放課後の国

Last-modified: 2008-09-22 (月) 01:08:18

放課後の国/西 炯子

488 :放課後の国:2008/09/13(土) 01:00:42 ID:???
放課後の国/西炯子
小学館フラワーズコミックス 全1巻
高三のクラスで浮いている“微妙班”のメンバーを軸に描かれる、全6話のシリーズ短編集。
【微妙班メンバー】
・藤崎 数学フェチのオールバック眼鏡。背も高いし、実はなかなか男前。
・今井 天文&占星学に詳しい微妙班班長。他人と筆談で話す黒髪眼鏡。あだ名は「ピー子」
・野口 ふんわりパーマの謎の美少年。いまいち掴めない性格。
・川本 微妙班のお母さん的存在。生徒会会計を務めるマジメな眼鏡女子。国語が得意。
・川野 ロック大好き、ちょっとズレてる高校生。英語が苦手。
・中間 数学好きという噂の不登校児。性別も外見も不明。


【一限目 数学の鬼】
高三の新学期。
数学フェチの藤崎は、同じクラスの数学が苦手な女子・川路あやりに我慢がならない。
お節介にも川路の家に押しかけ、スパルタ数学教師を買って出る。
その甲斐あって、川路は中間テストで赤点をクリア。
次は期末で60点だと燃える藤崎だが、川路はすぐ数学を投げ出してしまう。
藤崎は川路の母から、亡くなった川路の父が数学教師だったと知る。
小さい頃から父に「お父さんの子なのに、どうして出来ないんだ」と言われ続け、
数学が嫌いになってしまったらしい。
根の深い問題に悩んだ藤崎は「これが出来たら消えてやる」と、川路が過去に解けなかった問題を出す。
川路は藤崎に励まされ、見事問題を解く。
「出来た…!」シャーペンを置き、泣く川路に藤崎はキスをする。
それからも藤崎の数学教師は続き、川路は期末で85点をとる。
「次は100点を目指すぞ」と言う藤崎に、川路は微笑む。
「ねえ、ひょっとして藤崎くん、始めから私のこと好きだった?」
「………!今ごろ気づいたのか!遅いっ!」
一限目 終



489 :放課後の国:2008/09/13(土) 01:49:51 ID:???
【2限目 理科の瞬き】
7月。微妙班のクラス=3年1組の男子生徒・竹原は故あって山奥の今井の家を訪問。
天井に天体図が描かれた不思議な雰囲気の部屋に驚く竹原に、
今井は筆談で『君が来ることは分かっていた』と言う。
今井は天文学が好きで、派生して本格的な占星学も学んでいるのだった。
今井が喋らないのは、男にしては声が甲高く、昔からバカにされてきたかららしい。
そんなこんなで、今井は星が唯一のお友達という、孤独な人になったのだ。
星に絡めて様々なことを(筆談で)語る今井に興味を持った竹原は、彼の家に通うようになる。
ある日、全てを占星術で決めているような今井に「俺とも、星が言うから友達になったのか?」と
竹原は怒る。
丁度停電になり、暗闇の中、今井は知り合って初めて、声に出して言う。
「僕は自分を占わないから、君が“運命”なのか分からない。でも、僕は君を拒む事も出来たんだ。
それをしなかったのは僕の決断だ」
他人と深く関わる事を避け、表面上は誰とでも仲良くしていた竹原は「今井が大切な存在に
なったらどうしよう」という自分の気持ちを持て余し、今井と距離を置くようになる。
そんなある日、文化祭でプラネタリウム喫茶をやる事になった1組の面々は、今井に監修を頼む。
「お前が占いもやってくれたら、行列できるんだけどな」
なんとなく面白くない竹原。
「こいつに占いなんて無理。だって、こいつの声、すげえおかしいんだぜ」
言ってしまってから後悔し、教室から消えた今井を探す竹原。
窓枠に腰かけた今井に謝ると、今井は『大丈夫。僕には全部わかってた』と筆談。
「こないだ、俺が逃げた理由もか」『うん』
「嘘つけ、自分の事は占わないんじゃないのか」
『そんな事は占わなくても分かる』
「えっ?」竹原の見ている前で、窓の向こうに消える今井。
焦った竹原が慌てて窓から身を踊らせると、そこはベランダ。
「友達だからな」(肉声)
2限目 終



492 :放課後の国:2008/09/14(日) 10:43:37 ID:???
【3限目 保健体育と♂と♀】
保健委員長・堂薗ちよりは超潔癖症で、固い貞操観念の持ち主。
美化委員長の田ノ上と付き合っているが、手を繋ぐのも一苦労という清い交際である。
彼女は、微妙班の野口が学校の屋上にて一回300円でキスのアルバイトをしているという噂を聞く。
指導せねばと屋上に上がった堂薗は野口に迫られ、キスをされそうになる。
「男も女もみんな同じさ。君だって、田ノ上とこういう事してるんだろ?」
「きっと彼は、心の衛生が乱れているんだわ」野口をぶっ飛ばし、
掴まれた手をクレゾール消毒しながら、堂薗は思う。
ある日、田ノ上との下校途中にキスをされた堂薗は何も言えず、走って帰宅する。
翌日、学校で会っても気まずい雰囲気の2人。
そんな中、堂薗は屋上で数人の男子にボコられている野口を助ける。
どうやら、キスのバイトの事でトラブルになってしまったようだ。
「こないだは悪かったな」「………」
「何かあったのか?」
「私“こういうこと”って、お互い心と心がしっかり結ばれていないと、
してはいけないと思うの。でも…」
「してみたいんだ?」「呆れるでしょ?」
「いや、素敵だと思うよ」
雨になった放課後、田ノ上にコナをかけていた遊んでる風の女子生徒と喧嘩になり、
雨の中に放り出される堂薗。
「ごめんよ、僕、ちよりちゃんに嫌われたのかと思って…」
「いいの…今日も、ちよりと一緒に帰って」
泥だらけになった堂薗にキスをしようとする田ノ上。
「私、汚れてるわ。でも、いいわ…」
それから堂薗が変わったかというと相変わらずで、田ノ上とはキス以上の進展は無い。
心の病ではなく、単なるスケベだという野口には「好きな人が出来るまではダメ」
と彼の唇にバッテンにした傷テープを貼り付けていった。
テープを見ながら「300円?」と屋上にやってきた女子生徒に、野口は「300万円」と答えるのだった。
3限目 終



493 :放課後の国:2008/09/14(日) 11:43:28 ID:???
訂正:川本は会計ではなく、元生徒会長。
今でもややこしい事や時に、現生徒会長に頼まれて面倒を見たりする…という設定。
【4現目 妄想の国語】
実績がサッパリで、予算をカットされた剣道部員・神村さつきは、
引退後も何かと生徒会に頼りにされている川本に近づく。
生徒会室に1人残り、自分のノートPCに何事か熱心に打ち込む川本は鉄面皮で、とりつくシマもない。
PCを鞄に納め、帰宅する川本は途中で神村の鞄と取り違えた事に気づき、急いで学校に戻る。
「み、見た?」「あーまー、だいたい」
優等生な表向きとは違い、川本はエロ小説(本人曰わく“ちょっとセクシーな青春小説”)
を書き貯めているのだった。
それを読んで、川本に恋愛経験が無いと思った神村は、後輩の剣道部員・爽やかな内田少年を紹介する。
内田は小学校の頃、川本と同じ算盤塾に通っており、当時から彼女を好きだったらしい。
神村も同席した最初のデートは不発に終わるが、内田はメゲずに誘ってくる。
神村に弱みを握られている形の川本は、渋々ながら彼とデートを重ねるのだが、
やはりいまいちピンと来ない。
「だって、デートって意味わかんないわ」
報告会を兼ねて、ファミレスで話し込む川本と神村。
「最終的にはセックスするだけなのに、映画を見たり食事したり」
「だってあんた、キスもした事無いんでしょ?」
「でも、この先どうなるかは全部知ってるわ」
そんな川本のキャラクターがかなり面白いと思った神村は、段々と親交を深めていく。
ある日のデート中、いきなり内田に迫られた川本は、彼の鳩尾にキックをかまし、逃げ出す。
恒例となった報告会にて「無理!あんな事されるなら、男の人とは付き合えない!」と言う
川本に怒り「分かった。もう面倒見きれんわ」と席を立つ神村。
厄介事が片付いたと思う川本だったが、エロ小説も筆が乗らず、
神村と過ごしたたわいもない毎日が思い出される。
川本は神村のもとに走り、決死の覚悟で「友達から始めて下さい!」と告白(?)。
神村はキョトンとして「もう友達じゃん」と持っていた荷物を押し付ける。
「あんた、本当に小説家志望なわけ?」
「よけいなお世話よ」
4限目 終



494 :放課後の国:2008/09/14(日) 12:31:47 ID:???
【5限目 プリーズプリーズ英語】
夏。
文化祭でのプラネタリウム喫茶で皿洗いとナレーションを押し付けられた
微妙班は、微妙な共同体意識のもと、微妙な仲良しグループになりつつあった。
自然と、不登校のまま班に組み込まれているメンバーに話が及ぶ。
数学は藤崎よりも優秀だが、入学以来不登校だというその級友を誰も見た事が無い。
時々、担任とメールのやり取りをしているものの、彼(か彼女か)には登校する意志は無いようだ。
そんな日々の中、微妙班の中でも少し浮いているロッカー・川野は、
帰国子女のクールな美人・竹田理恵に一目惚れ。
何とか彼女に近づきたいと苦手な英語を勉強する川野だが、
彼女は英語が得意な小洒落たバーのマスターに夢中。
しつこい川野にうんざりした竹田は、彼の目の前でマスターの車に乗り込み、マスターの部屋へ。
「先にシャワー浴びる?」と手馴れたマスターが怖くなり、逃げる竹田。
自転車で追ってきた川野に「私、した事ないの」と打ち明ける。
「怖かった…」と泣きじゃくる竹田を抱きしめる川野。
放課後の海辺で、川野は自作の英語曲を竹田に捧げる。
「いい曲だけど、所々間違ってるわ」
「ちょっとは褒めようとか思わねーのかよ。勉強したのによ!」
「いい曲だって言ったじゃない。それに…」
竹田は川野の肩に寄りかかる。
「I LOVE YOUが入ってれば、あとの言葉に意味は無いのよ」
5限目 終



495 :放課後の国:2008/09/14(日) 13:35:23 ID:???
【6限目 社会の窓】
残暑厳しい9月最初の土曜日。
文化祭は来週に迫っていた。
不登校のメンバーは「中間健二」という男子である事が判明していた。
それぞれがバラバラに、それぞれの用事で微妙班の面々が街に出かけたその日。
中間はアマゾンにも置いていないという数学の理論書を注文しており、
それを取りに、久しぶりに街の本屋へ。
そこでたまたま同じ本を注文していた藤崎に発見され、逃げ込んだ古着屋で
ジーンズを選んでいた川野に「ジーンズを譲ってくれ」と言われる。
中間はまた逃げ、息切れして座りこんだ所で、エロ文献を大量に買い込んだ川本にジュースを貰う。
「大丈夫?日陰で休んだほうがいいわ」
そこへ中間を追ってきた藤崎と川野が現れる。
「会長!そいつを捕まえといてくれ!」
またまた逃げた中間が飛び込んだのは、今井(と竹原)がバイトで講師を務めている天文学市民講座。
小学校時代の同級生だった竹原に発見された中間は最後に献血センターに逃げ込み、
献血中の野口の隣のベッドになる。
散々走り回った中間は貧血を起こし、気絶してしまう。
気がつくと、野口が付き添っている。
「しばらく起き上がっちゃダメだってさ。なんだったら、俺、一緒に帰ろうか?」
野口の手には中間の保険証。
「ごめんな、見ちゃった。君、うちの班の子だろ?」
中間はまたも逃げようとするが、フラフラと倒れてしまう。
諦めて野口とドトールに入る中間。
偶然にも逆側の死角の席には、微妙班の4人(と竹原)が陣取っていた。
「なんで逃げるかな~」
「怖がらせちゃったのよ」
「よく考えたら、3年もののひきこもりだもんな」
「最後だし、文化祭に来ないか誘おうと思ったんだけど」
「ああ、そうだなあ…」
話を聞いていた野口は無理をせず、このまま時間を潰してやり過ごそうと中間に提案する。
午後9時になり、さすがに大丈夫と2人が電車に乗り込むと、そこには微妙班の面々が…。
仕方なく、中間はボックス席で彼らに取り囲まれる。



496 :放課後の国:2008/09/14(日) 14:04:23 ID:???
「私達、あなたに会いたいと思ってたのよ。文化祭に来ない?」
「む…無理…」消え入るような声で、やっと答える中間。
「ま、そりゃそうか。俺が同じ立場でも無理だわな」
「そうよね、知らない場所だものね」
意外にもアッサリと場は収まり、夜の静かな田舎道を電車は走ってゆく。
「こんな遅い時間に電車に乗ってるなんて、初めてだわ。しかも、こんなメンバーで」
川本の呟きに、藤崎が答える。
「初めてで、これが最後だな、多分」
「みんな進路バラバラだもんね」
「半年後には、みんなどっか行っちゃうんだな」
「この班になって、こんな気持ちになるとは思わなかったわ。
6人目にも会えたしね。どいつもこいつもロクでもないけど」
藤崎は「また…」と呟き、「いや」と首を振る。
「また会えるわよ…会えなくても、大丈夫。そういうのを、友達って言うんじゃないかしら」
夏の名残の流星群が流れる。
「あんた達、さっさと願い事しなきゃ!」
「願い事願い事!」ワイワイと騒ぐ微妙班を乗せて、電車は走る。
地元の駅で別れ、野口と2人、バス停に歩く中間。
「送っていかなくて大丈夫?」「うん…」
「じゃあ、俺こっちだから。気をつけてな」
中間は背を向けた野口に声をかける。
「あの…」
「何?」微笑む野口は携帯を握っている。
「こんな時間にファミレス行ったことある?
6、7人でくだらない話するには最高だよ。
明日は日曜だし」
泣き出した中間の肩を抱き、野口は川本に電話する。
「あ、会長?俺。
まだ寝てないよね?」


放課後の国 終