魔法の砂糖菓子

Last-modified: 2008-09-23 (火) 10:53:23

魔法の砂糖菓子/萩岩睦美

73 名前:魔法の砂糖菓子 1[sage] 投稿日:2006/08/27(日) 22:45:43 ID:???

両親を事故で亡くしたマリーはおばさんの家に引き取られるが、
肺に病を抱える彼女は疎まれ、下働きのような扱いを受けていた。
心の支えは密かに飼っている子猫のラリーだけ。
ある日、猫の毛がスープに入ってたと怒られラリーを捨てられそうになったマリーはついに家出。
両親のお墓の前で泣いていると突然ラリーが走り出す。後を追うと綺麗な家が建っていた。


中に入ると一人の青年が現れる。咳き込むマリーに青年は魔法の砂糖菓子を渡す。
食べると咳がぴたりと止まり、さらに着ていた服が綺麗なドレスに変わっていた。
あなたは魔法使い?と問うマリーを青年は不思議な世界へと案内する。
そこではしゃべる動物達がお茶会の真っ最中で、ラリーもドレス姿でおしゃべりをするように。
不思議に思うマリーだが、その場にいたワニのおばさんの
「目の前にあるもんは信じてりゃいいんだよ」の言葉に一応納得するのだった。


青年の正体は妖精。
妖精はハロウィーンと万聖節の二日だけ地上に降りられるのだが、
珍しいものが多くて、つい帰りそこねてしまったのだと言う。
帰るには、今出ている月が消えるまでに命あるものを一つさらっていくしかない。
それならマリーをさらっていけばいいとマリーは言うが、なぜか青年はそれを拒否するのだった。




74 名前:魔法の砂糖菓子 2[sage] 投稿日:2006/08/27(日) 22:46:58 ID:???

青年と一緒に、夢のような時間を過ごすマリー。
しかしただ一つ、空にある悲しい穴だけは覗いてはいけないと言われていた。
もしかしたら両親がいるかもしれないと思ったマリーは中を覗いてしまう。
次の瞬間、暗闇に落ちるマリー。そこには悲しい色の目をした猫がいた。
青年の飼い猫で、子供を亡くして以来赤い長靴をかわいがっているのだという。
一度は猫の怒りに触れ涙の海に沈められるマリーだが、自分も一人ぼっちだから
気持ちはわかる、どうしてあげればいいのと言い何とか解放された。
猫はラリーを自分の子供にさせて欲しいと言う。そうすれば青年も妖精の世界に帰れるのだ。
マリーは一緒に連れてってと言うが青年は断る。
まだ幼いし、何より人間は消えかけた命でないとさらえないのだ。
素敵なものにめぐり合ってと言う青年にそんなものあるわけないと言うマリー。
病気も死ぬほど苦しいし、パパとママもいないのに。
青年は言う。
「君にはさびしい人の気持ちがわかってあげられる。そのあたたかさをみんなにわけてあげなきゃ」
すでに月は消えかけている。青年は苦しい時にお食べと砂糖菓子を渡すとラリーとともに消え、
マリーは一人、何もなくなった空き地に取り残された。


その後、マリーは村はずれに倒れているところを発見される。
砂糖菓子は石の欠片に変わり、ラリーは猫によくある蒸発。全ては夢だったのだ。
マリーは何度か妖精の家を探したが、見つけることは出来なかった。



75 名前:魔法の砂糖菓子 3[sage] 投稿日:2006/08/27(日) 22:48:55 ID:???

月日が流れ、大きくなったマリーはお使いの帰りに行き倒れている老人と犬を見つける。
一度は見捨てようとしたが青年が最後に残した言葉を思い出し、買ったパンを一つだけあげる。
家に帰ったマリーは自分が食べたと嘘をつきおばさんに殴られる。


さらに月日は流れ、マリーは領主の息子に見初められ、彼と結婚することに。
しかしマリーは彼のことを心も姿も醜い男と激しく毛嫌いしていた。
何より自分は肺の病でもう長くはないのに。
死ぬ前にもう一度見たかったな……と、マリーは式場に向かう馬車の中で夢のことを思い返す。


式が始まると、かつてパンをあげた老人がお礼を言いに来た。
傍らには一緒にいた犬の子供も。「あんたが命をつないでくれたんだよ」という言葉に、
やっと素敵なものにめぐり合えたとマリーは涙を流す。
そして誓いの口付けに移ったその時、小さな箱を加えたラリーが現れる。
あれから十五年も経っているのに生きているはずは……。しかし箱の中にはあの魔法の砂糖菓子が。
ワニおばさんの言葉が頭に蘇り、マリーは式を放り出してラリーを追う。
やがて目にしたのは、記憶にある家と、ラリーと、そして妖精の青年だった。
「やあ。素敵になったねマリー。…またハロウィーンにもどりそこねちゃった…」


式が台無しになり、面目を潰されたおばさんはマリーを追いかけ、家のある場所に着く。
しかしそこはもう、何もないただの荒地だった。


おわり。