霧の底

Last-modified: 2012-03-03 (土) 23:06:27

霧の底/関 よしみ

771 :霧の底 1:2012/01/09(月) 21:05:48.70 ID:???
主人公は兄の大学卒業旅行に同行して、
金持ちの高広の手配で石垣島の別荘に滞在する。

 ・沙輝 :主人公の女の子。中学3年生。
 ・崇  :主人公と親しくなった男の子。姉の卒業旅行に同行。

 ・学  :大学4年生。沙輝の兄。眼鏡のインテリ。知識豊富。
 ・明美 :大学4年生。崇の姉。明るく優しげな女性。
 ・高広 :大学4年生。別荘やヨットの持ち主。気前がいいが、逆境では自己中。
 ・桜井 :大学4年生。ふとっちょの男性。食欲には勝てない。
 ・鈴奈 :大学4年生。短髪で活発な女性。

最終日、7人は全員でヨットに乗る。楽しく過ごす一行。
しかし途中で海が荒れてヨットが故障して、遭難してしまう。
遭難して丸一日が経過た。
食料も水なく、ヨットはボロボロ。6人はギスギスしはじめる。
さらにヨットは深い霧に包まれて、救助隊にも見つけてもらえそうにない。
そんな中、何かに引っ張られるようにしてヨットは無人島に漂着する。

沙紀(主人公)たちは無人島に着いてすぐ、手のひらほどの大きなタマゴを発見する。
飢えと乾きに苦しんでいた一行は無数に転がるタマゴに喜ぶ。
中でも高広(ボンボン)は誰よりも早くタマゴの中身を飲み干した。
その次の瞬間、高広(ボンボン)は口から大量の血を吐いて死ぬ。
タマゴが腐っていたのか?それにしても様子がおかしい。
学(沙輝の兄。以下、兄)たちはタマゴに見切りをつけると、
生きるために水や食料を探すことにする。
沙輝と崇は、疲れた中でも見捨てきれず、高広(ボンボン)を土葬する。



772 :霧の底 2:2012/01/09(月) 21:08:43.96 ID:???
島には船の残骸が無数にあった。そこで沙輝と崇は古い難破船を発見する。
水と食料を探しに船に侵入すると、そこには人ほどの大きさもある怪鳥が何匹もいた。
人影に気づいたトリは大きな羽を広げて飛び去る。
崇は食料として捕まえておきたかったとトリを逃がしたことに歯噛みするが、
沙輝(主人公)は見たこともない怪鳥の不気味さに怯える。
船の片隅には、一体の骸骨とともにメッセージが残されていた。

"Don't kill the BIG BIRDS. Don't eat the EGGS"
(トリたちを殺すな。タマゴを食うな)

船には水も食料も残っていなかった。
そこに残されていた日記帳によると、
12年前に3家族18名でグアムのリゾート中に無人島に漂着したらしい。
そして、島にあるタマゴは煮ても焼いても食べれず、3人が死んだことが記されている。
その先は紙が貼りついて読むことができなかった。

無人島にはろくな食べ物がない。
海にも生き物の姿は見れず、陸地には虫一匹いなかった。
あるのはタマゴとトリばかり。
しかしそれだけは食べることができない…。
島は深い霧に包まれており、救助ヘリに発見してもらうこともできなかった。

一晩経って、食料を探す途中、
沙輝たちは土葬した高広の死体がなくなっていることに気づく。
土が掘り起こされ、トリの羽が残っていた。
「と…トリが掘りおこし…て、食べたんじゃ……」
「骨…まで!?」
「そ…それに……トリのしわざにしちゃ……そんなに荒れて…なかったわ……」
沙輝は原因を調べたほうがいいのではないかと考えるが、
体力も時間も残っていないと兄に却下される。



774 :霧の底 3 (>>773訂正):2012/01/09(月) 21:14:25.03 ID:???
無人島に到着して6日が経った。
兄がリーダーシップをとって様々な手を打つが、結果は芳しくなかった。
6人は木の根や草、わずかばかりの水を分け合うものの、到底、足りる量ではない。
沙輝たちは疲れた体に鞭打ち、難破船の木を集めて一人乗りのイカダをひとつ作った。
「これが…オレたち6人ぶんの今日の水と食料…全部だ……
 でも1人でどう食いつないでも3日ぶん…………」
そしてSOSの手紙を入れたビン。
ただ一人が食料とビンを持ってイカダに乗り、助けを呼ぶことになった。
問題は誰が行くか。
「あ…あたしいくわ! こんな島で…ただ飢え死にするのを待つのはまっぴらよっ」
鈴奈ひとりが名乗りをあげた。
すっかりやつれた沙輝は食料に未練を感じる。これで、今日は夜まで水も飲めない。
しかしひとりぼっちで行くことは恐ろしく、沙輝は島に残ることを選ぶ。
鈴奈は皆を迎えに来ることを固く約束して、明るい顔で霧の中を旅立った。

遭難してから8日目。
鈴奈が出立してから2日が経った。
沙輝は死の恐怖に怯えていた。
さらに桜井(ふとっちょ)が全員分の水を飲んでしまい、桜井と崇が喧嘩になる。
明美(崇の姉)は仲裁しようとするが、とうとう栄養失調で倒れてしまう。
桜井は飢餓に耐えかねて、トリを食べようとする。
難破船の壁には"殺すな"と書いてあったが、"食べるな"とは書いてなかった。
沙輝は止めようとするが、桜井はトリに向かっていく。
「かまやしねェ…よ。死ぬまえに…腹いっぱい食えりゃ…いい……」
ナイフを振り上げた桜井だったが、トリの爪に引き裂かれ、骨を残して食べつくされてしまう。
桜井の肉をむさぼるトリの顔は、タマゴを食べて死んだ高広にそっくりだった。
沙輝と崇は動揺するが、沙輝兄は冗談じゃないと否定する。

桜井が何とか切り取ったトリの翼。
兄がかぶりつくが、翼は石のように固く、焼いても食べれるものではなかった。
さらにトリの腕には高広のしていたダイバーズウォッチが残っていた。
あのトリたちは飢餓に耐えられずにタマゴを口にした人間の成れの果てではないのか…?


775 :マロン名無しさん:2012/01/09(月) 21:16:29.77 ID:???
遭難してから11日目。
残っているのは沙輝、崇、兄。そしてイカダで助けを呼びに行った鈴奈。
兄の頭は食べることでいっぱいになっていた。
「なに…か、なにか……食べる…もの」
 ナ… ニ カ 食ベ… ル モ… …ノ…
妹である沙輝の肩をつかもうとして、沙輝兄ははっと我に返る。
沙輝の呼びかけを振り切って、沙輝兄は外に出た。

沙輝は栄養失調で倒れている明美に水を届けに行く。
「…………」パクパク
「え? なに……?」
口を動かす明美の声を聞き取ろうと沙輝は耳を寄せる。
明美はその耳に噛みついた。
「ヒィーーッ」
「食べ…た…い。お…ねが…い」
明美が自分を食べようとしたことに怯えて、沙輝は部屋から逃げる。

崇は明美の行動を知って沙輝の耳の傷を心配するが、
兄は「いい根性してる」と笑うと、明美のいる部屋に行く。
明美の部屋からの激しい物音に驚いた沙輝と崇が部屋に入ると、
兄が明美の足を切り取って食べているところだった。
崇は激昂して兄と揉めるが、殴る力も残っていない。
そこにトリたちが侵入して、明美の死体を残らず食い尽くしてしまう。
兄はほとんど明美を食べられなかったことに怒り、ふたりに言う。
「お…おまえら…のせい…だ。おまえら…が……」
「……」
「トリなら…明美を食っ…ても………いいん…だな
 トリになったら…まっさき…に…おまえ…たち…を、食って…やる……」
その言葉を残して、兄は去っていく。
崇はトリになることを選択した兄を否定して、悲しむ沙輝を慰めた。
「きっと…いまに助けが…くる。かならず…鈴奈が…」



776 :霧の底 5:2012/01/09(月) 21:21:30.01 ID:???
遭難して15日目。
崇は波打ち際でSOSの紙が入ったビンが流れ着いているのを発見する。
ビンを流して助けを呼ぶ作戦は失敗した。
ふたりの周囲には死を待つように鳥が集まってきていた。
すでに立ち上がる気力さえなくした沙輝と崇。
ふとトリたちが何かの気配に気づいて飛び立つ。
そしてトリたちが群がったのは、イカダの残骸に絡みついた鈴奈の死体だった。
鈴奈の死体をむさぼるトリたちの中には、高広と兄の顔があった。
もはや救助も期待できなかった。

崇は絶望の中で笑う。
「……この島じゃ……死んで…ヤツらに食われる……か、
 …タマゴを食ってヤツらの…仲間になる…しか…ないんだ…な」
そして崇は沙輝に言った。
「食え…よ。沙輝」
ひとつのタマゴを沙輝に差し出し、崇はもうひとつのタマゴを飲み干した。
沙輝の目の前で崇は死んだ。
夜になる。
タマゴを握りしめたまま動けない沙輝の前で、崇はトリに生まれ変わった。
生前の面影を残した顔で、崇は沙輝に笑いかける。
――サア 食エ…ヨ
崇の促しに応じるように、沙輝はゆっくりとタマゴに口を近づけた。
――食エ…ヨ。沙輝

  霧の底おわり