと……)思い杉作の元へ行く勇太。
その姿を不安に思い、(どこへも行かへんて いっしょに旅する言うたのに
 勇ちゃ 勇ちゃを連れて行かんといて 行かんといて)市松は勇太の後を追う。
そこへ市松におびえた村の子が犬を連れて通りかかり、犬は市松へ襲い掛かる。
その悲鳴を聞き、勇太と、勇太がいなくなると聞いてこの村の子になれとひきとめていた
杉作が駆けつけ、犬を噛み、爪で引き裂いた血まみれの市松を見てしまう。
おびえる村の子から杉作は、護摩の灰を受け取り市松に投げる。
とっさに市松をかばった勇太は、灰を身に受け、勇太は灰燼となり消える。
呆然として叫ぶ杉作。「なんでおまえが消えよるんじゃ勇太―!!」



474 :第一話 夢やしきへようこそ :04/04/17 20:46 ID:???

見世物小屋で唯一残った勇太の着物を見つつ、三つ目もろくろも、みな泣く。
兄さんは「十年前…峠の坂で死んだ赤子(ややこ)拾て、見よう見まねの
反魂(はんごん)の術で生き返らせて十年…まあようもったほうやないか…」
市松はもう勇太が戻らないと聞いて、「うちのせいで死んでしもたの?」という。
「最初から死んでたんやて」仲間は泣きながら言う。
「あん時はみな喜んだなあ」「ほんまに…人間の子と一緒に旅できるいうて」
貧しい暮らしにも文句言わず、お化けの心配ばかりしていた子で、
自分達の勝手で永らえさせたのからもう土に返そうと兄さんは泣く三つ目を慰める。
そこへ小屋の戸を叩きながら勇太が死んだことを信じていない杉作が
村のものが攻めてくることを知らせる。
「おまえがお化けでも友だちや」叫び、勇太が熱心にみていた教科書を戸の前においてゆく。
一座は逃げようとするが、市松は泣き伏したまま動かず、
「うちの手ェあげる 足もあげる 目も口も全部いらん
 ぜんぶあげるから勇ちゃ……生き返らしたって…」と兄さんに頼む。
他の仲間も泣きながら兄さんに抱きついて頼む。

(モノローグ)きれいな水…静かな森と沼 でもほんとはね どんなお化けもね
 人間の子供と遊ぶのが一番好きだったんだよ……



475 :第一話 夢やしきへようこそ :04/04/17 20:47 ID:???

モノローグ)風に乗って遠くからお囃子の音が聞こえてきた。

弟は兄に言う。
「まつり囃子じゃ 兄ちゃ」
「アホ ありゃ旅芸人の学の音じゃ はよしい、学校遅刻するで 勇太。」
「なんか…ずっと前にも俺 あんなん聞いた事あるよな気ィする…」
「わかった わかった 村にきたら連れてったるわ」
「ほんま?兄ちゃ」
「ほんまやて はよしい」
(モノローグ)近づいてはまた遠ざかる 旅芸人たちの笛太鼓
遠い昔 どこかでそんな音を聞いたような気がした……
それを遠くで見守る一座。兄さんの背中にはぼろぼろの小さな市松人形の形をした
布人形が背負われていた。そして一座は去っていく。

(モノローグ)けれどそれっきり楽の音は遠ざかり、村へは来ず、
代わりにいくつもの戦争がやってきて、二度とそのお囃子を聴くことはなかった…


第一話 終


184 :夢やしきへようこそ :04/04/26 02:43 ID:???

第二話夢がたり


桜になった少女の話。


宿場へ女衒(ぜげん)に売られていく途中で13歳のお咲は道端で難儀している
旅芸人一座に出会う。女衒らは旅芸人に関りたくないと無視するが、咲は
水筒をそっと一座のほうへ投げ、去る。一座の三つ目が気づき、水がなく
ぐったりしている子河童の皿に水をかけてやる。このところの凶作、旱魃で
今の娘も売られてきたのだろう、と兄さんらは推測し、なにか礼をしようという。
売られた宿屋で、使いに出された途中、咲はからくりやしきを見かけ、
興味を持つ。そこへそのからくりやしきの座長の兄さんがあらわれ、
咲に自分の長い黒髪を縛っていた鈴のついた紐をあげ、ひとつだけ願いを
強く念じ、その紐が消えればどんな願いも叶うという。
その頃、旅籠など裕福な家の娘が行方不明になる事件が相次ぐ。
化け物に襲われたと噂が立つ。通りがかりに咲はその話を聞いていたが、
周りの子供に女郎屋の女だと石を投げられ、買い物の品を駄目にしてしまい、
飯抜きにされる。咲は川辺で泣きつつ、父の言葉を思い出す。
「おおきに お咲 おまえがいってくれるおかげでお父さん(おとさん)
の薬も買える 赤子の乳ももらえる おおきにな…」そこに三つ目と子河童が
現れ、咲がまだ紐を持っているのを不思議がる。咲は、父の病気が治りますように、
上の弟が学校に行けますように、畑がもう少し豊かになりますように、など、
いっぱいありすぎて迷っているといったあと、顔を赤らめて、
「けど…もし願い事叶えてもろたら消えてしまうんやろ?この紐…」
そこへ兄さんが三つ目らを迎えに来、咲はあわてて帰る。
「兄さん…いっしょに」いいかける三つ目をさえぎり、
兄さんは昔あんな人間の子供を連れ歩いた事があったな、という。
「その子があんまり可愛て 可愛て ああ連れて来るんやなかったと
死ぬほど後悔したよ…」

(兄さんモノローグ)だから早く その紐を使っておしまい 
私らがお前を連れて行きたいと思わないうちに お前がおまえ自身を救っておしまい…
(三つ目モノローグ)-でも…兄さん あの子は自分のこと何にもお願いしてへんかったよ…)



185 :夢やしきへようこそ :04/04/26 02:50 ID:???

後日、またもや峠で若い娘が襲われ、化け物がさらったという目撃者の証言で
いつも妖怪の扮装をしていた夢やしき一座が疑われ、上演は中止、座長の兄さんは警察に連れて行かれる。
娘を返せと泣く母親に石を投げられる一座を見て、あの人たちは犯人ではない
と咲はいうが相手にされず、宿屋の女将は咲の初見世が決まったと咲を着飾らせる。
咲は一座の事がどうしても気になり、若い娘がさらわれた峠にいく。
そこへ妖怪が現れるが、それは咲を売るときの仲買いをした女衒が扮装していた姿だった。
不景気でもうからず、化け物にさらわれた事にすれば元手はただ、
あとは大陸にでも売ればばれず、罪は化け物屋にかぶせればいいと、
咲をももう一度売ろうとする。咲は彼らの隙を突き、おびえるほかの誘拐された女らを
説得して逃げようとするが、大きな姿をした妖怪のだいだら坊、ぬらりひょんなどが現れ、
つかまってしまう。咲は「そんな格好であの人らに迷惑かけないで」と泣いて妖怪にすがる。
「聞いたか?」「おお聞いた 可愛えのう…」妖怪らは話し合う。
そこへ妖怪の扮装をした女衒らがあらわれ、身長5メートルほどの妖怪に驚く。
そこへ警察から消えた兄さんが警察を誘導し、首領格の男は捕まる仲間を尻目に逃げる。
鬼の面をかぶったまま逃げるその男にふいに声がかけられる。
「そういうわけかい 女子買う金をケチってもそんな格好する手間はかけるわけや
 けどわしらとしてもそんなんといっしょにされてはたまらんでのう…」
長い黒髪をなびかせ、額に角を生やした男だった。それを見て逃げていた男は
悲鳴を上げて気を失い、駆けつけた警察に捕まる。



186 :夢やしきへようこそ :04/04/26 02:51 ID:???

さらわれた娘の親たちが駆けつけ、「おまえが売られでもしたらお母さん
死んだほうがましや」と娘を抱いてなく。咲の下にも病気の父が現れ、
「よかった」という。咲は泣いて抱きつくが、父は「女将がお前が逃げた言うて」
目を見開く咲。消えた咲を宿屋の女将は足抜けだと思い、父に連絡したのだった。
「みつからなんだら金返せいわれての ほんまによかった よかったのう…」という。
「キズものにされてないやろね」という女将に咲はうつろに謝り、
化け物屋敷の人が来てくれなかったらどうなってたか、というと、
みな不思議がり、犯人は女衒の三人だけでほかにはいないだろうという。
(なんで なんで誰も覚えてへんの 確かそこに…)
咲は呼び止める声を無視して峠のほうへ駆けつけると、一座と黒く長い髪を風になびかせ
舞い落ちる花びらをその髪に受けている額から角を生やした片目のない鬼と出会う。
兄さんの真の姿だった。去る彼を見ながら、咲は思う。
(花になりたい…花になってあの人の髪に降る花びらのひとひらになって
 あの人についていきたい)自分のための願いを初めて咲はこころから願う。
そして二度と咲の姿は見つからなかった。
今年も一座はその峠へ咲が姿を変えた桜の木の満開の姿を見にやってくる。
ろくろが「ばかだねえ こんな事しか思いつかんほど不幸せだったんかねえ…」
いえば兄さんは桜の花びらをその髪に降らしながら
「笑とるよ この木は笑とるよ 楽しいて 人間だったころより寂しないて
 幸福やて 笑とるよ…」その言葉に答えるように桜の木は一層花びらを降らせた。

 第二話 終



402 :夢やしきへようこそ :04/05/01 21:44 ID:???

第三話夢遠日(ゆめとおび)

田舎の村で畑仕事に精を出す母親に、子供らが旅芸人のお囃子の音をきいて駆け出していく。
母親は遠い昔、自分の街にも来たことがあったことを思い出す。


大店の亀山屋。縁日だから半日暇がもらえるのを楽しみにした女中が浮かれるのを
その店の嬢さん(とうさん)はとがめるが、それをその店で幼いころから働いている
佐吉がいさめ、女中を縁日へいかせてやる。嬢さんは下賤の集まりだと馬鹿にしていた縁日に興味をおぼえ、
佐吉を伴いでかける。


「ゆめやしき」と言う旅芸人一座で女中らを見かけ叱る嬢さん。
それを止めようとした三つ目の腕を振り払い当り散らす。座長の兄さんは泣く三つ目の頭を下げさせる。
それをいさめた佐吉に「どうでもええやないの あんな汚い子ら」と言い放つ。
「でも…僕の田舎ではみんなもっと汚いかっこしてました」佐吉は小さく言う。
店では、店の帳簿があわず、管理をしていた佐吉は番頭らにとがめられ、
わがままお嬢の世話だけしてればいいもんではないといやみを言われる。
佐吉は「ゆめやしき」へ行き、嬢さんの行いの詫びとして身銭を切って10円払う。
兄さんは受け取ろうとしなかったが強引に受け取らせる。兄さんに嬢さんを
「わがまま娘」と言われ、佐吉は「根は悪い人ではない」とかばう。
佐吉は水呑み百姓の三男で口減らしのため幼いころ亀山やへ奉公に出された。
店一番の出世頭といわれるが、人をだまし、おだてる商人に疲れを感じていた。
「時々いやでたまらんかったあの泥だらけの暮らしに戻りたい」と兄さんにぽつりと漏らす。
兄さんは「戻られへん理由はわがまま狐か」と聞き、
「お前さんが正直になったらなあの娘の気性も直りませんやろな」といって消える。



403 :夢やしきへようこそ :04/05/01 21:48 ID:???

店へ帰った佐吉に嬢さんは新しくあつらえた着物をみせ、「きれいやというて」とねだるが、
佐吉は「小さい子供を泣かし女中が擦り切れた木綿を着て、寒い朝から働くそばで
次々と新しい着物を作る嬢さんはちっともきれいに見えしまへん」といってしまい、嬢さんに頬をはたかれる。

「誰のために次々つくっとる思うねん」そういって部屋に帰り、
(佐吉だけは一度もきれいやいうてくれたことあらへん)と泣き伏す。
ある日、佐吉は夜中に蔵に明かりがついてるのを不審におもい、
行くと番頭が帳簿をごまかし店の金を取っていることを知ってしまう。
番頭は佐吉を痛めつけ、それらの悪事を佐吉に押し付けることにする。
そこへ佐吉を探して嬢さんが来てしまい、番頭らは彼女を縛り上げ、蔵に火を放つ。
佐吉は足を折られて動けず、嬢さんだけでもにがそうと嬢さんを縛る縄を噛み切り、
蔵に唯一ある高窓へ縄をかけて嬢さんを上らせ逃がそうとする。
一瞬、一人で逃げようかと考えるが、嬢さんは気を失った佐吉を自分の帯で自らにくくりつけ、
縄を上ろうとする。佐吉は気がつき自分をほっておけと懇願する。
「好きです 嬢さん だれよりも…そやから生きて…」そういいまた気を失う。


404 :夢やしきへようこそ :04/05/01 21:49 ID:???

嬢さんはその言葉に泣き、
「負けるもんか 許さんからね 私を置いて死のうやなんて 絶対…」
と必死で縄を登り、炎に焼かれつつも窓へたどり着く。
そこへ「ゆめやしき」の妖怪たちがやってきて、番頭たちをおどし警察まで連れて行き、
蔵の火事を火喰いが食べることで治まっていく。
嬢さんと佐吉は命こそ助かったものの、嬢さんはその美しい顔半分に醜いやけどを負ってしまう。
「こんといて いやや 見ないで あっちいって」と悲鳴をあげる嬢さんに、
佐吉は「きれいや 嬢さん 今まで見ただれよりも
 どこの娘さんよりも今の嬢さん僕にとっては世界一の別嬪さんや…」といい、
嬢さんはその言葉に泣いて佐吉に抱きつき、二人は抱き合う。
br;
田舎の村で畑仕事に精を出す母親に、子供らが旅芸人のお囃子の音をきいて駆け出していく。
母親は遠い昔、自分の街にも来たことがあったことを思い出す。
旅芸人を見に行った子供らに村のほかの子らが
「おまえの母ちゃんおおやけどばばあ お化けの子」とからかう。
上の子供は「あれはなあ、お母ちゃんがお父ちゃん助けてできたやけどなんや
 お父ちゃんいつもいうとんぞ うちのお母ちゃんは世界一の別嬪さんやて!」と食って掛かる。



405 :夢やしきへようこそ :04/05/01 22:23 ID:???

第四話夢あそび


新田真吾は妹の千代と二人で逃げていた。
士族の貧しい生活で、父母をなくし、妹と二人きりの生活で、
生きるために彼は何でもやってきた。そのために学問も恋もあきらめた。
病気になった妹千代の薬代をかうため、政府高官暗殺に手を貸すが、
その政府高官の娘は新田が恋した少女だった。
遠くで会釈するくらいしか触れ合ったこともないので知らなかったのだ。
新田は彼らを逃がし、父親が娘を呼ぶ声で、はじめて恋した人の名前が沙映ということを知る。
そして仲間に裏切り者として追われることになる。
家に帰ると、千代はすっかり元気で、新田は妹を連れ逃げ出す。
宿へ泊まろうとしていたところ、手配されているのを見てためらっていると、
とおりすがった「ゆめやしき」一座が団体のフリをして一緒に宿にとまることになる。
翌日、青空興行している一座の様子を千代は楽しそうに見、
からくりがわからず全部本物みたい、とはしゃぐ。
兄さんの眼帯をした片目もからくりか、ときく千代に兄さんは
「これは人に上げたんですよ」という。
新田を追っていたものたちに見つかるが、追っ手は白い猫に襲われ手間取る。
その間に新田は「ゆめやしき」をでていき、妹を一座においてゆく。
「妹を頼む」という手紙を見ながら、泣く一座、そして兄さんは
「兄一人 妹一人で 友も初恋も失って この上たった一人の妹まで失くしたと知れば、
彼はとうに生きていなかったろう 
だからおまえさんは、息を引き取ったお千代になって彼の生きる支えになろうとしたんだね…」


406 :夢やしきへようこそ :04/05/01 22:25 ID:???

そういう兄さんに千代の姿をしていた猫は泣いて
「あの人を助けて」とすがる。ただの子猫であったが、
自分を可愛がってくれた新田のため、そして千代の死に際の願いを叶えたくて、
その身を化け物に変えてでも新田を守ろうとしていたのだった。
兄さんは「君と同じように彼を思う女にも約束したから彼を守る」と約束する。
新田はかつての友の下へ赴き、殺されようとするが、そこへゆめやしき一座の邪魔が入り、
新田の姿をとった兄さんを追っ手は銃で撃ち、剣で突き刺し逃げる。
新田は呆然とするが兄さんの体には傷ひとつない。
兄さんは新田に妹が死んだことを思い出させ、千代と一緒に旅したはずだ、という新田に
「おまえさんはずっと一人で旅してたやないか」といい、
新田真吾は死んだ、お前を追うものはいない、お前は自由だ、と告げる。
新田は戻って妹の墓をきちんとし、妹の猫を探した後、出頭することに決める。
新田に兄さんは帰りの道中は女人峠から戻った方がいいと告げ、新田はその言葉に従う。
新田が去る姿を見ながら白い子猫が兄さんの肩で泣く。
「彼は留置場に入ることになってもきっと幸せになる」兄さんはそういい子猫を慰める。
新田は帰路、彼を追いかけてきた沙映と、女人峠で再会する。